幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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気楽に主人公の最大火力を計算してみたら、特定条件下で1発限りの超大技とはいえ100万オーバーなんて狂った数値が出てきたんじゃが……


第43話 初めてのPT戦

 特に何かが進展することもなく日数は刻まれ、ついに来たボス戦当日。地下にダンジョンがあるこの場所、打ち捨てられ朽ち果てた機械群が散らばるこの場所こそが、第3の街のボスフィールドへの転移場所だった。

 

「それじゃあ、ギルドの全員でのボス戦始めるよー!」

 

 一歩引いた俺とランさんを除いた4人が、おー! と声をあげ手を合わせてた。いや、れーちゃんの声は聞こえないのだが。まあ特に険悪な雰囲気もないし、本当に安心である。

 

「どうかしたのか?」

 

 うんうんと頷いていた俺に、ランさんがそんな事を聞いて来た。

 

「いえ、こうして大所帯のPT組むのって初めてだから、少し緊張してまして」

「普通は、これくらいの人数で攻略するんだぞ?」

「まっさかぁ」

 

 そう冗談めかして言ってみたが、事実だったらしい。こんなに大人数とか、意見合わせるのも大変だしないと思ってたんだけど……ソロの方が珍しいだけか。まあそんな事もあってか、全員の戦闘時の装備を揃って見るのも初めてだったりする。

 

 俺やセナ、藜さんの格好は変わりないので置いておくとして、ランさんは武士のような服装に落ち着いた青色のマフラーを装備しており、武器は一見刀のように見える長身の銃だ。一応全装備、服ではなく軽鎧に分類されているらしい。

 つららさんの戦闘装束は、こちらはこちらで色々と思うところのあるものだった。某ゲームの若奥様とそのリリィの装備を足して2で割った様な防具群に、水晶から削り出した様な透き通る杖を持っていた。

 

 この2人とは数回一緒に戦っているから良い。だが、初めて見たれーちゃんの装備は、とても特徴的なものだった。

 

「れーちゃん装備って、ランさんの入れ知恵ですか? あれってどう見ても……」

「みなまで言うな。もしかしたら、俺の本棚に有るのを読んだのかもしれん」

 

 頭には大きな赤いリボンの付いたヘッドドレスを装着し、右肩の落ちた黒いドレスを鎧の腰あてで止めて着用している。また袖に隠れて見にくいが手には鎧の手甲が装備され、靴も同様の鎧の装備だ。首に枷も大きな錠前のネックレスも存在しないが、身の丈の半分を超える本を携えたれーちゃんの姿は、どう見てもとあるキャラに酷似していた。鍵守はランさんだな(確信)

 

 男衆でボソボソと話し合っていると、セナがこちらを向いてびしっと俺を指差して話し始めた。どうやら向こうの会話はキリがついたらしい。

 

「ほんとは今すぐボスに凸りたいんだけど、ここにロクなPTを組んだ事がない人が約1名いるからちょっと説明しておくね!」

 

 遠回しにされる訳でもなく、普通にdisられた。私は悲しい……(ポロローン)

 いやまあ、確かに基本1人で他はデュオを組んでま……もとい、2人くらいでしか戦ったことはないけど。

 

「うちは基本的に、誰かの邪魔をしない範囲なら何してもいいよ! 誰かが危なくなったら、誰かがフォローする感じで!」

「うわぁ」

 

 あまりにも適当だけど、それでも成り立っているんだろうか? いや、実際成り立ってたんだろう。そこに完全にアタッカーの藜さんは兎も角、風が吹けば死ぬ様な俺が混ざって平気な訳があるまい。最近でこそ、死ににくくなったとはいえ。

 

「あ、もっかい言っておくけど、私の事は守らなくていいよ!」

「りょーかい」

 

 セナのその言葉に、軽く手を上げて返答する。釈然としないけども、守るべき対象が1人減るのは労力的に嬉しい事でもある。この前のボス戦の時から知ってたけど、やっぱりなんかモヤモヤするんだよなぁ……

 

「それじゃあ、今度こそれっつごー!」

 

 そんなセナの掛け声と共に、俺たちの身体は転移の感覚で包まれたのだった。

 

 

 俺たち6人が転送された場所は、馬鹿でかい聖堂の様な場所だった。ただし、光の差すステンドグラスは割れて散らばり、床の上にある物は全て爆発があったかの様に薙ぎ倒されている。壁や床はそのお陰で綺麗で、動き回るに十分な空間は確保されている。

