俺の両肩をガタイの良い黒いおっさんが掴み、2人がかりで俺をとある場所へと引きずっていく。その行く先は、カジノの出口の大扉。
はいそうです、何を隠そうカジノに出禁をくらいました。
「ぐふっ…」
黒服達にとっぷりと日が暮れた街に投げ出され、大扉を勢いよく閉められた俺を見て、数人のプレイヤーが可哀想な人を見る目で俺を見つめる。違う、俺は全財産をスッたとかそういう理由でやられたわけじゃない。ただちょっと、稼ぎすぎて出禁をくらっただけなんだ。
「はぁ……」
深くため息を吐き、立ち上がりコートの埃を払う。
一応今回のこれは、元々システム上設定されていたものらしい。『市場の崩壊を防止するために、カジノで一定以上の額を稼いだ場合その分の
「ま、あんまり気にする必要もないか!」
兎も角、お金を十二分に稼いだならば次は散財だ。
好みの
街の中だけで収まっているが、道にはアスファルトが敷かれ、街の中心部には高層ビルが群れを成している。ゴミの溜まった裏路地にはザイルさんのようなRPをしている人がおり、他の街と違い電気の灯りが煌々と街を照らしている。どちらも行ったことはないが、東京とかニューヨークとかそういう感じなのではないだろうか?
中世→和風ときて、ガチな現代の街。ここを探索しないという選択肢が存在するだろうか? いいや、ない!(反語)
「だけどまあ、バイクは明日に回すしかないよなぁ」
現在時刻は、既に23時を回っている。こんな時間に押しかけたりするのは、迷惑でしかないだろうし印象も良くないだろう。だったら暫く街をブラブラして遊ぶのが一番だ。
スロット回したり、ポーカーで毟ったり今日はもう疲れたんだ……
「あ、クレープ1つ下さい」
「はいよ。300Dだ」
屋台を出してたNPCからクレープを購入し、食べながら歩いて目的の場所を探していく。あ、このクレープ地味に美味しい。いや違うそうじゃない。
「んー……」
探しているのは、武器屋というかガンショップ。折角なんだから、夜の非合法っぽい雰囲気の中で銃をどうにか手に入れてみたい。そして撃ってみたい。
「お、やっと見つけた」
周りを見渡しながら歩いていると、路地の向こう側にガンショップなんとかかんとかという看板が下がったお店を見つけた。電灯……いや、この場合はネオンか? それでギラギラと輝いているお店だ。なんとかかんとかの部分は、銃弾の貫通跡で読めない部分だ。
特に車が通ってるわけでもないのに信号機がある道を歩き、ドアを開けそのガンショップに入店する。クレープはアイテム欄に仕舞った。カランカランという低めの鈴の音が耳に届き、そして――
「らっしゃい、能力が壊滅…いや、それを通り越して破滅的な兄ちゃん。このご時世に、あんたどうやって生きてるんだ?」
「ゴフッ…」
そして、うっすらと漂う硝煙の臭いとともに俺を迎えたのは、店主のNPCが放った無慈悲な言葉だった。あまりに正鵠を射た言葉の刃に、耐えきれず俺は床に崩れ落ちた。
「だが不思議と同業者の臭いがするな。何が目的だ? 銃か? 弾か? それとも……爆薬か?」
「店主さん……全部です」
差し伸べられた手を掴み立ち上がり、ニィッと笑顔を浮かべる店主さんと握手を交わした。それはそうとして。そんなに火薬の臭いが染み付いてるなら、後でコートを洗濯した方がいいのかもしれない。
「全部って兄ちゃん……多分兄ちゃんに銃は使えないぞ? 相当な運がなけりゃ、そもそも撃つことすらできないだろうな」
「カフッ」
唐突な死刑宣告に、俺は再び崩れ落ちる。
酷いよ、こんなのってないよ……いいやまだだ! 店主さんの話が本当なら、相当な運があるなら問題ないはず。
「まあ、言葉だけじゃなんだ。裏に試射場があるから、そこで撃ってみるといい」
「いいんですか?」
「ああ。ついてこい」
そう言って店主さんが案内してくれた場所は、とてもひらけた空間だった。手前には何箇所かに分かれた撃つための場所、その奥には人型の的。
意外に本格的だなぁと思っていると、店主さんが革っぽいホルスターに収まった拳銃を放ってきた。なんとかキャッチしたけど、相当今の行為は危ないんじゃ……
「ほれ、撃ってみるといい。そいつはとある国で警察機関が採用してる銃でな、それで当てられなかったら諦めるんだな」
「それじゃあ遠慮なく」
そう言って俺が引き抜いた銃は、どこか見覚えのあるリボルバーだった。装弾数は5発、多分ニューナンブなんとかかんとかってやつかな?
