幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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Diesあれ、既知かと思ったら未知じゃないですかやったー


第49話 回復魔法

 もう既にテスト期間は終わった。

 

 テストが明けたらどうなる?

 

 知らんのか?

 

 地獄(てんごく)が始まる。

 

「ユキくん、これはどう思う?」

「ハイ、トテモオニアイダトオモイマス」

 

 試着室から出て来たセナがクルリと回って見せて来たのは、白いビキニタイプの水着。『見てから貧乳回避余裕でした』な体型のため、ちょっと言及はし難いのだけれど。

 

「なら、これは、どうです、か?」

「スク水ハサスガニセメスギダトオモイマス」

 

 隣の試着室から現れた藜さんは、何を思ったのかスクール水着だった。ちゃんと平仮名であかざと書かれてる辺り製作者の(異常な)拘りを感じるが、流石に犯罪臭が漂うので無しだと思う。

 

 そう、この事から分かる通り俺は、約束どおりセナと藜さんの水着選びに付き合っていた。その時間は、なんと1時間オーバー。無論そんな長く買い物をした経験のほぼない俺は、案の定2人を誉めるための言葉を出し尽くしてしまっていた。語彙が尽きていた。それでも続いているせいで、少し前から俺の目にはもう、光は灯っていないだろう。

 

 考えてもみるといい。ちらほら女性プレイヤーがいる中、1時間近く別の言葉で褒め続けなくてはならない苦痛を。女性NPCから変態を見る目で見られながら、時折とんでもないことをしでかす2人に感想を求められる辛さを。まあ健全な男子としては眼福なのでプラマイゼロではあるのだが、何着目かも分からない今、最早言葉が限界である。

 

「俺は燃え尽きたよ、燃え尽きた……真っ白にね」

「駄目だよユキくん!」

「そう、です。まだ、だめです」

 

 もう無理だという意思表示のために試着室の前にある椅子に座り込んだのだが、2人は許してくれなかった。本当にそろそろ、団長命令を忘れて止まってしまいそうだというのに。

 その点、ランさんは彼女と妹に愛が溢れているから問題なんて何もないのだろう。やっぱりスゲェよランさんは……

 

「ユキくんがズバッと決めてくれたら楽なのにね、藜ちゃん」

「そう、ですね。やっぱり、それが嬉しい、です」

 

 というか、2人は微妙に仲が悪かった気がするのは気のせいだろうか? 今は関係ないですかそうですか。

 それにまあ、一応凄く似合ってるなーと思っているのはちゃんとある。1番精神的に虚無っていた時だから、顔には出てなかったと思うけど

 

「ユキくん、ちょっとその話詳しく」

 

 そんな事を考えていたら、ズイっとセナが詰め寄ってきた。いつ試着室から出てきたか、全く分からなかった。探知系のスキル、やっぱり発動させておかないとダメみたいだ。

 

「えっ、なんか声漏れてた?」

「ばっちり、です」

 

 試着室へ戻るコースだった藜さんにも聞こえていたらしく、凄く気になるという雰囲気でサムズアップしこちらを見つめている。相当大きな声で漏れてたんだろうなぁ……

 

「それでそれで! ユキくんがいいなって思ったのはどれ?」

「あ、その、私のも、教えて欲しい、です」

 

 もう答えるしかないと分かってはいるが、どう考えても公開処刑でしかない気がするのは気のせいだろうか? 一応店内には俺たちを除きプレイヤーはいないけど、半分くらい自分の好みを暴露する様なものだし。

 まあ、諦めるしかないのだろう。心を無に、けれどちゃんと心を込めて答えねばなるまい。

 

「セナは結構前の、水色ベースの……」

「ワンピースっぽいのだね! わかるとも!」

 

 間違ってないので頷く。けどなんで、俺の思考がここまで把握されてるんですかねぇ……? まあご満悦といった顔でレジに行ったしいいか。

 

「藜は、少し前の赤と黒の……」

「これ、ですか?」

 

 そうして藜さんが着替えたのは、黒をベースに赤や金に彩られた水着。詳しい名前は知らないが、セナのとは違い上下で分かれているもので、レースがふんだんにあしらわれている。

