幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第22話 バイk……バイク!?

 翌日の夕方、マップを開きながら俺はギアーズの路地をふらふらと彷徨っていた。行き先は勿論リシテアさんの所属ギルドであるバイク屋……正式名【モトラッド艦隊UPO支部】のギルドホームだ。

 

「分かりやすいって言ってた割に、全然見つからないし分かりづらいな」

 

 リシテアさんから受け取ったメモを見ながら、俺はフラフラとギアーズの路地を彷徨う。マップと照らし合わせると矛盾しかないし、ほんともうちょっと正確なメモはなかったのかなと思ってしまう。

 

「もういっそのこと、ここら辺の邪魔なビル全部をケリィ式爆破解体術で……っと?」

 

 そんなことを言いつつ簡易ポーチに手を突っ込んだと同時に、ふっと建物に圧迫されていた視界が開けた。なんだっけ? こういう場所って確かギャップとか言った気がする。ビルの森とも言えなくもないし。

 そんなぼんやりとした知識は置いておくとして。その開けた場所に存在していた建造物に、俺の目は釘付けにされていた。あぁ、確かにこれはわかりやすいし覚えやすい。

 

「艦橋そのものじゃん……これ」

 

 なんとなくそんな気がして調べてみたら、検索にヒットした画像と目の前の建造物は完全に一致していた。砲塔こそないけど、眼前に某バイク艦隊の艦橋。これは凄い作り込みだ。

 その天を衝く異様に感心しながら扉を開け、入店した俺を迎えたのはさらなる異様な存在だった。

 

「いらっしゃいませ」

 

 逆立った灰色の髪に、右眼を覆う∞のマークが刻まれた眼帯。 片手剣がバイクに突き刺さるように収納され、そこから緑色に光る小さめの盾が展開されている。だが、何よりも目を引くのはその下半身だ。そこに本来あるべき人としての下半身は存在せず、替わりに鈍い鋼の色を反射する二輪駆動車……つまりはバイクがその存在を堂々と主張していた。巨大なマフラーが4つ付いたそれと背中から伸びた4つのチューブで接続されたその姿は――

 

「パシr、プラシドだとぉ!?」

「ハッ、俺好みの答えだ…」

 

 殆ど音を出さず接近してきた……名前はシドさんらしい……とがっちり握手を交わして、その表情から俺と大体同類の人間だと察することができた。趣味に生きてる人だこれ。

 

「リシテアさんに紹介してもらってお邪魔しましたユキです。よろしくお願いします」

「このギルドのサブマスターのシドだ。こっちこそ、リシテアが迷惑をかけたようで悪かったな」

「いえ、もう済んだことですから」

 

 お互いの握手をする力が強くなる。こういう高度なやり取りをしてる気分になる感覚、嫌いじゃない。いやそうじゃなくて、今はそんなことより本題を切り出さないと。そんなことを思っていると、向こうから話を切り出してくれた。

 

「それで、ここに来たってことはお前はバイクを買いに来たんだろう? ステータスさえ上げれば、軽くバイクより速く動けるこの世界で」

「ええ、勿論。何せ俺のステータス、Luk以外全部0ですからね! それに何よりも浪漫がありますし」

「やはり同類だったか。俺は極振りじゃないが」

 

 そう言って、そこそこな大きさのタブレットが放り渡された。

 

「カタログだ、好きに選ぶといい。割引きはしないがな!」

「はは、そこはまあ大丈夫ですよ。予算はありますし」

 

 そう言って受け取ったタブレットの画面には、機種を選ぶ前にまず分類を選択する必要があるらしく3種類の選択肢があった。1つ目は史実、これは現実のやつと同じものが選べるようだ。2つ目は創作、これは多分ゲームとかアニメとかのものを選べる所。そして3つ目がオリジナル、これは態々区別してるってこともあり、本当にオリジナルのバイクが羅列されていた。地雷か当たりかの二択しかなさそう(小並感)

 

 とまあ、そんな考察をしてみてはいるけれど、はっきり言って俺はバイクはそんな詳しくはない。スーパーカブとかニンジャとかカタナとか、後はアニメとかの知識しかありはしない。だから地の知識が必要そうなオリジナルは勿論なしだ。

 

「……なにかオススメってあったりします?」

「そうだな……Dホイ――」

「あ、すみません大丈夫です。もうちょっと見てみます」

 

 失礼だとは思うが会話を遮る。専門家に聞くのは意味がないようだ。気がついたら俺も究極完全体とか獣輪態に変身させられる未来が見えたからね!

 正味速度はそこまで要らないのだ、処理しきれなくなったら意味ないし。それならやっぱり耐久性を優先すべきで……

 

「いや、ケッテンクラートってバイク……なのか?」

「小型装軌式オートバイ。勿論バイクだ」

「アッハイ」

 

 高い耐久性能を優先して探し、トップでヒットしたケッテンクラート。あの特徴的すぎるフォルムのアレも、一応バイクの分類らしい。他の追随を許さない耐久性能だし一応候補に入れておきながら、他の恐らく軍用バイクと思われる文字列を眺めていく。

 

「あ、これって……」

 

 アルファベットの文字列ばかりが並ぶそこで、1つだけ目にとまるモノがあった。いや、正確には見覚えのある名前が1つ存在していた。

 ZundappKS750……某怒りの日の白騎士(Albedo)の愛車である。最近はずっとUPOにかまけていたけれど、厨二センサーは未だに衰えてなかったらしい。後で成分補給してこないと。

 

「ふむ、そいつに決めたのか。ならば早速会計に」

「なんて、いきませんよね?」

「ほう?」

 

