水着ガチャ? ああ、爆死したよ
「ここ、です」
「へぇ……これは」
あの角鹿が破壊し尽くした道を、素材を回収しながら進むこと数十分。俺たちは、例の森の奥にある遺跡に到着していた。
崩れた塔と思われる建造物が、四方に建っていた原形を僅かに残した瓦礫の山。残った基部にもツタのような植物が巻きつき、崩れた瓦礫は苔
「俺は最悪なくても大丈夫ですけど、光源ってあったりします?」
「一応、松明なら何個か。湿気っちゃうので、今は出せませんが」
「なるほど、じゃあ俺も作らないとですね」
6.5mまでの距離なら目を瞑ってでも把握できるけど、それ以上となると俺はただのカカシですなになってしまう。サポート役としてはそれじゃ不十分だし、装備の耐久値回復以外に使わない製作系スキル(65%)を活用する機会にした方が良いだろう。
「再分配してっと」
バイクに乗ったまま【レンジャー】のスキルを再分配し、散々拾った…えーあれだ《トネリコの枝》でいいや。枝を数本取り出し、サイドカーに設置された簡易ポーチから燃料を1つ取り出す。
実体化した赤い灯油タンクに入った燃料の蓋を開け枝を全て突っ込み、燃料を染み込ませる。いい感じの布がないので仕方なく枝に炎属性をエンチャントし、製作を完了する。
「《魔法の松明》……なんか無駄に高性能なんだけど」
完成した松明の数は6本。その点灯時間は12時間と表記されていた。長すぎる点灯時間に困惑しつつも、消耗してない燃料を簡易ポーチに戻し準備を完了する。
「それじゃあ、いきま、しょう?」
「ですね。行きますか!」
バイクを仕舞い、魔法の松明を取り出して俺たちは大穴に進入していく。階段じゃなかったら即死だった……という本当のことは置いておいて、【レンジャー】の能力を感知特化に割り振り直す。
メニューに表示されているゲーム内の時間は大体午後3時、今はまだその程度の時間だが夜になれば何が起こるか分からない。いち早く物事を察知できる力は必須だろう。1日目リタイアとか御免被る。
パチパチと燃える松明の明かりに照らされた遺跡の壁にはびっしりと読めない文字が刻まれており、漂う石の臭いが歴史のようなものを感じさせる。石で組まれた壁は崩れかけてたり緑が覆って読めない部分もあるけれど、片っ端からスクリーンショットして保存しておく。後で何かの役に立つかもしれないし。
そんな特に何の工夫もない一本道を歩いていくと、数分で地下へと続く階段へ到着してしまった。
「ここ、モンスターとか出ないんですかね?」
「多分、私の装備のお陰かも、しれません」
「えっ?」
なんでも通常エンカウントが低下して、レアエンカウントが上昇する効果があるとのこと。そして通常mobに攻撃したとき、極低確率ではあるけど即死効果もついてるんだとか。因みに、普段はもっと通常エンカウントもするらしい。すみません、多分通常エンカウントしないの隣の
そんなことを話しながら階段を下ると、先程まで歩いていた通路と比べて格段に広い部屋へと到着した。どうにも四方に通路が続いてるようだが、敵の気配はない。
なんて、気を抜いた瞬間だった。ゾクリと背中に氷を入れられたかのような、嫌な予感がした。
「こっちに! あと松明仕舞ってください!」
「えっ?」
とりあえずこういう感覚には従っておいた方が吉なので、松明を仕舞い藜さんの手を引いて階段の裏側に身を隠す。何かメッセージを受信したみたいだけど無視し、聖水を2つ砕いてそのまま【潜伏】を発動させる。
「あの、何を?」
「すみません、少し静かに」
暗闇、密着、連れ込みと字面だけ見れば、自分の行動が完全にダンケダンケする犯罪者で笑いそうになる。けれど、そんな殺される案件の事をしでかした甲斐はあった事が、数秒後に判明した。
俺たちが隠れた階段の前方の通路、そこから音もなく空中を滑るように1体のモンスターが現れたのだ。
三脚を逆さにしたような三又に分かれた人の胴ほどの棒の中心に、金魚鉢を逆さにしたような悍ましい蒼をぼんやりと放つ物体が固定されている。そこに灯る黄色い1対の光はまるで人間の目のようで、先が三叉に分かれたしなる棒の下、胴体的な棒を中心に回転する、青白い生気を欠いた鬼火と相まって冒涜的な雰囲気を放っている。
「ひっ」
ここでボウケンシャーにSANチェックの時間……なんてお巫山戯は置いておいて、藜さんの視線を広げたコートで遮る。あんまり、見ていて気持ちのいいモノでもないしね。
そんなことを考えている間にも、回転しながら宙を滑る……【The heavenly will‐o'‐the‐wisp】というらしい……は、何かを探すようにその眼を其処彼処に向けている。俺たちを探しているのは確実だろう。あの姿だし、探知の方式は音か光のどちらかだろう。視界だったらファッ○ン。
ゴヴォ…?
