幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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翡翠が登場すると言ったな、あれは嘘だ(多分3話くらい後になってしまいましたすみません)
乱発する誤字の訂正本当にありがとうございます


第66話 極振りの宴②

 よかれと思って展開した紋章が、装備効果で反転し俺のHPを削っていく。しかし死界の反転効果によるリジェネがそれを上回ることにより、それは実質意味がないものと化している。そんな中俺がしていることは、至ってシンプルだった。

 

「ちょっと待てこれ。俺も1億ダメージ超えるじゃん」

 

 それは予想外に強すぎた自分の最大火力の調整だった。ほんの少しレベルが上がっただけだというのに、計6000万程から物理が2億弱属性が1億強とかいう訳の分からない上がり方をしていたのだ。もう既に【ドリームキャッチャー】でのバフは終えてしまったので、後戻りは出来ない。

 

 試算したところ、億を超えさせない状態に今から出来る調整は【明鏡止水】を発動させない場合。その火力は物理4518万5985と属性の2711万1591。相手の特性から考えると、これで入るダメージは2259万2992と属性の1355万5795となった。

 詰まる所、ゲージ3本と半分弱。どうしよう、強い言葉は使ってないのに弱く見える。

 

「ねえセナ、火力3600万って少ないかな?」

「私の最大火力の6000倍なんだけど?」

「ごめん、俺が間違ってた」

 

 むっとしたセナに即座に謝る。そうだよ、普通のプレイヤーの火力からしたら、こっちがキチガイ火力なんだった。

 

 そう納得し、顔を上げた先にあるのはシャークトゥルフの右側面。にゃしいさんの魔法に巻き込まれない様にある程度距離を置いて、突撃のタイミングを今か今かと待っている最中だ。戦車やバイクからの遠距離攻撃は今も続けられており、雀の涙ほどの減少値だがシャークトゥルフのHPを削っている。

 

 反対側にはアキさんが待機しており、センタさんは正面から一足早く攻めるそうだ。センタさんがセンターから……なんちゃって。

 

 

 超器用『準備はいいな? ではこれより、作戦を開始する!』

 

 

 チャットにそんな文字が流れたと同時、破裂音とともに閃光弾が打ち上げられる。それを合図に、後退したバイク・戦車群が放つ砲火の中から2つの影が飛び出した。

 

 1つは近未来的な戦車と、そのキューポラの上に仁王立ちする青タイツの人影。某エロゲの兄貴のRPをしているセンタさん、一番槍担当だ。本人自体は、ただのバトルジャンキーなので安心できる。

 

 もう片方は、一言で言えば鎧武者だった。全身を覆う金の飾りがある濃藍の装甲に、顔までを覆い尽くす兜。兜の立物には不思議な形のものが前面に付けられている。脹脛辺りから下ろされたと思われる無限軌道(キャタピラ)により疾走するその鎧武者が、背部にラックされていた2枚の巨大な大盾を両腕に装備したあたりで、漸くその正体に気がついた。

 

「相州正m……んんっ、あれがデュアルさんか」

 

 行進間射撃で極太のビームを発射する戦車と、その隣を中腰姿勢で疾走する鎧武者。実にシュールな光景だ。そこにさらに、混沌の要素が加えられる。

 

 ゆっくりとした動きで、黒と赤の魔女服が鎧武者の上に登ってきたのだ。そしてバランスよく両肩に立ち、装飾の少ない赤い宝珠の付いた木製の杖をにゃしいさんは構えた。否、よく見るとその杖の上部にある宝珠の隣に、紅の魔導書が固定されていた。

 あれが、例のユニーク武装なのだろう。俺の【無尽火薬】と同種の気配を感じる。

 

『DAAARAAAAAHHHHHHHHHH!!』

「だーっはっはっは!!」

 

 そんな体勢で、こちらにまで届く大音声の笑い声を響かせた。もう1つ重なって聞こえたのは、きっとデュアルさんの声だろう。ちょっと加工された感のある、男性の声だった。

 

「いきますよデュアル!」

『応!』

「エクスプロージョンじゃないのが残念ですが、そんなの知ったこっちゃありません。無理を通して道理を蹴っ飛ばして押し潰すのみです!! 音楽を流しましょう!」

『了解だ御堂!!』

 

