※作者としては嬉しいです
初めてのPvPに勝利した事を喜んでいる間に、専用の空間は解除された。そして、姿形の見えなかったイオくんが目の前に再構成される。そのメイド服はかなりボロボロになっており、なんとなく申し訳なくなる。
「ちょっ、ユキさん! なんです今の!?」
「企業秘密です」
衝撃から漸く立ち直れたらしいイオくんが驚愕の表情で詰め寄ってきたが、軽く言葉を受け流す。だってここでバラしちゃったら、せっかくの隠蔽の意味がなくなるし。
「別に負けたのはいいんです、予想してましたし。でも爆殺じゃなくて、なんというか、気がついたら死んでたんですけど!?」
「はっはっは。昔一緒に焼き討ちした同士を爆破なんてするわけないじゃないですか」
「アレは不本意でしたからね!?」
膝をついて崩れ落ちたイオくんに、至る所からスクリーンショットの照準が合わせられている。やだ、ここのギルメン怖い。
「まあ、そこら辺に隠れてる人達にも言いますけど、チートとかそういうのではないんで。教える義理は、少なくともイオくん以外にはありませんが」
その言葉を受けてにわかに周囲の建物が騒つきだしたが、誰1人として顔を出そうとはしない。なんか嫌だなこれ。
「で、こんなに普段から出てこないですか?」
「いえ、普段はみんな仲良く話したりしてるんですけど……まあユキさんがいるからかと」
立ち上がるイオくんに手を貸しながら聞くと、そんな答えが返ってきた。どういうことなの……?
そんな俺の困惑が伝わったのか、ポツポツとイオくんは語りだした。
「世間一般的には、極振りって頭のおかしいマゾキチガイ集団ですからね。関わり合いたくないって人が多いんですよ」
「何も間違ってませんね」
「なんで分かってるのにこの人は……」
イオくんがそんな事を呟き額に手を当てているが、楽しいんだから仕方がないのだ。寧ろ、マトモなプレイをしている自分の姿が全く想像出来ない。
「まあいいです。そんな極振りの中でも、三大やべーやつっていうのが結構ネットに上がってまして」
「三大やべーやつ」
「【どう見ても紅魔族】にゃしぃ
【メトメガアウ-シュ-ンカン爆破】ユキ
【極振りでも制御不可】翡翠
みたいな感じでして」
「なるほど?」
ぶっちゃけその異名は心外だ。確かに俺は毎日一本レベルでビルを爆破解体してたりするけど、そんなに無秩序にヒャッハーしてるわけじゃないのだ。もっとこう、理知的で文明的な爆破というか、決して本能に従ってるだけじゃないというか……
「その中でもユキさんって、直接街をヒャッハーしてる上、他より被害が少ないから結構人気で有名なんですよね」
「なるほど」
それが街に入った当初の反応とか、今いる人たちが顔を出そうとしない事に繋がっていると。因果応報というやつか。天罰覿面にならない事を祈ろう。
「その結果、近寄ったり目が会うだけで爆破されるって噂が一人歩きしてます」
「まあ、最近は握手を爆発とかも出来ますしね」
「えぇ……」
困惑顔のイオくんを前に、人が隠れている反応のある建物に向け適当に加速してプラスチック爆薬を投擲する。それがいい感じに転がったのを見てから、隠れている人達に向けて大きな声で話す。
「このままイオくんとだけ話しててもしょうがないので、せめてサブマスさんくらいは出てきてくれませんか? 来ないと爆破します」
そうして手元に現れた起爆スイッチを見せると、か細い悲鳴が聞こえたのを皮切りに一気に騒がしくなった。バリケードでも築いていたのか、なにかを慌てて片付ける音が聞こえる。
「ユキさん、何やってるんですか……」
「爆破準備」
最早困惑を通り越して呆れに変わったイオくんを横目に、カウントダウンを開始する。まあ、いつか爆破する予定はあったんだし、それが今になってもモーマンタイだよね。
「10ー!」
「9ー!」
「8ー!」
カウントダウンを進めるが、一向に出てくる気配がない。これはアレか、手間取ってるから爆破してくれという合図か。イオくんを見れば、もうダメだと頭を抱えていた。つまりは了承ということだね、分かるとも!