 ここの空間の名前はそのまま【かつての聖堂】その効果は、光属性の効果が20%上昇すること、闇属性の効果が20%減少すること。そして敵味方全員に30秒で1%のリジェネがかかること。だが、ボスの姿はまだない。

 

「各自散開!」

 

 そのセナの号令に反応して、前衛の3人は各々の武器を構えて疾走した。後衛の俺たちは、互いに多少の距離を上げて杖を構える程度だ。

 

「【潜伏】」

「えっ!?」

 

 そんなある程度安全圏の中で、俺はフードを被り更に潜伏も使用しておく。コートのお陰で姿まで透明になったからか、つららさんが驚いてるけど気にしない。そんな事を考えている間に、奥の方の空間に天から光が差し込んだ。

 

「来るよ!」

 

 そして、その光の中から1人の少女が降りてきた。胸に関しては、PTのメンバーがメンバーなので言及は避けておく。色素が抜けた様な白い髪に、真紅の目。その手先から二の腕、足先から太腿辺りまではゴツい機械で武装されている。だが、真紅の宝玉が埋められた胸当てよりも、纏う奥が透けそうな服よりも目を惹くのは、背中から生える1対の機械の翼。それは機械的な寒さを感じさせつつも、どこか神々しいものだった。

 

 しかし、これだけでボスの登場は終わらない。

 

 追加で更に光が差し込み、ボスの背後に巨大な2対の翼が追加で出現した。浮遊するそれらが発光し、ボス本体と他の翼にバフをかけてボスの出現は完了した。正直とっくに見飽きた登場だが、名前の通り【機天・アスト】はまるで天使の様だった。

 

「《フルエンハンス》《エンチャントライト》《クリティカルアップ》」

「《氷面鏡》!」

「ん」

 

 前衛の3人にバフを盛ったのと同時、前衛から炸裂音が轟いた。セナはゼロ距離射撃、藜さんは光→3連突きのコンボ、ランさんはマシンガンの様な射撃。そしてワンテンポ遅れて、別の翼が鏡のような青い氷に覆われ、巨大な稲妻がその氷塊に直撃した。

 

「なん……だと」

 

 実はれーちゃんも、かなりの攻撃力を持っていたらしい。ヤバい……俺も爆破しないと。いや、今はPT戦だった。自重しないと。藜さんとランさんに放たれた攻撃を防いでおく。

 

 因みにそれらの攻撃全てが巨大な翼に集中しているが、その理由はこのボスの特性に関連している。本体たる少女のHPバーはそこまで多くないのだが、最初の時点じゃ一切の攻撃が通らないのだ(※極振りを除く)4つの翼がそれぞれダメージカットなどのバフを大量にかけているせいで、それらから破壊しないといけない。

 

「っと《障壁》」

 

 だが、翼も本体も同じ場所に留まってはくれない。しかも、今のように当たり前に攻撃だってして来る。序盤は翼1個につき10のホーミングビームと、本体からは極太の光線だ。俺たちの側に飛んできた20と太い光線を見もせずに防ぎつつ前衛の様子を見れば、何か凄いことになっていた。

 

 キラキラとした燐光を撒き散らすセナに向け21の光線が発射され、その全てをギリギリで回避していく。そしてその直後セナの動きが急激に増し、三点バーストで放たれた弾丸が翼のHPを大きく削り取った。直後、跳ね上がった翼を同様に飛び跳ねたランさんが連射で撃って高度を下げ、待っていたかのような藜さんの3連突きがそれを粉砕した。

 凄いなぁ……ランさんの銃。連射する時は、ちゃんと鍔の部分回転させるようになってる。流石れーちゃん、作り込んでるなぁ。

 

「はい《障壁》」

 

 再びこちらに飛んできた光線を防ぎつつ、前衛の3人にバフを盛り直す。

 残りの翼は3つ、そう思って周囲を確認しようとした瞬間、爆音が轟いた。慌ててそちらを見れば、砕け散った細氷が紅蓮の炎に照らされキラキラと煌めいていた。勿論、直撃を受けた翼は撃沈している。

 

「いや、テヘペロじゃないでしょつららさん」

 

 こちらを向いたランさんにそんな顔をしてるけど、2枚撃墜したら多少パターンが変化するからそんな場合じゃないんですよねぇ。

 その証拠に、ボスの本体が悲鳴を上げて身をよじった。そして、目に大粒の涙を浮かべて戦闘が続行される。

 

