幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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前回までのあらすじ!

シャークトゥルフ「再生中……再生中……」
超器用「突撃ぃぃぃぃ!!」
爆裂娘「エクスプロージョン!」残り7本と1割
シャークトゥルフ「ちょっ」(ノックバック)
デュアル『因果応報、天罰覿面!!」6本と半分
シャ(ノックバック)
センタ「ゲイ=ボルク!」5本と6割
シャ(ノックバック)
ユキ「電磁抜刀ーー穿!」バリア破壊&4本と9割
   ユキ死亡カウント1(ノックバック)
アキ「特化付与ーー閃光!」???
   アキ死亡カウント1



第69話 極振りの宴③

 担がれて移動する俺の目と鼻の先を、黄金の爆光が通過した。まるで空間ごと切断する様なその光は数秒で途絶え、カシャンという微かなガラスの砕ける様な音が耳に届いた。俺と同様かは知らないが、反動か《殉教(まるちり)》の様なスキルの反動でHPが0になったのだろう。

 

「ボスは!?」

 

 恐らく数秒後には蘇生魔法で復活するだろうが、その犠牲を経て得たものは確認したい。セナの声に同意し、展開した《望遠》の紋章の先には、絶望感を漂わせるボスのHPが表示されていた。

 

「残りHP、1本目の3割!」

 

 極振りの総攻撃を以ってしても、制限のせいかボスのHPを削りきることは出来ていなかった。そしてボスというものは大抵、HPが低くなると何かしら特殊能力を使い始める。所謂発狂モードというやつだ。当然このシャークトゥルフにもそれは搭載されている筈で、今この場は、これまでで最も危険な時間に突入した。

 

 そんな俺の想像を裏付けるが如く、爆光が晴れた先にいるシャークトゥルフはその姿を変貌させていた。

 双眸は真紅に染まり、破れた翼膜代わりに非幾何学的な並びで魔法陣が展開されている。尾は触手が縒り合わさりふた回り以上巨大化し、不気味なオーラを発している。四肢は太さを増し、爪は大きさと鋭さを増し、エラからは黒い煙を吐き出し、背ビレも禍々しいラインが走っている。そして変貌したシャークトゥルフが、宙天に座す満月を見上げ──

 

『させるか!! 行ってこい翡翠!』

「ようやく私の出番ですか。では行ってきますね」

 

 その顔を、極太の青白い光が呑み込んだ。その光量に、望遠の紋章がエラーを起こして消滅した。それでも閃光の発生源を辿れば、そこにあったのは近未来的な戦車とその砲身の周囲に展開されたパーツ群だった。

 赤熱したそれらは明らかにオーバーヒートしており、宣言通り暫く使うことは出来ないのだろう。ハッチを開いて中から黒い制服のプレイヤーが現れ、戦車をアイテム欄に戻して走り撤退していく。

 

「ユキくん、着地するよ!」

「了解!」

 

 そのまま着地すれば俺が即死することを知っていたセナは、何度も空中で減速してくれていた。それが今、漸く水面へと降り立った。HP減少はなし、転んでも死ぬ要介助状態なので非常にありがたい。

 

「《アポルオン》《終焉の杖(レーヴァテイン)》」

 

 そう気が緩んだ瞬間、遥か上方からそんな声が届いた。そして、灰色が炸裂した。シャークトゥルフの頭部から翼の付け根、前足の肘部分辺りまでを、緩く回転するテレビの砂嵐の様な球体が飲み込んだのだ。そうして砲撃で残り2割5分まで減っていたHPが、さらに減少を始めた。

 

 これを、俺は見たことがある。確か翡翠というMin極振りの人の仕業だ。確か【終末】とかいう特殊天候の展開が効果だった筈。……もしかして、さっきのビーム砲撃に乗り込んでたとかかな?

 

「ありえる、か」

 

 少々頭がおかしいと思うけれど、まあ合理的だし。極振りならやりかねないという、謎の安心感がある。寧ろ確信と言ってもいい。

 

「全員、翡翠が足止めしている間に全力で攻撃を仕掛けろ! ここで削りきらないと、発狂モードが来るぞ!!」

 

 そこに、拡声器で拡大された声が響き渡った。ザイルさんだ。自身も全力で長銃で射撃しながら、生き残っているプレイヤーに仮の司令官として命令を出していた。

 

「セナ、俺はもう大丈夫だから攻撃お願い」

「そう? りょーかい」

 

 全力で走っていたセナが急ブレーキをかけ、停止したところで降ろしてもらった。それですぐに攻撃に行くものだと思っていたのだが、セナはこちらを見て1つ疑問を投げかけてきた。

 

「ねえユキくん、さっきのやつってもう1回撃てたりしない?」

「無理。スキルの発動条件が満たせてないし、よしんば撃っても刀が壊れる」

 

 抜刀術系統のスキルは、何個か微妙に発動条件を満たしてないから火力のブーストが満足に出来ない。それに正式な刀じゃなく仕込み刀だから、さっきの1発にはギリギリ耐えられる程度の耐久性しかないのだ。装備の反転効果で回復してきているものの、今撃ったら確実に砕け散る。替えがない以上、それは容認出来ない。

 

「そっか。じゃあ行ってくるね」

「いってらー」

 

 無言でセナに大量のバフをかけて見送った後、俺は大きく深呼吸をした。俺が確実に復活出来る残り回数は33回だが、多分今は転んだだけでその数が消費されるガラスもビックリの脆さしかない。

