ザイル→超器用 アキ→裁断者
セナ→舞姫 ユキ→爆破卿
ZF→提督 シド→傀儡師
ハーシル→農民 ツヴェルフ→大工場
イオ→大天使 アーク→剣魚
モブA→戦車長 モブB→砲撃長
モブC→コバヤシ モブD→アオギ
【作戦会議本部スレッド】
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超器用『さて、もうイベントまで殆ど時間がない状況だがどうする?』
大天使『確か、全員町からスタートでしたよね』
裁断者『そうだな。果てしなく面倒だ』
提督『折角戦場が3つに分かれているというのに、何を考えているのでしょうね』
大工場『考えるまでもなく、ボス戦までにこちらを弱らせる策でしょう』
傀儡師『俺たちのギルドは問題ないが、基本的に機動力のない【極天】の極振りを封じる為か。面倒な』
超器用『それもあるし、先ずはここに集まってくれた人達の分担を再確認しよう。私たち【極天】は全員がレイドボスとの戦闘希望だ。他にウチのキチガイどもがいてもFFで迷惑をかけるだけだからな』
舞姫『【すてら☆あーく】もレイドボス希望だよ。数が少ないし、私以外範囲攻撃持ちだから他だと中間防衛以外邪魔になると思う』
提督『【モトラッド艦隊UPO支部】は私以外がレイドボスですね。3箇所の戦域で1人ずつリーダーを立てて、その下に人が何十人も付く性質上、私の称号は便利ですから。1番戦力の低い場所の支援に回ります』
農民『うちら【アルムアイゼン】は中間防衛やな。爆破卿が供給してくれた大量の資材もあるし、軽く砦みたいなもん作って防衛するわ』
大天使『僕たち【空色の雨】も中間防衛ですね。僕の回復とサブマスの移動速度低下攻撃で、倒せずとも遅滞なら出来ますから』
戦車長『私たち【戦車はいいぞ】はレイドボス志望だ。7両しかないが、やはり戦車の相手は大きくなければな』
コバヤシ『俺たち【クロイカラス】もレイドボス志望だ。戦闘機1機だけでの参戦だが許して欲しい』
剣魚『あの、結局集まったギルドはこの7つだけなんですか?』
爆破卿『残念ながら。個人参戦の人は沢山いるから、FFがない程度に担当のギルドの人が纏めてくれれば。あ、レイドボスは個人参加いないそうです』
裁断者『極振りの名前を見た途端、蜘蛛の子を散らして逃げたからな』
大工場『私たちとしては、その分戦力が回ってくるので有難いですね』
傀儡師『で、結局【極天】の連中はどうするんだ? 流石に歩幅は合わせられんぞ』
大天使『僕たちも、そんなに突破力はないですし……』
超器用『そうだな……最悪ウチの頭のおかしい爆裂娘が焦土にすれば突破するまでの時間は稼げるだろうが……』
提督『火力役の消耗はいただけませんね』
舞姫『私のとこみたく、バイクに相乗りするのは?』
傀儡師『多分、全員拒否するぞ?』
超器用『だよな……流石に』
戦車長『ならば、うちの戦車に乗るか? 数も恐らく足りるだろう』
爆破卿『キューポラの上にガイナ立ちでもしたら、貫禄もあるんじゃないですかね?』
砲撃長『いいんじゃないか?』
超器用『ちょっと待て、確認を取る』
アオギ『因みに戦車の速度は如何程?』
戦車長『Agl換算で大体70くらいだ。あくまで最高速度だから、少し低下して60と見てくれ』
傀儡師『それでは、俺たちのバイク部隊が突出しそうだな。露払いは任された。まあ、これで話が纏まればの話だが』
アオギ『そういえば、他のギルドは移動速度は大丈夫なのか?』
舞姫『私たちはさっき言ったとおり、爆破卿のバイクで移動するから大丈夫かな。私ともう1人は走る事になるけど』
農民『うちらも車持ってるから問題はないと思うで』
大天使『僕達は多分走ることになるかと思います』
剣魚『少しは僕が頑張れば、何人かは早めに送れると思いますけど』
超器用『確認を取ってきた。特に問題はないらしい』
裁断者『俺や爆裂娘がいれば、万が一の場合にも対応出来るだろうしな』
爆破卿『ということは、クエストが始まったら傀儡師率いるバイク艦隊が先行、その後ろを戦車on極振りが進む感じでいいんですかね?』
超器用『逆だ馬鹿』
舞姫『私のギルドは、バイク部隊に入るよー』
