幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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MND極振り小説を見つけてなんだか嬉しくなる今日この頃。……中身は極振りじゃなかったけど。



第39話 異次元コミュニケーション②

「ふっ。我が名はユッキー! 第七のkもがぁ!?」

 

 余りにも紅魔族な名乗りに面食らって固まる事数秒、俺もコートを翻して答えようとして──普通にザイルさんに止められた。

 

「ちぇっ、止めないで下さいよザイル。折角ユッキーもいい感じに対応してくれそうだったのに」

 

 ザイルさんに椅子に押し戻された俺と入れ替わるように、黒髪赤目の人がザイルさんに掴みかかった。

 

「お前それが良い感じに通ると煩くなるだろうが!」

「なんですとぅ!!」

「事実だろうが!」

 

 挨拶しようとしたら、目の前で喧嘩が始まった件について。けれど極振りと準極振りなだけあって、2人の動きは現実とほぼ変わらない。俺の腕が折れそうになったり、胃が取れそうにもならない。

 

「平和だなぁ……」

 

 そう呟く俺を放置して、喧嘩は激化していった。

 

 ・

 ・

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「さて、確かユッキーは私に魔導書の事を聞きたいんだとか」

 

 頭に大きなタンコブのエフェクトを貼り付けたまま、魔法使いさん……もとい、にゃしぃさんが話し始める。締まらないなぁ。

 

「はい、知り合いに使ってる人なんて……正確にはマトモじゃない使い方をしてる人がいないので」

「なるほどなるほど、そういう事ならにゃしぃにお任せなのです!」

 

 ドンと胸に手を当て言ってくれたけど、微妙に頼りない様に思えてしまう。ザイルさんも『疲れた、寝る』と言って帰っちゃったし、この人止められる気がしないんだよなぁ……ほんと。

 

「では、分かってるとは思いますが魔導書の説明から入りましょう。魔導書は、それ単体として扱う場合は長杖と短杖の中間程度の性能しかない、数種類の魔法しか使えないつまらない鈍器です。ですが、長杖や短杖と組み合わせるとガラリと効果を変えます」

 

 そう言ってにゃしぃさんは、一冊の赤い装丁の本を取り出した。ハードカバーで、如何にも魔導書といった感じだ。魔導書という部類の効果は知ってるし、にゃしいさんのもどんな効果なのかは予想がついてるけれど、一応軽く頷く。

 

「その場合は、選択したスキルの効果を強める礼装となります。そしてその強める内容は、素体とした本の設定できる数によってまちまちですね。私は【爆炎魔法】に威力強化を上限まで突っ込んでます」

「あれ、範囲は良いんですか?」

「ああ。それは威力が上がれば比例して広がるので」

「アッハイ」

 

 成る程、それで色々焼却出来るのか。やはり極振りに常識を求めちゃいけなかったらしい。

 

「勿論、作るって話だったから本は持ってきてるんですよね?」

「ええ、勿論持ってきてます」

 

 そう言って俺は、10冊程【白紙の魔導書】を取り出す。そこそこな厚みがある所為で、結構な高さになってしまった。数十冊は回収してきた内の一部だから、失敗しても幾らでも作れるだろうね。

 

「成る程それが……って、ええ!?」

「どうかしたんですか?」

「え、ちょ、これどこで手に入れて来たんですか!? 設定できるスロットが、これ全部10個までありますよ!」

 

 とても驚いた様子で、にゃしぃさんは詰め寄ってくる。これ、そんなに凄いものだったんだろうか?

 

「良ければ1冊あげますよ? この前のイベントでボスを倒した後の宝物庫で掻っ払ってきたのでまだまだありますし。これそんなに良い物なんですか?」

「え、いいんですか? 上限ですよ?」

「手間賃というか、情報料というか。どうぞどうぞ」

「やったー! やったー!」

 

 深夜だっていうのに、渡した白紙の魔導書を持ってにゃしぃさんは大はしゃぎしている。テンション高いなぁ……深夜テンション突入してるんじゃないだろうか?

