ユキ 残機-1
意識が接続される謎の感覚を感じ、意識が急激に覚醒していく。今回は、膝枕してもらってた時の様に安心して気絶していられないのだ。そう認識し、無理矢理眠気を吹き飛ばす。
「えぇ…?」
そう思い目を開けた俺の視界に映ったのは、あり得べからざる光景だった。殆ど黒と言って問題ない濃紺の空に浮かぶ、まるで皆既日食でもしてるかの様な真っ黒な太陽。そのお陰か、暗いのにある程度見通せる闇に世界は包まれている。そして何処からか花のような甘い香りが……んん?
「ん……」
視線を下げれば、大の字に転がる俺の上に覆い被さるように、ぐったりとしている藜さんの姿があった。そしてそのHP表示は、今俺が動いてから急速に減少を始めた。更にバーの近くには5つの状態異常のアイコンが──ってマズイじゃん。
慌てて起き上がってみたけれど、俺には誰かの状態異常を回復する手段があるにはあるけど、どうせ環境依存の状態異常だから1回回復させてもすぐに元に戻る事になる。それじゃあ意味がない。
「なら、半分賭けだけどやるしかないか」
『全天候ダメージ無効』と『全環境適応』の効果を持つコートを装備解除し藜さんに掛け、ボスドロップのコートを装備する。これにも一応『環境適応(闇)』なるスキルが……って、今はそんな場合じゃないんだった。
「【ドリームキャッチャー】」
引き受けた状態異常の名称は、腐食・獄毒・祟り・汚染。装備効果のお陰ですぐに点滅して消えたけれど、確実にこちらを殺しに来ていてもう笑うしかない。状態異常がまた付く様子はなし。心なしか寝顔が安らかになった気もするし、一安心と言ったところか。
「いやいや、そうじゃないだろう俺」
周囲を確認しても、そこに見えるのは何もない不毛の大地。地面が薄い紫色に染まってる事しか特色はない。長居するにはよろしくないのは明らかだ。それに、
「どうにかしないといけないとはいえ、寝ている女の子にどうこうするのは限りなく犯罪者に近い何かだし……」
今俺にも点灯している空腹の状態異常は、何かを食べない限り消える事はない。先程装備をいじる為に開いたメニューで見た時間は朝の7時で、昨日物理的(?)に落ちた時間が8時前。大体半日食べ物を口にしないと、状態異常になる様だ。
だからと言って揺すっても起きる気配がないし、某もののけの姫みたいに食べさせるなんて以ての外だ。水も同様。それにいつまでも膝を枕として提供してても、男の膝枕とかゴツゴツしてるだけでアレだし。
「バイクの回復、か」
やれる事は、藜さんが目を覚ますまで探索準備をしながら待機が最善だと思う。サイドカーなら、多少は寝心地もマシだろうし。その間にバイクの耐久値を回復させて、ご飯の用意をして、周囲の確認をして、藜さんが起きるのを待てばいい。こういうのなんて言うんだっけ? ただの働きすぎか。
そんな考えを断ち切りサイドカー付きバイクを取り出し、どうせ寝てるんだしとお姫様抱っこで藜さんを持ち上げる。セナなら猫的な持ち方も考えたけど、流石にね。
なんて気を抜いたのが間違いだった。
いやぁ、こんな丁度いいタイミングで目が覚めるなんて普通思わないよネ!
そのまま無言で見つめ合うこと数秒、補助をかけてなかった俺の腕に限界がきた。ポーカーフェイスは崩さないし口が裂けても言わないけれど、超重い。無理、もうダメ腕が死ぬ。伊達に
今更バフをかけるのも情けないし、死力を振り絞ってシートにご案内する。ふぅ、下手なボス戦より疲れた。
「えっと、今のは……」
「忘れて……いえ、やっぱりあまり気にしないでください」
目を逸らしながら俺は言う。忘れて下さいだと失礼だから、ちょっと下げて妥協点にしておく。
「それよりもご飯食べましょうご飯。状態異常付いちゃってますし、折角パンも手に入ったんですから!」
全力で話題を切り替えにかかる。これでも一応思春期なんだから、恥ずかしいし照れるのだ。普段のプレイスタイルがキチってるのには目を瞑って貰おうか。
「です、かね?」
物凄く不満気な雰囲気だが、納得はしてくれたらしい。
諸々の事は、まずご飯を食べてから考えようそうしよう。場所的に、物凄く不味そうだけどね!
◇
「それで、ここはどこ、なんでしょう?」
「俺も目が覚めた時間は大差ないので、正直何が何やら……」
昨日の昼ご飯より格段に良くなった朝ご飯を食べ終わり、現状の確認へと移る。とは言ったものの、“何もわからない”が今出せる答えの全てだ。
今までは繋がってたイベント内ネットにも繋がらないし、見渡しても何もない以上地平線までは何も無いことになる。幸いにもモンスターは出てこないけれど、5kmくらいは移動しないとどうしようもない訳で。
「すぐにバイクで移動できれば良かったんですけどね……時間取らせちゃってすみません。それに、そのコート火薬臭いでしょう? 状態異常的な問題とはいえ、ほんとすみません」
「別に、気になりません、よ?」
そう言ってブカブカのコートを着た藜さんが袖の臭いを嗅いでるけど、いやほんと何でこうなってるんでしょうね? 食事中にコートを脱いで状態異常に襲われるアクシデント以降こうだけど、羽織ってるだけで効果はあるっぽいのに何で着てるんでしょうねぇ!?