「はっはー《障壁》《障壁》!」

 

 ボス本体の翼からそれぞれ20の羽型ビットが射出され、巨大な翼のホーミングビームに合わせる様に照射型のビームが発射された。翼の方は2枚、ビットの方は1枚あれば防げるから楽なものである。まあ1秒のみなので、後衛の方のは多少手間がかかるが。

 

「【魔力の泉】」

 

 減ったMPを回復させつつ、このままじゃマズイと思い杖を《三日月》から《新月》に持ち変える。少しくらいは活躍しないと、申し訳が立たないからね。

 断続的に放たれる光線を防ぎつつ、魔導書を1冊使い《新月》を支えて翼に照準する。両手で構えた先にあるのは、上下から氷に押しつぶされている巨大な翼。この距離で動かない相手なら、外すわけがない。

 

「ファイア」

 

 轟音と共に放たれた1発の弾丸が、5枚の加速陣を潜り抜けた事による埒外の速度で翼を撃ち抜いた。そして、それによって翼のHPバーは0になり爆発する。よし、決まった。

 

「のわっと!?」

 

 なんて油断していると前衛側からも爆発音が聞こえ、翼が撃墜された事を感じ取ることが出来た。どうしようこれ……早すぎてちょっと笑えない。まだちょっと、俺の心の準備が整ってないんですが。

 

「最後の攻撃変化くるよー!」

 

 セナが良く通る声でこちらにも情報を伝えてくれた事によって、俺はちゃんと落ち着いた思考を取り戻すことが出来た。翼を全部落としたボスは、ぶっちゃけ最初から最後まで発狂モードだ。しかも、初っ端には「は?」としか言いようのない攻撃をしでかしてくる。

 防がないと後衛は確実に死ぬ感じの。

 

「れーちゃんはあんまり動かないでね」

「ん」

 

 フードを脱ぎ、透明化を解除してから俺はれーちゃんの数歩前に立つ。ついでに、予めセットしておいた曲の再生準備を始める。

 

「え、私は?」

「要ります? 多分相殺とか出来ますよね?」

 

 ちょっと前線に目を向ければ、黒いマントを羽織ったランさんがタイミングを伺っていた。多分、あのマントの効果って元ネタ(ヴォルケイン)準拠だろうし問題ないだろう。

 

「確かに出来るけど……」

「彼氏さんも守ってくれるでしょうし」

 

 何せほら、後衛にはれーちゃんもいるし。俺? 俺はオマケ。

 

「な、な、なんで知って!?」

「いやだって、ギルドの共用スペースで話してましたし。リスポンポイントなのに」

「えぇー……」

 

 つららさんが、微妙に落ち込んだような声で肩を落とした。後でフォローしとかないと。

 

 まあ、それは一先ず置いておいて。

 

 ボスが絹を裂いたような悲鳴を上げて、機械の翼からパラパラとパーツが落ちては浮かび上がっていく。浮かんだパーツの総数は……ちょっと多くて分からない。全く、後光ビームみたいなのとか何故入れたし運営。

 

「で、ユキさんは、アレ防げるんですか?」

「半分くらいはセナが持っていくっぽいので、それなら普通に。ああ、勿論つららさん含め全員やりますよ?」

 

 良く分からないけど、ジャスト回避を決める度に全ステータスが上昇するスキルをセナは持っているらしい。上限は350%とか言ってたっけ?

 

 ダンジョンボス戦の時を思い出していると、ボスの上げていた悲鳴が止んだ。そして翼を広げ、パーツを伴い浮かんでいき……静止した。ガクンと項垂れた頭上に光が集まり円環を形作った所で、パーツ群がこちらを照準する。全く、なんでここに無敵判定が入ってるんだか。

 

『実行──ステラ、レイ』

 

 やれやれと1人でため息をついていたのと同時、機械音声と共に一斉に光線が放たれた。本当は、もっと喋るボスの筈なんだがなぁ……

 

「さてと、やりますか」

 

 ボソリと呟いた俺は、音楽のスイッチを入れ全力で集中を開始した。アップテンポな曲だし、テンション高めでやりますか!

 




流してる曲は通し道歌 高嶺舞Verのつもり

※透明化は街中でも使用できますが、使用中は自分以外のメニュー画面等の文字入力画面を視認することは不可能になります。
また、どの状況でも透明化中はハラスメント的な設定が通常より遥かに強く設定されます。

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