 

「それじゃあ私も更新したいし、今から魔導書作っちゃいましょう! ユッキーは製作系のスキルは?」

「一応、65%程度ですが使えますね」

「【サバイバル】の派生ですね。私も同じ系統のだから問題ないですよ!」

 

 そう言って、にゃしぃさんは白紙の魔導書を開いた。それに倣って俺も開くと、何やらよく分からないウィンドウが展開された。1番上にあるのがスキルの選択欄、その下にある10個のがスロットだろう。多分。

 

「見てわかる通り、1番上の部分にスキルを選んで下に好きな物をセット、そして閉じて爆発しなければ成功です!」

「爆発!?」

「ええ!」

 

 めっちゃいい笑顔で返事をされた。嫌な予感しかしないんですけどそれは……

 そんな考えを一旦頭の中から追い出し、【紋章術】を1番上の欄にセットする。そしてスロットを選択しようとして、その量に圧倒された。

 

「そりゃ確かに、色々派生が有るからそうなるだろうけどさ」

 

 まさか補助1つにつき、色々設定できるとは思わなかった。全体の単純な強化も出来るけど、単体で設定した方が効果は高いっぽい。同種の上限は5つまでなんだとか。

 取り敢えず《障壁》の固定値上昇は上限まで入れるとして、他はMP消費軽減を詰め込み……いや、それじゃあ芸がない。

 

「あ、そうそう忘れてた。ザイルが『魔導書を作るなら、指輪の効果を移しておけ』って言ってました」

「ちょっ、それ先に言ってくださいよ!」

 

 慌てて指輪を取り出し、6つ製作中の魔導書の内4つの上に置く。多分これで選択肢に増えてるだろう。増えていた。そして増えたスキルを選択すると指輪は綺麗に消え去った。

 同時に、4つの未完成の魔導書がそれぞれ紅、小麦、雪、菫色に染まり大きな菱形の結晶が表と裏両方の表紙に現れる。余った2つは真っ白なままだ。

 

 全部に障壁の固定値上昇をガン積みするのは変わらないが、そこに《天候変化 : 〜〜》というスキルが追加された為5つ全部に消費MP軽減を積むとなんだか気持ちが悪い。

 

「となると、これが1番いい感じか」

 

 完成間際の魔導書を見て、俺はそう呟く。スロットにセットしたスキルは、全部に共通しているのは《障壁固定値上昇》×5《紋章消費MP軽減》×4の合計9つ。指輪の能力を移譲した魔導書にはそれぞれ前述のスキルが追加され、残りの2つには《紋章展開高速化》をセットした。

 

「よし、そっちも完成したみたいですね!」

 

 そんな俺を見て、にゃしぃさんが満足そうに微笑む。そして、スイッチが切り替わるように真面目な顔へと変化した。

 

「それじゃあ、手本として私がやりますから!」

 

 そう言って、コォォォとウォーズマンの様な息を吐き出し、勢いよくにゃしぃさんが魔導書を閉じた。

 

「《障壁》!!」

「うにゃぁッ!?」

 

 そして盛大に大爆発を起こした。成る程、失敗するとこうなる訳だね。魔導書も綺麗に燃え尽きている。障壁で防いだから良いものの、これは非常によろしくない。万全を期す必要がありそうだ。

 

「あー、にゃしぃさん。もう一冊魔導書上げるので、ちょっと手伝ってくれませんか?」

「問題なしですよ!」

 

 煙の向こうからカムバックしてきたにゃしぃさんとPTを組み、例の【ドリームキャッチャー】を利用したドーピングでLukを爆上げする。5,411にまで到達したLukに、恐れるものなど何もない!

 

「そいやぁ!」

 

 バフの効果が持続してる間に、6つの魔導書を連続して閉じていく。閉じ終わった姿勢で動きを止めること数秒。爆発する気配は、1冊もなし。パーフェクトだウォルター……いや、ただ運が良かっただけか。

 

「おお! 私のもやって下さいお願いします」

 

 不備なく完成した事に安堵し、それぞれをアイテム欄に仕舞っている俺に、驚く程の早さで土下座を決めてにゃしぃさんがお願いをしてきた。DOGEZAには、勝てない。されなくてもやったけど。

 

「いえ、あの、頭を上げてください。というか、そこまでしてもらわないでもやりますよ?」

「いやぁ、何から何まですみませんね!」

 

 この後にゃしぃさんの超火力特化魔導書を完成させたのは俺だけれど、深夜に入ったサーバーメンテには関係ないから! ログアウトしてたから関係ないから!

 

 

「くくく。ほら、約束のブツだ」

「ありがたく使わせていただきます」

 

 翌日の夕方、俺は再び【極天】のギルドホームに訪問していた。理由は勿論、改造して貰った元猟銃ファンネルを受け取るためだ。

 

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【陸式 浮遊魔導書】

 Int +10 Str +10

 Min +10

 魔導書 ▽

 耐久値 1,000/1,000

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 元々の性能から極めて性能が下がっているが、注文通りの完璧な改造である。

 

「【陸式 浮遊魔導書】……ザイルさんって、漢数字入れるの好きですよね」

「ロマンがあるだろう?」

「ええ!」

 

 熱い握手を交わしてから、受け取ったファンネルを装備する。この装備は片手剣持ちで言う盾に相当するものらしく、長物では装備出来る物は多くないらしい。けれどこれは、その物珍しい物の部類だ。

