幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第33話 第2回イベント3日目②

 全速でバイクを走らせる事小一時間、漸く地平線の辺りに巨大なものが見えてきた。土や岩などはちゃっかり回収している。

 

「大量の鳥居に、空から生える木か……」

「嫌な、感じがします」

 

 太い物以外枝のない禍々しい巨木が天から生え、その枝を封じるかの様に大量の鳥居が刺さっている。なんだか色々混じり過ぎて判別つかないけど、良くないものって感じはする。登って行ければ地上に出られる気がするが、強引な突破は得策じゃないだろう。

 

「あらあら、ようこそおいでなさいませ。我が領域、日の届かない常闇の国へ」

 

 現にこうして、気配はボスな上に言語を解するなんて明らかに強キャラと対面しているのだから。突然バイクの前に出現したこのNPCと思われる女性のせいで、やむなく停止を余儀なくされている。

 

 対面してるのに名前の表示は????。背丈は大体俺と同等、長い黒髪と整った容姿。茶色を含んだ濃い緑がベースになった和服に血の様な赤い帯を締め、簪を刺し煙管を手に持っている。けれどその気配はギリギリ倒した【The Shield criminal】が雑魚に思えるほど強大で、敵対したら死しかあり得ないだろう。

 

 藜さんに合図して揃ってバイクから降り、無駄かもしれないけれど単車状態に戻す。保険は出来るだけ掛けておくべきだ。

 

「あら、そんなに警戒しなくても良いのよ? まだ、妾は何もする気はないのだから」

「へえ、『まだ』ですか」

 

 微笑む奴に対して、俺も適当に笑顔で答える。これは選択肢を間違えたら即BADエンドになる気配しかしない。けれどそれは、好感度的な何かが悪くない間は対話が成立するという事でもある。

 

「それで、貴女の事はなんと呼べばいいですか?」

「姫でもお姫様でも、なんでもいいわ」

 

 まだ機嫌は良さそうだ。即座に何かをされる事はないだろう。そう綱渡りな交渉擬きをしようとしたところで、藜さんが爆弾(比喩)を投げ込んだ。

 

「我が領域って事は、姫様は、ここから出る方法を、知ってるん、ですか?」

「ええ、勿論よ。彼処に大量の鳥居に封じられた木があるでしょう? あそこを登れば無事に地上に出られるわ」

 

 自称姫様の口が悪辣に歪む。はい交渉タイム終了、逃走に頭の中をシフトする。まあ、あと1回くらいは質問できるだろうけど。グダグダ交渉擬きをするよりはこっちの方が早いし、まあいいとするか!

 開き直る俺を揶揄う様な目で見ながら、自称姫はいやらしい笑みを浮かべたまま話を続ける。

 

「勿論、何も条件がないとは言わないけれどね?」

「その、条件って?」

 

 藜さんが質問を投げ返した。けれどその答えは、俺の予想が当たっていればきっと──

 

「「貴方達(俺たち)の内どちらか1人を、我が領域(ここ)に置いていくこと」」

「え?」

 

 目の前の自称姫様と俺の言葉が重なった事に、びっくりした様に藜さんが長めの髪を揺らして振り返る。

 

 蓬莱の玉の枝と桜の枝が日本。トネリコの枝とヤドリギの枝で北欧。杉は……ウルクとかだろうか? 地下に落ちた事とそれらの共通点、そして先程の日の届かないという言葉と数々の状態異常を考えるに、ここが死後の国をイメージしてるのは容易に想像がつく。

 そんな場所からの2人での脱出といえば、片方が代償だと想像するのは余裕のよっちゃんだ。うろ覚えだけど、オルフェウスとかイザナギとかそんな話だった気がするし。サブカルに漬かった日本人を舐めるでないわぁ!

