幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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時間はユッキーに爆破が爆破していきました。ネタ成分が暫く薄め。

ジュラシックワールド見てて思ったんですけど……ラプトル可愛い()


第25話 第2回イベント1日目①

 ちょっとした決意をしたあの日から2週間の時間が経った。

 イベント当日である今日までにできる限りレベル上げに励んだのだが、どうも20から上がることはなかった。経験値テーブルが一気に広がったのか、死にすぎなのが原因なのかは知らないけれど。

 ついでに、アイテムを少し買い足した。主に回復系のポーション類を。大量消費しないと、生き残る未来が見えないからね!

 

「けどやっぱり、れーちゃんですら30突破してるのに1人だけ20って、流石に低レベルなのはよろしくないよな……」

「ん?」

 

 対面の席に座り首を傾げるれーちゃんのレベルは33。セナが46、つららさんが40、ランさんが42というギルド内では見劣りするものの、それでも俺を軽く10は上回っている。

 

「ん!」

「そうだよね……イベント開始直前なのに、凹んでたら駄目だよね」

 

 身を乗り出して肩を叩いて励ましてくれたれーちゃんにほっこりとしつつ、気を引き締め直す。

 風が吹いても痛いどころか、風が吹いても死ぬ俺の貧弱スペックじゃリスポン可能な回数が制限されたイベントはかなりキツイ。しかも時間が無駄に大量にあるせいで、かなりの高確率で途中脱落の可能性がある。

 

「とりあえず、できる限り頑張りますか!」

「ん!」

 

 その調子というかのごとくサムズアップするれーちゃんに、尊さのようなものを感じた気がする。頭を撫でたりすると、個人ルームで休んでいるランさんが謎センサーで察知して、般若面みたいな顔で飛んでくるからやらないけど。因みに個人ルームにはつららさんもいる。まあ、察しよう。

 

「ユッキくん! 準備できてる?」

「まあな。とは言っても、持ち物は大体爆弾だけど」

 

 背後からセナが、勢いを加減して抱きついてきた。あんなことがあっても、俺たちの距離感は大体こんなものだ。一歩踏み込みはしたけど、そこまで劇的には変わっていない。

 そんなことをしている間にメニュー画面に表示させていた時計が12時となり、ポーンという聞いたことのない電子音が響いた。

 

「えっと、なになに?」

 

 新しくきていた通知の題名は、第2回イベント特設ページ。開いてみればそこには簡単な注意書きと1つのボタンが存在していた。

 

 ただ今より、第2回公式イベントを開始します。

 準備ができましたら、参加者は下記の開始ボタンを押してください。各自特設フィールドにランダムに転送されます。

 転送後、詳細なルールの示されたメッセージを送信するので、それをよく確認してお楽しみください。

 

 詳しいルールはいつでも確認できるし、これだけで十分だろう。そんなことを考えていると、コートの袖をセナがくいくいと引っ張ってきた。

 

「ランさんとつららさんは仕方ないけど、出発する前に!」

 

 そう言ってセナとれーちゃんが手を重ね合わせる。3人だけだけど、円陣を組むらしい。多少の気恥ずかしさを無視して俺も手を重ね合わせる。

 

「合流できたら一緒に、出来なくても楽しく、目一杯イベント楽しむぞー!」

「ん!」

「おー!」

 

 セナもちゃんとギルドマスターやってるんだなぁ…という的外れな感想を抱きながら、俺はイベントの特設フィールドに転送されたのだった。

 

 

 僅かな暗転と浮遊感。いつも通りの転送される感覚が過ぎ去り、目を開けた俺がまず感じたのは冷たさだった。

 

「うそん……」

 

 そう呟いた自分の声すら聞き取りにくい。それもそのはず。俺が転送されたこの場所には、下手なゲリラ豪雨を超える滝のような雨が降っていたのだから。これは特別警報レベル。

 慌ててフードを被るも、既に全身がびちゃびちゃに濡れていて気持ちが悪い。しかもこの雨じゃ、ここだと一部の爆弾はまともに使えない気がする。

 

「【潜伏】」

 

 こんな状態で襲撃なんてされたらたまらないので潜伏し、錫杖を取り出す。マップには?としか表示されていなかったので、現状確認のため辺りを見渡す。

 

「……駄目だこりゃ」

 

 雨と風の勢いが強すぎて景色が煙っており、周囲の風景が殆どまともに確認することができない。太陽が見えないから暫定的な方角も分からず、分かることと言ったら足元が草地であることと、前方に森のような場所があるということだけ。遭難だね? 分かるとも!

