名前が分かりにくいって意見があったし、何処かで一回登場人物紹介みたいなの入れようかな……
突然の特別称号授与事件より約1週間。その騒ぎも鳴りを潜めてきた頃、俺たちの学校は漸く夏休みに突入した。俺は基本的に問題なく、沙織は怪しい教科こそあったものの補習などもない夏休みが始まったのだった。藜さんも、テストは問題なく突破したと聞いた。
因みに余談だが、あまりに対戦希望者が多かった為うちのギルドのメニューにセナとのPvPが追加されてたりする。多すぎて他の人の迷惑だったからね、有料にしても仕方ないね。俺? 俺のは勿論ない。
まあそれはいいとして。夏休みに突入し、特に予定が立て込んでもいない。そうとなれば、セナ達が待ちに待ったアレが始まるのは自明の理であった。
「夏だ!」
「海だ!」
「湖、です」
「ん!」
「「海水浴だー!!」」
雲1つない空から、燦々と照りつける太陽。その光を反射する白い砂浜。キラキラと煌めく青い湖面。そして視界のかなりの範囲を埋め尽くす肌色……いや、言葉を気にするなら薄橙かペールオレンジか? 面倒臭いし肌色でいいややっぱり。
要するに、ゲーム内で海水浴に来ていた。
第3の街北西方面に広がる広大な湖の内、僅かに存在する街中と同じセーフティエリア。海水浴に最適と言えるそこでは、男女入り乱れてそこそこの人数が来ていた。
「はぁ……」
我先にと走って行ったセナとつららさん、その後に続いたれーちゃんと、さらにワンテンポ遅れて走って行った藜さん。全員を見送った俺は、パラソルを始めとしたセットを組み立てていた。下手に接触事故が起き死んでも困るし。
「それにしても」
賑わっているビーチの中に、ランさんの姿は今のところない。つららさんに『1時間程遅れる』とメールが来ていたらしく、遅れるという事になったからだ。つららさんは文句はないと言っていたので良いのだが、こんなカップルかつトッププレイヤーの集団に囲まれる俺の気持ちにもなってほしいものである。
「はぁ……」
と、大きく溜息を吐いた時のことだった。ギュィィィンという聞きなれない機械音と共に、振動が伝わってきた。何事かと長杖を引っ張り出すが、自分の今の格好的に即死は免れないだろう。
そうして武器を構えた俺の前に出現したのは、巨大なタケノコだった。いや、訂正しよう。地面を突き破り現れたのは、人1人はすっぽり収まりそうな巨大なドリルだった。そして、目の前で動きを止めたドリルはぱっかりと割れ中身を曝け出した。
「ふむ、どうやら無事に到着したようだな」
「まさか完成してるなんて……いや、ランさん何やってんですか」
中から現れたのは、普段の格好ではなく海パン一丁のランさんだった。言いたいことは色々あるのだが、ツッコミどころが多すぎて逆に何も言えない。
「何と言われてもな。試運転が思いの外上手くいって、この【ジングウ】が予定よりかなり早く完成したから来ただけだが?」
そう言ってランさんは、閉じたドリルをポンと叩いた。それによってドリルは消え去り、大きな穴だけが残った。《障壁》じゃ微妙だし、どうしようこれ。爆破して埋めておこう。
「1時間ってそういう……つららさんは知ってたんですか?」
新調した爆竹を数本大穴に投げ入れつつ、ランさんに問いかける。伝えていないのなら、それはそれで地味に酷い気がするし。他人の交友関係に口出しするのは烏滸がましいってのは分かっているけれども、聞かずにはいられない。
「当たり前だ。伝えていない訳がないだろう」
「それなら良かったです。ギルドがギスギスするのは見たくないですから」
お前が言うのかといった目を向けられるのと、投げ込んだ爆竹が爆発して盛大に砂を巻き上げるのはほぼ同時だった。いやね、俺も分かってるんですけどね? セナ達は今も泳ぎで対決してるっぽいし。
「まあ、そうだな。俺はこれから泳いでくるが、お前はどうする? 見た所、特に泳いではいないようだが」
「もうちょっと整地したら行きますかね。大穴埋めないと……」
「すまん」
一言お礼を言って、ランさんは去っていった。その姿を見送ってから、俺は新生フィリピン爆竹を取りだして両手一杯に持って振り返る。
「さっきから『見ちゃいけません』とか、『爆弾のやべーやつ』とか、『テロリスト』とか『ボンバーマン』言ってたみなさん。今から軽く爆破してこの大穴整地するので、ちょっと離れてくださいね?」
そう笑顔で言い放ち、爆竹を全力で空に放り投げた。勿論スキルで狙いは完璧である。そんな俺の姿を見て、集まっていた野次馬は蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。
そんな奴らの足と自分の放った爆弾から、誰かが作ったであろう砂の城とパラソルなどを《障壁》で守りつつ《加重》と《加速》で地面にめり込ませた。
「爆ぜろー!」
そんな俺の掛け声と共に全てが起爆し、砂が舞い上がってから気がついた。
穴なら火薬で埋めれば良かったんじゃね?