 そんな色々突っ込みどころしかない会話の後、戦場全域に届く音量で例の爆裂魔法のBGMが流れ出した。ああ、うん、もういいや。諦めよう。

 半眼となって見つめる先、ノリノリでにゃしいさんが詠唱を始めた。

 

「無窮の項、原初の竜王

 零と壱の狭間より顕現し、六翼の暴虐を以て蹂躙せん

 其は天の落涙、無謬の宇宙(そら)に掛かりし虹霓

 偉大なる劫火、滅びの光輝はここにあり、永劫の鉄槌は我がもとに下れッ!

 エクスプロォォォォォジョン(テラフレア)!!」

 

 それは、儀式魔法の陣より上空で展開された。

 魔導書を総動員しても描ききれなさそうな、複雑怪奇な幾何学模様の連続、重なり合い。そこから、虹を纏う火球が堕ちてきた。

 

「うっわー……多段ヒットしてる」

 

 その後は簡単だ。シャークトゥルフの直上で、大爆発が生じた。そうとしか言い表せないし、それ以上なにかを言うこともできない。それでも強いて言うなら、爆破の外縁部に青白い稲妻が走ってると言うことくらいだ。

 

「ああ、脳が、震えます……ガクッ」

 

 望遠で覗く視界の先では、実に幸せそうな表情を浮かべてにゃしいさんばたんと倒れた。

 

 ダメージとしては、セナの呟いた通り多段ヒット。6割強残っていたシャークトゥルフのHPバーの8段目を、ガリガリと削り取っていく。本人の申告通りなら、残り1割までは削りきるのだろう。

 

「ビュ-ティフォ-……これは100点満点の爆裂ですわ」

 

 同じ爆破を志す者として、これは見習わねばなるまい。アレだ、街の爆破で対抗しよう。あっちに仕掛けた爆弾も相当な量だし、ザイードさんに期待だな。

 

「ユキくん、なにを納得してるのか分からないけど……そろそろ爆発来るよ?」

「うん? まあ、多分大丈夫だよ。そこら辺、ザイルさんが対策してない訳ないし」

 

 そう言った途端、薄青の何かが通り過ぎた。正確に言えば、突撃準備で僅かに突出している俺たちをカバーする範囲で、デュアルさんを中心に防御フィールドとでも言うべきものが広がったのだ。

 直後爆圧が到来したが、そのフィールドに阻まれダメージは1たりとも貫通しなかった。防御極振りの真髄を見た感じだ。その、すぐ後のことだった。再びデュアルさんの大音声が戦場に轟いた。

 

『因果応報、天罰覿面!!』

 

 それをトリガーに、拡散していく最中だった爆圧が収束を始めた。光を放ち収束するそれの先にあるのは、何らかの発射台を備えた左の大盾。それを紅蓮に発光させ、デュアルさんはシャークトゥルフに突きつけていた。

 

『ではゆくぞ、第2撃! カウンター : テラフレア!』

 

 そんな掛け声と共に、その盾からにゃしいさんが放ったものと同様の虹を纏う爆球が発射された。それは未だ衝撃から復帰出来ていないシャークトゥルフに再び襲いかかり、直前のものと何ら遜色のない極大の爆発を引き起こした。威力についても同様のようで、シャークトゥルフのHPバーを7本目の半分程まで削り取った。

 

「信念が足りない。70点」

「ごめん……私、ちょっとユキくんが分かんない」

 

 セナの頭を優しく撫でてる間に、爆圧は通り過ぎた。防御フィールドは相変わらず健在のようだが、カウンターはやはり1発限りの技だったのだろう。デュアルさんが動く気配はない。

 

「行くぜぇ!」

 

 しかし、その代わりとでも言うかのようにセンタさんが動いた。金属がぶつかり合う激音が轟き、その姿が何処かへと消え去った。慌てて探すと、遥か上空に青の点が存在している。望遠で覗いてみると、それは案の定槍を持ったセンタさんだった。はぇーすっごい。

 