 そこに気づいたか、とでも言いたげな顔でシドさんがこちらに向き直る。なんだこいつという目じゃない時点で何かあるのはバレバレだ。

 ここは、データとして設定されてるものならなんでもありのゲームの世界。それなのに、そんな世界の趣味アイテムと言われるものの買い物が、この程度で終わるはずがない!(偏見)

 

「他に何があると言うのだ?」

「そう、ですね……」

 

 素直にそのナニカを示してくれる訳ではないようだ。

 これは所謂、裏メニューに相当するサービスなのだろう(適当)だからこそ、こっちがその答えを明示しない限り手を貸してはくれない。けれどそんな縛りがある以上、その効果は保証されてると言って過言ではない。ならば何が何でも引きずり出すべき。

 だけど、それを交渉でどうにかするには、残念なことに俺の知識は不十分と言うに他ない。こちらも事前に調べたとはいえ向こうは専門家、同じ土俵で戦うことなんて馬鹿げている。勝ち目なんてありはしない。なればこそ頭を回せ、本気で当たればなんとかなるはず!(光の亡者並感)

 《空間認識能力》を無言で発動、シドさんの動きの一挙手一投足を見逃さないようにしてから俺は組み立てた推論をぶつける。

 

「調べた限り、バイクを1つのアイテムとして完成させるには、職人プレイヤーがパーツを組み立てる必要があるそうですね?」

「そうだな、それがアイテムとして異常に高額な理由の1つでもある」

「となると、俺の【紋章術】のように『バイク自体に特殊な効果を付与する』じゃ、ありませんか?」

 

 まず考えつくのがそれだ。

 現実の世界じゃありえない、後付けの特殊能力。この世界がファンタジーがベースになっている以上、あって然るべき物のはずだ。

 

「それだけか?」

 

 口の端をニィッと吊り上げて、シドさんはそう言った。

 まだ何かある。こんな上辺だけの、誰にでも考えつくようなありふれた考えなんかではまだ届かない。厨二力と今まで貯めてきた無駄知識を回せ、回転数が全てだ。ターキー食べたい。特殊効果……魔法、人、魔法陣…?

 

「パーツの配置や組み合わせを調整して、特殊な効果を発現させる。違いますか?」

 

 俺が自信を持って返答した答えに、ほんの僅かな驚きと、そして失望にも似た感情を浮かべ、こちらを物理的に見下してシドさんは言い放つ。

 

「足りないな」

「へえ、『足りない』ですか」

「ああ、そうだ」

 

 成る程、考える方向はこちらで間違ってはないらしい。ならばもっと思考を厨二の海に沈めよう。きゅーそくせんこー。

 紋章術、つまりは何かを刻印して付与は既出。それらの配置と組み合わせの相性も既出。ならば次は素材だ。ファンタジー由来の何か、その素材の厳選、素材の時点からの効果付与、製作工程や経験なんかも色々あるだろう。

 

「……素材1つ、パーツ1つまで拘って厳選。そこに魔術や錬金術辺りのファンタジー要素も融合。つまり、選択した機種と全く同じではあるけど、性能だけは完全なカスタムメイド…?」

「そこまで知ってる奴はギルメンにしかいないはずなんだがな……リシテアの奴にでも聞いたのか?」

「いいえ、独力での推測です。確認してもらっても大丈夫ですよ?」

 

 どうやらちゃんと答えに行き着いたらしい。

 安心するのと同時に頭痛の源である《空間認識能力》を解除する。ほんともうこのスキル無理、未だに慣れる気配が一切ないもん。使いすぎるとなんか眠くなるし。

 

「どうやら本当に自力で答えに行き着いたようだな。いいだろう、気に入った。望みを言うといい」

 

 とても満足気な表情で、シドさんがこちらにそう言った。殺すのを最後にされなくて良かった良かった。

 速さは要らないって言ったけど、このバイクを選んだ以上……

 

「サイドカーの着脱を自由に。後、速度と耐久性能を限界まで上げてもらえますか?」

「承知した。壁面走行は必要か?」

「忘れてましたが勿論」

 

 その後、話しながら色々な追加していく間にとんでもないゲテモノになった気がするけど、まあそんなに気にすることでもないよね! 攻撃的な改造はキッパリ断ったし。

 

「さて、ここまで話しておいてなんだが、予算は足りるのか?」

「ええ、まあ多分。……どれくらいします?」

 

 カジノでヒャッハーした分の貯金はあるとはいえ、もしかしたら予算がオーバーする可能性もなくはない。そんな懸念のもとに聞いた俺の前で、そうだなといいシドさんが計算機を弾きこちらに差し出した。

 

「元の値段も含め、大体この程度だな」

 

 そこに表示されていた金額は1,000万D。なんだ、大したことないじゃないか(?)所持金の五分の一が削れるけど、特に問題を感じないので即金で支払う。

 

「即金で……だと!?」

 

 カン☆コーンというSEを幻聴するような顔で、シドさんが固まる。だがそれも一瞬で、すぐに通常の対応に戻った。

 

「完成するのは……そうだな、3日後と言ったところか。でき次第リシテアを通して連絡しよう」

「はい、それじゃあ宜しくお願いしますね」

 

 こうして俺の、これからも愛用することになるバイクの購入は終わったのだった。




バイク
製作には、プレイヤー(NPC)が専用のパーツを組み上げなければいけない。完成後は1つのアイテムとして成立する。
燃料アイテムを消費しなければ作動させる事は出来ない。
現実に比べ、操作は簡略化されている。

-追記-
キャラ案は、キャラ案はちゃんと3つくらい決めてたんだ……だけどダイスがついファンブって…(96)

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