幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

32 / 243
リクエスト貰ってたキャラがやっと出せる…(まだ数話先だけど)
そして今回、増えたお気に入りをキャッチアンドリリースしそうな気がする()


第23話 イベントの予兆

 いつも通り、不快な視線を受けながら過ごした学校。それはいつも通りのことなのでどうでもいいのだが、俺は今、別の強大な問題に直面していた。

 

「ぶーぶー」

 

 その問題とは、足をジタバタさせて、頬を膨らまして不満を主張している幼馴染様である。そんな見た目相応な行動をしなk……目の前からヤバイ級アトモスフィアを感じたから考えなかったことにする。

 

「そんな膨れても、メンテなんだからしょうがないと思うぞ? 沙織」

「そーれーでーもー」

 

 こんな状態になっているのは、今言った通りUPOが大規模メンテナンスに突入したからだ。そろそろ夏に突入しかけてるし、大きなイベントがあるからだと思うんだが……開始した日にちが最悪だった。沙織がとても楽しみにしていたらしい、例の空中散歩の当日だったのだ。

 

「メンテの時間が長すぎるんだよとーくん!」

「まあまあ。大きいイベントが待ってると思えばいいんじゃないかな」

 

 どうどうと沙織を宥めるが、まあその理由は分からなくもない。なにせ昨日の深夜0時から始まったメンテが、13:00を僅かにまわった今もなお続いているのだ。メンテが明けるとどうなるのか? メンテが始まるのさ(諦め)

 そんな冗談は置いておくとして、メンテナンスの終了予定時刻は今日の深夜0時。そんなに楽しみにしてたものを、狂気の24時間メンテで潰されたらそりゃあ文句も出るってものだ。

 俺はどうなのか? 昔のソシャゲには48時間メンテとかがあったらしいからなぁ……プレイできた伝説の18分とか、奇跡の2分とかがあったらしいけど。後まあ、やってなかったゲームを並行プレイできるしあまり気にはならない。

 

「あっ、またメンテ延長だって」

「むきゅう……」

 

 携帯で調べてみれば、公式がまたメンテの延長を発表していた。明日、つまり土曜日の正午まで延長するらしい。これで36時間……いやほんとどうした運営。そんな文句を頭に浮かべていると、目の前で沙織が力尽きたように机に落ちた。流石にこのまま放置するのは、こう、なんかなぁ……嫌だ。

 

「あーその、なんだ。予定が空いてれば、明日気晴らしにどこか出かけるか?」

「ふぇ?」

 

 ざわ、と一気に周りが騒がしくなった。全く何がそんなに気になるんだか。でも沙織も微妙に難しい顔をしてるし止めにした方がいいか。励まそうと思って言ってみたけど、やっぱり慣れないことはするもんじゃないな。

 

「まあ予定が空いてなければ仕方ないけどな。急に話を振って悪かった」

「え、いや、ううん! 行く! 絶対行く!」

 

 言い方は悪いかも知れないが、すごい食いつきようにビックリする。いや、まあ元気になってくれた様でなによりだしいいか。だからみんな、ナズェミテルンディス!?

 

「わ、分かった。けど、流石にこのまま衆人環視のなか話を続けたくはないし、続きは後ででいいか?」

「あ、…うん」

 

 俺が苦笑いを浮かべながら言うと、周りを見渡して沙織は状況に気づいたようだった。顔を赤くしてゆっくりと元の位置に戻り、ぷしゅ〜という効果音が聞こえてきそうな感じで撃沈した。

 ゲームと違って、リアルじゃ豪遊なんてできない。1万円吹き飛ぶだけで致命傷だ。一応そこら辺、改めて気を引き締めておかないとな。

 

 

「ふふ〜ん、ふんふふ〜ん」

 

 というわけで、翌日のお昼頃。俺はテンションの高い沙織と共に、具体的な店名は伏せるが大きなショッピングモールに来ていた。そして、このテンションの理由にも昨日気付かされたから分かっている。

 

 昨日の帰り道、同じ制服を着た男子数名に囲まれたのだ。『さおりんとデートとか羨ましいんだよこの野郎!』とかなんとか、血涙を流す勢いで言ってた。そんでもって邪魔だから押し通ろうとしたら、1人が周りの制止を振り切り喧嘩をふっかけてきたのだ。パンチもキックも、正直ゲームのうさぎ並の遅さだったから何の苦労もなく撃退できたけど。というかゲーム内とほぼ同じ動きができたんだけど、どういうことなの……?(困惑)

 

 まあ何が言いたいかと言うとだ。この歳の仲が良い男女が2人きりで出かけるとか、どこからどうみてもデートですありがとうございました。結構小さい頃からの付き合いだから忘れてたけど、そう言われると意識せざるを得ない。俺とは不釣り合いなくらい可愛いわけだし。

 

「どうかしたの? なんか難しい顔してるよとーくん」

「今の放送を聞いて、家の冷蔵庫がすっからかんなのを思い出したからかな?

