幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第45話 ルリエーへ

 湿地帯を走り抜け、馬鹿でかい川に架けられたプレイヤーメイドの橋を抜け、職人が最低限整備した沼地を越えた所に第4の街【ルリエー】は存在している。だが、俺は正直この街があまり好きではなかった。

 

「到着〜!」

「酔いそう、でした」

 

 その理由は、この街の周囲の地形である。北西方面に広がる尋常じゃない広さと深さの湖のせいで、先程まで走っていたプレイヤーが最低限整備した場所以外は例外なく水に沈んでいるのだ。つまり、湖、北東の腐った木の集まった腐林、南東から南西にかけて広がる沼地の全てで、ロクにバイクを走らせることが出来ないのだ。ならば街中ならと思うかもしれないが、それも不可能だ。街中にはヴェネツィアや某漫画のウォーターセブンの様に水路が走り、歩道は人が2人並んだらもう狭い程しかない。そんな所でバイクを走らせたら、水路に一直線である。

 

 今だって、街の大門の端に僅かに存在する陸地にバイクを停めている状況だ。お疲れ、と泥だらけのバイクに一声かけてからアイテム欄に仕舞う。

 

「街にはついた。俺たちは俺たちで、好きな様に動いてもいいか?」

「いいよー。寧ろ、今日は付き合ってくれてありがとうね!」

 

 そう言ってセナが手を振る先、ランさんとつららさん、れーちゃんが係留されてたゴンドラに乗って街の中へと向かっていった。この街の中での基本的な移動手段は、50D払ってあのゴンドラに乗る事だ。

 

 まあステータスのゴリ押しで飛び回ったりも出来るし、俺は俺で障壁を張れば水面を歩けるのであまり関係ないが。後は、あんな風に物凄い良いフォームで走る良い体格のおじいちゃんみたいな人も……おじいちゃん!?

 

「フハハハハ!」

 

 ガションガションと非常に機械的な足音で水路ダッシュをし、そのままフィールドに出て行ったおじいちゃんを見て固まってる藜さんを放置し、ランさんに『デート楽しんでくださいね』とフレンドメッセージを送っておく。

 少し……いや、かなりビックリしたけどあの人は間接的な知り合いだし。シドさんの所のギルマスの特徴と完璧に一致してるからね、仕方ないね。名前はハセさんだったっけ。

 

「ゆ、ユキさん、今の! 今の!」

「あー、まあ知り合いですから慌てなくても大丈夫ですよ?」

 

 俺の袖をくいくいと引っ張り、震える手で走り去るハセさんを指差す藜さんにそう答える。頭を撫でるのは最近はもう我慢できる様になって来たから──

 

「え、嘘。ユキくんアレの知り合いだったの!?」

「あー、うんそうだね」

「なんか私の扱い酷くない!?」

「はいはい」

 

 気がついたらセナの頭をポフポフとしていた。馬鹿な……克服したと思っていたのに。藜さんからの視線が痛いのですぐに止めることが出来たが、これは非常に危ない。あーほら、セナもなんか勝ち誇った様な顔しない。

 結局目の前で、バッチバチ火花が散り始めた。休戦してるのはボス戦とかの間だけだったらしい。ヤバイナー、イガイタイナー。しかも逃げたら地獄の果てまで追われること請け合いである。

 

「よし、堂々と逃げよう」

 

 小さくそう呟いて、俺は水路に飛び降りた。一応ある程度泳ぐ事も出来るが、遅いので障壁で一歩分の足場を作っての移動である。

 そして対岸に着いた時には、目の前に2人がいた。アイエェ!?

