でも動くニートはウザさが倍増してるのは分かった(部分視聴)
発射された光線の数は膨大だが、ホーミング性能は皆無に近く威力もそれ程でもなく、当たり判定も小さい。代わりに、1度当たり足を止めてしまえば、2回3回と続く射撃でHPはタンク役でもない限り尽きてしまう。そんな性能のフルバーストが5回、これから開始される。
だがそれならば、幾らでもやりようはあるというものだ。
「《障壁》」
「《アイススフィア》」
ステップを踏み、身体を回し、自身の防御は最小限で他の皆の所に障壁を展開していく。セナ以外の前衛と、俺以外の後衛全員分で計100枚。これが今の俺の限界だが、都合よく相手の光線の総数も100程度だ。
その半分ほどをセナが引き受け、完全に当たらないものを取捨選択していけばカバーなど容易だ。しかもつららさんが厚い氷の壁を展開してるし、遠坂スタイルで防御に専念できる。常に余裕をもって優雅に!
「余裕余裕」
やはり、問題なく防ぎ切ることが出来た。だがそれだけでは、前から何の成長もしていない。それだけでは、ただ使えるだけで変化がない。ならば何が出来るか? 強化する為の答えは、元より手の中にある。時間を、更に減らせば良い。
「ハッ」
2回目の射撃に合わせて、展開時間を1秒から0.7秒にまで減らした障壁を展開する。一見何も変わってない様に見えるが、地味にズレがある以上前よりは辛い。最低限の障壁と足捌きで踊る様に光線を躱し、全員分のカバーをするのは難しい。
だがまだ足りない。足りないぞぉ! クーガーの兄貴の発言を借りるまでもなく、速さが足りない!
「ハハッ」
3回目の射撃に合わせて、頭上にMPポーションを3つ投げつつ舞いと障壁サポートを継続する。確か人間の反応出来る限界が0.2〜0.1秒。今の速度にはもう慣れた、1秒付近なんて甘えはここで捨てていこう。
つららさんの張った氷の防壁には、未だ被弾はほぼ無し。ならばもっと攻めていくしかないだろう。
「ハハ、ハハハッ!」
4回目の射撃。全身をMPポーションで濡らしたまま、踊りつつ展開時間を更に削る。展開時間は、一気に削って0.3秒。そこまで削った弊害か、やはり光線に対して展開を失敗している部分が一気に増えた。
ちょっと距離があるせいで、前衛組の防御が非常にやりにくい。なにせ後衛組と違って、もの凄い勢いで動き回ってるし……いや、これは甘えか。仮にも支援役と名乗っているのだから、前衛の道を切り拓いてこそだろう。
「ラストぉ!」
そして、最後の一斉射撃。無理矢理感覚に合わせた障壁を連続展開、先程とは比べ物にならない精度での防御に成功する。心の内でほくそ笑みながらも、集中は切らさずボスを見る。
するとそこでは、攻撃後の無敵時間も終わり、本体だけとなったボスに赤黒い色の鎖が纏わりついていた。そのどれもが、なんというか【死界】で感じたのと似た様な雰囲気を発している。
「ん」
「ナイスれーちゃん!」
そんな事を言いながら、セナが銃を乱射しながら突撃。下段から振り上げた銃剣が、ボスの翼を切断した。……うん、あの鎖はれーちゃんの仕業という事で良いのだろう。よくよく見れば、デバフっぽい感じもするし。
とりあえず俺の役割は終わったと思うので、再びフードを被り支援に徹することにする。前衛組にバフをかけ直し、れーちゃんの後ろ辺りに陣取って補助を続ける。
「まあ、その必要もなさそうか」
「ん?」
何かを感じ取ったらしきれーちゃんを尻目に、前衛を観察しているとそうとしか思えなかった。
飛び上がり天井を蹴って降りて来たセナがもう片方の翼を切断し、藜さんの槍が足を突きボロボロに穿ち尽くした。そこにランさんの銃撃が入り腕を粉砕し、つららさんの魔術による氷の牙が残った足も氷漬けにし食いちぎっていった。
それらのお陰で恐ろしい勢いでHPは削れていっているのだが……やはり、見ていて気持ちの良い光景ではない。だからこそ俺がソロで来た時は、なんの感情も見せる間も無く一刀で全て吹き飛ばしたのだし。
「さてと」
念の為れーちゃんの前に出て、地面に伏せてスコープを覗き込む。どアップで苦痛に歪むボスの顔が映った、止めよう。地面に伏せたまま、今度はスコープを覗かず狙いをつける。装弾数は残り9発……よし、今回はここで使い切ってしまえ。
「狙い撃つ」
ボスの光臨から発射される攻撃をタイミングを合わせ封殺しつつ、本体の体を加速10枚分の速度を乗せた射撃で撃ち抜いていく。
途中でヘイトが溜まりすぎたのか、ステルスが解けるというアクシデントこそあったものの、俺が全弾を撃ち終える頃にはボスのHPは残り極僅かとなっていた。ものの数分でこの始末……前衛の火力が本当におかしい。いや、6人中4人がアタッカーだからか。
「《バーストショット》!」
そして残っていたそのHPも、セナが放った爆発で敢え無く0へと落ちた。人型ボス、やっぱりあまり相手にしたくないなぁ……やるからには一撃で仕留められるように努力しよう。
