ヘイト値がリセットされたのか、戦車やバイクを見ているシャークトゥルフを中心に円を描いて移動しつつ、こちらの戦力を頭の中で分析する。
復活したらしい戦車が7車両、バイクが10台と機皇帝2機、極振りが6人で、うちのギルドも全員健在。戦闘機は失われているが再合体は恐らく可能だろうし、戦力的には結構いい感じに戻っただろう。
「突出はマズイよな」
バイク艦隊と戦車が移動しながら攻撃を続けているが、9本あるHPバーは小揺るぎもしていない。巨体に見合ったHPといえばそれまでだが、膂力等も考えると迂闊な行動をしたら死ぬのは分かる。
「ユキくんどうする? 撃つ?」
「やり、ます?」
「……やめたほうがいい気がする。もうちょっと様子を見ないと」
シャークネード(仮)を操るだけで移動しないというのが、極めて怪しい。小山みたいな大きさなのだから、腕を一振りでもすればこちらには大打撃だろうに。しないということは、何かあるに決まってる。
◇
爆破卿『ここからどう攻めます? 爆ぜさせますか?』
超器用『待て! なんだこの範囲回復、頭おかしいだろ!?』
コバヤシ『鏡を見て言おうか』
戦車長『だがなぜHPなんだ? MPにすれば楽になると思うのだが』
爆破卿『状態異常回復効果がこっちにしかないからです。一応言っておくと、ここから大規模な儀式魔法は重ねられませんので悪しからず』
アオギ『というかこいつ、なんで動かないんだ?』
砲撃長『十中八九、何かを隠し持ってるでしょうね』
傀儡師『攻撃する度に、こちらをちゃんと視認してるしな。というか、HP多過ぎだろうこいつ。どれくらいあるんだ?』
超器用『ちょっと待て、もう少しで解析がある程度終わる』
舞姫『攻撃がないって思ってたけど、成る程ねー』
超器用『とりあえず、一旦攻撃をやめて離脱してくれ。HPを見る』
傀儡師『了解』
戦車長『了解』
爆破卿『了解』
コバヤシ『了解』
◇
チャット画面を開いたまま、ハンドルを切ってシャークトゥルフから距離を取る。攻撃をしていた全プレイヤーがそうして後退する中、7本もの刀を装備した金髪のプレイヤーが恐ろしい速度でシャークトゥルフに突撃した。
間違えようもないその姿は、Str極振りのアキさんだったか。成る程、確か称号で回数限定だが防御貫通攻撃を使えたし、うってつけだろう。
「おぉぉッ!!」
裂帛の気合いと共に、視認不可能な速さで双刀が抜刀、納刀された。直後、暴風が吹き荒れ水面が大きく波打つ。しかし、その結果減少したHPは9本目の1割程度だった。
「うっそー……」
セナのそんな呟きも理解できる。何せ、このゲーム内での物理最高火力ホルダーの攻撃であの程度の減少なのだ。本気ではないだろうが、それでも絶望感が半端じゃない。
すぐに離脱するアキさんを横目に、こちらはこちらでチャットを確認しておく。一応、さっきから藜さんにも見えるようにはしているから、刺される心配はない。
◇
裁断者『案ずるな、固定100万の峰打ちだ』
コバヤシ『良かった……』
傀儡師『本当だ、全く』
超器用『解析結果、出すぞ』
====================
RAIDBOSS【Sharcthulhu】
HP 87,045,423/100,000,000
MP ∞
耐性 : 即死無効
弱点 : 爆発・火・打撃
装甲 : オーバーダメージ無効・全ダメージ半減
破壊可能部位 : 頭、腕、脚、尾、翼、背びれ
====================
超器用『読み取れたのは、残念ながら以上だ。まあ、1本1000万ってところか』
シド『は、1億だと?』
戦車長『よもやと思っていたが、まさかここまでとはな……』
コバヤシ『成る程な……無理ゲーじゃね?』
アオギ『そう言うな。まあ、確かに無理に近いだろうが』
舞姫『それにこれ、多分1億超えのダメージ無効化されちゃいそう』
砲撃長『幾ら極振りがいるとはいえ、キツくないか?』
超器用『とりあえず、もう攻撃は再開してもらって構わない』
◇
とりあえず、攻撃許可は下りた。なら、俺も参戦しなければいけない。
