幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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新年ラッシュ


第60話 開戦

 レイドボス兼防衛イベント当日、開始直前の【ルリエー】の北門には、異様な空気が漂っていた。その理由は明白、ここの光景が余りにも異様だからだ。

 

「壮観だね、ユキくん!」

「現物見ると確かになぁ……」

 

 俺のを含めてバイクが……シドさん究極体とハセさん獣輪態を含めるなら20台。某アニメで見たことのある戦車が4、現代風の戦車が2、SF的戦車が1の合計7台の戦車。その上に腕を組んで立っている【極天】の人たち。なんか黒い風がシャッター音と共に動き回ってるのは、多分ザイードさんなのだろう。

 その後ろで何やら円陣を組んでいるのが、多分【クロイカラス】の人たちだろうか。一輪バイク(キングのDホイール)が3台とは珍しい。イオくんや【アルムアイゼン】の人たちの姿は見当たらないが、それは第2陣の方にいるからと話は聞いている。

 

「それにしても、バイクのメンバーはこれで良かったの?」

 

 愛車(ヴァン)の整備をしながら、昨日言われた配置を思い出してセナに問いかける。バイクの操縦者が俺、後ろのシートにランさん。サイドカーにれーちゃんを抱えたつららさん。そしてセナと藜さんは2人で並走するという話だったのだ。再度確認せずにはいられない。

 

「うん。だって私、素のAgl大体1,000だし」

「私も、大体900、です。それに、無駄な争いは、望みま、せん」

 

 すると、そんな答えが返ってきた。確かにまあ、そんな能力があれば付いてくるのは余裕だろう。その代わり2人とも紙装甲らしいが、まあなんとかなるとのことだった。

 それにしても、素のステがそこまで行ってるとは……4倍くらいのステータスがあるとはいえ、俺も強化を考えないとな。

 

 そんなことを考えていると、何処からかボーンボーンと低い音が鳴った。そして、空が星の並びが狂った夜空へと書き換えられた。多くのプレイヤーが大騒ぎする中、珍しく音声で運営からのメッセージが発進される。

 

《イベント非参加者の皆様へ。本日正午より大規模イベント開催の為、現時点でクエストを受注している者以外、第4の街【ルリエー】の勢力圏への侵入が不可能となります。また、勢力圏内の時間は5倍に加速される為、直接の視認は不可となります》

《イベント参加者の皆様へ。本イベントは、レイドボスが討伐されるまでの間敵性mobは無限にポップ致します。経験値やアイテム等は通常通りの為、鋭意討伐に励んで下さい。また、激戦が予想される為、現在発動可能な参加プレイヤー全員に【蘇生魔法】のスキルを一時的に付与、水面での自由な行動を可能なバフを付与します》

 

 クエスト開始5分前、繰り返されるそんな放送の中殆どのプレイヤーが自分のメニュー画面を開いて付与されたスキルの存在を確認し始めていた。かく言う俺もその1人で……

 

「あった」

 

 水上行動解放なるバフと共に11個目のスキルとして、俺のステータス画面にも【蘇生魔法】のスキルが追加されていた。内容は使える魔法が1つ増えるだけのものだった。

 

「ユキくんユキくん、どんな効果なの?」

「私も、気になり、ます」

 

 ランさん達はつららさんとれーちゃんが両方使える様で、そちらで確認しているから問題ないだろう。

 

「消費MP300で、パーティー内の死亡してから30秒以内の指定したプレイヤー1人をHP25%回復させて蘇生。クールタイム30秒だって」

「んー……厳しくない?」

「でも、万が一の備えには、なると思い、ます」

 

 その意見に最もだと頷く。微妙に条件は厳しいけど、保険として存在してるだけでありがたい。何せ、俺以外は基本一度死んだら終わりなのだ。戦力の損耗は喜ばしい事ではないのだし。

 

 繰り返された放送が終わり、イベント開始1分前。その時点でもう、この北門では準備が完了していた。唸るエンジン音だけが響き、イベントの開始が静かに待たれる。

 

《只今より、イベントが開始されます》

《只今より、イベントが開始されます》

《皆様の健闘を祈ります》

 

「全軍、出撃!!」

 

 SF戦車の上に立つ金髪の軍服を着た男が、7本ある鞘から一振り剣を抜き放って叫んだ。その声に呼応して勝鬨の声が上がり、エンジンがより一層唸りを上げ進撃が始まった。

 

「来い! ワイゼル!」 

「来たれ、グランエル!」

 

 飛び出したバイク艦隊が矢印の形を描き、その先端にいるシドさんとハセさんの姿が一回り大きくなった。

 