だが時既に遅し。セーフティエリアなのでHPは減っていないが、爆風と砂に煽られて俺は穴の中に落ちていくのだった。
◇
そこそこの時間が経ち、泳ぐのに飽きたセナがつららさんに頼んで凍らせてもらった湖面でスケートを始めたり、れーちゃんがランさんとつららさんと一緒に砂浜で超リアルな城を作り始めた頃。
「ユキ、さん。ちょっといい、ですか?」
浮き輪代わりの《障壁》に身を任せ水面を漂っていた俺に、ふとそんな声をかけられた。立ち泳ぎに移行して周りを見てみれば、水面からひょっこりと顔だけを出した藜さんが手招きしている。
「はい、特に問題ないですけど……なんでしょう?」
「すごいの、見つけ、ました。来て、くれますか?」
ちゃぽんという小さな音を立てて、藜さんが首を傾げる。
後方で3人に分身しつつ10回転ジャンプを決めてるセナに目を奪われかけたが、常識外の事と割り切って返事をする。
「俺が行けるところなら」
「それなら、問題ない、です」
そう言って、藜さんは俺の手を握った。なんだろうこれ、無性に恥ずかしい。これが水着マジックとかいうあれだろうか? そんな事を考えている間に、藜さんは大きく息を吸い込んで水中へ一気に潜ってしまった。そうなれば当然、手を繋いだ俺も一緒に潜る事になり──
「ガボッ!?」
ステータス的に抵抗が出来ない俺は、なんの準備もする間も無く水中に引きずり込まれてしまった。なまじステータスによって速度がある為に、僅か十数秒でセーフティエリアの効果は消えてしまった。水面下10m程までが設定範囲だったらしい。
みるみる減っていくHPゲージに冷静さを取り戻し、風と光を付与する紋章を慌てて展開する。それによりHPの減少が止まり、漸く俺は体勢を整えることができた。恐ろしいほどの勢いであるが、もう無駄に慌てる必要もない。
そうすれば余裕を持って周りを見ることができる。かなり遠くまで見通せる程水は澄んでおり、セーフティエリアを越えた為にちらほらとモンスターの姿も見える。だが所謂ノンアクティブモンスターなのだろう、こちらを見ても何をするわけでも悠然と泳いでいくだけだ。
丸々太ったマグロの様な大きな魚、群体型のモンスターらしい小魚の群れ、ネオンの様な光を放つ烏賊に、水を蹴って疾走してくる巨大牛と、まるで魚の天国の様な……え?
「ごぼ!?」
藜さんに引っ張られるまま、迫る牛【The Water Caw】に向けて連続で《障壁》を展開する。だが、魔導書による強化がない今それは殆ど意味をなさずに砕けていき、《減退》による遅滞作戦もその巨体故にそこまでの効果は発揮していない。刻一刻と縮まる距離と、比例する様に無くなっていくMP。もうダメだと思うが一縷の望みに賭けて全MPを動員して全力で牛の行く手を阻んだ。
その瞬間、不意に水を抜けた。
「は……?」
ざばんという音と共に、僅かな浮遊感。【レンジャー】の振り分けを即座に水泳特化から気配感知に特化させる。判明した地面までの距離は6m、余裕の即死圏内だった。
頭を切り替える。
アイテム欄からMPポーションを取り出し軽く投擲、暴発させたカースで破損させて全身に降りかける。そして地面に落下する前に、僅かに回復したMPで《減退》を発動。ゆったりとした動きで砂浜に軟着陸に成功した。
「大丈夫、ですか?」
「死ぬかと思いました」
残り2割弱まで減ってしまったHPゲージとほぼ0のMPゲージの向こう側から、屈んだ藜さんが上下逆さで俺を覗き込んでいた。見えないのはシステムに保障されているが、際どいその体勢から顔ごと目を逸らした。
「どう、しました?」
「無自覚ですか……」
「……?」
一先ずMP回復の為、あのデメリット装備の耳飾りだけを装備して立ち上がる。見なかった事にはしないけど、心の内に留めておこう。
「って、そうだ!」
安心している場合じゃなかった。運営が解釈を間違えてる水牛が迫ったままだった筈だ。数秒は時間を稼げた筈だけど、ここに突入されたら十中八九轢き殺されるだろう。もう目の前に水牛は迫ってきているし、いざとなれば仕込み刀は抜くつもりだけど……
「大丈夫、です」
杖を構えて応戦しようとした俺の手を、優しく藜さんが下げた。何を、と思ったがその結果はすぐに証明された。
この場所を覆う半透明の膜に水牛が衝突した瞬間、膜の全体に幾何学模様や数字が走りその動きを止めたのだ。よくよく注視すれば《破壊不能オブジェクト》という表示があるのも見てとれる。
「ここは、一応、安全圏、ですから」
俺たちを追っていた水牛は、何度か膜に衝突した後諦めたのかどこかへ走って行ってしまった。
「どうやら、本当にそうみたいですね……」