「0ー!」
カウントダウンを一気に飛ばし、スイッチを押し込んだ。次瞬、爆弾が一斉に起爆し衝撃と轟音を発生させた。そして数名の悲鳴と共に、中世風の建物が倒壊する。
うーん……30点くらいかなぁこれ。やっぱりビル爆破した方が、圧倒的に楽しいや。
「ウワーキレイデスネー。ケッコウナオテマエデ」
「それほどでも」
こうなったらいつか、イオくんと一緒にビルの爆破解体をせねばなるまい。そう決意していると、巻き上がった粉塵に紛れ逃げ去る気配の中、1人がこちらに突き進んでくるのが探知できた。
「いきなり何をする!? 殺す気か!?」
「街中でそんな事ある訳ないじゃないですか」
現れた人物の服装は、結構特徴的なものだった。
薄い紫をベースに金や赤で装飾された軍服のようなコート。加えて編み込みのブーツにニーソにガーターベルト。腰には近未来風のマスケット銃と思しき武器がマウントされ、右腕の肘当たりにスチームパンク風の小盾が装着されている。肩辺りまで伸ばされた黒い髪が片目を隠しているが、アレは見えづらくはないのだろうか。
「紹介しますユキさん。この人がウチのサブマスのアークさんです。これでも男ですよ」
「なん……だと」
そう言われて注視してみれば、確かに胸はない。普段関わる──背筋が凍りつく感じがした。それも2回。この考えは永久に凍結しておこう。
「そ、そそそうだよ、悪いか!」
「いえいえ、個人の趣味ですし。似合ってますしね」
とても慌てて何故か赤面するアークさんは、やはり男プレイヤーには見えない。一見しただけで男と見抜けないのは、こちらの落ち度もあったのだろうが見事な女装という他ないし。それにまあ、ゲーム内だから基本は何をしようと自由だろう。
「じゃあ、お近づきの印にこれをどうぞ」
「あ、どうも──」
笑顔で俺は、簡易ポーチから取り出したブツを相手に握らせる。というかこのギルド、もしや男の娘とか女装とかしかいないんじゃなかろうか。日本人って怖い。
「ってこれ爆竹じゃないか!?」
そこからの一連の動きは、目を見張るものがあった。
勢いよく手に持った爆竹を地面に投げ、爆発すると思ったのか足を使ってそれを蹴り上げ、転びながら銃で射撃して爆竹を上空で爆破した。
「やっぱり殺す気まんまんじゃないか!?」
「純粋に善意だったのですが……」
「初対面の奴に爆弾渡すような奴がいるか! いたわお前やっぱりキチガイだわ!!」
「そうですか……なら判断は、この場で1番地位の高いイオくんに任せましょう」
大の字に転がって騒ぐアークさんの言葉を適当に流し、服の破れを気にしていたイオくんに話題を振る。別ギルドとはいえギルマスだからね、顔を立てないと。
「え、え?」
「第1問、デデン! 初対面の相手に自分の愛用するアイテムを渡すことはキチガイか否か!」
「え、えっと、普通……なんじゃないですか?」
突然の無茶振りだったが、イオくんは答えてくれた。爆破後のハイテンションについてこれるとは、流石ギルマス。これはUTSUWA持ってますわ。
「お前、聞き方がずるいぞ……」
「なら、貴方も自分のギルマスに質問したらどうです?」
立ち上がるのには手を貸しつつ、そんなことを言ってみる。華奢なその手が超震えている事には気づかなかった事にしておく。
「じゃ、じゃあ、次の──」
「第2問」
「だ、だだ第2問……」
「もっと声を大きく!」
「第2問!!」
羞恥に顔を赤くしたアークさんが、目を瞑って涙を浮かべ、必死に声を絞り出した。どうしよう……相手を虐めるこの感じ、なんか気持ちいい。なんかこう、ゾクゾクする。
こら、そこのイオくん。俺のことをそんな変な目で見ない。
「び、ビルを毎日爆破するような人は、常識人でしょうか!!」
