幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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一時的発狂と不定の狂気の説明必要……?
後書きちょっと書きなぐってる所為で長く見えるかも


第62話 一方その頃

 前線で顕現したシャークトゥルフの異様な威容は、当然のように防衛部隊にも届いていた。コンクリートと鉄筋で形作られた即席の要塞に防御陣地、援護を貰いながら前線で戦っていたプレイヤー全員が、呆然とその姿を目撃し、咆哮を聞いていた。そして見えてしまった、聞こえてしまったということは、当然こちらにも莫大な被害を齎すことになる。

 

 突如動きを止め倒れたプレイヤーがいた。訳の分からない言葉を叫び続けるプレイヤーがいた。自分の腕を只管に掻き毟るプレイヤーがいた。金切り声を上げ、逃げ出すプレイヤーがいた。近くのプレイヤーに攻撃を始める者もいた。

 

 街までの防衛に名乗りを上げたプレイヤーは、殆どがレイドボスとの戦いを拒否したメンバー。つまりはレベルが不足しているか、精神力の不足しているプレイヤー達だ。最前線の士気が最高だったプレイヤー達でさえ半数が狂気に堕ちた咆哮に、耐えることが出来たのは両の手の指で数えられる程度しかいなかった。

 

「なんですこれ!? ほんとなんなんですか!?」

「僕に聞くな!」

 

 モップが凄まじい速度で閃き、邪神の尖兵を数体纏めて大きく吹き飛ばす。それに追い打ちをかけるように銃声が鳴り、心臓(クリティカルポイント)を撃ち抜かれた尖兵は経験値を残して霧散した。だがそんなものは知らぬとばかりに、後から後から尖兵は押し寄せる。

 

 数少ない正気を保ったプレイヤーであるイオとアークは、間違いなく最前線であっても実力の通用するプレイヤーだ。しかし9割以上も味方が行動不能になった今、通用する程度の実力では戦線の維持は不可能であった。2人が戦っていた場所以外は総崩れとなり、次々と奥の陣地へ敵が攻め込んでいく。

 

 シャークトゥルフ顕現と同時に大量に出現した尖兵の数は今や総数500を超え、空を埋め尽くす様に航空兵も出現している。極振りの1人でも居れば違ったのだろうが、ジリ貧どころか敗北の2文字が浮かぶ様な光景だった。

 

「僕が時間を稼ぐ! だからイオは、アレを使って早くみんなを回復させろ!」

「わかった!」

 

 そう短くしてイオは、腰に付けたユキとは正反対のカラーリングのカラビナに付いた試験管を一本外し引き抜いた。右腰側のバフ用である薄青色ではなく、それの色は薄緑。全体に回復を振り撒く物だ。

 

「さて、ご退場願おうか!」

 

 それに並行して、犇めく邪神の尖兵に向けて6発ずつの間隔で銃弾が放たれる。即座にリロードしながら、片手で乱射された弾の着弾点から黒い波動が広がり、ガクンと多くの尖兵たちの進行速度が低下した。

 

「8秒しか持たないぞ!」

 

 着弾点から半径2.4m内の敵の移動速度を60%低下させるという破格の効果を持つ銃弾だが、威力は極めて低く効果も8秒間と長い様で短い。けれど今は、それでも十分だった。

 

「大丈夫! ぃやあっ!!」

 

 モップが勢いよく上空に向けて振り抜かれ、試験管が幾つかの黒い物体と共に打ち上げられた。しかし、それに向かって航空兵が殺到する。効果が分かっているのか、効果を発動させまいと殺到するその姿はまるで砂糖に群がる蟻のよう。そのまま効果発動前にアイテムが破壊される寸前。

 

「爆破!」

 

 ズンと腹に響く音を伴って、空に光の模様が描かれる。試験管と同時に打ち上げられた4つの花火が、化物犇めく空を明るく照らし出した。

 そして、花火の光を突き破る様に超巨大な薄緑の魔法陣が空に展開される。広大な防衛戦域の大凡6割を範囲に収める魔法陣から緑色の粒子が降り注ぎ、範囲内にいるプレイヤーのHPを回復し状態異常を打ち消していく。

