幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

68 / 243
なぜうちの主人公は、勝手に自分の導火線に火をつけて爆発したがるんだろうか。


第55話 始動

 落ちる。

 落ちる。

 落ちてゆく。

 反動ダメージで打ち上げ花火となって、加速の効果が切れた俺は夜の海に真っ逆さまに落ちていた。その最中、全身を黒い靄が包み込んだ。

 

『まずは1回』

 

 そしてそんな声が耳元で呟かれ、0になったHPゲージが回復した。これがスキル【常世ノ呪イ】による復活効果。色々とデメリットを背負う代わりに、確率で復活できるという破格の効果である。そんなことを考えているうちに、海面に叩きつけられた俺のHPが再び0になった。

 

『2回目』

 

 そう耳元で声がする。ちなみにこの声は、第2回イベントで遭遇した伊邪那美の声だったりする。音声の変更は、ONOFFボリューム含めて不可能らしい。無念。

 

「ガボ……!?」

『3回目』

 

 そして荒波に揉まれ、今度は溺死した。

 まあそれはいいとして、問題はスキルのデメリットのエフェクトだ。凍るような冷たさの女性の手の形という、なんだか“の”が多くなる様な表現でしか表せないものが脚に巻きついてくるのだ。実際とてもコワイ。

 俺の復活可能回数が平常時4〜6回、今は25〜7回なので最大おっそろしい量の手に足が覆われるのだ。加えて腕一本につき10%速度も下がる為、行動不能にはならないが元々ない機動性が目も当てられない程下がる。

 

『4回目』

 

 再度溺死したが、急流に乗ってくれたらしい。これは勝つる。何にかはわからないけれど。

 最後に問題なのは、死ぬ度に【死界】が広がること。初めは体表面10cm程度という小さなものだったのだが、今は某結界術の漫画に出てくる絶界くらいにまで大きくなっている。これでは誰も近づけないだろう。

 解除する方法は靴装備を外すことだが、それをしたらそれはそれで死ぬ。装備の付け替えは大きな隙だし、減った分復活回数が減る。故に、打ち上げられるまで待つしかない。

 

『5回目』

 

 そう適当に祈ると、高波が俺を攫って岩礁に叩きつけてくれた。当然死亡したが、陸地に上がれて一安心だ。とりあえず装備をいつものに変更して、発生していた【死界】を消滅させておく。これで誰かが近くに来ても即死ということは無くなった。

 

「ふぅ……」

『6回目』

 

 一息ついた勢いで岩礁に軽く頭をぶつけて死んだ。脆すぎるなぁと自分の耐久に呆れつつ、障壁を張って立ち上がる。ただでさえ被ダメが上がってるうえVit-160%なせいで、下手したら歩くだけで死にかねないからね、仕方ないね。ふふふ、やったね、夢のマイナスだよ(白目)

 

「ユキ、さん!」

 

 海水を身体を震わせて払うだけで減った自分のHPゲージに驚愕していると、藜さんが血相を変えた様子で文字通り飛んできた。

 

『7回目』

 

 その着地の際に飛んできた小石で死んだけど、まあそんなのは些細な問題だ。

 

「えっと、何かありましたか?」

「びっくり、しましたっ! でも、それよりも、これ、見てください」

 

 ちょっと涙目の藜さんが、ぐいっと1枚の画面を突き出してきた。

 

 ====================

 【運営よりお知らせ】

 このメールは全プレイヤーに送信されています

 只今、第4の街【ルリエー】にて実装されていた全てのストーリークエストがクリアされました。

 

 荒ぶる両腕《Ⅰ〜Ⅳ》complete!

 踏みしめる両脚《Ⅰ〜Ⅳ》complete!

 大怪魚の影《Ⅰ〜Ⅳ》clear

 Evil Rays《Ⅰ〜Ⅳ》clear

 フカヒレを追え!《Ⅰ〜Ⅳ》clear

 鎮魂の儀《Ⅰ〜Ⅳ》complete!