 

「とりあえず、雨の当たらないところに行かないとダメか」

 

 こんな天気の中バイクを運転しようとは思えないし、無駄にシステムウィンドウが雨を弾いているので新しくお知らせを読めもしない。

 ため息を吐きながら歩き、森に足を踏み入れる。これで少しは雨も遮られて楽になるはずだ。

 

「確認確認っと」

 

 少しはマシになった雨の中ウィンドウを開き、新しく送信されていたメッセージを確認する。そこに記されていた今回のイベントの内容をざっと纏めると、大体このような感じになった。

 

 ☆このイベントは体感時間を加速させ、4泊5日の日程で行われる。現実での所要時間は6時間

 ☆リスポンは3回まで

 ☆通常ネット、通常フィールドとの連絡は取れない

 ☆ポイント制。ポイントの取得方法は、敵の討伐、アイテムの入手、アイテムの作成etc…。多岐にわたるその中で目を引いたのは、特定の敵との戦闘から生還すること

 ☆稼いだポイントは、イベント特設フィールドから出てから交換可能

 ☆臨時インベントリをイベント中だけ追加

 ☆イベント参加中にポイントの確認は不可

 ☆各所にレアアイテムの入った宝箱が存在している

 ☆各所にボスを配置してある

 ☆このフィールドは、様々な環境が設定されている

 ☆食料を食べず活動し続けた場合、空腹・飢餓・渇きなどのデバフが段階的に付与される。要するにサバイバルしろ

 ☆第2の街到達者のみ参加可能

 

「嫌な予感しかしないんだよなぁ……」

 

 特に特定の敵との戦闘から生還することが。多分ボスとは別に、某ゲームのF.O.Eみたいなキチガイ染みた強さの敵がいるってことだろう。抜け道はあるんだろうけど、死ぬ未来しか見えない。

 

「一先ずは、この森を散策するしかないか」

 

 そう決めて俺は、フードを目深に被り森の奥へ歩いていく。

 それにしても、モンスターともプレイヤーとも遭遇する気配がない。このままでは非常につまらないことになってしまう。

 

「王の話をするとしよう。なんちゃって」

 

 場所と格好的にふざけてみたけど、なんだかしっくりこない。過労死しそうなのと、隣にランサー枠がいないからか。セナかれーちゃんがいれば丁度良かったかもしれない。

 

「それにしても、ほんとここどこ…?」

 

 全体重を込めて折ってアイテム化した木の枝も『トネリコの枝』『杉の枝』『ヤドリギの枝』『桜の枝』とバラバラになっており、微妙にモチーフの特定も場所の判別もつかない。へし折った枝が光って『蓬莱の玉の枝』とかいうアイテムに変わったのはビビったけど。

 

 頭を捻りながら探索しアイテム収集を続けていると、前方からバキバキバキという破砕音が聞こえてきた。まだ探知圏外であるが、嫌な予感しかしないので近くの木に身を隠す。更に聖水も使い潜伏度を上昇させておく。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 

 ちゃんと冷静沈着に状況を判断しないと、即死の危険しかないモンスター戦はリタイアに直結しかねないのだ。

 姿を隠して状況を窺うこと数秒、雨のカーテンの向こうから長い槍を担いだ女の子が吹き飛んできた。そして、背が低く紫がかった銀髪を持つその子を追うように、1匹の巨大なモンスターが光る眼と共に姿を現した。そのモンスターは──

 

「シカでした」

 

 捩くれた巨大な1対の角、しなやかな筋肉の鎧を纏った脚、赤く光る眼に、何らかの紋様が浮かんでいる黒褐色の毛皮。果てには名前が【The Hades horn deer】と英語表記で、運営の気合の入れようがひしひしと伝わってくる。

 多分あの女の子が戦ってたんだろうけど、鹿のHPバーは1割も減ってない。長槍、軽鎧、籠手、袴、靴……装備を見る限り、かなり強そうな人なのに、だ。うん、これ戦っちゃダメな奴ですね分かります。

 

「かと言って、見捨てるのは流石に嫌だしね」

 