そんな考察をしながら射撃レーンに立つ。感知能力に引っかからないから、的は6.5mより向こう側。イヤーマフを装着し、ドラマの見様見真似で銃を構える。
しっかりと的を狙い5連射。
今度は片手で構えて5連射。
最後にもう1度両手で構え5連射。
なるほどなるほど、そういうことか。ならばもう、こうするしかあるまい。イヤーマフを外し、銃を持ったまま両手を困ったように広げ言い放つ。
「駄目だぁドク、当たらん」
15発中15発全部が外れ。掠ったものすら有りはしないという、非常に無残な結果になった。店主さんが目を丸くしてるのも、多分それが原因ーー
「まさか撃てるとはな……あと、俺はドクじゃない、ボブだ」
じゃなかった。俺が発砲できたこと自体が驚きらしい。
「撃てるって……そこからなんですか?」
「ああ。あまりに能力が足りない場合、銃を撃とうとすると暴発する」
「恐ろしい話ですね」
あくまで他人事として話を聞きながら、俺は銃は使えないということを認識した。こんな実戦投入したら誤射姫もかくやな命中精度じゃ、普通に金の無駄でしかない。
「で、どうする? この結果を見ても銃を買うか?」
「意地の悪いこと言わないでくださいよ。流石に買いませんって」
諦めと切り替えは大切、ハッキリわかんだね。
だけどまあ、これだけ撃たせてもらって何も買わないでサヨナラするのはあまりにも失礼だ。
「でも、ちょっと入り用なので爆弾を買っていきたいんですが……何かオススメはありますか?」
「フッ、そうこなくっちゃな! オススメは、こいつだ!」
射撃場の入り口とは反対側にある、【火気厳禁】【関係者以外立ち入り禁止】と何故か日本語で書かれた扉。勢いよく開かれたその扉の向こうには、銃火器に混ざり大量の爆発する系のアイテムが揃っていた。
「マスター、ここからここまでの爆薬、買いで」
このときの俺の行動が店主さんの奇妙な好感を生み、しかも値段が安かったのでここを愛用することになるのだが、そのことを俺はまだ知らない。
◇
「と、まあそんな感じで、結構簡単に第3の街に到達できたぞ」
「なんでギルドに入ったのにソロ討伐しちゃうのとーくん……」
最早恒例になりつつある、翌日の昼休みでの事後報告。憎悪力の変わらない多数の視線に晒されながら、やっぱり沙織が机に突っ伏した。
「バカなの…? マゾなの…? 死ぬの…?」
「どうしよう、全部否定できない」
「それに、イベントのとき殆どセナに戦闘任せてただろ? それなのに今回も手伝ってもらったんじゃ、流石に悪いなって」
「むうぅ〜」
そう言って突っ伏したまま頬を膨らませ、上目遣いでこちらを見るのはずるいと思う。あざとい、実にあざとい。
「それに俺の本来戦い方って、致命的なまでに前衛との相性が悪いじゃん? 沙織に銃撃ってもらうだけってものなんかアレでな」
「それでも、誘ってくれるだけで嬉しいのにー」
あ、ちょっ、高校生にもなって机の下で足バタバタさせない。そこが沙織らしいって言えばそうだけど、流石に問題だから!
「それに、UPOで空を飛んだのって多分とーくんが初めてだよ? 他の方法なんて、大体跳躍か吹き飛ぶだけだもん」
こちらを見る目が、いいなーいいなーと訴えてきている。確かに空からの景色ってよか……あれ? 景色見てた記憶がないぞ?
「それなら、今度タイミングが合ったときにやろうか?」
「ふぇ?」
「足場の狭さ的にそこそこ密着することになるだろうし、都合のいいタイミング的に多分夜だろうから暗いだろうけど。沙織ならなんの問題もないしな」
「え、ぁ、うん」
多少MPがかさむけど、まあ人が後1人増えたところで大した負担にしかならないだろう。頭の中でそんな計算をしていると、突っ伏していた沙織が顔を赤くして固まっていた。そしてそのまま何を考えてたのかは知らないが、煙でも吹き出しそうな勢いで再び机に墜落した。だけどまあ、嬉しそうに笑ってるから平気だろう。
周りから舌打ちやら悪口やらが聞こえてくるけど、実に平和だなぁ……
抜き打ち☆ユッキー持ち物チェック!
簡易ポーチ
・フィリピン爆竹×99(10スタック)
アイテム欄
・HPポーション×10 ・MPポーション×10
・小型爆弾×10 ・中型爆弾×10
・大型爆弾×10 ・特大型爆弾×10
・パイプ爆弾×99 ・手榴弾×50
・C4爆薬×20 ・対戦車地雷×20
・セムテックス×20 ・雷管×99
・三尺玉×10 ・五尺玉×10
・ハンドアックス×30 ・ダイナマイト×20
・パラライズボム×10 ・スリープボム×10
・ポイズンボム×10 ・マジックボム×10
・爆薬×99 ・錆びた鉄片×99
・猛毒袋×99 ・小麦粉×99
etc…