コバヤシ『俺たちは距離を見て戦闘機で発進するから問題ないぞ』
超器用『ということは、これで一応案はまとまったか?』
大工場『ですかね?』
戦車長『なら、他の2地域の皆さまお願い致します』
戦車長『こちらが戦っている間、宜しく頼みます』
裁断者『無論だ。宣言しよう“勝つ"のは俺たちだ』
爆破卿『それでは皆さま、宜しくおねがいします』
舞姫『指揮って大変だと思うけど、頑張って下さい』
◇
「さて」
そう呟いて俺は、今の今まで操作していたウィンドウを閉じた。俺だけあの場でサブマスじゃないんだけど、よかったのかなぁ……
「結構早く終わったね、ユキくん」
「そうだなぁ……一仕事終えた感じが凄いよ」
バイクで色々な場所を巡って、話をして、時には賄賂を渡して橋渡しして。それで集まったギルドの今回のイベントについての会議が、漸く終わったのだ。疲れもする。
グッタリと脱力して背もたれに寄りかかっていると、投げ出したままの左腕に腕から絡められた。
「えへへー」
本当なら多少は嫌がるところだが、まあ幼馴染様が御満悦なのでいいとしておく。現実なら緊張で汗をかいていた感じの手があったかいし。
「あー、そうだ。セナって今日これから予定あったりする?」
「特にないけど……どうかしたの?」
「や、ちょっと付き合って欲しいなって」
俺がそんなことを言った瞬間、空気が凍りついた。何か不味いことを言ったかと思い顔を上げると、セナは顔を真っ赤にして固まっていた。
「わひゃあ!?」
ツンツンと頬をつつくと、悲鳴を上げてセナは飛び退った。そして真っ赤な顔のままふぇぇ……と気の抜ける声を出している。
「念のため言っておくと、ゲーム内でちょっと一緒に行きたい場所があるってだけだからな?」
「わ、分かってるよ? でも、ユキくんが誘ってくれるのってすごく珍しいから……えへへ」
髪の毛をクルクルと弄るセナは、しばらく動けなそうだ。まあ、ちょっと強引にやるしかないか。決戦まで今日含め2日、あんまり時間もない訳だし。
「システム的に落ちないだろうけど、ちゃんと掴まってろよー」
「うん!」
セナの手を引いてギルドを出て、
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「ここが、一緒に来たかった場所?」
「そうそう」
バイクを停止させた場所は、第3の街【ギアーズ】の一角。看板が斜めになり、明らかに廃業してますという風態のオペラハウスだ。近代化の波に揉まれた様なここは、1回爆破をミスって出てきた街の警備隊から逃げる時に見つけた場所だ。
「軽くNPCから話を聞いた限り、ちょっとしたレアスキルがゲットできるっぽいんだけど、ここって男女2人のPTじゃないと入れないみたいでさ」
しかも一度のクエストでは、どちらか片方しかそのスキルはゲット出来ないというイライラ設計。信頼し合ってる人じゃないと、多分問題が起きそうだ。
「知らなかった……でも、藜ちゃんじゃなくて私なの? 別に男女2人なら、そっちでも良かったんじゃない?」
「クエストの内容がちょっとね……流石に藜とじゃ恥ずかしくて」
「ふぇ?」
「貰えるスキルは【歌唱】ってやつで、クエスト内容は名前の通り歌を歌わなくちゃいけなくてね。流石に、藜に聴かれるのは恥ずかしいからセナがいいなって」
「あー……ユキくん、得意なのアニソンだもんね」
セナが納得したように頷く。藜さんとの付き合いも長くなってきたけど、流石にアニソンを熱唱するのは控えたい。だから普段、儀式魔法で歌う時も適当に鼻歌とかなのだし。
まあ、普通の歌を歌うと超音波というかなんというか、悲惨なことになるからという理由もあるのだが。演歌で喉を震わせるか、アニソンで高音出すかしないとアレなのだ。致命的なのだ。
「それじゃ、行こ! ユキくん」
「そうだなー」
そう手を繋いで扉を開けると、ブワリと生暖かい風が沸き起こった。妙な埃っぽさと不気味さに、珍しくセナが反射的に抱きついてくる。
「と、とーくん、本当にここで?」
「そうそう」
そのまま壊れ朽ちた座席の間を進みステージに立つと、青白い人魂の様なものが無数に周囲に出現した。それと同時に一枚のウィンドウが目の前に展開される。
