幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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計算してみたら、れーちゃんの補正込みDexのステがユッキーの補正なしLukを追い越してた……あれ? 何かおかしい


第41話 くるくる回る杖3つ

 セナとボスを撃滅した翌日、意気揚々とゲームにログインした俺を待っていたのは一通の運営からのメッセージだった。今更、何かあったんだろうか? そう思って開いた内容は、こんなものだった

 

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【警告】空間認識能力のスキルについて

 貴方の今までの行動を精査した結果、スキル【空間認識能力】が本来の効果を遥かに超えて発動している事が発覚しました。

 確実に健康被害が発生する域での効果発動が数回観測された為、誠に勝手ながら、他の異常を感知したプレイヤーの方々と同様に効果に上限を設定させていただきました。

 今後、健康被害が確認された場合は必ず運営に報告して下さい

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「鼻血出たし、まあそりゃそうか」

 

 一応、この対応には自分も異存はない。現実にまで影響を及ぼすのは、明らかにおかしいと認識するくらいの常識は持っている。極めて便利だったから報告はしてなかったけど、流石にバレたらしい。

 

「弱体化はどこまでかなっと」

 

 そんな事を呟きながら、スキルの効果をONにする。そのまま全開で集中してみるけれど、広がった感覚はある一定の所からうんともすんとも言わなくなった。あくまで感覚的な評価だが、イベント中のレイドボス達と戦った時の数歩手前が効果の限界になったらしい。

 まあこれなら、普通に行動する分には問題はなさそうだ。落ちるであろう障壁の展開精度も、多分魔導書のお陰で元と同じくらいにはなってくれる筈だ。それなら何の問題にもならない。

 

「ちょっと慣らしがてら、お店で休憩かなぁ」

 

 今打てる最善手はそれだろう。そんな事を思いつつ、俺は個人ルームを出るのだった。

 

 

 障壁の慣らし運転をしつつお茶を啜っていた俺のコートを、れーちゃんがくいくいと引っ張ってきた。我ながらジジ臭いと思ってたけど、まさかそれだろうか?

 

「ん」

 

 首を傾げる俺に、れーちゃんがとても不機嫌そうに返事をした。どうやら、何かがあるらしい。もしそうなら、考えられる事といえば……

 

「もしかして、もう杖が完成したとか?」

「ん!」

 

 今度は正解だった様だ。満面の笑顔でサムズアップを返してくれた。他のみんなの装備もあった筈なのに、本当にありがたい。ついこう、頭を撫でそうになってしまう。収まれ俺の腕……

 

「ん!」

 

 そう俺が自問自答している間に、れーちゃんは自信満々に3本の長杖を取りだした。

 

 受け取った1本目の杖は、大きな半月刃とスコップの様な刃の付いた長杖だった。性能的には前の杖と比べ若干下がった様に思えるが、他の機能を優先してもらったのだから問題ない。何せこの半月刃にはチェーンが装着されており、かなりの距離を飛ばす事が出来るのだ。しかも引き戻し機能付きな上、一応拘束効果も持っている。飛ばしてからの方向変更は流石に素の状態では無理だが、それを持って有り余るロマン能力だ。

 

 2本目の杖は、先端が木ノ実や葉で飾られた、蔓の巻き付いた枝を成形した様な不思議な反りのある杖だった。全体的に太めな長杖の形をしているが、これの本体は仕込まれた『無垢なる刃』だから問題ない。3つの中では1番典型的なタイプの仕込み杖で、そのまま使っても当たらないロマン武器である。因みに杖の反りは、【抜刀術】のスキルを不自由なく使える様作ってもらった。

 

 3本目の杖は、ここまでの杖の中で1番異質な杖だった。先ず見た目が、長杖の枠から大きく外れてメカメカしい。具体的に言えば、銃口を下にして立てた巨大なライフルに様々な外装が付いた感じだろうか。元々ヘカートⅡに似ていた賞品のライフルは魔改造され巨大化、ストック部分に冒涜的な紋様が刻印され、引き金の近くに杖として扱う為のグリップが存在している。が、スコープとマガジンが非常に大きいので、見る人が見なくてもわかるだろう。

 

「れーちゃん」

「ん?」

「完っ璧!」

 

 ざっと目を通して、握って確かめてみた限り、そのどれもがカタログスペックは完璧な性能だった。ならば、後は俺が使いこなせる様に練習するだけである。長杖が3つに、今も天井付近で遊ばせている魔導書。やる事が一杯だなぁ……

 って、今はそれはどうでもいいんだった。

 

「それで、いっつも作ってもらって悪いから、れーちゃんのやりたい事があれば手伝いたいんだけど……何かあるかな?」

「ん」

 