一度、そんな粘度の強い液体が泡立つような音を立てて俺たちが隠れる階段裏を凝視したモンスターだったが、それからまもなく宙を滑り俺からみて右側の通路に消えていった。
右には行かない方が良さげだな。だってあの
「あ、あの、そろそろ手を……」
「あ、すみません」
【潜伏】に巻き込むためとはいえ、今までずっと握ってしまっていた手を急いで離す。なるほど嫌われましたね(確信)潔く首を出そうじゃないか。胡座はかいた、セルフ晩鐘の準備はできている。背中を押せ。
「何をして、るんですか?」
「いえ、非常時だったとは言え失礼なことをしたので、首を斬られる準備を」
「そんなこと、しません……けど?」
「え?」
首を傾げる藜さんに俺も疑問で返す。リスポン権を最低でも1つは消す覚悟をしていたのだけれど。
「誘ったのは私から、ですし、助けてもらいました、から」
「いや、その……はい。了解です」
錫杖を持ち直し、胡座から立ち上がる。釈然としない気持ちのまま《魔法の松明》を取り出そうとして、さっき自分で考えたことを思い出して中断した。
うん、こうやって話してても来てる感じはしないし、アレの探知方法は光っぽい。ぽいっぽい。
「ということは、この暗闇の中でか……」
「何が、です?」
そう頭の上に?を浮かべている藜さんを見て、結論をなんとなく自己完結しただけで話してなかったと気づく。視界を遮ったの、情報が分からなくなるから無駄な気遣いだったかもしれない。
「いえ、ちょっとさっきの奴がどうやって俺たちを探し当てたのかを考えてまして。こうして話してても寄ってくる気配がないので、多分光が原因だったんだろうなと思ったんですよ」
そこで一旦区切ったが、コクコクと頷いてくれるのを見て話を続けることにする。勿論、周囲の確認も同時に並行している。
「それで、光源がないままでも俺はなんとかできますけど、藜さんは大丈夫なのか少し心配になりまして」
あの鬼火が去ったことで完全に真っ暗になったここをみれば、夜目が利く程度じゃ限界があるのはありありと見て取れる。だからまあ、撤退するのも有りかと思ったのだけれど……
「ユキさんが見えるなら、大丈夫だと、思います。私も、少しは見えますし」
「本当に進んでも?」
くどいと言うかの如く、藜さんが小さく頷く。あんまり、頼ってもらえるような能力持ってないんだけどなぁ……俺。
「それじゃあ、ゆっくりと行きますか」
片手でマップを開き、錫杖をつきながら進んでいく。通常エンカウントが減ってくれるのは、戦闘を避けられるから正直とても嬉しかったりする。
そうして慎重に進むこと十数分。何度か行き止まりにぶつかったり、分かれ道を確認しながら進んだ先で、俺は再びあの嫌な気配に襲われた。気配の源は、今から進もうとしていたひらけた場所。【潜伏】して、こっそりと部屋を覗いてみればそこに奴はいた。
「部屋の真ん中に陣取って、動きそうもないですね」
「どう、します?」
「進む手は、あるっちゃありますけど……」
あの鬼火が光に反応して追いかける前提だから、正直なんとも言えない。普段ならとりあえず1回死んで確かめるところだけど、3回しか死ねないサバイバル中なので却下である。
なんてことを考えていると、再び背筋に走る嫌な予感。しかも後方から。あの鬼火F.O.Eは少なくとも巡回型のようだ。ふぁっき○。
「行くなら右と左、どっちがいいですか?」
前門の虎、後門にも虎。挟撃からの即hageルートまっしぐらな今の現状、勝手に俺1人で判断することはできない。鬼火の向こうに見える右ルートか、深い闇色の左ルートか、藜さんの意見を仰ぐことにする。
「右に、行ってみたい、です」
「了解です。後ろからも来てるので、一先ず全力で右ルートに行ってください。【隠蔽】ありなら、遅過ぎる俺でも多分間に合いますから」
頷いてくれたのを確認して、暗闇の中狙いを定める。後は壁が壊れやすい素材じゃないことを祈るのみ!
