幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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(時折0話も追記してるよ)
タイトル親友の部分幼馴染にでも変えようかなぁ


第67話 一方その頃②

 時間は、少しだけ遡る。

 ボスモンスターである【Charitas OktoShark】が出現した防衛戦線、そこでも戦闘は行われていた。しかし、その勢いは最前線とは比べることなどとてもできない。はっきりと言ってしまえば、一方的に戦場は展開されていた。

 

「俺たちが時間をかせぐわああああ!!」

「マスターとサブマスは逃げぐわあぁぁぁぁ!!」

「ふっ、情けないね。ここは僕がぐわあああぁぁあ!!」

 

 足止めに向かったプレイヤーは、明らかに極振りかそれに類する存在を想定された攻撃力に磨り潰される。実のところ攻撃1発の火力は高くないのだが、それが鮫の数分多段ヒットすることにより膨大なチェインダメージが発生しているのだ。

 

「撃ち続けるんや! 削れてはいる、無駄にはならへん!!」

「蘇生が使える人は出来るだけボスから離れてください! 最悪、蘇生役を肉壁にして時間を稼ぎます!」

 

 しかし、こちらの攻撃では中々HPが減ることはない。的が大きいお陰で大半の援護攻撃は命中しているのだが、それでも今まで減らせたHPは1本目の半分強だった。それもこれも、凶悪なステータスが原因だった。

 

 ====================

 RAIDBOSS【Charitas OktoShark】

 HP 8,975,762/10,000,000

 MP ∞

 

 耐性 即死無効

 弱点 魔法攻撃・火・爆発

 装甲 オーバーダメージ無効・物理ダメージ半減

 ====================

 

 一千万などという馬鹿みたいに多いHPに、物理攻撃を半減する特性。何より蛸型の癖に移動速度がかなりあり、攻撃にも防御にも隙がない。代わりに突っ込んでも鮫の群れに食われる訳ではなく、1つのモンスターとして当たり判定があるが気休めみたいなものだ。

 

「全員、()()が来るぞ! 盾持ちは前に出て防御を固めろ!」

 

 ボスである巨大な鮫蛸が、まるで息でも吸い込む様に僅かに体を引いた。そこに、1発の銃弾が直撃した。当然なんの効果もない物ではなく、残り数発となったアークの停滞弾だ。

 

「イオ!」

「みんなに、天使の祝福を──!!」

 

 そうして作られた戦闘の間隙に、盾を構えたプレイヤーが前進しその上から柔らかな光が降り注ぐ。同時に後方のイオから大量の防バフが展開され、防護が一層強靭なものに変化した。

 

「BOOOOAAAAA!!!」

 

 しかし、それでも足りない。停滞の解除されたボスが回転を始め、長く太い蛸足を連続して叩きつけ始めたのだ。1発、また1発と攻撃が当たる毎に盾役に徹するプレイヤーのHPが削れ、数秒で消滅した。

 

「「《リザレクション》」」

 

 即座の蘇生が行われ、第2の盾役が前進しボスを押し留める。そして死亡する。立て直された第一陣が再度前進する。死亡する。その間に第二陣が──そんな作業がたっぷり30秒続けられ、ボスの回転は停止した。

 

「今や! 掛かれーッ!!」

 

 後方で指揮を執る農民ことハーシルの指示により、属性攻撃が可能な前衛がボスに群がりそれぞれ全力の攻撃を叩き込む。ボスが大技を出してから約30秒、一切の行動を起こさないことが分かった故の反撃だ。

 そして時間が過ぎれば蜘蛛の子を散らす様に逃走し、再度遠距離攻撃による足止めと少しでも街に到達されるまでの時間稼ぎを再開する。

 

 けれど、誰もがこの状況を負けイベントと同様に考えていた。何度攻撃しようが減らない敵HP、モロに食らったらその時点で即死の攻撃、遠距離攻撃こそないものの単純なデカさによる膨大なリーチ。既に開始時から数えて10を超えるプレイヤーが街に向けて逃亡していた。