 いつも作って貰うだけ。それは嫌だったので聞いてみたが、ふるふると首を横に振られてしまった。……仕方ない、こうなったら今までの倍のペースでレア素材を確保するしかないか。ギルドの倉庫をレア素材で飽和させてみせようじゃないか。

 

「話は聞かせてもらったよ、ユキくん!」

「っとと、どうしたんだよセナ」

 

 いきなりどこかから現れて、背後から飛びついて来たセナに耐えながら俺は聞き返す。障壁がなかったら、何時ぞやの時みたく吹き飛ばされてただろう。全く、危ないし耳元で喋られると擽ったいったらありゃしない。

 

「れーちゃんって、ずっと装備を作ったりしてるから第3の街のボスを倒してないんだ。私たちが誘っても、今はいいって言ってて」

「それって本当?」

「ん」

 

 どうやら本当の事らしく、れーちゃんの首が縦に振られた。てっきりれーちゃんも第4の街に到達してると思っていたけれど、予想違いだったらしい。

 というか、そろそろセナを背負っているのが辛くなってきた。もうちょっと頑張ってくれよ俺のVit……元が0だから無理ですかそうですか。

 

「それで、ユキくんも藜ちゃんも確か討伐してないでしょ?」

「藜は兎も角、俺は倒してないな」

 

 これから新装備の試運転がてら、死に戻りしてパターン覚えてこようとは思ってはいたけれど。初心忘るべからず。鼻血吹いて倒れる程の全力を出して、誰かの手を借りないと、俺はボスの撃破なんて出来ないのだ。全部読みきって、潰して倒す。これが唯一にして最善の策だ。

 

「だからさ、今度倒しに行こうよ。ギルドのみんなで」

「みんなって事は、フルPTか……」

 

 遊撃役のセナ、アタッカーらしいランさん、完全にアタッカーの藜、魔法攻撃役のつららさんに、支援型のれーちゃんと俺。……ちょっと待って、ギルドに盾役が1人もいない件について。

 

「ボス撃破も、レア素材確保もれーちゃんの為になるし、いいんじゃないの?」

「れーちゃんはそれでいいの?」

「ん!」

 

 首を縦に振りながら、れーちゃんもサムズアップをしてくれた。どうやら、これで決まりの様だ。俺としては物足りないから、後でレア素材を大量に倉庫に放り込んでおく事にする。

 

「セナ、1つ気になる事があるんだけどいいか?

 うちのギルドってさ……メイン盾、どこ?」

 

 いるといないとで、俺の労力が即死級か瀕死級かくらいには変わる。魔導書のお陰で多少はマシになった筈だけど、ボス戦はボス戦。端的に言って死ぬ。

 

「当たらなければ、何の問題もないんだよ!」

「アッハイ」

 

 労力は即死級になる事が確定した。さて、久々の死に戻りループをしながら、装備に慣れて来ないと。後は攻撃パターンというか、方法を少なくとも全部対処出来るようにして来ないと。

 

「ところでユキくん、私も聞きたい事があるんだけどいいかな?」

「いいぞ。俺はこれから脳死周回タイムに入るから、メッセージ飛ばされても返信出来ないだろうし」

 

 あわよくばソロ攻略も目指したいけど、まあ全員でぶつかる時まで全力は温存するしかないから無理だろう。どっちにしろ、ボス戦前の脳死周回死に戻り記憶タイムは必須だ。そんな時に何か書かれても、変な返答しか出来ないだろう。

 

「うん! じゃあさ、その対戦車ライフルは何?」

 

 そう言ってセナが指差したのは、受け取った3本目の長杖である【銃杖《新月》】。だがこれは対戦車ライフルなんかじゃない。あくまで仕込み杖である。

 

「れーちゃんに頼んで作ってもらった仕込み杖だな」

「いや、でもこれってどう見ても対戦車ライ……」

「仕込み杖だな」

「いやいやいや!」

「仕込み杖だな」

「いやこれ撃てるよね?」

「そうだな」

「ならやっぱり対戦車……」

「対戦車仕込み杖だな」

「訳がわからないよ……」

 

 セナは頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。確かに、対戦車仕込み杖とか言ったのは俺も悪かったかもしれない。自分で言ってて意味がわからないし。

 空中をくるくるさせて遊んでいた魔導書をコート内に戻し、受け取った杖を全てアイテム欄に仕舞っておく。

 

「さてと。それじゃあ俺は行ってくるから」

「……どこ、いくの?」

「ちょっと試運転に。後ボスに死にに行く」

 

 そう言って俺はこの場を後にしたのだった。

 

 

 ギルドを出てバイクを走らせる事数分。現在俺が居る場所は、何時ぞやか完全燃焼させたあの森の入り口だった。ここのモンスターなら、大抵読み切ってるし試運転にはピッタリだ。

 

「そんじゃ、まずは」

 