 どうしてそんな上空に? と疑問が浮かんだが、力任せにジャンプしただけなのだとすぐに思い至った。多分落下ダメージで死ぬだろうけど、必殺技の演出はそんなものより優先度が圧倒的に上なのだ。よく分かる。

 

「分裂機巧は再現できてねえが――」

 

 そのジャンプが頂点に達した時、センタさんが手に持った朱槍を軽く上に放った。そしてどうやっているのか分からないが身体を回し、オーバーヘッドキックの要領で足を振り上げた。そこに、槍の石突きが噛み合った。

 

「ゲイ・ボルク=アイフェ!」

「██◼️◾️◼️◾︎◼️ッ!!??」

 

 そうして放たれるは、Str準極振りの全力とスキルが乗った槍撃。放たれた彗星のように紅い尾を引く槍は、シャークトゥルフのサメヘッド、しかもその鼻っ柱に思いきり突き刺さった。減少が止まったのは6本目の6割程、 運が良ければいけそうだ。

 

「さて、行くか。回収は頼んだよ!」

「りょーかい!」

 

 その結果を見届けて、バイクのエンジンを吹かした。既に使ってしまったからターボはないが、それでも十二分な速度でシャークトゥルフに吶喊する。そして速度が最大になった時、障壁のジャンプ台を使い自分をシャークトゥルフの脇腹に向けて射出した。バイクはこの時収納する。

 

磁装・蒐窮(エンチャント・エンディング)

 

 飛翔する中、仕込み杖を右肩に担ぐように構える。すると、それをトリガーにして鞘に当たる部分が展開した。鞘を構成するパーツの一部がパージされ片側が空いた奇妙な形となり、パージされた部分がそれを固定した。

 

蒐窮開闢(終わりを始める)

 

 前回同様、スキルを重ねがけして威力を高める。

 

終焉執行(死を行う)

 

 加速の紋章による超加速レーンを選択。更にそこに、初速を得るための磁力の紋章による反発込みの抜刀準備を重ねる。

 

虚無発現(空を表す)

 

 発動準備が整った時、異変が発生した。眼前のシャークトゥルフの周囲に、狂った幾何学模様が点滅する半透明だが暗緑の結界が発生したのだ。全方位に張り巡らされたそれを間に挟み、こちらに疾走するアキさんに目配せをする。

 

 こんな無粋な壁、New必殺技で吹き飛ばす。だから、本命の一撃は少し後に!

 

電磁抜刀(レールガン)――穿(うがち)

 

 気がつけば、俺は刀を振り切っていた。その反動で回る体。その視界の中で、シャークトゥルフが張ったと思しき結界が粉微塵に砕け散るのを見た。そしてその向こうから迫る、金色の裁断者も。

 当然のように俺も砕け散ったが、セットしてあるスキルによって再構成される。同時に僅かに【死界】が広がった。俺が減らせたHPは、5本目の9割程まで。だけどまあ、アキさんならやってくれるという確信にも似た信頼がある。だからこそ――

 

「セナ! 一緒に退避!」

 

 全力でこの、アキさんの()()()()()から逃走する。ここにいたら、問答無用で蒸発する。それを事前に共有したこともあってか、無駄口の一切ないガチモードのセナが俺を抱えて逃走を開始した。

 そんな中、凛と通る声が耳に届いた。

 

特化付与(オーバーエンチャント)――閃光(ケラウノス)

 

 地面を飛ぶアキさんの武装から漏れ出たのは、闇を滅ぼす様な圧倒的な光だった。爆発直前の超新星と言っていいほどに、アキさんの刀が収まった鞘がカタカタと揺れその僅かな隙間から、他の追随を許さない黄金光が溢れ出る。

 

「◼️◼️◾️████ッ!!!」

「―――、――――――――、――――」

 

 漏れ出た光が掠ったシャークトゥルフがあげた絶叫と、アキさん自身から放たれる帯電のような、何かの収束するような、破滅を予感させる異音がその技名を搔き消し──

 

 全てを呑み込むように、極光の斬撃が放たれた。

 




デュアルさんのイメージは村正の正宗だったり。脚部の脹脛以降だけFAの轟雷だけど。

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