 即席の要塞もボスがかなり接近していることもあり、1割ほどが砕けている。流石に分が悪くハーシルが撤退を宣言しかけたその時、イオが叫んだ。

 

「今、助けを呼びました! 極振りが1人来てくれるそうです、それまではどうか耐えて下さい!!」

 

 同時に回復とバフが降り注ぎ、それに応じて鬨の声が上がり崩壊しかけた戦線を震わせる。そうしてプレイヤーが動き始めて、僅か10秒後のことだった。

 

「訂正。遅滞不要。我現着セリ」

 

 そんな声を伴う暴風と雷撃が、戦場に顕現した。だが、プレイヤーの姿は一切確認出来ない。

 

「警告。撤退推奨。実行《(スラッシュ)》」

 

 そして追加の言葉を発した直後、不思議な事が起こった。鮫の群れで作られた8本の足が、ほぼ同時に切り離されたのだ。未だにプレイヤーの姿は見えず、分かることは精々切り離された部分に雷が纏わり付いていることだけ。

 こんなたった数瞬で、ボスのHPは3段にまで減っていた。誰もが驚愕に足を止め、動きを止めてしまっている。そんな中、再び声が響く。

 

「不可能判断。要求。被害者蘇生」

 

 これを行なっている当事者を除き誰にも何もわからぬまま、ボスが浮き上がった。

 

「【天翔怒涛】」

 

 最初は1mほどだったその高度が、見る間に上昇していく。ボスを押し上げているのは、莫大な量の雷風。一撃一撃が着実にボスのHPを削りつつ、雷と風が蝕んでいく。そうして20mを超えた頃、押し上げていた雷風が突如消滅した。

 

累積解放(チャージバースト)。実行《(ストライク)》」

 

 すわ救援の極振りが死亡したのかと思った瞬間、風と雷が墜落した。ダウンバーストの様な暴風が炸裂し、雷が爆ぜた。その気流の中央を物凄い速度でボスが落下し、風に裂かれ雷に焼かれながら周囲のプレイヤーを押し潰す。

 

 しかし、それではまだ被害は終わらない。

 

 風と雷が、拡散した。風が大地を削り地面に穴を開け、雷撃が拡散してプレイヤーにも大ダメージを与えたのだ。前線に出ていたプレイヤーは、そのFF(フレンドリーファイア)によって全滅した。後方にある砦も雷風に飲み込まれ、その8割を崩壊させてしまっている。さらにボスは痙攣する様に鮫を溢し、そのHPを残り1本と少しにまで減少させている程の攻撃だ。逆にプレイヤーが耐えられる方が不思議である。

 

 そんな死屍累々の大地に、ふわりと小柄な影が降り立った。それは少女。橙の長髪にサイドテール、黒いサングラスの奥から見えるアイスブルーの眼からはまだに戦意が満ち溢れている。速さを意識しているのか、どことは言わないが凹凸はない。携行している武器はなく、武器は拳や足などの肉体なのだとわかる。

 

「まったく、高速機動中は単語しか言えなくて困るぜ」

 

 その少女はそう嘆息してから大きく息を吸い、起き上がろうとするボスに指を指して宣言した。

 

「私が尊敬する昔のアニメキャラが言っていた。『大は小を兼ねるのか速さは質量に勝てないのか。いやいやそんなことはない速さを一点に集中させて突破すればどんな分厚い塊だろうと砕け散る』って」

 

 反対の手でサングラスをクイッと上げ、ポーズを決めて少女は言う。

 

「そう、つまりお前には『速さが足りない!!』」

 

 完全に、決まった。間違いなくそうと言える状態だが、折角のその姿を見ているのは僅か数人だった。何せ、ギルドマスターやサブマスター級のメンバー以外ほぼ全員が先ほどの攻撃に巻き込まれて死んでしまっているのだから。

