幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第36話 第2回イベント4日目①

 ユサユサと、寝ている身体が揺さぶられる感覚を覚えた。確か昨日はシドさんのとこのギルドに甘えさせてもらって、そのまま疲れてたから寝て……ああ、確かセナにメッセージを送ったんだったっけ。

 

「ごめんセナ……あと五分」

「ユキさん、起きて、ください」

 

 寝ぼけ頭で答えた俺に、いつもの様な返答(物理)は返ってこなかった。疑問に思って目を開けると、そこにいたのはセナではなく藜さんだった。その顔は、どことなく不機嫌そうに見える。

 

「ふわ…おはようございます」

「おはよう、ございます。それで、その、セナって子、誰ですか?」

「前に言った幼馴染ですね……偶に居眠りしてると物理で起こしてくれたり、なんだかんだ付き合い長いです」

 

 大欠伸をしながら、俺は答える。というか今は何時なんだろうか? メニューを開いて確認すると、時計は0:02を示していた。どうにも半日ほど寝ていたらしい。

 

「女の子、ですか?」

「女の子ですね」

 

 むっと明らかに藜さんの雰囲気が悪くなる。俺、変なことでも口走ったか? いやまあ、それは保留だ。

 

「そういえば、なんでこの時間に?」

「ギルドの人が、『ご飯を持って行ってあげて』と、言ってたので。多分、絶対喜ぶからって。なんで、ですかね?」

「さあ…?」

 

 適当に誤魔化したけど、明らかに支部の人達俺たちの関係誤解してるよな……言い逃れできないのも確かではあるが。多分絶対って、ちょっと考えてみたら物凄く矛盾してるんですが。

 とりあえず綺麗なサンドイッチを受け取り、ベッドの上に置いておく。食べながら話すなんて、行儀が悪すぎるからね。

 

「後、コートを返すのと、シドさん? が、準備が出来たら来る様にって、言ってました」

「マジですか……」

「マジ、です」

 

 丁寧に畳まれたコートを受け取り、話が一段落ついた気配を感じたのでサンドイッチに手を伸ばす。いただきますと手を合わせてから、いざ食べようと思った時に気がついた。

 

「えっと、藜はなんで隣に?」

「ダメ、ですか?」

「ダメじゃないですけど……」

 

 そんな聞き方されたら断れない定期。冗談は置いておいて、ベッドの隣に腰掛けられると普通に緊張する。何故かこっちをジッと見てるし。絶賛思春期中の高校生に、ちょっとこれは刺激が強すぎませんかねぇ?

 あ、このサンドイッチ普通に美味しい。ここ数日、単純に焼いた肉とパンと野菜だけだったから、宝物庫で拾った限られた範囲じゃない、多様な調味料の味が素晴らしいと思えてくる。

 

「どう、ですか?」

「えっと、凄く美味しいですよ?」

「やった」

 

 そんな言葉が小声ではあったが聞こえた。そしてパッと見分からない程度ではあるが、藜さんがガッツポーズをしてるのを確認できた。なんで分かるのか? 空間認識能力パイセンだよ。ここ数日、目を覚ましたら即座にスキルを全部再起動してるからね。周囲の事くらいは余裕を持って認識できる。

 

 態々表沙汰にする事ではないので、知らなかった事にして恐らく藜さん手作りであったサンドイッチを完食する。誰かと一緒にじゃなくて、誰かに見られながら食べるのってなんか凄く緊張した。

 

「ごちそうさまでしたっと」

 

 おきまりの文句を告げて、遅すぎる晩御飯を終える。よく視れば藜さんも、結構眠たそうにしている。

 

「くぅ……」

 

 というか寝ていた。俺にもたれかかり、コツンと頭が寄せられている。軽く頭を撫でてみるけど起きる気配はないし、藜さんは本当に無防備だ。

 

「普通なら、何されても文句言えませんからね?」

 

 俺じゃなきゃ、絶対に襲われてるだろう。サラサラとした髪、風呂のお陰か香る良い匂い、完全に無防備な寝顔。全く、俺じゃなきゃ襲うわこんなん。大事なことなので二回考えた。

 心の中で深く溜め息を吐き、藜さんをベッドに寝かせる。掛け布団も掛けておこう。

 

「それじゃあ、シドさんに会いに行きますかね」

 

 俺に出来るのはこれくらいだ。部屋のドアを閉め、適当にこの施設内をぶらつきながらシドさんを探す。あの人が俺を呼ぶとしたら……やっぱりバイクか?