頭の中の大混乱をダストシュートしながら、65%という縛りの中バイクの耐久値回復を進めていく。即席の盾として使ったせいで、下手したら壊れてロストしかねないのだ。いや、文句を言うべきは、このキチバイクの耐久値を14,000程削る即死技を撃ってきたボスか。
「今、どれくらい、ですか?」
「漸く7,000超えた辺りですね。せめて10,000ないと、何かの拍子に大破しそうで……ほんとすみません」
回復率は5分で650ジャスト、偶にクリティカルな感じで1,300。後20分くらいは欲しいのが現実だ。本職のプレイヤーならもっと上手くやるんだろうけど、器用貧乏の俺にはこれが限度である。そこらの地面を爆破したら高速修復材とか湧いてこないだろうか? 無理ですね知ってた。
「そういえば、ユキさんって普段、何してるんですか?」
「普段って言うと、ゲーム内でですかね?」
そして、そんな時間無言なんて事はあり得ず、必然的に会話が始まる。苦じゃないし、俺としても無言とかは辛いから文句は一切ない。
「そうですね……ギルドで駄弁ったり、ギルドの誰かと狩りに言ってますね。あまり大きくないギルドなので、みんな仲が良くて楽しいです」
まあ、俺は1番雑魚なんですけどね。前衛を巻き込む攻撃手段しか持ってなくて、敵の数が2体を超えると抑えきれなくなる後衛とか草も生えない。まあ、それでも楽しくやっていけてるんだけどね。
なお、廃人基準での「あんまり張り付かない」は2度と信用しない事をここに記しておく。ここってどこだし。
「へぇ……それじゃあ、何で、極振りを選んだんです、か?」
「俺を一緒にやろうって誘ってくれた幼馴染が、なんというかまあガチ勢でして。隣に並べない分、目一杯楽しみたくてですね」
キチバイクのお陰で多少はマシになったとは言え、うちのギルドのみんなに混じってバトルが出来るなんて思えない。今は楽しむ事より生存を優先してるけれど、出来ることならもっとふざけて楽しみたい。
「なら、最後に。ユキさんは、誰か好きな人って、いるんです、か?」
その質問は、微妙にゴチャゴチャしている俺の心を抉るようで。どうしようもなく、心に突き刺さった。
「Likeの方ならまあ、沢山。でも惚れた腫れたとなると、正直何とも言えません」
「どうして、です?」
「明らかに好意を寄せてくれる人がいるんですけど、どうしていいのか分からないんですよね……立場が特殊なせいで、微妙にそういう目で見きれないというかなんというか。ヘタレって言われたらそれまでですけど」
言ってからなんだけど、あまり喋るのに適切な内容じゃなかった気しかしない。あ、修理がクリった。改めて顔を向けると、藜さんはなんとも言えない表情をしていた。
「俺だけ聞かれるのもアレなんで聞きますけど、藜はどこかギルドに入ってたり?」
「イベントの時だけ、短期で。強いところの、ノルマみたいなのが、合わなくて」
成る程と納得しつつ、自分の知る限りのギルドにノルマなんてものがあったか考えてみる。うちのギルドはなし、極天もなし、モトラッドもなかった筈だ。ショタっ子もとい、イオ君のところもないと聞いた。まあ、9割変人のイベントTOP3ギルドと中堅ギルドを同列視はいけないのかもしれないけど。
「ノルマって、レベルとか素材とかです?」
「後は、Dを取るところも、ありました」
「ビックリする程クズ」
「でも、ソロでも、十分楽しいです」
とりあえず、そのギルドの上層部は見かけたら爆破しよう。おっと爆弾が滑った作戦でいけるだろう。ギルドは出来れば誘いたいけど、俺に決定権がない上に本人がソロでもいいと言うなら何も言えない。
「でもここまで一緒にいるのも何かの縁でしょうし、もしギルド毎の参加したいのがあれば相談に乗りますよ。確かフレンドなら連絡出来ましたよね?」
「いいん、ですか?」
「ええ」
精一杯の笑顔で俺は答える。一応伝手があるには越したことはないしね。こうして、漸く藜さんとフレンドになったのだった。
そんなこんな話しながら過ごしている内に、2回目のクリティカルで耐久値が10,000の大台に届いた。なんとも都合がよろしいようで。
「とまあこんなところで。バイクも直りましたし、行くとしますか」
「了解、です!」
時間のロスは痛いので修理はもう切り上げ、単車の方に乗り込む。その後藜さんがサイドカーに乗り込んだのを確認し、バイクを発進させる。
微速から半速、半速から原速、そして強速へ。段々加速していきアクセルは全開に。速度の数え方が船舶とかいうツッコミは置いておいてもらおうか。こっちの方がなんかカッコいいじゃん!
「どうにか脱出、出来たらいいなぁ……」
この暗い世界を爆走しながら呟いた俺の言葉は、風に溶けて消えていくのだった。
入った瞬間から最上位の毒をくらいHPが減り
腐食のせいで装備品の耐久値が、使う度にアホみたいに減り(装備してるだけなら問題なし)
祟りで状態異常耐性が極振りレベルまで下げられ
汚染の効果で状態異常の効果が倍加する
なんというクソフィールド
-追記-
※主人公は、運良く同行者に自分の装備の効果を発揮させられただけであって、常人がやった場合基本成功しません。Lukは今日も地味に働いてます。