幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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今回はギャグ回
イイネ?


閑話 運営の絶叫

 これは丁度、ユキが気絶した辺りの時間での出来事。

 プレイヤー達と同様に時間を加速して、働き詰めとなっている運営は、既に阿鼻叫喚の地獄となっていた。

 

「あぁぁああぁッ!! チーフ! 迷宮が、迷宮が蒸発しました!!!」

「森の前例があるから慌てるな! 落ち着いてキチガイを報酬取得空間に転移、その間に再構成しろ!」

 

 例えば……それは、キチガイ馬火力の魔法使い

 

「こっちでは、ボスのデュラハンの胴体と頭と馬と武器を、両手に大楯でお手玉してるキチガイが!」

「直接的な害はない! 放置しておけ!!」

 

 例えば……それは、キチガイ防御力のナイト希望者

 

「嫌がらせで構築したトラップゾーンが、カメラを持った全身黒タイツの変態に攻略されました! 気持ちの悪いダンスをしながら、カメラ目線で『他愛なし』とか煽ってきてます!!」

「それも実害は無しだ! どうせいつかは攻略される、そう思って諦めろ!」

 

 例えば……それは、キチガイ速度のカメラマン

 

「キチガイみたいな量の状態異常がばら撒かれて、ボスごとエリアが汚染されました! 腐ってやがる、早過ぎたんだ!」

「ふざけてる場合じゃないぞ! とっとと隔離して修復しろ!」

 

 例えば……それは、汚染した環境を我が物顔で闊歩する盗賊

 

「チーフ!! 私が頑張って設定したボスが、即死しました!! あの槍持ったきちがいが! 極振りがぁ!」

「よし、お前は30分程休憩を入れていい。交代要員は補充しておく!」

 

 例えば……それは、槍と魔法の狂戦士

 

 そう、運営が地獄絵図と化している原因の大半は、元極振り勢の大暴走が原因だった。上司は(極振りを相手にする)部下の気持ちが分からない…(ポロローン)至言である。

 

「はぁ!? うっそだろおい! 研究所が攻略されてやがる!?」

「冗談だろおい!? 簡単とは言え文字が読めなきゃ入れない隠し部屋多数、モンスターのステを強化する炉が12基、猟犬として単独撃破が不可なモンスターを群れで配置、無数のトラップ、一部は異界化もしてあるんだぞ!? その絶望をとっくり味わってもらうんじゃなかったのか!?」

「おいおまそれ死亡フラグ」

「それよりもだ。誰だ! 誰がやらかしやがった!」

 

 対応に追われながらも、他の職員も気になるのかその映像を見ようと身体を向ける。誰の目にもクマが浮かんでおり、一端のホラー映像として通用するまである絵面だ。

 

「映像、出ました!」

 

 男の研究員がキーボードを弄ると、モニターに映像が映し出された。

 SAN値を削りそうな宙に浮かぶ生物と、それに対峙する小さな女の子とそこまで目立つ特徴のない男子のパーティが映し出される。

 

 ま た 極 振 り か !

 

 その時、運営の心が1つになった。

 

「いや、ちょっと待て? ユキは確か幸運担当だぞ? いくらなんでも火力が足りる訳がない」

「銀閃と一緒なら分からんでもないが、見た所ただのプレイヤーだぞ!?」

「当時の記録、再生します!」

 

 そんな中、比較的冷静な職員Dくらいの奴がボス戦の映像を再生した。そして始まった瞬間、この場にいる誰もが度肝を抜かれた。

 

「まともに攻略してる……だとぉ!? バイクは兎も角として」

「【潜伏】して手を繋いで効果を共有して、偶然隠し部屋を見つけて……主人公か! バイクは兎も角として」

 

 ユキが行なっていたのは、案外普通の攻略。他の極振り(キチガイ)共に比べたら、あまりにも普通であった。

 だがしかし、ボス戦の映像になった時にその評価は一変した。

 