 

「どこ行くつもりだったの? ユキくん」

「置いてけぼりは、いや、です」

「アッハイ」

 

 いや、その、さっきまであんなにバチバチしてたのに連携早くないです? どっちにしろ、俺が逃げられる訳もなかったという事だ。

 そして、2人で俺の周りをぐるぐる回りながら話を始めた。俺は神父でも麻婆好きでもマスターでもないのに……あ、黒鍵はいつか欲しいけど。基本的に投擲物は俺の主な攻撃手段な訳だし。

 

「ふふふ、この街に来たからには、ユキくんには私達の買い物に付き合ってもらうんだよ!」

「嫌な予感がするんですが」

「ここは、周りが全部、水浸し、です。それで、今は夏、です」

「あっ」

 

 察した。

 

「それに、そろそろ夏休みだもんね! ずっと戦いっ放しなんてのは、女子としてダメだと思うんだ!」

「そして、ここは、最前線ですけど、観光地にも、なってるそう、です」

 

 オーバーレイでもするかの如く回転する2人の言っている事から、これから俺に何が要求されるかという事を察することが出来た。マズイな……セナなら見慣れてるから良いとして、藜さんの場合はとても宜しくない。俺の貧弱なボキャブラリーじゃ、褒め言葉とか陳腐なのしか出てこないぞ……

 

「つまり?」

「「ユキくん(さん)には、私達の水着の買い物に付き合ってもらう/います!」」

知 っ て た

 

 だが、予想通りの展開だったが故に『それは違うよ!』って感じでその言葉、斬らせてもらう!

 

「俺としては別に付き合っても良いよ?」

 

 ここでにべもなく断る様だったら、俺はとっくにリアルで刺されている様なことが沢山ある。誰にとは言わないが。まあそれは良いとして、藜さんはどうか知らないがセナと俺には重大な問題があるのだ。

 

「まあ、リアルの話を持ち込むのは無粋だって分かってはいるんだが……セナって勉強してるか? 俺の知る限り、部活とUPOに全振りして課題すらやってなかったりする記憶があるんだが。

 確か、1週間もしないうちに期末テストだった筈だぞ? 補習とか入ったら目も当てられないんじゃないか?」

「……あっ」

 

 完全に忘れていたという顔で、セナの動きが止まった。セナの苦手教科は数学と社会系統だ。この分だと、ロクに勉強してなかったな。苦手教科を知ってる理由? 課題見せたりなんだり色々あるからに決まってる。因みに俺は、逆に英語に関しては沙織に頼ってるのでwin-winである。

 

 さて、藜さんはどう言いくるめようかと振り向くと、こちらもこちらで固まっていた。え、藜さんの方でもテスト? でも時期が同じとか地味におかしい気がしないでもない。

 

「ちょっと作戦たーいむ。ユキくんは動かないでね!」

 

 そう言ってセナは、藜さんの手を引いてコソコソと話し始めた。アレは混じれそうにない。

 暇だから魔導書を水車みたいに回して待っておく。そういえば最近、暗記科目とかの成績が右肩上がりなんだよなぁ……なんとなく、無茶な使用をしてた【空間認識能力】のお陰な気がする。気のせいかもしれないが。

 

 そんな下らない事を考えているうちに、2人の密談は終わったようだった。2人してこちらにずんずんと近づいて話し始めた。

 

「テスト終わったら、付き合ってくれるん、ですよね?」

「そりゃまあ、勿論」

「言質は取ったからね!」

 

 そう言って2人はログアウトしてしまった。

 そのまま数秒放心して固まっていると、何人かのNPCから同情する様な目を向けられていた。それでも話しかけてこないあたり、ゲームなんだなぁと……いや、痴話喧嘩に関わりたくないだけだな(確信)

 

「さて、何しよう」

 

 差し当たりの目的だったボス討伐が終わり、なんだかんだで俺を引っ張ってくれる人がいなくなった今、完全に俺は暇になった。いつもならフィールドに出て爆弾パーティーの流れなのだが、さっきまで外を走っていた為そんな気分にもならない。かと言って、街の大通りは既に回った事があるので別にいいやと思える。

 

「……あ、アレがあったか」

 