 一時的発狂は快方へ、不定の狂気はその場限りの正気へ。《大天使》という称号とユニークアイテムの力をまざまざと見せつけて、一気にプレイヤー側に勢いが取り戻されていく。

 

「特に狙いはつけへんでもええ! 弾のある限り撃ち続けるんや!」

「撃てば当たります。ですから出来る限りの支援を!」

 

 そんな似非関西弁と落ち着いた声とともに、背後から弓矢や砲弾、スキルや魔法等多種多様な攻撃が飛来する。炸裂の轟音と閃光が至る所から発生し、群がる尖兵や航空兵を砕いていく。それに加え、ある程度の人数が正気に戻ったこともあり、対応できる人数が増え、崩壊しかけていた戦線が徐々に徐々に回復方向へと向かっていく。

 

 そんな最中のことだった。

 

 地鳴りの様な音が響き渡り、立っていられない程の振動が発生した。振動する大地は敵味方問わず足を縺れさせ、どうしようもなく移動を制限させる。

 

「ひっ!」

「ああ、イオはそうだったっけ」

 

 腰砕けになって縋るようにアークにしがみつくイオ達の周囲で、間欠泉の様に黒と灰色の何かが噴出した。その合計8つの噴出点は、振動と共に絶え間なく黒と灰色の何かを噴き出している。

 

「……は、鮫?」

「え?」

 

 その噴出物の正体は、鮫。ホオジロ、イタチ、シュモク、ノコギリetc……様々な種類の鮫が、群れを成して上空へと噴出している。そして邪神の航空兵を食らいながら、1つの塊の様に収束していく。

 

「なんだよ、あれ」

「あ、アークさん……」

 

 そうして鮫の塊は、今まで地と空を占領していた兵を喰らい尽くして、ある1つの形をとった。

 

 唸り声を上げ牙を鳴らす生きたままの鮫が寄り集まり、1本人間3人分はあろうかという、極太の触腕を8つ形成。同様に袋状の頭部も形成され、目に当たるであろう部分の鮫が悍ましいライムグリーンに発光した。

 

「しゃ、シャークトパス……」

 

 誰かのそんな呟きを嘲笑う様に、堂々と表示されたものは【Charitas OktoShark】という名前と5段のHPバー。慈愛という名前と対照的に、殺意しか感じられないボスモンスターの表示だった。

 

 

 時を同じくして、街の中でも同等の惨劇が起こっていた。

 

「いあ! いあ!」

「くするうー? たいん!

 くするうー? たいん!」

「デン! デン! デデデン! デデデデン! シャーク!」

 

 発狂したNPCが、老若男女問わずプレイヤーに向けて襲いかかる。それを迎撃するプレイヤーの数は、最前線より少なかった防衛部隊よりも尚少ない。最初は片手の指で数えられる程しかいなかった正気のプレイヤーは、回復により多少は生き残りが増加した。しかし未だその数は20を超えることはないでいた。

 

「遠距離武器や攻撃が可能な人と防御担当の人で2人! 近接主体の人は遊撃として1人入って、3人組で迎撃に当たってください!」

「了解!」

「消耗したらローテーションで後方で待機しているメンバーと交代! 回復は私が担当します!」

「了解!!」

 

 しかし、それでもまだ戦況は拮抗していた。それは一重に、微妙に浮遊するアンモナイトもとい、【モトラッド艦隊UPO支部】ギルドマスターZFの功績であった。

 

「《無限光(アイン・ソフ・オウル)》再展開」

 

 微動だにしないアンモナイト風の装備に収まったZFが厳かに呟き、陣取った転移門の真下に3つの円がそれぞれ接している陣が広がった。アンモナイト型の外装に雑に取り付けられたユニーク装備である4色の旗(Z旗)同様、バフ効果を持つ陣が本人と迎撃に出ているパーティを支援する。

 

「《知恵(ダアト)ーーセフィロン》

 《王冠(ケテル)ーーメタイオン》

 《王国(マルクト)ーーサンダイオン》!」

 