「でも、振り切れないと、ダメ、でした。急いで、すみません」
「いえいえ、こんな綺麗なところに案内してもらえましたし」
なんだか申し訳なさそうにしていた藜さんに、優しく俺は言い返す。それに慣れることはないが、急発進はよく経験しているのだ。セナの引く台車に乗ってた時に。ドドンとなってパッと発射するジェットコースターみたいなあれに比べれば、今回はバイクの急発進くらいなのだから文句はない。死ななかったし。
「そう……ですか?」
「はい。寧ろ、こっちがありがとうって言いたいです」
「それなら、よかった、です。えへへ」
若干涙目になっていた様子の藜さんだったが、それで笑顔を見せてくれた。なんだろう、最近の煤と硝煙で汚れた心が浄化されていく気がする。
「それにしても、本当に綺麗な場所ですね。ここって」
半端な円柱状で横50m程の半透明の膜に覆われたこの空間は、ゲーム内でも殆ど見る事もない幻想的な光景を作り出していた。敷き詰められている真っ白できめ細かい砂から生えた珊瑚の様なものが点在しており、差し込む光がキラキラとした光で照らし出す。何故か空気のあるこの場所の中央には、珊瑚の森の様なものまで存在していた。
「はい! 折角だから、ユキさんに、見せたいなって」
とりあえずここは、藜さんが写り込まない様にスクリーンショットで保存しておこう。それはそれとして……なんで前回俺が潜ったときには見つけられなかったのだろうか?
「ありがとうございます。でも、もしかしてここって、クエストの開始点だったりして」
「まさか、ですよ」
そう言って藜さんは、何故か大きな深呼吸をした。そして意を決したように何かを言う直前、探知にモンスターが引っかかった。
「私は、ユキさんの事がひゃっ!?」
「失礼します」
飛来してきた三叉の投げ槍から守るべく、完全に無防備になっていた藜さんを抱き寄せる。MPがもう少し回復していれば、ちゃんと《障壁》で防げた物を……舌打ちする俺の前に更に、1枚のウィンドウが俺の目の前に展開された。
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【鎮魂の儀式Ⅲ】推奨Lv 40
邪神の復活はすんでのところで引き留められている。そんな中、不安定な封印が再構築される起点である空間に敵が侵入した。復活を防ぐべく、敵を排除しよう。
邪神の尖兵 0/30
呪い師 0/10
報酬金 70,000D
経験値 90,000
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今までと違うところは、今まで《クエスト実行中》と表示されてた部分が《クエスト参加人数 : 2》となっている事くらいか?
「ユキさんって、意外と筋肉、あるん、ですね」
「そりゃ、少しは鍛えてますからね!」
腹筋あたりをペタペタ触るのは、擽ったいからやめて欲しい。切実に。そんな事を考えつつ、空いている左手でウィンドウを操作し普段の装備に切り替える。頭は自動MP回復付きなので変えていないが。
「すみません。フラグ立てたせいか、クエスト始まっちゃいました」
「えっ」
今度は3本同時に飛んできた槍を、今度こそ障壁を張って逸らした。そうして足元に落ちてきた槍を見て確信した。この槍、この前俺の胸から生えてきたアレだ。
「装備って持ってきてますか?」
「すみません。ない、です」
それは些か以上に不味い。知っての通り、俺の攻撃のメインは爆破だ。最近は無限に出来るようになってウハウハだが、それではこの場を壊すことになってしまう。勿論そんな事はお断りだ。
「槍があれば、ここを壊さず戦えます? 防御はあの時みたく、全部俺が担当しますけど」
「それなら、多分なんとか」
「了解です」
藜さんを抱き寄せたまま、儀式魔法を発動するためのステップを刻みながらウィンドウを操作する。選ぶのは、俺が65%という拙い技術で作った槍。故に品質は良いとは言えないが……1つだけ仕込みをしてある。
「まだまだ試作品もいいところな有り様ですけど、【
笹の葉型の穂先に、全体的に機械チックな柄。その中に俺の【
「勿論、です!」
儀式魔法の回復光が降り注ぐ中、藜さんが受け取った槍を構えた。そして物陰から現れるインスマス面の人型モンスター達と、その奥にチラリと見えたローブを纏う人型。地味に不利な状況の中、戦闘が始まった。
連続クエスト「お待たせ!」
因みにれーちゃんは紺のスク水だった模様
-追記-
良くも悪くも注目の的なので、ユッキーがほぼ弄ってないリアル体型なのはスレに掲載されてます。失言とネットには気をつけよう!(優作風)