そう意思を再確認してる間に例のメッセージが届いたらしく、藜さんはセナと、れーちゃんはつららさんとハイタッチしていた。俺はもう何回か来てるから特に新しい報酬などは何もない。強いて言うなら、既に何個か持っているレアドロップの素材である【機天の光輪】くらいだ。
「これで一応、全員が最前線に仲間入りか」
「そう言うことになるな」
いつのまにか近くにいたランさんが、ボソッと呟いた俺の言葉にそう返した。ボンヤリといるのは分かってたとはいえ、気が抜けていると結構ビックリするものである。あ、そうだ(唐突)
「そういえば、障壁邪魔じゃありませんでした?」
「ん? 最初は邪魔と言えば邪魔だったが、最後の方は特に気にならなかったな」
「なるほど、やっぱり1秒もあったら邪魔でしたか。0.3秒まで削って正解でしたね」
事実を言っただけなのに、なんだか信じられないものを見る目で見られた。解せぬ。【空間認識能力】にリミットが設定されてなければ、多分0.1秒まで迫れた気がするから尚更解せない。
悔しさにぐぬぬと唸っていると、セナ達女子組がこちらを手招きしていた。どうやらこっちに来いという事らしい。
「行きますか」
「そうだな」
こういう時は、後手に回った方の立場が低くなるのである。古事記には書いてないが、自明の理だ。
「先ずはみんなお疲れー! かなり相性が良いボスだったけど、こんなに早く倒せたのは初めてだよー」
「ほぼ全員がアタッカーだからな」
ランさんが、頷きながらそう言う。確かに我らがギルドは、俺以外全員がアタッカーと言っても過言じゃないとかいう、超脳筋思考だった。いや、一応れーちゃんはデバフ強いっぽいし、セナも回避盾染みた事はしてるんだけどね?
「正直、俺のサポートとか要らなかったんじゃないかなぁ」
「それは、ない、です」
はぁ……とため息を吐いた俺を、藜さんがキッパリと否定した。
「躱す手間が、省けますし、安心感が、全然違い、ます!」
「そうですよ! あんな狂った防御ができるのって、ユキさんしかいないじゃないですか!」
「えぇ……?」
褒められてるのか貶されてるのか分からないつららさんの答えに、微妙に悲しくなる。まあ、何回か受けてもう慣れたから気にしない気にしない。
「まあいいか、うん。
それで、このまま第4の街まで行く予定で?」
少し疑問に思ったので聞いてみる。
第4の街【ルリエー】に行くには、湿地帯とかなり広い川を渡って、追加で沼地も通る必要があった気がするのだ。バイクは俺含め3人乗りだし、結構な距離の割に高速移動手段がない気がする。
「んー、別にあんまり時間もかからないし……あ、ユキくんはAgl無いから……」
「そうそう」
バイクにでも乗らない限り、俺の鈍足に合わせてもらうか置いていかれるかになる。前者は泥はねが迷惑になるし、後者はそもそも御免である。
「セナちゃん、それだと私もAgl足りないかも」
「ん」
ランさんの隣にいるつららさんが、恐る恐るといった雰囲気でそう言ってきた。そして2人の足元でぴょんぴょんと跳ね、れーちゃんも自己主張している。紛う事なき癒しだ。
因みにAglのステータスで比べると、セナ>(特化型の壁)>ランさん≒藜さん>つららさん>れーちゃん>(極振りの壁)>俺 となる。最近セナのAglの値、補正込みだけど夢の700代に乗ったとか話してたっけ。
「お前のバイクは、確か3人乗りだったよな?」
「ですね。んー、あー、なるほどそういう事ですか」
後衛3人がバイク移動、他は普通に移動すれば保つという事だろう。見た目と立場的に、俺が運転するのはあまりよろしくない気がするけれど。
「……ランさんって運転出来ます? スキルが無くても、最低限は乗れる様になってますが」
「サイドカーを運転した経験はないが、一応リアルの運転免許は持ってるぞ。だがお前はどうするんだ?」
「障壁で座席作るので、それで」
お互いに目を合わせ、問題ない様なので固い握手を交わす。問題なく交渉は成立した。こういう時、ランさんは話が早くて助かる。
話がまとまったので、俺は立ち上がって距離を取り、そのまま《偃月》を勢いよく抜き放った。そしてくれぐれも何かにダメージを与えない様に、白刃をV字に振るう。
「ウェイクアップ……ヴァン!」
目を丸くするランさんの前に、上空に展開したアイテム欄から
「みんな準備出来たみたいだし、れっつごー!」
そんなセナの声が引き金となって、俺たちは【ルリエー】に向かって出発したのだった。追従設定で張った障壁の上に体育座りする実に怠惰な飛行方法は、実に脳が震える結果だった。
余談だが、途中から俺がセナと藜さんに両脇を固められ、微妙に居心地の悪いけれど良い状態に陥ったのは言うまでもない。最後まで2人分の障壁に3人で座ってたけど、リアカー出せばよかったかもしれないなぁ……いや、それでもダメか。後々でいいけど、最低でも座席になる様に改造しないと。
幸運89くらいをマイナス補正入れて代用ロールしてます。