 

 よって、【ルリエー】における最終クエストが解放されます。

 クエスト参加可能対象者は【ルリエー】に到達した全プレイヤーとなります。

 開始時刻は8月13日(日)正午が予定されています。

 ====================

 【鎮魂の儀 Ⅴ】推奨レベル 50

 冒険者たちの善戦虚しく、封印を引き千切り邪神は復活した。それに伴い、活性化した眷属が大襲撃の準備を着々と進めている。

 

 レイドボス戦場 : フルトゥーク湖

 防衛戦場 : 外壁〜フルトゥーク湖間

 最終防衛ライン : 街中

 

 襲撃予定日時までに準備を整え、決戦に備えよう。

 

 勝利条件 : レイドボスの討伐

 敗北条件 : 街の陥落

 

 報酬 100,000D、Sレアスキル取得チケット

 経験値 100,000

 ====================

 

 ゆっくりと読み終え、顔を上げる。凄く楽しみ半分、やらかしたという気持ちが半分。いや、やっぱり後者の方が大きいか。

 イベントは今から大体1週間後、一応それまでに準備を整えろって事なのだろう。長いような短いような……まあそれはいいとして。

 

「……俺たちが──いえ、俺が引き金を引いたってのは2人だけの秘密って事でお願いします」

 

 そう言って俺は藜さんに頭を下げる。

 只でさえ、俺は色々とやらかしているのだ。これ以上何かやったとなったら、そろそろ吊るし上げられかねない。まあ煽ってきたら勿論抵抗するけど。爆弾で。

 

「良い、ですよ?」

 

 藜さんは、くすくすと笑ってそう言った。しかし、でもと言葉が付け加えられる。

 

「えっ、ちょっ」

「代わりに、これくらい、してもらい、ます」

 

 気がついたら、腕を持っていかれていた。言い直そう。水着姿の藜さんが、俺の左腕を抱くように持っていった。あ、これやばい。いやほんと、ちょっと本気でまずい。

 

「ふふ、役得、です」

 

 案の定出現したハラスメント行為の警告画面にNoを叩きつけつつ、しょうがないかと嘆息する。感触やら匂いやらで理性がガリガリ削られるし、セナに見つかったら大変な事になる気がするけど。まあ、ご満悦のようなので我慢する。

 

「それじゃあ、一先ずここから帰りますか」

「むぅ……はい」

 

 そう言って魔法陣に乗り、あの場所……マップ上では【泡沫の庭園】と表記されている場所に戻った。ここなら歩いてもダメージを受けはしないだろう。

 

「あっ」

 

 そして戻ってきた瞬間、何通かのメールが届いた。一通は数分前に届いたらしいセナからの『どこいるのー?』というメッセージ。そして残りが、運営からのものが2つだった。

 

「どうか、したんです、か?」

「いえ、ちょっとメッセージが少々」

 

 セナに『湖底に沈んでる』と返信してから、運営からのメッセージを開く。えーと、何何?

 

「一撃必殺ボーナスと、単独撃破ボーナス?」

「一応、私もいました、けど、実質、ユキさん1人、でしたし」

「憂さ晴らしに使ってすみません……」

 

 謝りつつ開いた画面には、要約するとこんなことが書かれていた。

 

 3つか? ボーナス3つ欲しいのか? このいやしんぼめ! いいぜ、持ってけ泥棒! 今日は厄日だわ!

 

 運営も大分正気度が削られてるとみえる。

 

「理性と一緒にSAN値も削ってくるとか……」

 

 配布されたアイテムは、宣言通り3つ。【無名祭祀書】【象牙の書】【ネクロノミコン】……あの、これ俺殺しにきてません? ついでと言わんばかりに《司祭》なる称号も貰ったけど、焼け石に水な気しかしない。

 

「何が、あったん、です?」

「運営が危険物送りつけてきやがりました」

 

 藜さんの疑問に冷静に答えつつ、比較的安全な【無名祭祀書】を出現させた。鉄の留め金がついた革製の装丁のそれからは、名状し難い悍ましい感覚が伝わってくる。そして、同時に1枚のウィンドウが現れた。