「セナ、藜、射撃お願い」
「うん!」
「了解、です」
ハンドルを切ってシャークトゥルフに接近、発射される触手をハンドリングと速度だけで避けつつ、出来るだけ車体を安定させる。
「《アサルトショット》」
「全機、てーッ!」
結果、俺なんかよりよっぽど火力のある2人が弾幕を形成する。ビットから放たれる黒いレーザーと、セナの銃剣から放たれる弾丸が、シャークトゥルフの左脚を穿っていく。序でに、
「あんまり削れてないよなぁ……」
遥か上空にあるボスのHP6バーは、戦車の砲撃やシドさん達の突撃を受けて僅かずつ削れているものの勢いは微々たるものだ。
1本1000万。それはそれだけ膨大な数値なのだと実感する。やっぱり、偃月を抜くしかないか。
「《障壁》」
避けきれそうになかった触手を防がず逸らし、離脱しながらそんなことを考える。俺とて学習はするのだ。藜さんのことから、触手は二度とすり抜けさせないと決めている。
成果に納得して運転する中、チャットに再び動きがあった。
◇
超器用『一応、全員の出せる最高ダメージを教えてくれないか? ああ、相手の防御値は考慮しなくていい』
コバヤシ『俺とアオギは戦闘機前提なんで除外してくれ』
傀儡師『幸いやつの力を奪えているから、1万弱程度は出せる。ハセも同様だが、どちらも連続して攻撃出来るぞ』
砲撃長『通常弾が20,000、通常徹甲弾で25,000、劣化ウラン芯弾で50,000、焼夷弾が20,000と継続ダメージ、対戦車弾が30,000と、射手による補正ダメージだ』
戦車長『私の車両は基本40,000だが、一発限り50万を撃てる。その後、行動不能になるがな』
舞姫『特殊武装持ちは違うなぁ……私は出せて6,000弱かな』
傀儡師『馬鹿げたレベルの製作費、整備費、維持費、弾薬費、人員の練度、故障の多さ、操作性の悪さ、近距離での弱さ、命中率の悪さetc……尋常じゃない量の問題を乗り越えた先にある、ロマンの火力だな』
爆破卿『最後に撃った時は6300万だったので、多分今は6500万くらいだと思います。自爆技ですが』
超器用『爆裂娘 : 私は実は1000万くらいですね。無論、そこのぐーたら裁断者と違って範囲が化物ですけど』
超器用『ケルト : あー、俺は大体1800万くらいだな。愚者スキルがねぇのが辛いわ』
戦車長『後ろの電波が、私もいけるとか言ってて怖いんだが』
裁断者『……4億2935万4000に、追撃ダメージ2億1467万7000が最高記録だ。同じく自爆技だがな』
約全員『!?』
◇
ブフォと、後ろに座っているセナが吹いた。後頭部が冷たいから勘弁してほしい。そして、慌てた様子で肩を叩いて聞いてくる。
「いつの間にユキくん、そんなバ火力出せるようになったの!?」
「第2回のイベントが終わった頃かな。ほら、仕込み刀ゲットした頃から」
因みに藜さんに見せた時から、刀と鞘の保持以外効果のない展開機能を追加してもらってたりもする。見た目だけの変更なので、装備制限にも引っかからない安心タイプだ。
「なんで藜ちゃんは驚いてないの?」
「1回だけ、見せて、もらいました、から」
どことなく自慢げに藜さんが言った。ちょっと背後でバチバチ火花散らすのやめて。ほんと怖いからやめて。
ま、まあそれはそれでいいとしてだ。
「セナ、ちょっと頼みごとあるんだけどいい?」
「ん、いいけどなに?」
「多分、シャークトゥルフのHP吹き飛ばすのに俺も動員されるからさ、俺のこと回収してくれない? これ装備して」
今自分が装備しているコートを指差しながら言う。藜さんは今動けず、Agl極振りの人達も救援に行っていなくなってしまった。そうなると、安全に俺を回収できるのはセナくらいしかいない。
「りょーかい!」
「フィールドが書き換えられるから、絶対に外さないでよね」
「うんうん、分かってるよとー……ユキくん!」
テンションが上がっているセナが、思いっきり背中に身を寄せてきた。それを見た藜さんからの目線が非常に怖い。これやっぱり、俺っていつか刺されるんじゃないだろうか。