 

「すみません、バイク置いてある場所ってわかりますか?」

「向こうですー!」

 

 近くにいた人に聞き、格納庫というらしい場所に進んでいく。数十分かけ漸く辿り着いた格納庫では、仁王立ちしたシドさんが待っていた。

 

「随分遅かったな」

「行き先を聞く前に、藜さんが寝ちゃいまして。後、Agl0を舐めないでください」

「お前は、そう言えばそうだったな……」

 

 頭に手を当てたシドさんが大きな溜め息を吐く。まったく、現在の俺の速度はシステム上の最低値なんだからな。加速を使わない限り、まともな速度を出せるわけがないのだ。

 

「それで、話があったそうですけどなんでしょうか? ここの使用料って言うなら、今すぐ藜さんの分まで払いますけど?」

「ああ、それは本題じゃないんだが……まあこっちが先でいいか。2人分で、合計10,000Dだ」

「どーぞ」

 

 とりあえず勝手に藜さんの分まで、料金を払っておく。今まで散々お世話になったからね。

 

「それで、本題だ。勿論、直してたバイクについての話だ」

「あー、確かに耐久度をアホみたいに減らしちゃいましたけど……それですか? 代金嵩みます?」

「そっちは50,000Dだ──って、そうじゃない。はぁ……お前と話してると、無駄にペースを乱されるな」

 

 一際大きな溜め息を入れてから、シドさんは話を続ける。勿論代金は払った。俺のゲーム内の資金力を舐めるでないわ。

 

「直してて気づいたんだがな、完全にこいつは呪物……悪い効果はないから、一応分類は魔導具になるか。殆ど生きてると言って過言じゃない状態になってやがる。お前は、一体どこでこいつを走らせてきたんだ?」

「地獄を」

 

 あの場所はそう言って過言ではないだろう。ガチで地獄みたいな環境だったし。食べ物? あれは元々の準備不足だからノーカンで。

 

「はぁ……深くは詮索しないが、あの子をあまり無茶に巻き込むなよ?」

「もしかして、何かありました?」

「ああ。うちの女性陣に囲まれながら『ずっと、頼りっぱなし、だったから』って言って料理してたぞ。随分とアレじゃねえか」

「俺としては、十分に頼ってたつもりだったんですけどね……」

 

 戦闘全般は藜さんに任せっきりだった訳だし。サポートしてたとは言っても、普段やってる事をちょっと本気に変えただけだし。

 

「それに、別に俺たちってそういう関係じゃないですよ?」

「は?」

 

 シドさんが、心底分からないといった表情に変化した。実際、彼氏彼女とか惚れた腫れたの関係じゃないのは確かだし。……無視する訳ではないけれど。

 

「よし、1発殴らせてもらう」

「いやいや、困りますよ死んじゃいます」

「知るか! 問答無用だおら!」

 

 そこは俺の範囲内だから、簡単にそんな攻撃を食らったりはしない。長杖を取り出し、意識を集中する。

 シドさんの踏み出した右足が降りる直前に、右足の下に脆い障壁を精製、ワザと微妙な抵抗で踏み砕かれる事でバランスを崩させる。打ち出されそうになっている拳を減速、バランスを崩した足の後ろに流れる動きを加速。

 結果、確実に人体に良くない格好でシドさんは転ぶ羽目になった。

 

「うぐぉ……」

「俺の残機、もう残ってないんですから。全く」

 