「大丈夫です、それはキチガイですよアークさん」
気遣うようにイオくんが答え、アークさんが涙を浮かび上がらせて座り込む。安心したのか、そのまま体育座りになって泣き始めてしまった。
「もうやだ……何このキチガイ。小ちゃい子ども抱っこしてよしよししたい……癒されたい……ぐす」
「はいはい。僕は小さくはないですけど、暫く抱っこしてもらっていいですから」
女装(させられた)男子が女装(している)男子の頭を撫でている。その不思議な状況が数分続き、段々と泣き声が小さくなっていった。
「もう話しあってた通り、僕が決めちゃっていいですよね?」
「うん……」
そんな中、慰め続けるイオくんがこちらをチラリと見た。俺にも何かをしろと言うことなのだろう。まあそう言われても、俺に渡せるものなんてないし……
「じゃあ俺からも。ケモ耳もふもふのイオくんを【写真術】で撮影したデータを、お望みのケモ耳のパターンの数×希望のポーズ分贈りましょう」
「ちょっ!?」
精一杯の伝手を駆使して、出来る限り少ない労力で、最高の結果をお届けする。これに関しては真面目だから、爆弾は添えたりしない。
「うぅ……」
涙目で見上げるアークさんでは、まだ1押し足りないようだ。ならば俺も、ちゃんと手札を切ろう。
「ああ、そうだ。その服の弁償分の代金として100万Dと、後でちゃんと素材も渡しますよ」
「いい、でしょう。でもユキさん、後からちょっと付き合ってもらいますからね!!」
特に問題はないのでサムズアップしておく。レアドロでもなんでも、この幸運を好きに使うといい。そんな事をしているうちに話は進み、アークさんは現れた付き添いの人に連れられ恐らくギルドがある街へと転移して行った。
「さて、それじゃあ今回の話は、僕たちのギルドは参加するという事で」
「ではそういう事で」
「さっきの約束、忘れないで下さいよね!」
「それは勿論」
こうして色々なことがあったものの、交渉役としての仕事は終えることが出来たのだった。
〜おまけ〜
気持ちの良い達成感を持ってギルドに帰り、足を踏み入れた時の事だった。ガチャリと、硬質な音が右手から聞こえてきた。
「ガチャ?」
何事かと手を持ち上げてみれば、そこには縄に繋がれた手錠が存在していた。片方の口が右手首にガッチリと嵌っている。
「ねー、ユキくん」
息がかかるほどの耳元で、そんな声が聞こえた。そして振り返る前に、いつもの様に腕が回され抱きつかれる体勢になった。こんな事をしてくる人物はただ1人。
「あの、セナさん? 何を?」
「私も、います」
疑問を口にしたのに合わせて、足にも飛来した手錠が噛み付いた。縄が繋がった先には、暗がりから現れた藜さんの姿。その目には、元々ないハイライトがヤバイ光を湛えていた。
その姿に言い様のない怖気を感じる中、再び耳元で言葉が囁かれる。
「私ね、掲示板で見ちゃったんだ。
ユキくんが女の子をデュエルでボロボロにして、服も際どいくらいまでボロボロにしたって。しかもその後、助けに来た女の子を泣かしたっても書いてあったんだ」
「それ、本当、ですか?」
段々と狭められていく包囲網に、本能が全力で悲鳴と継承を鳴らしている。……無理みたいですね(諦め)
「いや、あの2人男だから。男の娘だから!?」
「へぇー、そんな嘘つくんだ」
「嘘はダメ、です」
店内の温度が5度くらい下がったような感覚に襲われながら、必死の弁明を続ける。たが、全部本当のことを話しているのに2人は欠片も信じてくれない。
「ふふ、今だけはね、藜ちゃんと休戦してるんだ」
「今だけ、ですけど」
「ナンデ!?」
ユキの助けを求める声は誰にも届かず、そのままギルドの奥に引き摺られていった。翌日げっそりとした姿で現れるまで、ユキを見たものはいなかった。