 

「え、いや、あの、え?」

「君がギルド【空色の雨】のギルドマスター、イオだな」

 

 HPが赤ゲージまで落ちたイオにその少女が手を差し伸べた。それを取り立ち上がろうとするこの状況は、非常に絵になるだろう。

 

「私はギルド【極天】Agl極振りが1人、レンだ! 短い間だが、よろしく頼むぞ!」

「え、ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 そうして立ち上がったプレイヤーの数は、僅か数人。戦況が始まってすぐの頃に逆戻りしていた。だが、

 

「ひい、ふう、みい……なぁんだ、生き残りは私含めて4人だけか。根性ないなぁ」

「それは、お前がやり過ぎだからや!」

 

 口を尖らせてそう呟いたレンに、背後から農業用と思われる鍬が振り下ろされた。黒い短髪に黒縁眼鏡、どこか幸薄そうな印象を与えるそのプレイヤーこそ、ギルド【アルムアイゼン】のギルドマスターであるハーシルだ。その胸は、豊満であった。

 が、鍬の振り下ろしを難なく交わし、数歩横にずれたレンが言い返した。

 

「なんだよ危ないなぁ。この状態の私じゃ、パンチ1つ食らったらお陀仏なんだからな」

「丁度ええわ、いっぺん死にさらせぇ!!」

「折角来たのにやなこった。でかい胸してる癖にちっせえな」

「ぐぇっ」

 

 神速で拳が動き、ハーシルの手から鍬が叩き落とされた。しかしそのレンの首に、巨大なモンキースパナがカチリと嵌められた。

 

「双方、やり過ぎです。矛を収めてください。ボスが健在なのですから、そちらに集中しましょう」

「ま、それが得策だろうな」

 

 その下手人は、長い鋼色の髪と瞳を持った女性だった。表情は氷のようで、この場で一番冷静と言えるだろう。名はツヴェルフ、ギルド【アルムアイゼン】のサブマスターだ。一撃でも食らったら即死亡のため、レンが両手を挙げて降参した。

 

「ああもう、2人とも瀕死なのに何やってるんですか! 蘇生も、前線の人たちみたく間に合わないかもしれないんですよ!」

「僕だけ、場違いだよなぁ……」

 

 慌ててレン・ハーシル・ツヴェルフに回復とバフを掛けるイオと、その後ろに控えるボロボロのアーク。この5人が、今この戦場で動ける戦力の全てだった。

 

「で、ここの指揮官は誰だ? 私が来なくても、結構戦えてたように見えてたけど」

「私やけど、あんたのさっきので壊滅したわドアホ!!」

「キレやすいのは良くないぞ。もっとカルシウムを……あっ」

「なんやその『胸に吸われて頭にいかないんだ』みたいな顔! 私やって好きでこんな胸しとらんわ!」

「そんなこと言って、同性の私から見てもキレやすいのは、ね?」

「るっさいわこの平坦が!」

「言っちゃいけないこと言ったなこのデカ乳!」

「あの……」

 

 平と凸の凄惨な戦いに割って入ったのは、そこら辺全く関係ないイオだった。おずおずと挙げたその手が、まっすぐ前方を指差した。

 

「ボス、復活してます」

 

 そうイオの言う通り、このゴタゴタの内にボスは態勢を整えきっていた。サイズが幾分か小さくなったものの、8本の生え揃った足に怒りの色が見て取れる双眼。HPこそそのままだが、万全と言って差し支えないであろう状態にまで回復していた。

 

「一旦、停戦やなキチガイ平坦」

「了解だ、デカ乳百姓」

「なんで、この人たちこんな話が早いんですかぁ……」

「諦めようイオ、多分そう言う人なんだ」

「うちのギルマスが、迷惑をかけます」

 

 こうして、1パーティ未満の人数によるボス討伐が再開されたのだった。

 


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