 そう言って何気なく取り出した長杖を見て、これはあまり人目に触れさせられないなと嘆息する。

 

 本来なら様々な素材で作られている筈の支柱の部分は明らかに人か、人に類する生物の前腕部が組み合わさり捻れ形成されている。杖の形状自体は至ってシンプルだが、頭頂部に頂く燻んだ紫の宝珠の設置方法がまたいけない。大口を開けた蛇の頭部、その骨が噛み付く様に固定しているのだ。非常に精神的に悪い杖である。

 

 必要に迫られない限り取り出すまいと決心し、即座に仕舞い封印する。これでよし。

 

「で、バイクが変化してたって言ってましたけど、何がどう変わったんですか?」

「耐久値が微妙にではあるが自然回復するようになり、特定のエンジン音にダメージと状態異常判定が追加された。その代わり、燃料は食う様だがな」

「いつも満タンなので関係ないですね」

 

 勝手に予備燃料から補充してくれるから問題ない。今はかなり減ってるけれど。それにしても、随分と便利になったなぁ。因みにシドさんは、未だに床冷てぇ状態だ。アレか、ブチン状態リスペクトということか。

 

「そして、名前を付けてやるといい」

「名前?」

「ああ、名前だ。誰しも、種族名で名を呼ばれたくはないだろう?」

「なるほど」

 

 確かにその意見は一理ある気がする。確かに俺も、ヒトだなんて呼ばれたくはない。バイクに感情がある事前提な話だが。

 選んだ元ネタそのままという訳にはいかない。かと言ってフェンリルじゃ元ネタに辿りつかれかねないし、そういうモンスターがいそうで困る。後他にネタになりそうなものと言えば……ヅダ、デュバル少佐、土星エンジン、クロノス、袋小路阿修羅さん……やっぱりやめておこう。

 

「なら……ヴァンで」

 

 元ネタから離れてないけど、まあこれでいいだろう。音の響きもワンに似てるし。夜明けだったり鋼鉄だったり、調味料ジャンキーにならない事を祈ろう。

 

「よし、これでお前のバイクのぐぼぁ!?」

 

 名前を決めてから数秒後、思ってもみなかった現象が起きた。少し遠くの場所でエンジン音がし、俺のバイクが何故かこちらに向かってきたのだ。シドさんを轢いて俺の前に停車した愛車は、どことなく生き生きしてる様に見えた。我が愛車ながら、たまげたなぁ。

 呼ぶと来るバイク……いいね、ロマンがある。けど今このままにしておくのはアレなので、アイテム欄にお帰り頂く。

 

「シドさん、大丈夫で……ダメみたいですね」

 

 ヴァンに轢かれたシドさんは、見事に白目を剥いて気絶していた。すげぇよシド……ここまで元ネタに忠実だなんて、中々出来る事じゃないよ。

 

「よっこらせっと」

 

 ならばもっと忠実にする為に、再現する事に手を貸そうじゃないか。

 シドさんの体をひっくり返し、腰に佩いていた剣を抜く……のは無理だった。仕方ないから長杖を取り出し、床にプラ/シドさんと文字を刻みこの場を立ち去る。いやぁ、良い仕事した。

 

「さて、帰りま……あ」

 

 このまま自分の部屋に帰ろうと思い、部屋の現状を思い出して足が止まる。今までは不可効力で言い訳が出来るにしても、流石にこのまま帰って同じ部屋で寝るのは外聞が悪い。

 

「今日も徹夜かぁ……」

 

 結論として導き出される最善策は、今日も徹夜で何かをして時間を潰す事。ドロップ品の整理もしてなかったし、ある意味ちょうど良いかもしれない(自己弁護)あ、ファンネルドロップしてる。部位破壊ボーナスか、やったぜ。

 

「虚しい……」

 

 なんか悲しくなったので、頭の運動がてらギルド内を加速で走り回ってみた。翌日、深夜に幽霊が出たという話を聞いたけど、俺は悪くねぇ!

 

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