 それだけに留まらず、不動のZFから援護の魔法が次々と発射される。自身の背後に光の翼型のバフが展開され、火球が乱舞し、雷撃が迸る。それらが殺到した航空兵や、航空兵に騎乗した尖兵(邪神の航空騎兵)を次々と撃ち落としていく。

 

「《勝利(ネツァク)ーーハイロン》!」

 

 それでも続々と補充されるモンスターに、鋭く尖った岩が連続して射出される。その魔法の効果によってMPを吸収し、回復したZFからさらに魔法がばら撒かれる。尋常ではない敵がいるため魔法の発動より吸収するMP量が上回り、ZFはある種の永久機関の様になっていた。

 

「提督! 一時的発狂で倒れていたプレイヤーを回収して来ました!」

 

 そんなやる事が多過ぎて手が足りていない状況の中、回収されてきた数名の縛られたプレイヤーが足元に投げ出された。

 

「了解しました。《慈悲(ケセド)ーーサディオン》」

 

 そのプレイヤーを中心に、薄緑の旋風が巻き起こった。そこまで回復量は多くはないが、状態異常を回復させるその風によってある程度の人数が正気に戻る。そうして、狂気のままに這い寄るNPCに対する迎撃に参加していくのだ。だが──

 

(このままでは、随分と不味いですね)

 

 ZFの考えは、現状を的確に見据えていた。現状、需要に供給が全く追いついていない。対空戦闘が自分1人になっている事が、それを明確に表していると。加えて、自分はそれなりの戦闘力を持ってるが、あくまで人だ。集中が途切れて仕舞えば何もかもが破綻する事が目に見えている。

 かと言って、今NPCを相手してもらっているプレイヤーをこちらに回せば、必ずどこかに穴が開く。現状防衛が6班、回収に2人でギリギリ回っているのだ。どうしようも、ない。

 

 しかし、最前線でレイドボスが出現し、防衛地点でも出現したというのに、街で出現しない道理があるだろうか? いいや、ない。

 

 テケリ・リ

 

 それは初めは、極めて小さな聞き取ることすら危うい音だった。

 

 テケリ・リ! テケリ・リ! テケリ・リ!

 

 しかしその鈴を転がす様な声はすぐに、輪唱する様に大きく至る所から聞こえ始めた。

 

 テケリ・リ! テケリ・リ テケリ・リ! テケリ・リ!

 

 そして、敷き詰められた石畳の隙間、水路の中、その他あらゆるところから湧き出したコールタールの様な液体が寄り集まって、生物が形作られる。

 

「テケリ・リ!!」

 

 表示されたものは【Shoggoth】という名前と3段のHPバー。最悪の状況で、顕現したボスが転移門に向かって進行を始めたのだった。

 




残念だったな!シャークトパスはこっちだ!(お目目ぐるぐる)
序でに説明不足だろうと思うのを投下

【無尽癒薬《イスラ・アンダイン》】
 無尽蔵の癒薬
 治癒の粉塵(2/3)(大規模回復)
 護法の粉塵(1/3)(大規模バフ)
 耐久値 : なし

【還らずの旗】提督
 パーティーStr・Int +10%
 パーティーVit・Min +8%
 パーティーAgl・Dex +6%
 パーティーLuk -10%
 ダメージ請負(1,000/1,000)
 耐久値 : なし

無限光(アイン・ソフ・オウル)
 MP消費 800
 効果時間 90秒
 発動中移動不可
 効果範囲半径10m
 消費MP軽減 15%
 自動MP回復 1.5%/30s
 自動HP回復 1.5%/30s

知恵(ダアト)ーーセフィロン》
 MP消費 400
 効果時間 60秒
 物理攻撃・防御強化 30%
 魔法攻撃・防御強化 30%

王冠(ケテル)ーーメタイオン》
 敵にダメージを与え移動速度低下
 火球

王国(マルクト)ーーサンダイオン》
 相手物理・魔法大ダメージ&麻痺
 雷撃

勝利(ネツァク)ーーハイロン》
 自分と相手のHPの差×2のダメージ+与えたダメージ分MP回復
 尖った岩の形成射出

慈悲(ケセド)ーーサディオン》
 HP・状態異常回復
 風の渦

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