 それよりも、今のところ適当にぶらついてるだけだけど、大丈夫か? 楽しい?」

「うん!」

 

 内心をそのまま言うわけにはいかないので、丁度流れていた放送を利用して誤魔化した。実際に空だから嘘でもないが。

 そして自然な流れ()で変えた話題に、即座に笑顔の返事が返ってきた。眩しい。

 

「んー、でもそろそろどっか寄りたい……あ、とーくんあのお店行こ!」

「りょーかい」

 

 普段の下校時と同じで並んで歩いてるだけのはずなのに、認識が少し変わっただけでこうも色々と変わるとは思わなかった。こんな変に考えが飛躍してる今、いつものようなスキンシップがきたらもう、色々と変な方向に思考がイグニッションしてオーバードライブ間違いなしである。と、言うことで!

 

「それじゃあ行くか」

「あっ……」

 

 先手必勝。沙織と手を繋ぎ俺は歩き出す。口に出せはしないけど、そこそこの人混みだしね! 手を繋がないとはぐれるかもしれないからね! 沙織の背は低いからすぐ見失ってしまうだろうしね!

 俺は何に言い訳をしてるんだろうか(賢者タイム)

 

「うん、今日は目一杯楽しむぞー!」

 

 そう言って隣を歩く沙織が、ちゃっかり繋いだ手を恋人繋ぎに変えてきた。やっぱりこうなるよね、知ってた(大嘘)だから不意打ちとして、ちゃんと握り返すことにする。

 

「ああ、そうだな」

「うん!」

 

 伝わってきた反応的に、今は勝ったと確信する。

 この後はもう振り回される以外ないのは目に見えてるし、今のうちに精一杯楽しむとしますか!

 

 あ、でも帰りにちゃんと買い物して帰らないと。朝炒飯作ったせいで冷蔵してた余りの米も、卵も、ベーコンもないのだ。買っていかないと今日の晩飯は白米と沢庵のみだ。買わなきゃ(使命感)

 

 

「じゃあねとーくん! またゲームで!」

「おう」

 

 そう言って沙織を送った帰り道、リアル気配感知(自意識過剰)に引っかかる気配がいくつもあったので、わざわざ大通りを歩いて家路を急いだ。どうせ昨日の残りだろうけれど。

 一先ずなんの問題もなく帰宅し、荷物を整理してからUPOにログインした俺を待っていたのは、衝撃の情報だった。

 

「うせやろ……?」

 

 そんなどこの方言とも知れない言葉が口をついて出てしまったけど、それも仕方ないだろうと思える程の情報だった。

 

 ====================

 【予告】夏だ!海だ!いいや山だろ?なんだ手前?うるせぇサバイバルだ!

 ====================

 

 明らかに喧嘩してるイベントの名前は、下手に言及すると戦争が始まるので置いておく。きのこたけのこ論争と同じで、夏の海山は関わらないが吉だ。

 

 イベントの開催は2週間後の日曜日正午からで、サバイバルと銘打ってはいるもののリスポンは3回までありらしい。事故死を予防ということだろう。

 内容としては第1回イベと同じでポイント制。特定のモンスターを討伐だけでなく、今回は生産など色々な行動でもポイントは加算されるようだ。そしてギルドランキングはなし、完全に個人戦ということだろうか? 広大な特別マップでイベントは行われるらしいが、マップのデータは開催してからのお楽しみとのこと。けれどそんなことよりなにより、最後の最後に書かれている一文が衝撃だった。

 

 ====================

 このイベントは特別サーバーにて行い、体感時間が加速されます。緊急ログアウトを除き、イベント中にログアウトした場合イベントへの復帰はできません。

 ====================

 

 体感時間の加速、フルダイブ型のゲームが実現した今ですら空想の産物とされていたそれが実装されたのだ。そりゃあ36時間メンテも必要なはずだ。何が起こるか分からないし、運営も色々やってたのだろう。