「《エンチャントライト》!」
ギリギリ見える左ルートの壁に、光属性の紋章を描く。光属性なだけあって輝く円の中に光と達筆で書かれた紋章は、予想通りあの鬼火の目を引き──
「きゃっ」
「行ってください!」
スッと移動した鬼火の胴体を中心に回る火の玉から、大きな青白い火球が連続で紋章に向かって放たれる。この閃光と轟音なら、俺は兎も角藜さんなら駆け抜けられる。
そんな推測通り、俺に歩調を合わせる必要のない藜さんはものの数秒でこのかなりの広さのホールを駆け抜けていった。俺も全力でダッシュしているけど、到底追いつけそうにない。
「って、うっそだろお前」
俺の遅過ぎる移動速度が仇となってか、部屋の中程まで俺が到達したときにもう1体……いや、2体が背後から現れた。しかも見事に俺をターゲットしている。
「《障壁》!」
4連続で放たれた火球を例の硬度だけを極限まで上げ他を低下させた障壁×4で防ぎ、ピンを抜いて《スタングレネード》を投擲する。鬼火達の前で閃光が生まれ、反響を重ねに重ねたキィンという高音が耳の機能を一時的に停止させた。
「《障壁》展開、《カース》!!」
このままでは間に合わないと判断して、エド式航法を解禁する。けれど、直前の《スタングレネード》の使用も相まって藜さんが進んでいった角に到達したときには、3体のターゲットは俺に向いてしまっていた。
そして、通路の突き当たりで藜さんが首を横に振っていた。行き止まりだ。だけど、正直どうしようもない。迫る鬼火は3体、道に貼ってきた障壁10枚も間も無く破れられるだろう。
「どーーまーーう?」
隣に着地した俺に、多分どうするかという旨の言葉が向けられたが、実際どうすれば良いのか皆目見当もつかない。これは無能。
「ほんと、どうしましょう?」
そう呟いて手をついた壁に、何か違和感を覚えた。見れば、そこにはビッチリとあの読めない文字が刻まれていた。天井、床、他の壁面には刻まれていないってことはきっと何か今がある。
「……隠し扉?」
戻ってきた聴覚に、ズズズと何か重いものが動く音が目の前から聞こえた。隠し扉関連の何かがキーワードになってるのだろうか? そして、背後の障壁が砕かれる音も同時に耳に届く。いよいよ時間がないようだ。スクショしてる暇じゃない。
「合言葉、ですかね?」
「ですかね」
できるだけ平静を装って答えながら、頭をフル回転させて有名な合言葉的サムシングをピックアップしていく。
「山、川?」
グルグルと頭を回転させ続ける俺の隣で、藜さんが呟いたその言葉に隠し扉は明確に反応した。文字が光り、壁が歪み、人が1人通れる程度の大穴が現出する。
互いに頷きあい、見えた鬼火の影から逃れるように俺たちはそこに侵入するのだった。
ー通知ー
新たな称号を取得しました
野生の感 New!
取得条件 : 目視外からの敵の接近をスキルを使わず察知し、その後その敵に一定時間発見されないこと
効果 : 気配感知系のスキルの効果にボーナス。潜伏系のスキルの効果にボーナス。スキル範囲外からの敵の接近が、なんとなくわかる事があるかもしれない(Luk依存)