 アイテム欄から1本目の杖こと【錫杖《三日月》】を取り出す。相対する相手は、珍しい人型であるワーウルフ。動きがどう足掻いても人間の延長線なので、読み易さがMAXの相手だ。

 

「せーのっ!」

 

 長杖を勢いよく振り抜き、その勢いでチェーンで繋がれた半月刃が発射された。そこそこの勢いでワーウルフに半月刃が直撃し、僅かにHPを削り取る。そしてそれが引き金となって、戦闘が始まった。

 

「《加速》」

 

 まあ、俺にまともな戦闘なんてする気は無い(出来ない)。チェーンが半月刃を引き戻している間に、ワーウルフの駆け出した足だけを加速する。片足だけ後方に異様に速く動いたせいで、ワーウルフはバランスを崩し転倒した。

 

「《奪撃》」

 

 そして本命、遠距離からの《奪撃》でMPの吸収を試す。【レンジャー】に複合された狙撃スキルが乗って発射された半月刃は、当たったワーウルフから確かにMPを奪い取った。

 

「こっちの判定も成功っと」

 

 ワーウルフに鎖が絡みつき、行動不能にすると共に半月刃による継続ダメージが発生。更にまだ効果の残る《奪撃》によってMPが回復していく。よしよし、完璧だ。ボスに拘束は効かないけど。

 

「コンテンダー」

 

 勿論大嘘である。三日月を仕舞い、瞬時に3つ目の杖こと【銃杖《新月》】に切り替える。そして銃としてのグリップを握り、魔導書を1冊支えにして片手で照準を定める。

 

「《減退》《加速》」

 

 紋章を展開し引き金を引いた瞬間、発射直後5枚分の加速を受けた銃弾はステータス不足で曲がる前にワーウルフに着弾、そのHPを消しとばした。排莢された薬莢の大きさにビビる。

 

「でも基本の《加速》で200《減退》で275……連発は出来ないか」

 

 一応5枚で反動は殺しきれたが、このままでは連射が出来ない。もう1回試してみよう。取り敢えず加速はなしで、1枚減退を減らす。

 

「4枚でも、セーフか」

 

 結構な反動があったが、耐えられない程ではない。両手撃ちなら、取り敢えず安定して撃てるだろう。加速なしだから外れたが。

 

 暗算だけど、1発撃つだけでMP消費はどれだけ減らしても200〜300程度。今の俺のMPが2750だから、消費がかなりキツイ。実戦じゃ、使える機会はそこまで多くなさそうだ。薬莢を拾い、杖を2番目こと【杖刀《偃月》】に変更する。

 

「スキルも付け替えてっと」

 

 藜さんに譲ってもらったスキル【抜刀術(極)】をセットする。使える技は……うわ、何これ多い。普段から爆弾と紋章しか使ってないからなぁ、俺って。取り敢えず勝手が分からないし、初期スキルっぽいのを使ってみよう。

 仕込み杖を腰だめに構え、技名を唱える。

 

「《抜刀・鎌鼬》」

 

 仕込み杖を構えた身体が勝手に動き、即座に元の体勢に戻っていた。不思議に思っていると、直線上にあった森がずり落ちた。

 

「……は?」

 

 そして、同時に自分のHPも0になった。

 そうしてわけも分からないまま、身体はカシャンと砕け散り、俺はリスポン地点へと送り返されたのだった。

 

 後で調べて分かった事だが、この現象は身の丈に合わない武器を使用した場合の反作用らしい。近接武器ではダメージがそのまま反射され、射撃武器なら滅多に当たらない上自傷。魔法はよく知ってる通り、暴発するとの事だった。盛大な自爆である。

 

 ……お蔵入りかなぁ、コレ。




 色々まとめ

《抜刀・鎌鼬》
 抜刀術の初期スキル。斬撃を飛ばして遠距離攻撃をする
 射程は威力に、属性は武器に依存する
 消費MP1+現状のHPの3%


 基本のサイズでの比較
 加速 : 消費MP40
 減退 : 消費MP55



【錫杖《三日月》】
 Str +46 Min +20
 Int +47
 属性 : 光
 状態異常 : 拘束
 射程延長
 耐久値 500/500

 要するに最遊記の悟浄の降妖宝杖

【杖刀《偃月》】
《納刀中》
 Str +5 Min +56
 Int +30 
《抜刀中》
 Str +10 Dex +30
 Agl +30
 属性 : 無
 抜刀時ダメージボーナス
(所持者のステータスの最高値)
 耐久値 300/300

 特にモチーフは無し。使うと死ぬ

【銃杖《新月》】
 Str +47 Dex +23
 Min +15
 属性 : 無
 口径 : 20mm(ダメージボーナス200)
 装弾数 : 10
 命中率強化
 耐久値 370/370

 要するにラハティL-39 対戦車銃。減退なしで撃つと死ぬ。

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