 シドさんが呼び出したのは、滑らかな流線型の白いフォルムのパーツ。右腕側には光る巨大な盾、左腕側には竜のオーラを纏った刺突刃を保持した巨大な両腕。バイクの両脇には勾玉型のブースターが追加され、頭の辺りには∞マークの形をしたパーツが追加。その上に赤い光を灯す頭部が設置された。

 

 ハセさんが呼び出したのは、重厚的なオレンジのゴツいパーツ。右腕側には同じく巨大な盾、左腕側には竜のオーラを纏った砲塔が出現した。バイクの両脇には半月型のブースターが追加されて、同様に頭の辺りに∞マークの形を描いたパーツが追加。その上に赤い光を灯す頭部が設置された。

 

「凄いですね……ランさんのは、完成したんですか?」

 

 その少し後方を走りながら、俺は背後のランさんに話しかける。海水浴の時に会って以来だけど、なんだかさっき満ち足りた顔をしていたので聞いてみる。

 

「ああ。と言っても、あの2人のとは違って、全力稼働はまだ時限式だがな」

「それでも頼もしいです」

 

 多分、今回のボスは幾ら攻撃役がいても足りない気がするのだ。だから、時限式だろうと嬉しい。……一応、何か文句をつけられようと【偃月】を抜く覚悟だけはしておく。

 

 

 傀儡師『敵影視認、地上50空10だ』

 

 超器用『了解した』

 

 

 そのまま進むこと数分、湖まで半分といった距離でようやく敵が出現したとの報告が入った。

 

「《望遠》」

 

 運転をヴァンに半分任せ、片眼鏡の上に2枚ワンセットの《望遠》の紋章を出現させる。

 地上には三叉の槍を構えたインスマス面の……もう面倒だから深き者どもをベースにしたと思われるモンスター群。空には、何故か漆黒の蛸が浮遊していた。名前は地上の方が【邪神の尖兵】、空の方が【邪神の航空兵】というらしい。

 

「SANチェックはなし、と」

 

 これくらいなら、俺もほかの人にもSANチェックはないようだ。そう納得している間にバイク艦隊の人達が迎撃態勢に入り──

 

 

 超器用『ウチの馬鹿が1発ぶちかますそうだ。逃げろ』

 

 裁断者『爆裂娘は押さえきれなかった。すまん』

 

 

 メッセージが届いた瞬間大きくバイク艦隊は散開した。そして何処からか流れ出したBGMと共に、朗々と詠唱が響いてくる。

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!」

 

 そして念のため俺も大きく速度を下げた時に、我慢の限界だったらしいにゃしぃさんが爆発した。

 

「長いから中略して、行きます! 我が最強の攻撃魔法《エクスプロージョン》!!」

 

 瞬間、遥か前方で馬鹿げた範囲の大爆発が生じた。轟音と暴風を撒き散らしたそれはモンスターを全て飲み込み、一撃で蒸発させるという極振りらしい廃火力を示した。

 

「これは開戦の号砲に過ぎない!! 手柄を俺たちだけに取られたくなくば、全員限界まで戦い抜け!!」

 

 凛と響く声に歓声が上がり、士気がドンドン上がっていくのを感じる。とてもいい流れだけど、レイドボスの姿が見えないことに不安を感じる。

 

 

 傀儡師『再び敵影20だが、今度はこちらに任せてもらおう』

 

 爆破卿『なら、少しだけ支援しますね』

 

 

 片手で文字を打ち込んだ後、換えが効く魔導書ビットのウチの一冊を取り出して放り投げる。そして一度深呼吸し、ヴァンに操作系統を全て任せた。

 

「♪〜」

 

 軽くアニソンの鼻歌を歌いながら、目を瞑り魔導書の操作に集中。全く同じ10秒のタイミングで、歌唱と儀式の2種類のバフを完成させた。【紋章術】でいう《フィジカルエンハンス》と【歌唱】専用の状態異常耐性上昇が発動したのを感じ、目を開けて運転に戻る。

 

 すると、地面から湧き出した何本もの緑がかった触手が前方に出現していた。そしてその群れに向かって、機械の巨人とバイクの艦隊が突撃していく。

 触手でふと思い出して隣を見れば、藜さんはしきりに腕をさすっていた。……悪いことしたなぁ。

 

「「うおぉぉぉっ!!」」

 

 運転に集中し直し前を見れば、触手の半数が消し飛んでいた。その元凶は機皇帝装備の2人。シドさんの一閃で中央の触手が根元から切断され、宙に舞ったそれらをハセさんの射撃が粉砕したのだった。

 