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【忘却された歌姫の為のアリア】 推奨Lv 10
かつて栄えたオペラハウス。その跡地に漂うのは、この場所で命を終えた歌姫の亡霊。彼女の魂を送るべく、鎮魂の歌を奏でよう。
成功 90点以上
失敗 90点未満
報酬 レアスキル【歌唱】
経験値 1000
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Yes/NoのボタンのYesを押しつつ隣を見れば、青い顔をしてセナは俺の腕にしがみ付いている。
「歌い辛いから離れてって言っても……」
「む、無理ぃ」
「知ってた」
やっぱりかと納得しつつ、ネットで検索した曲の再生準備を始める。実を言うと、基本的にアニソンでは判定に極めてマイナスボーナスがかかるのだ。OPやキャラソンだと特にそれが顕著で、EDだと逆に少ない。
それ故に、選んだ曲はアレだ。花の名前の、某止まりそうにない曲。一切マイナス判定がないどころかプラス判定があり、且つ歌いやすいアニソンなんてこれしかなかったのだ。他に俺が高得点を狙えるのなんて、ギリギリ津軽海峡冬景色くらいのものだし。
「♪〜」
傍にセナが引っ付いているまま、伴奏に合わせて歌い終える。その時には大分腕の拘束も弱まって、結構余裕を持つことが出来ていた。それで漸くウィンドウを見れば、表示されている点数は90ぴったり。ギリギリの勝利だった。
「お、終わった?」
「ばっちし」
congratulateの表示が浮かび上がり、人魂はキレイに消え去った。心なしか、劇場自体も明るくなった様に思える。
「じゃ、じゃあもう行こ」
「はいはい」
セナに手を引かれるままに、メニュー画面の表示を一旦無視ししてオペラハウスを脱出する。ほんの数分ぶりに日の光を浴びてようやく、セナは俺の腕を解放してくれた。
「んー! やっと出れたー!」
「そんなに怖いものでもなかったと思うけどなぁ……」
そう愚痴を零してみるが、晴れ晴れとした顔をしたセナにとっては馬耳東風だったらしい。気分一転、気持ちの良い笑顔でセナはこちらに聞いてきた。
「それで、さっきのスキルってどんなのなの?」
「あー、それなんだけど」
さっき取得した【歌唱】スキルは、その名の通り歌を歌うことによって発動するスキルだ。それによってバフやデバフを発生させるの、だが……
「つまりはこういうことなんだよね」
そうして俺の見せたウィンドウには、こんな事が表示されていた。
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スキル【高等儀式紋章】取得条件を満たしました
・【紋章術】の練度が限界値 : clear!
・【儀式魔法】の練度が限界値 : clear!
・製作紋章数50 : clear!
・魔法系スキルを2つ以上所持 : clear!
・上級魔法系称号を所持 : clear!
スキルを統合し進化しますか?
Yes / No
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体感的にあまり多くはない、アイテムに頼らないスキルの進化。決戦前に俺が手繰り寄せたのは、そんなものだった。
「えっと……つまり?」
「紋章と儀式が合体して、更に歌が良い効果になった感じ?」
「おぉー」
パチパチと気の抜けた拍手と共に、そんな感嘆符が紡がれた。多分セナには分かってないのだろう。まあ分からなくて良いのだけれど。Yesを押しながらそんなことを考える。
「用事も終わったし、この埋め合わせにどこか──って言いたいところだけど、もう一個用事があるんだ」
「何? 今度はオバケとか出ない?」
「勿論」
なにせこれからすることは──
「だって、今からやるのはビルの爆破だからね!!」
「いぇー!!」
この街に来たからにはやらなければならない、楽しい楽しいビル爆破というデイリー任務なのだから。
新年明けましておめでとうございます。今年も宜しくおねがいします。爆破します。
新年も止まるんじゃねぇぞ……