 その下にあった詳細を見ていくと、その異常性がはっきり分かった。このイベントの現実での経過時間は6時間。けれどイベント内で経過する時間は120時間。つまり、体感時間を20倍にして4泊5日を過ごすというものだった。明らかにオーパーツ級のキチガイスペックである。世の中には天才っているんだなぁ……

 

 因みに緊急ログアウトというのは、停電やコンセント引っこ抜き、もしくは使用者又はその周囲の異常が危険性アリと判断された場合、安全のために強制的にログアウトさせる機能の事だ。それの対策してくれるのは確実に良運営。

 

「だけどなぁ……」

 

 このイベントは、残念なことに俺向きとは言い難い。レアモンスター、レアドロップ、サバイバルと俺が活躍できそうな素材は揃っているのに、ほぼ死ねない。そう、死んで覚えてからが本番なのに死ねないのだ。

 誰かと合流、若しくは協調ができれば良いのだが、広大なマップのという時点でそれも無理そうだし……くそぅ運営め、極振りに対して殺意が高すぎる。

 

「ま、もうちょっと情報上がってきてから判断するか」

 

 そろそろ約束の時間だし、考えるのはやめてお店部分に出よう。折角デートの続きのようなものなのに俺はいつもの旅人スタイルだが、それは許してもらうしかない。

 そんなことを考えながらお店の方に出ると、約束通りセナが待っていた。

 

「待ったか?」

「ううん、今戻ってきたところ」

 

 約束……例の空中散歩のアレだ。セナが凄く楽しみにしてたのは忘れてない。恥ずかしいのは今日の昼で慣れてきたし、精々カッコつけさせてもらうとしよう。

 

「早く行こ! その、例の空中散歩!」

「承りました、お姫様」

「ふえぇ!?」

 

 顔を真っ赤に染めたセナに対し、某黒い執事をイメージして礼をする。こちとらもうね、実は恋人繋ぎの時点で羞恥心はオーバーフローしてるんですよね! ならもうとことんやってやるしかね!

 

「ふ、ふん。それじゃあエスコート、お願いしようかな!」

「仰せのままに」

 

 セナの小さな手を引いてギルドの外に出て、【生命転換】を使いつつ《障壁》で階段を展開する。HPが自動的に10%まで減るけど、まあ街中だし何の問題もない。

 

「それじゃあ狭いし、ちょっと寄ってくれ」

「きゃっ」

 

 後で気まずくなるとかのことを些事と切り捨て、脆くて狭い足場なので俺の方に寄ってもらう。身体能力的には俺が極めて格下とか言っちゃいけない。

 お互い特に何かを話すことも無く短い階段を登りきり、俺は尽きかけのMPを振り絞ってセナの分の足場も展開する。

 

「すっごい……」

 

 そう呟くセナの言うとおり、改めて見ればここは中々に良い眺めだった。中途半端に位置が高いお陰で星の光る空は近いし、眼下に広がる街のポツポツとした光も風情があるような気がしないでもない。

 そうだよなすっごいよなー……チャラい感じだったり、覚悟決まってる感じの人ならこういうタイミングで告白とかできるんだろうなー。

 

 けど俺には無理だ。他に好いた人がいるとか、沙織のことが嫌いとかそういう話じゃない。別に幼馴染みとしてありきたりな、家族としてしか見れないとかいうわけでもない。けれど、沙織が色々とそういう感じなのは、今日のお昼出掛けたときにお洒落をしてたことからも明白だ。互いの関係を気のおけない親友のように思っている俺が、それに応えていいのか分からない。

 

 まあ、要するに俺がヘタレということだね!

 

「喜んでもらえて何より」

 

 だから今は、精々そっと手を繋ぐくらいが限界だ。ロマンチックな場面かもしれないけれど、ヘタレメンタルの俺にはもうね……吹っ切れてきたとは言え無理なのだ。だからこれで、どうにか我慢してほしい、なんて。

 

 




「体感時間を加速させる」なんてキチガイ装置を実装するのに、メンテナンスがないなんておかしいダルルォ!? ということでキチガイメンテ。
下手したらSAOのアリシゼーション編の最後みたく、加速しすぎでログアウトに不調をきたすとか、そのままゲーム内に取り残されるとか、その他諸々の危険要素があるのにポンポン実装する運営は確実にSAN値が0。
え、装置の製作者? APP18の誰かさんなんじゃないですか?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。