銃剣でアゾられて風穴を開けられるか、槍で串刺しにされた後爆発するか……どちらにしろ地獄じゃないですかやだー。
“
◇
超器用『全員落ち着いたようだし、作戦を発表させてもらう。うちの馬鹿どもが大半を占めることになるが、火力ゆえ許してくれ』
超器用『反対は、特にないようだな。戦法は至ってシンプルだ。バ火力で障害を焼き払い、バ火力をぶつけ、環境破壊兵器を投下する。以上だ』
コバヤシ『身内からも、極振りの扱いってそんななのか……』
裁断者『その道のエキスパートが狂った奴らの中、ほぼ唯一の正気だからな』
傀儡師『大体は分かるが、もう少し分かりやすく頼む』
超器用『にゃしぃの爆裂でバッと吹き飛ばして、アキ・センタ・ユキの3人の極振りで大ダメージを与えて、環境破壊兵器翡翠を投下する。馬鹿どもの移動は戦車長、傀儡師達が担当する。以上だ』
戦車長『もっと難しく言ってくれ……』
超器用『てつはうの如き魔なる力に邪なる神へ従ひし紐の如き生き物をバッと吹き飛ばし奉りて、みたりのいとけやけし者に大きな損害を与へ奉り、草木をいと壊したる兵杖翡翠なる者を下ろす。をこどもの移動は戦車長、傀儡師達が担当す。以上なり』
傀儡師『やっぱりコイツも正気じゃないじゃないか』
アオギ『だがまあ、分からんこともないしいいだろ』
コバヤシ『貴様、もしやと思っていたが文系か!』
超器用『文句の多い奴らだな……開始は、俺が閃光弾をあげるからそれを目印にしてくれ。1回目で退避、2回目で開始だ。戦車やバイク部隊は、巻き込まれない様に始まったら待避だ。準備はいいな!』
全員『応!(はい!)』
◇
「案の定か」
やりたくはなかったが、やはり抜くしかないらしい。だがそれはそれとして、対策を先んじて打てたのは良かった。
「藜は動けます?」
「まだ、無理です」
「了解しました」
やっぱりまだダメらしい。まあ仕方ないと割り切って、メニュー画面を切り替えてフレンドメッセージを送る。
「なら、頼みます。ランさん」
『そうだな、戦力になれなかった分、力は尽くそう』
機械を通した様な音声で聞こえた言葉と共に、バイクと並走するように水面から機体が浮上してきた。
赤銅色の無骨なボディ、各部に走る青いエネルギーライン、そしてそれを包み隠す様な黒いマント。それは、ランさんの3周り程大きいというサイズを除き、紛れもなくヴォルケインと言える姿だった。
肩部につららさんとれーちゃんが座ってなければ、完璧だったと思う。
『行ってくるといい』
「では」
藜さんが反対の肩部に移動したのを確認して、障壁で作った傾斜を乗り越えさせた愛車を一度収納する。それにより勢いよく空中に投げ出される中、メニュー画面を操作する。
「セナ!」
ツーカーで話が伝わり投げ渡したコートをセナが羽織る中、俺は呪い装備に装備を変更する。そして、無茶な姿勢だが仕込み刀をV字に振り抜く。ヴォルケインを見せられたら、こちらもやるしかなかろうよということで。
「ウェイクアップ、ヴァン」
相変わらず間違ってるタイミングだが、問題なく
そしてタイミングよく何かの発射音が聞こえ、僅かに空が明るくなった。見上げれば、明るい光がゆっくりと降下している最中だった。かなり後方だが、照明弾だということは分かった。
作戦が、始まる。
大天使『なんか向こう、最大ダメージ4億とか言ってるんですけど』
剣魚『そんなことよりこっち集中しような、な!』
農民『あいつらはあれや、鏡か水面でも通して見んと頭おかしうなるわ』
大工場『マスター、そういう自分もすごく動揺してるじゃないですか。言葉おかしくなりかけてます』
-追記-
極振り2名が出してるキチガイダメージは、普通の人でも使える手法で 出されています。そこそこの一般人(総合Str500)が使うと、43万程度のダメージになります。
条件としてHPMP1、Vit・Int・Aglが0のまま、接近しなければいけませんけど。しかもその後確実に死亡します。
あと色々アレなので、Str極振りの火力の元を活動報告に上げておきます