 

「妾、貴方の様な勘のいい人間は、嫌いだわ」

「《障壁》!」

 

 自称姫が手を振り、その後に続く様に足元から巨大な骨がこちらを目指して突き出された。爪の生えた3指それぞれに10枚障壁を展開し、どうにか初撃は防ぎきった。

 

「逃げますよ!」

「はい!」

 

 近くに置いたままのバイクに乗り込み急発進。置き土産として《スタングレネード》を4つ投げ捨てていく。ウィリー状態になってしまっているが、藜さんは振り落とされていない。これなら問題なく使える。

 ウィリーが終わり前輪が地面を掴み、アクセルはフルスロットルのままなのでエンジンが爆音を鳴らして莫大な加速を齎す。背後ではグレネードの炸裂音が響き、自称姫の叫びが爆音混じりに耳に届いた。ああ、やっぱり爆弾は素晴らしい!

 

「逃さないわぁ!』

 

 そんな妙に反響した声の号令によって、有りとあらゆる地面からゾンビや白骨や人以外のそれらが、さながらコミケに来たファンの様に無尽蔵に湧き出てくる。なるほど。姫は姫でも、オタサーの姫だったワケダ。

 そんな俺の思考が読み取られたのか、背後から漆黒のビームが連続で照射されてきた。無論全部躱したが。

 

「あははは! たーのしー!」

「笑ってる場合じゃ、ない、です!」

 

 久々の爆弾ブッパのせいかテンションがMAXになっていたが、確かにこのペースでモンスターをポップさせられ続けたら逃げ切れない。何か良い手はないだろうか。

 

『死霊共よ!』

「「「◼︎◼︎◼︎◼︎ッ!!」」」

「《エンチャントライト》!」

 

 実体のないスペクターと呼ばれる類の幽霊の壁を光属性を付与したバイクで突き抜け、背後から照射された闇色の光線を体を倒してカーブし避ける。その軌道のままゾンビを轢殺し、射かけられた矢を障壁で防いだ時にそれは起こった。ピロンという聞き慣れた受信音。開いたままのマップの上部に出現したメッセージは、愛用する《紋章術》の機能が解放されたというものだった。

 

 本来ならすぐに確認したい物だが、一先ずそれは置いておく。回避と操縦と防御を並行してる今、読む余裕なんて欠片も存在しない。周りを見ても見えるのは敵敵敵敵、骨やらゾンビやらが壁になって迫って来ているのだ。

 しかもこれ、今完璧に包囲された。ちょっとでも思考を逸らして、位置取りを間違えたのか誘導されたのだろう。これは圧殺される感じですわ。やられる気はさらさらないけどね!

 

「足下の鞄の蓋、開けてください!」

「はい!」

 

 後部の簡易ポーチが開かれたのを確認し、バイクを思いっきりターンさせ予備燃料をばら撒く。全方位に飛び出した赤いタンクに入った燃料群は、モンスターの壁にぶつかり中身を四散させた。それに、使わず放置してた『魔法の松明』を投げつけ着火する。

 

「せーの!」

 

 炎上する壁を障壁を使って大ジャンプし、おまけとして爆竹の雨を降らしながら乗り越える。

 着地の衝撃で体を持っていかれそうになりながら背後を見ると、初めてやった手段だったが存外効果は高かった様だ。火を恐れてか、モンスター達の動きがかなり鈍くなっている。もしかしたら、火というか光がダメなモンスター群なのかもしれない。あ、それなら。

 

「ユキさん、あの、指輪を!」

「了解です!」

 

 藜さんも恐らく同じ考えに辿り着いた様だ。防御に回す意識をアイテム操作に振り分け、『太陽の指輪』を取り出し藜さんに手渡す。

 そして折角できた隙なので、運転しながら新しく解放された紋章術の機能を流し読みする。表示されたアシスト画面を斜め読みし、最後のチュートリアルも時間短縮の為スキップ。新しく解放された機能の名前は《紋章創造》、既存の紋章をベースにしたり全くの新規でオリジナルの紋章を作れるらしい。今は無理ですはい。

 

 この間に経った時間は10秒程度だが、前方に魔物が再召喚され始めたため考えを中断し……降り注いだ日光がそれらを焼き払った。日光が射す元は、暗いこの空の中突如現れた晴天。バイクを中心に結構な範囲に現出した、雲1つない快晴の空だった。

 

「どう、です?」

「最高ッ!」

 