 思い立ったが吉日とも言うし、俺は踵を返し街という安全圏から外へ踏み出した。そして、そのまま守衛さんに笑顔でサムズアップし自分にフィリピン爆竹を叩きつけ爆発させた。

 瞬時に身体は砕け散り、HPは0へと落ちてリスポン場所への転移が始まる。ポータルに行くより、多分これが1番早いと思います。

 

 

「さて」

 

 リポップしたギルドの個人部屋の中で、ベッドに腰掛けて大きく息を吐いた。因みに、ギルド内のどこをリスポン地点にするかは自由なので、ランさんからの訴えによって(デフォルト)の場所から変更してたりする。

 そして、態々ここに戻ってきた理由は、今まで放置してアイテム欄の肥やしになっていたあるアイテムを使う為である。

 

「完璧に忘れてたよなぁ……これ」

 

 そのアイテムの名前は『レアスキル取得チケット』と『Sレアスキル取得チケット』。それぞれ【ヘイル・ロブスター】と【機天・アスト】の初回討伐ボーナス品である。正直新しいスキルとか要らないと思って放置していたが、取得可能なスキルを見るだけでも時間を潰すのにはもってこいだろう。何せ前のとは違い、レアとSレアなのだ。さぞ良いものがあるに違いない。

 

 そう考えレアスキルの方から見ていくが、要らないものばかりが陳列されているだけだった。幸運が上がるものもほぼ上位互換は無いし、不遇スキルやネタスキルも突き抜けた物がなかった。はっきり言って、期待はずれである。

 

「れーちゃんに相談しても使い道がなかったら、こっちは完全にゴミ箱……いや、誰かに売るか」

 

 そう割り切って、実体化させていた銀色のチケットをアイテム欄に仕舞い直す。残っているのは、金色のSレアチケット。こっちこそ期待して良いだろうと選択画面を開く。

 アホみたいに出現するスキルをソートし、お目当の物を探していく。あ、【マネーパワー】の上位互換があった。

 

「ぐぬぬ……流石Sレア。欲しい物が多い……」

 

 それでも欲しいものが3つという俺は、案外欲張りなのかもしれない。普通の強スキルをバッサリカットしてるだけとも言う。まあそれはいいとしてだ、欲しいのはこの3つとなる。

 

 1つ目は【豪運】という、強化倍率が1.3→1.5倍になった幸運の強化スキル。

 2つ目が【儀式魔法】という、無駄に準備と発動に手間がかかる上発動率が安定しないが、したらなかなか強いらしい魔法スキル。

 3つ目が【大富豪】という、マネーパワーの強化倍率が0.003%に変わった上位互換スキル。

 

 重複するなら1つ目なのだけれど、どうにもそこは怪しいから決断できない。後下2つが、後々後ろ髪を引かれる思いになるのが見えるということもある。

 

「こういう時は、ダイスに限る」

 

 どれにしようかなと指先で決めても良かったのだが、この歳にもなってという考えが浮かんできたので変えることにした。そして、ゲーム内のLukが影響しない(筈の)ゲーム外ネットにあるダイスアプリを起動する。3つだし、1d6振って4以降を2で割ればいいだろう。割り切れない5は1扱いで。

 

「せーのっ」

 

 目を瞑り実行のボタンを押すと共に、コロコロという電子音が響き……ピタリと止まった。ゆっくりと目を開けると、そこに表示されていたのは4。ということは、選ばれたのは綾鷹もとい【儀式魔法】という事になる。

 

「よし、取得っと」

 

 使うタイミングは限られそうだが、良い買い物をした。やり込み要素が増えるのは良いことに違いない。

 なんかこう、盛大に爆発を起こす魔法とかあればいいなぁ……威力はお察しだろうけど。




【儀式魔法】
 儀式を行い魔法を発動するスキル
 このスキルは、MPを消費しない
 術者の技量によって、範囲・効果・強度などが全て変動する

 使用可能魔法
 ・大規模HP・MP回復
 ・大規模魔法攻撃
 ・大規模ステータス強化

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