 

 ====================

 SAN 99/99

 SAN(正気度)は特殊なアイテムを装備したプレイヤーに追加されるステータスです。

 SANは特定状況下や、特定呪文のコストとして消費される数値です。減少分は1週間で全回復します。

 減り幅に応じて様々な事が発生します。

 ※SANが0になった場合でも、キャラクターロストは発生しません

 ====================

 

 そしてそっと【無名祭祀書】をアイテム欄に戻し、何も見なかったことにした。俺が貰ったのは称号だけ、イイネ? アッハイ(自問自答)

 

「さて、そろそろセナが探しにきそうですし上に帰りますか」

「もう、ですか?」

「俺が即死するので、かなりゆっくりになっちゃいますけどね」

 

 下手したら水圧で死ぬことが予想できるあたり、実は詰んでる気がしなくもない。モンスターは水着に拘らなければ、ステルス×潜伏コンボで無視できるから案外なんとでもなるのだけど。

 

「やっぱり、嫌、です」

 

 1人で頭を悩ませていると、ポツリとそんな言葉が聞こえた。それと同時に腕を捕まえる力が強くなり、HPが一気に半分を切った。脆いなぁ……俺。

 

「せっかく、2人きりなのに、もう戻るのは、や、です」

「そう、ですか」

 

 下手に答えることは出来ない。かといってなあなあに流すことも出来ないし、あぁ……胃が痛い。

 なんて思ってる間に、セナからメッセージが返ってきた。『助けに行く? イベントの事で話そうと思ってるから、出来るだけ早く来てほしいな! ついでに、藜ちゃん知らない?』

 

「ヒェッ」

 

 うちの幼馴染様は、千里眼でも持ってるんじゃないだろうか。そんな精度の質問に、変な声が出てしまった。そんな中、藜さんが物凄い勢いで何か文字列を打っていた。生憎システム的に読むことは出来ないが、タイミング的にセナからのメッセージへの返信だろう。

 

 そして数秒後、セナからのメッセージが届いた。内容は簡潔に『ふーんへー、とーくんそんなことしてるんだー』だけ。あっ、これあかんやつや。大変お怒りになっておられる。

 

「セナに何を送ったんですか…?」

 

 恐る恐る、勝ち誇った様子の藜さんに問いかける。すると、堂々と藜さんは言い放った。

 

「ユキさんを、連れ去ってデート中って、送りました。勿論、スクショ付き、です」

 

 そうして何回か操作したあと、そのスクリーンショットを藜さんが見せてくれた。そこには真っ青を通り越して真っ白な顔をしている俺と、見てるだけで楽しさが伝わってくる藜さんの、いわゆるツーショット写真が存在していた。

 はは、分身ってどうやれば出来るんだろう。そういうスキルとか紋章とかないかなぁ……ないなぁ、知ってた。

 

「死んだ……俺死んだ」

 

 いや待て、重力刀でハラキリすれば短期間は分身できるかもしれない。昔読んだ小説で、確かそんなキャラがいた気がする。抜刀術だからきっと相性もいいはずだ。

 

「どうか、しま、した?」

「いえ、何でもないです……ははっ」

 

 今回は潔く負けを認めよう。代わりに、後でザイルさんに発注して次回からは、次回からは──次回、あれば頑張ります。はい。

 

「? まあいい、です。戻って自慢、する、です!」

「あっはい、了解です」

 

 この後脱出時、水圧と精神的な痛みで数回死んだが、問題なく地上に帰還すること“は”出来たのだった。

 




称号《司祭》
取得条件 : ──
効果 : 消費SAN値減少

ー没ネター

「違うんだ沙織。俺は、決してやましいことはしてない。雰囲気に従ったまでだから!」
「いいよ。私は許そう」

「だがこいつ(サウダーデ)が許すかな!」ズガガガガッ!

ーーこの後のシーンはまだ死にたくないのでカットしましたーー


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。