「ハッハッハッ、こりゃ一本取られた」

 

 映し出された映像がホワイトアウトし、気がついた時にはボスの膨大なHPは既に半分にまで落ち込んでいた。

 

「いやそうじゃないでしょうチーフ!! 誰ですかあんなに爆弾を持ち込むのを許した馬鹿は!」

「私だ」

「お前だったのか」

「暇を持て余した」

「運営の」

「「遊b「いいからお前らは修正を早くやれ!!」イエッサー!」

 

 誰もが元極振り勢(愛すべき馬鹿共)の対応に追われる中、問題しかないシーンが流れていく。

 

「元々火力が出しやすいレイスタブが、サポートを受けてダメが4倍になってやがる……こりゃダメだわ」

「そうだな、40くらいはレベル差があるのにこのダメージはあり得ない」

 

 だが、誰もが口に出さない事があった。まだ映像は中盤、しかしその時点で十二分に理解できる異常点が1つだけある。

 

「なあお前ら、1つだけいいか…?」

「なんだ?」

「ユキって、あれもう人じゃなくて高性能AIって事でいいよな? なんだよあの動き、反射神経、あははは」

「おい待て! それ以上はマズイ! ちっ、コイツ目が逝ってやがる! 誰か精神分析、誰でもいいからこいつを助けてやってくれ!」

 

 目をグルグル回転させながら倒れた職員を、筋肉モリモリのマッチョマンな職員が介抱しようとする。が、逆効果だった様で、された側が強制ログアウトで天に召されていった。

 そんな地獄の中、チーフが頷いて呟く。

 

「今まで俺たちは、極振りの奴らは総員頭がおかしいと認識していたが、甘かったらしい」

「一体どうやったら展開時間1秒、直径20cmの障壁なんかで戦闘が維持できるの? 今日は厄日だわ!」

「説明書を読んだんだろうよ……きっと」

 

 映像では、障壁と呼んでいいかも分からない小さな何かが、至る所で僅かに姿を見せては消えていく光景が映し出されていた。しかも展開される度に、何かを弾いて前衛を完璧に防御しているのだから訳がわからない。

 

「特異なスキルって、ユキの構成にはないよな?」

「ふえぇ…はんようすきるがおおいんだよぅ…」

「んんwww汎用なんてあり得ないwww時代は特化した極振りですぞwww」

「要するに、ピーキーな物が多いだけでバランスブレイクはしてません。他の極振りと比べても、やけに爆弾を使う以外の特徴も被害もありません」

「ということは、アレが、素の能力って事か?」

 

(いや、絶対【空間認識能力】が原因だろ…)

 

 運営の空間に、静寂が満ちた。数名こうなった心当たりがついた者はいたが、正直手が離せないので口を開くこともない。

 けれどそんな静寂も、件のユキがバッタリ倒れた事で大騒ぎに変貌する。

 

「やっぱり無茶だったんだ。急いでユキの脳波調べろ! 異常があった場合救急車を呼んで手厚く保護だ!」

「ち、チーフ……これ見てください…」

 

 そういう女性職員の手元には、みょんみょんと動く謎の波形データが存在していた。半霊ではない。更に残念ながら、チーフには何が何だか分からない。

 

「これは……どういう事だ?」

「非常に言いづらい事なのですが………熟睡しています」

 

 ズコッと伝統芸の様に誰もが滑った。身体的に何か悪影響があったのかと思っていたら、ただ気持ちよく寝ているとか肩透かしも甚だしい。なんの不自然さもなかった。

 再び静寂に包まれる運営ルーム。けれどその平和をぶち破ったのは、またしても馬鹿どもが原因だった。

 

「極振りの短剣が、不快感しか感じない様に設定した空間を抜け、取れない様にしていたレアアイテムを奪取しました!」

「ファッ!?」

「チーフ! こちらも異常です!! 拳の極振りが、空中でボスの飛行系モンスターとドッグファイトしています。ですが、どちらも女なので実はキャットファイトでもあります!」