 そしてなにより、惜しげも無く晒されたへそが眩しい。少し恥ずかしそうな表情も相まって、なんだか元気が戻って来た気がする。そうか、これが噂に聞くへそフォルテ……間違いなく回復魔法だ。

 

「ユキさん、元気に、なりました?」

「お陰様でなんとか」

 

 男なんて、可愛い人が可愛い服を着てるのを見れば大概元気になる単純な生き物なのだ。沙織(セナ)に関してはとうの昔に麻痺しているが、それは俺だって変わらない。

 

「買い物、ずっと付き合わせちゃって、ごめんなさい。つまらなかった、です、よね?」

「いえ、元々付き合うって約束してましたし」

 

 女子の買い物を舐めきっていた俺の怠慢である。セナ1人の場合は、なんとか誤魔化すことは出来ない事もないんだけどなぁ……

 

「それなら、よかった、です。これはちょっと、恥ずかしいですけど」

「すみません、自分の考えだけだったので……所詮一意見なので、違うと思うなら、藜が好きなのを選んだ方がいいと思いますよ?」

「い、いえ! これで、問題なし、です!」

 

 一応変えても問題ない旨を伝えてみたのだが、逆に焦ったように否定されてしまった。何でこうなったのだろうか? わからん……全然わからん。

 

「あー! なんか2人でいい雰囲気になってる!」

「むっ」

 

 普段の格好に戻ったセナが、戻ってくるなりそんな事を言った。こちらを指差し、なにやら不満であるという雰囲気がありありと見てとれる様子だ。そして、先ほどまで平和であった2人の間にバチバチと火花が散る光景を幻視した。威嚇し合う動物のスタンドが見えるあたり、まだ精神的にそうとう参っているのだろう。何せ大型犬と鷹だし。

 

 そんな光景を諦めの境地で見ている俺に、NPCのお姉さんが厳しい目を向けてきた。要するに、迷惑だから止めろという事なのだろう。いや、絶対にそうだ。

 

「ともあれ、藜は精算して普通の服装に戻りません? ちょっと目のやり場に困るので……」

「え、あ、はい。わかり、ました」

 

 俺の指摘で、顔を赤くした藜さんがレジの方へ向かって行った。これでどうにか、決闘なんて事に発展する事はなくなっただろう。これで店員さんからのオーダーは達成した。残るは、ムッとしたセナをどうにか宥めるだけだ。

 

「藜ちゃんばっかり贔屓するんだ」

「いや、別にそういうわけじゃないんだけど……」

「じゃあ、選んだ水着の違いは? 私と藜ちゃん、体型殆ど同じだよ?」

「だってセナ、ああいうの好きだっただろ?」

 

 俺がそう言うと、セナの動きがピタリと止まった。純粋に似合ってるなと思ったのもあるが、それが1番の理由だ。確か去年の修学旅行で、自由時間にそんな感じの水着を着ていた覚えがある。ついでに、双方の両親揃って行った旅行の時もそんな感じだった筈だ。

 やめよう。これ以上考えると、普段とは別の意味での変態になりかねない。

 

「え、えと、何で?」

「そりゃ、何年も見てきたしな」

 

 結構小さい頃から家ぐるみの付き合いらしいし、少なくとも中学からはこんな感じの関係なのだから。……考えてて恥ずかしくなってきたなこれ。そんな自分の頬の熱を誤魔化すように、同様に赤くなったセナの頭を多少粗めに撫でる。

 

「ふ、ふん! それなら許してあげる!」

 

 目を細めてそれを受け入れていたセナだったが、すぐに離脱してそう言った。さっき見えた大型犬のスタンドが、千切れんばかりに尻尾を振っているのが幻視できる。この前回収したわん子化紋章とか、使ってみたら似合うんじゃなかろうか? やらないが。

 

「お待たせ、しまし、た?」

「あ、おかえり!」

「です」

 