 幸い木はそんなに密集していない。これならバイクで森から脱出できるだろう。サイドカーつけてたら勿論アウトだけど。

 

「くっ!」

 

 そうバイクを取り出して準備している間に、藜…? とりあえず名前は読めないけどそのプレイヤーが、再び吹き飛ばされていた。原因は恐らく、あの鹿のかちあげだろう。直撃はしてなさそうだけど、瀕死レベルまでHPが減ってしまっている。時間の猶予はなさそうだ。

 

「目を瞑って、耳を塞いで!!」

 

 そう大きな声で叫びながら、買い足しておいた《スタングレネード》を鹿の目の前に投擲する。こちらをギョッとした表情でプレイヤーが見つめ、すぐに俺が投げた物を理解してか目を瞑り両耳を塞いだ。

 それを確認し俺が取り出したバイクに跨ったのと、スタングレネードが炸裂するタイミングは殆ど同じだった。キィンという耳障りな高音が鳴り目が眩む閃光が発生し、その後に鹿の悲鳴が続いた。

 

「乗ってください!!」

 

 ぶっちゃけ自爆してて耳が聞こえにくいし、鹿の方なんて見ていないけれど感知の反応がある方向に手を伸ばす。

 

「───せん!」

 

 こちらの手を掴み、後ろのシートに藜さんが乗ったのを確認しアクセルを回した。木の根などで凸凹の道を、障壁で無理やり舗装してアクセルを全開にする。

 流石のキチガイスペックによって数秒で草原まで辿り着き、そこでドリフト気味に停車、バイクから降りた。うん、耳もちゃんと聞こえるようになってる。

 

「すみません、勝手に助けさせてもらいました。えっと……」

 

 名前の読めない人がバイクを降りたのを確認してから収納し、錫杖を取り出してから謝る。いや、だってこの人ハイライトないから怖いんだもん。

 

(アカザ)、です。初見の人は先ず読めないから、あまり気にしないでください。それに、こんな天気のせいで、アレと戦って危なかったことも事実です。むしろ、ありがとうございます」

「いえ、勝手にやったことには違いないですから。それよりも、こんな天気って何かありますかね?」

 

 確かに酷い天気だけど、何の状態異常も出ていない。あるとしたら精々視界が悪い程度だろうけど、森の中じゃそれほどでもなかった。アレくらいなら気にせず俺は戦える。

 

「この天気……嵐天って言うらしいんですけど、色々バッドステータスを引き起こす、みたいです」

 

 なるほど、それを俺は装備の効果で弾いてるということか。

 

「例えばどんなのです?」

「武器を取り落としやすくなったり、転びやすくなったり、炎属性ダメージが10分の1になる、らしいです。後、これは違いますけど、稀に雷も落ちるとか」

「なるほど、ありがとうございます」

 

 その情報をどこで手に入れたのか聞きたかったけれど、出かかった言葉はそれどころじゃない事態によって掻き消された。

 嵐天の中響く、バキバキバキという破砕音。聞き間違えようもないその音にギョッとして振り向くと、僅かに離れた森から例の鹿が姿を覗かせていた。その目は明らかに怒りに染まっており、地面を掻く前脚からしてこちらを狙っているのは明らかだった。

 

「藜さん、ところでアレ、俺たちを逃してくれると思います?」

「無理、だと思います」

 

 やっぱり駄目みたいですね(諦観)

 

「さっきのバイクで、逃げたりできません?」

「さっきみたいに道を舗装できないから、横転事故でHP全損する可能性が極めて高いですけど、それでもいいなら」

「駄目、みたいですね」

 

 どうやら同じ結論にたどり着いたようだ。

 観念して武器を構えた俺たちに向かって、ハデスな角鹿(ガバガバ訳)は一鳴きして襲いかかってきた。




空腹 移動速度低下・攻撃速度低下・攻撃威力低下・HPMP自然回復停止
飢餓 移動不可・攻撃不可・HPMPスリップダメージ
渇き 魔法使用不可・HPMPスリップダメージ

ユッキーの追加アイテム
・HPポーション改 ×10 ・MPポーション改 ×10
・HPハイポーション ×10 ・MPハイポーション ×10
・スタングレネード ×20 ・TNT爆薬 ×20
・鉄串 ×99 ・聖水 ×99

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