「やることが派手だなぁ……」

「お前……それ本気で言ってるのか?」

「ユキくん、鏡見て言お?」

「ユキさん、流石にそれは……」

「ユキさん、鏡、見ません、か?」

「ん!」

 

 軽く呟いた筈の独り言は、何故か周りの全員に聞き取られ総スカンを食らってしまった。まさかれーちゃんにすら言われるとは思わなんだ。

 項垂れため息を吐く間にも、戦況は動いていく。具体的に言えば、残っていた触手の群れにバイク艦隊が思いっきり突っ込んだ。

 

「あっ」

 

 誰かがそんな言葉を漏らしたが、次の瞬間には無傷のバイクが飛び出して触手の群れは爆散した。物理的に人が乗ってるとは言え、流石モトラッド艦隊……これなら地球ローラー作戦余裕ですわ。

 

 

 傀儡師『空中に敵影10だが……これは報告するまでもなかったようだな』

 

 コバヤシ『ああ、速度の問題故遅参になったが』

 

 アオギ『空の戦いは任せてもらおうか』

 

 

 チャットにそんな文字が流れると同時に、大気を劈く爆音と共に灰色が襲来した。それは瞬く間に空中のmobを撃破し、速度を合わせるためか一度大空へと舞い上がった。

 

「アレは……F-15でいいのかな?」

「いや、少し違うぞ。ゲーム内だからか、本来ないパーツが追加されている」

「アッハイ」

 

 即座に修正が入れられる辺り、やっぱり凄えよランさんは……

 

 それはそれとして、よくよく考えたらかなり凄い状況なのではないだろうか。先を行くモトラッド艦隊、その後方を駆ける戦車部隊とその上に立つ極振り、中間点にいる俺たち、空には戦闘機。ゲームを始めるときに危惧していたことが現実になっているが、間違いなくここにいるのは、現状のゲーム中最高戦力と言って過言ではないだろう。

 

 だが……

 

「ねえユキくん、なんか順調過ぎない?」

「やっぱりセナもそう思うかー」

 

 順調過ぎるというか、ここの運営にしては捻りがなさ過ぎるというか。言葉にするなら、ついに狂ったか運営となりそうな感じだ。何か足んない。

 

「ちょっと今まで簡単過ぎると思うんですけど、そこんとこ皆さんどう思います?」

 

 そう喋りつつ、右手でチャットにも書き込んで聞いてみる。自分1人じゃ結論が出ない故の行動だったのだが……

 

「もしそうだとしても、気合いを入れるしかないだろうな」

「レイドボスがよっぽど強いんでしょうか? でも、私たちにはどうしようもないと思います」

「ん」(分からないの意)

「私は、どんな時でも、頑張ります、よ?」

 

 ◇

 

 裁断者『確かにそうかもしれないな。だが、何があろうと俺は勝つ』

 

 超器用『少し引っかかるが……いや、気をつけておこう』

 

 戦車長『何が来ようと、我がレオパルド2で粉砕するのみだ』

 

 砲撃長『ギルマスには私から注意を促しておきますね』

 

 コバヤシ『……クトゥルフだもんな。嫌な予感はするぞ』

 

 アオギ『間違っても、俺に叫ばせるなよ?』

 

 提督『貴方の言うことです。こちらでも注意を促しておきましょう』

 

 大天使『一応中距離の防衛隊には、僕が防壁を張っておきますね』

 

 農民『そうやな。キチガイ共の直感には従っておくべきやな』

 

 大天使『念の為、僕のアイテムでそっちにも防壁張りますから、コバヤシさんよろしくお願いします』

 

 コバヤシ『承った』

 

 ◇

 

 そんな三者三様の、頼れるような頼れないような言葉が返ってきた。一安心している間に戦闘機が後方へと飛び去って、直後に超高速で戻ってきた。そして光る何かを全体に振り撒いた。

 

 視界の端を見れば、戦闘終了時までという時間制限で大量の防バフが追加されていた。流石爆破卿の専用アイテムの【無尽火薬(アタ・アンダイン)】と対をなす、大天使の【無尽癒薬(イスラ・アンダイン)】なだけはある。

 

「総員武器を構えよ! これより、レイドボスとの戦闘区域に突入する!」

 

 そうして多少の不安を抱えたまま、アキさんの号令で【ルリエー】のゆうに数十倍の広さはあるフルトゥーク湖へと足を踏み入れたのだった。

 




運営バフ(クエスト終了まで)
水上行動解放

ユキのバフ(60秒)
Str +40% Vit +40%
精神攻撃耐性 +50%

イオの防バフ(戦闘終了まで)
物理防御上昇 +30%
魔法防御上昇 +30%
特殊攻撃耐性 +30%

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