 さっきまでバチバチしていたとは思えないほど柔らかくなったセナの態度に首を傾げつつも、戻ってきた藜さんは答える。服もいつもの状態に戻っており、目のやり場に困る事もない。

 

「そういえば、ユキさんは、水着、買いました?」

「え?」

 

 これで漸く休めると思っていた俺に、ふと藜さんがそんな事を聞いてきた。水着、水着か……

 

「買いはしましたけど、安全圏以外じゃ着てるとすぐに死んじゃいますね」

 

 こればかりは、ステータスの仕様上どうしようもない。環境適応(水)なるスキルの付いた高価な物を買ったが、普段の装備の補助がない分一瞬で死ぬこと請け合いだ。またユキ殿が死んでおられるぞ! と言われても不思議じゃない。

 まあ、男の水着なんて見ても楽しくはないだろうし。トランクスっぽいのだけど、どうでもいいだろう。

 

「最悪、一応【水泳】のスキルも使えるので、このままでも泳げますね」

「ユキくん、私達が遊ぼうとしてる所、安全エリアだよ?」

「それは知ってる。けどこの前行った時、湖の底歩いてたら突き殺されたから……」

 

 何となく見に行った時に、レバー(加速)入れ大ジャンプからの《加重》マシマシコンボで、湖底に行ってみたのだ。そうして真っ暗な湖底を光属性を付与した水着とチャット画面の光を頼りに歩いていると、気がついたら胸から三叉槍の先が突き出していた。まだ地図上では安全圏の中だった筈なのに、即座に死に戻りしてしまったのだった。

 故に多分、普通のプレイヤー同様に泳いだら俺は死ぬ。

 

「まあそれでも、浅瀬なら大丈夫だよね!」

「きっとそう、です」

 

 そんな意見に押し流され、なし崩し的に海水浴をする事が確定したのだった。

 

 

「とまあ、こういう感じです」

「自業自得な気もするが、よく頑張ったなお前……」

 

 その日の夜、諸々の事情説明を終えた時、ランさんが優しく肩を叩いてくれた。

 

「つららもれーも乗り気の様だし、勿論俺も行く。ヴォルケインとジングウが欲しいところだが、無い物ねだりは止しておこう」

「このゲームじゃ、いつか実現出来そうな気はしますけどね」

 

 現に、機皇帝を再現してる変態は2人確認出来てるし。そういえばハセさんは、ギルマスじゃなくてサブマスだとシドさんが言っていた。ギルマスはZ-ONEっぽい人(ゼフさん)らしい。物理近距離特化のシドさん、物理遠距離特化のハセさん、魔法支援が得意な時戒神を操るZF(ゼフ)さんが主要メンバーなんだとか。その3人が走る後ろを、アドラステアを始めとしたバイク艦隊が動く絵は非常にシュールとしか言いようがない。

 

 閑話休題

 

 まあそんな変態がこのゲームには溢れているのだから、巨大ロボの1つや2つはいつか作れるに決まっている。

 

「そうだな……いつか作ってみせるさ」

「知り合いにロボ使って戦ってる人がいるので、紹介します?」

「是非頼む」

 

 ここで繋いだ出会いが、きっといつかの実現を掴む事を願っておく。巨大ロボ用の爆薬とかあったら融通してもらおう。

 

「お礼という訳でもないが、愚痴があるなら言っていくといい」

 

 そう言って、ランさんが1つのコップを渡してきた。匂いを嗅いで見れば、お酒独特のあの匂いが漂ってくる。

 

「あの、俺未成年なんですけど?」

「全年齢プレイヤーが買える場所で買ったやつだから問題ない。酔えるのもあるにはあるが、それは二十歳になってからのコンテンツだな」

「さいですか……」

 

 無駄に充実してるなと思いつつ口をつけると、甘い様な苦い様な不思議な味が口の中に広がった。なんとなく、口が軽くなった気がしない事もない。

 

「それじゃあ遠慮なく──」

 

 こうして、夜は更けていくのだった。

 




ユッキーが、スピリタス《全年齢対象版》を、手に入れたゾ
なんでもう1個の方日刊に載ってるんだろ……(昼11時現在)

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