 

「ほう、中々に似合ってるじゃないか」

 

 装備した事によって、俺の肩辺りの高さに浮遊する6冊の本が現れていた。1m程体から離れた場所で、何もしてないと閉じたままゆっくりと俺の周りを回転していく様だ。

 

「使い勝手はどうだ?」

「いいですねコレ。手足のように動かせる」

 

 ちょっと試してみる限り、魔導書は探知圏内なら自由に動かせる。ページを捲るのも、適当に回転させるのも自在。障壁の展開も、前より素早く正確になっている。更に脳への負担を多少肩代わりしてくれているのか、今なら100…いや、120枚くらいなら同時展開出来る気がする。

 

「しかも脳波コントロール出来る!」

 

 態々《障壁》と言わずとも、脳内で設定を変更した障壁を自在に張る事が出来る。多分今なら、むざむざ藜さんを死なせてしまったあの攻撃も防ぎきれる気がする。ふはは、怖かろう。

 

「はしゃいでるところ悪いが、ここに入り浸ってて良いのか? イベントの報酬の取得も終わってないとの話だったし、そちらの職人プレイヤーと話をする時間も必要だろう?」

「言われてみれば。無理を押してこっちに来て、魔導書作って貰った訳ですし……」

 

 れーちゃんに俺が頼んだ事は、現在も着てるこのコートの改造のみ。つららさんもランさんも多少装備の更新を頼んでるし、セナも何か色々頼んでいた。藜さんですら、れーちゃんの「ん」の圧力に負けて装備を強化して貰っていた。

 そんな中で俺はコートのみだ。信頼してないと受け取られても、なんら不思議ではない。もし泣かせでもしたら、精神的にも物理的にも死ねる。

 

「改めて考えてたら、色々ヤバい気がしてきました。すみません、失礼します。魔導書、本当にありがとうございました!!」

「今後とも、贔屓にしてくれ」

 

 そう手を振ってくれるザイルさんを背に、俺は街に飛び出す。そして車道に出るなり、アイテム欄を開いて叫ぶ。

 

「来い、ヴァン!」

 

 俺の呼び出しに応じ、アイテム欄から飛び出してきたバイクに騎乗する。そのままニトロのスイッチを入れ、加速を含めたあの時に使ったマスドライバーの様な発射台を障壁で形成する。

 

「地に増え、都市を作り、海を渡り、空を割いた」

 

 打ち上げバイク、上から見るか、横から見るか。それともはたまた下から見るか。俺がなるか!

 3尺玉を2つサービスでこぼしながら飛翔した俺は、雲の中に突入し、遂には雲を突破することに成功した。マップで方向はわかっている。バイクは既に仕舞った。ならば、やる事はもう決まっている!!

 

「Are you ready?」

 

 内心で「うん」と親指を立てるサムズアップのイメージで返事をしながら、サーフボード状の障壁を精製する。足場には、指輪の力を引き継いでない魔導書付きだ。

 

「Go!」

 

 暴発させたカースと、新たに加速も複合して第2の街の方向に発進する。態々雲を抜けた理由は、完璧に再現をする為!

 

「ウォオォォォッ!!」

 

 雲の中を移動する間、気持ちを高める為に雄叫びをあげる。そして雲を抜けた瞬間、全力で俺は叫ぶ。

 

「イャッッホォォォオオォオウ!」

 

 これはバイクの様な制御できる安定した速度ではないし、MPが切れた瞬間落下する飛翔だ。だがやっぱり言えるのは、完全版エド・フェニックス(動詞)するのはとても気持ちがいい。

 

 嗚呼アレだ。減退で減速して着地したら、水泳スキルに全振りしてクロールでもしてみようか。バタフライでもいいけどね! フィリピン爆竹パーティーだ!!




おめでとう! 主人公の障壁(デフォルトサイズ)は、一般プレイヤーの障壁(デフォルトサイズ)と同じ程度の硬さになったぞ!


 Name : ユキ
 称号 : 詐欺師 ▽
 Lv 28
 HP 1400/1400
 MP 2750/1375(2750)

 Str : 0(16) Dex : 0(10)
 Vit : 0(11) Agl : 0(10)
 Int : 0(67)Luk : 470(2274)
 Min :0(47)

《スキル》
【幸運強化(大)】【長杖術(大)】
【紋章術】【愚者の幸運】【激運】
【レンジャー】【ドリームキャッチャー】
【空間認識能力】【オーバーチャージ】
【生命転換】

 -控え-
【抜刀術(極)】【常世ノ呪イ】
【ノックバック強化(大)】

( )内は、装備・スキルを含めた数値
 小数点以下は切り捨て

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