「ファッ!?」

「チィィィィフ!! 通常サーバーの方で、市場が崩壊しそうです! 下手人は極振りです!!」

「ファッ!?」

「チッフー! 海が割られました!! 下手人は片手剣の極振りです!!」

「ファッ!?」

「リーダー! バイクの変態共が編隊を組んで変態的に砂漠地方を均してロードローラーが変態です!!」

 

 チーフ!チーフ!チーフ!チーフ!チッフー!チーフ!と、今まで頑張りすぎていた事が災いし、チーフを呼ぶ声は止まらない。

 

「ふ、くくっ、くはははは!!」

「どうしたんですかチーフ! 早く指示(オーダー)を下さい!」

「ぼくもうわかんにゃい。ざんこくなことだ!!」

 

 チーフの姿が煙に包まれ、ブカブカの今まで来ていた服を纏った可愛らしいショタへと変化する。ガッデム、チーフは逃げたのだ。チーフは自分にのしかかるあまりの重圧に耐えかね、精神を退行させることによっては心を守ったのだ!! 職業としては大失態だろうが知ったことかと言う覚悟を感じる。

 

「ヒャッハー! ショタだ! 新鮮なショタだ!」

「ウホッ、いい身体してんねぇ!」

「かーわーいーいー!!」

「お姉さんと良いことしない?」

「ヒィッ」

 

 だがなんということか。退行した精神では、こんなカオスワールドに耐えられる筈もない。新鮮なネタを投下されて馬鹿騒ぎする女性から、ショタチーフは逃げ出した。おおブッダよ、あなたは今も寝ているのですか!?

 

「うわぁぁん、おうちかえるぅぅ!!」

「逃すか! お前ら、ジェットストリームアタックをかけるぞ!」

「ラジャ!」

「捕まえたらprprhshsし放題だぜおらー!!」

 

 睡眠なしでの労働とは、かくも人を狂わせる。

 運営ルームに残された男の職員は、だいたいそんな事を考えていた。

 

「なあ、そう言えばなんだが。研究所の報酬授与システム、確か幸運で決めるんじゃなかったか?」

「そうだな……総取りか」

 

 はぁ……と溜め息が小さく響く。

 

「なあ、俺らはどうすれば良いんだろうな?」

「バグとか対応して、後上に連絡して補充要員回してもらおうぜ……」

「そうだな……それまでは可愛いプレイヤーでも見て癒されてようぜ」

 

 男性陣も大概な模様だった。

 

「じゃあ俺リシテアくんちゃんで」

「体育会系男の娘か……良いセンスしてるじゃないか」

「じゃあ俺はつららちゃんで」

「苦労人系お姉さんか……中々良いじゃないか」

「じゃあ俺はれーちy」

 

 瞬間、ズドンという鈍い音が響き職員Cの額に大きな穴が空いた。ゲーム内じゃなかったら即死である。運営とてプレイヤーの一部……HPがあり、死ぬこともあるのだ。他のプレイヤーや、モンスターの攻撃で。

 

「誰だ! 誰がこんな事を!」

 

 そう騒ぐ職員の手をとって、額に大きな穴が空けられた職員は最後の力を振り絞って伝える。

 

「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ! だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

「サタデーナイトフィーバーじゃねえかこの野郎!」

 

 満足気な表情でログアウトしていく額に大穴が空いた職員。立派な敵前逃亡である。恐らく次回ログイン時には、筋肉の海に揉まれる地獄に送り込まれる事が今ここに確定した。

 

 これから人員が戻ってくるまでの数十分、この男の職員2人が延々と職場を回していたことは言うまでもない。

 

 これは、舞台裏の物語。本筋ではなく、きっと明かされることもない他愛もない馬鹿話。誰も知る事のない、大いなるイベントの裏話だ。




……何書いてんだ私

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