 こんな現実的にもシステム的にも狂った現象の原因は、俺が藜さんから譲り受け、今は渡してある指輪に他ならない。

 塗り替えられた晴天から降り注ぐ日光にはゾンビが近寄って来ず、幽霊は姿を溶かし、骨のゾンビは遠巻きから攻撃をしてくるだけ。そんな今までと比べ格段に行動しやすい状況の中、アクセルを吹かし晴天を引き連れて爆走する。

 

『オノレ……小癪ナァ!』

 

 けれど、流石にオタサーの姫は止まらないらしい。矢を回避がてら振り返れば、そこには半分ほど身体を溶解させながらも四足歩行でこちらに迫るあのボスの姿があった。カサカサドロドロしていて、着火されたゴキブリの姿を幻視する。

 

「それなら!」

 

 迷宮では使うことのなかった《対戦車地雷》を5つ投下する。地を這う敵ならこの手に限る(この手しか知りません)

 

『アァアアァァァッ!!』

 

 背後から轟く爆音に身を震わせつつ、どこかへ飛んでいきそうな意識を抱きつく藜さんが引き戻す。なんて完璧なチームワー……頭を冷やそう、今のは俺がどうかしてた。

 

「MPは?」

「長くは、保たない、です。10分くらい!」

 

 一旦気持ちを落ち着けて、冷静に状況を考える。

 恐らくまともなゴールであろうあの逆さ大樹に辿り着くまで、キチバイクの全速力を以ってしても最低30分。燃料は十分あるが、妨害される以上それより長く見積もる必要があるだろう。藜さんのMPが途中で切れる以上危険は大で、敵の数は無尽蔵な上行動は未知数。爆弾の残量は微妙で、活路を切り開くには足りない。よって、この場を打開するに足る残りの手段は……

 

「ニトロチャージャーと、その後の惰性航行」

 

 ニトロでの加速は、別に時間が切れたら即座に減速する様なものではない。ブレーキ無しなら効果時間後大体10秒ほどかけて、最高速から段々と減速するものだ。ならば、減速中に更に加速をブチ込めれば速度は保てる。そしてこんな意味不明な理屈を罷り通らせる方法を、1つだけ俺は知っている。

 

『オノレ、オノレオノレオノレェ! 逃サヌゾ生者風情ガァ!』

 

 後方から飛んできたヘドロや骨の塊、ゾンビやビームを無茶苦茶な操縦と障壁でどうにか回避する。そう、知ってはいても実行出来ないのだ。止まったら追いつかれて負け、意識を別に集中すれば被弾してバイクが壊れて負け、避けたり防ぎ損ねて掠っても横転事故で負け。どうしろと。やっぱりもっと爆弾は持ってくるべきだったと、遅すぎる後悔が頭をよぎる。誰かタクヌークを下さい。

 

「ユキさん、どう、します?」

 

 要は《紋章術》で1、2秒程度でいいから200%くらいまで加速する物を作れれば解決なのだ。消費MPが低いに越したことはないが、まあ俺が【生命転換】で無理矢理供給し続ければその問題は無視できる。問題はそれを作る余裕が無いということで……待てよ?

 

「藜って、手先が器用だったりします?」

「? 多分、人並みには」

 

 それなら、ちょっと環境は悪すぎるけど出来ない事もないかもしれない。まあ、流石に俺と同じ効率を他人に求めるのはおかしいって理解してるし、10分は余裕で待てるから問題なしと判断する。

 先程のメッセージを再度開き、ウィンドウを後ろ手で藜さんの目の前まで移動させる。

 

「なら、ちょっと頼み事があるんですけど、いいですか?」

「なん、でしょう?」

「この状況を打開する為の、切り札を作って貰おうと思って」

 

 そう言って俺は、1つの賭けに出た。

 ちょっと考えれば、俺のステータスとか全部見れるのに気づくだろうし。藜さんはそんな事をしないと見込んでの事だけど、若干の不安はある。要望は伝えて、作ってくれるのを待つしかない。

 このやり取りをしてる間も攻撃が止む事はなく、未だに逆さ大樹は彼方にある。B級パニック映画ばりのカーチェイスは、未だ終わらない。

 




和平とか交渉タイムは爆破されました。
強制的な戦闘タイム。

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