 死ねばそれだけ、現在半径1mの【死界】の環境は広がるし、確かにそれはボスのHPを削るのに貢献出来るだろうけど……無為に数を減らしたくはない。

 

「なら、出来るのは射撃と爆撃くらいか」

 

 そう判断し、愛車(ヴァン)を取り出して武装を《新月》へと変更。副装備と化した骸ノ鴉5羽を呼び戻した。そうして新月のバイポッドを展開し、愛車のシートに乗せて《新月》を構えた。

 

 

超器用『あいつは脆い訳じゃないが、物理で攻められたら簡単に落ちる。だから各々、出来る限り削ってくれ』

 

 

 チャットにもそんな文字が流れ、了承の意が込められた返信が流れていく。

 幸いにもセナが運んでくれたここは、シャークトゥルフからもプレイヤーからも距離のある尻尾側の方だ。誰にも邪魔されない場所なのだし、色々と本気でやらねばなるまい。

 

 そうと決まれば、やるのみだ。一旦《新月》から手を離し、カラビナにセットされている残り3本の爆弾を腕に留めた骨だけで出来た三羽の鴉に掴ませる。そして、その鴉に言い聞かせるように言う。

 

「シャークトゥルフの上空で、その爆弾を離して戻ってくる。OK?」

 

 それを理解してか、ガァと1つ鳴いて鴉たちは飛び立った。セナと同様それを見送り、本気で狙撃する為に《新月》のスコープを外した。

 

「《望遠》」

 

 右目を瞑り、片眼鏡に重なる様に2枚の紋章が展開された。紋章の効果により僅かに天候の壁が透け、拡大された先に映された光景は……実にイイ笑顔でシャークトゥルフを燃やして食べている女性というか、女の子の姿が映った。クリーム色のフワッとしたセミロングくらいの髪に、限りなく白に近い菫色の目、腰の装甲がついた長いスカート以外は普段着の様な、セナくらいの低い背。見た目だけならおっとりとした雰囲気が伝わってくるが、明らかな凶行のせいでそれは霞んで見える。

 表示された名前は翡翠、極振りの1人でMinの人だった。しかも【空間認識能力】のお陰なのか、その口の動きと表情からなんと言っているのかなんとなくわかってしまった。

 

「『ふふ、シャークトゥルフなんて言っても、本物の御代じゃないんです。なので焼いて食べます。ショゴスが食べられるんだから食べれます』……えぇ?」

 

 左手のステッキから炎を吐き出して焼き、右手の短剣で切断してシャークトゥルフを食べている。もう、なんかこう、凄く、頭がおかしいです。翡翠さんに迫る何本かの触手は本人に到達する前にボロボロと風化した様に崩れて消えていく辺り、通常プレイヤーよりも耐久性は高そうだ。

 けれど、だ。触手の本数は灰の結界内で時間と共に増え続けている様で、撃破されるまで時間の問題の様に見える。

 

 深呼吸。そして紋章の倍率を下げ、射線を通す。尾の付け根から頭部にかけて、動きが止まっている今しか狙えない最大HITの軌道だ。今の状態で射撃したら、どれだけ反動を殺しても死ぬので減退の紋章は最低限銃が跳ねない程度の展開で済む。

 

魔銃(まがん)解凍……なんちゃって」

 

 俺にそんなに色の知識はないし、銃だって砲身は一本しかない。けどまあ、なんとなく思い出したから気分で言っただけだ。

 

 紋章展開準備。反動制御に減退1枚、残りMPを全て加速へ。加速紋章の大きさは銃口から1mまでは銃弾の直径、それ以降はブレを想定して僅かに拡大。500倍の加速と推定。

 弾種変更。徹甲榴弾から離脱装弾筒付翼安定式徹甲弾……所謂APFSDSの擬きに変更。これは趣味で作ってたザイルさんに感謝しかない。

 威力試算。試算不能。性能からのダメージ計測不能。実射経験なし。されど威力は大と推測。

 

「撃ち抜きますーー以上」

 

 砲火や魔法が舞う硝煙弾雨の中、シャークトゥルフに向けて一直線に達筆なの文字の並びが貫いた。その加速の紋章で作られた射線からズレないように、即座に引き金を引く。

 

 瞬間俺の身体は粉々に砕け散り、地上から空に向けて一条の流星が駆け抜けた。無論放たれた銃弾は多段ヒットの、全段クリティカル。多分Lukに極振りでもしなければ出ない火力の筈だ。

 

 蘇生された身体が到来した衝撃波で再び砕け、3度目の蘇生で復活直後跳ねた《新月》が直撃して再び身体が砕けた。4度目の蘇生を迎え、漸く環境が落ち着いた。そうして見たシャークトゥルフのHPは……

 

「まだ、1割強残ってるか」

 

 その膨大なHPからすれば残り僅かだが、200万……実質400万のダメージを即座に与えられるメンバーはもういない。いや、いるにはいるが1人は満足感でビクビクしてるし、アキさんは多分冷却中、センタさんは……多分水中、俺も冷却中だし、極振りは全員ダウン中だ。

 

 それに加えて、望遠で見る先に翡翠さんの姿がなくなっている。代わりに存在するのは、団子のように固まった触手塊。物量に負けた、そういうことだろう。そして発動者がいなくなったことで、封印になっていた灰色の空間が薄まっていく。

 つまりは、時間切れだ。

 

「だけど!」

 

 まだ、俺の爆弾が残っている。タイミングよく鴉たちがシャークトゥルフの上空に到達し、爆弾を投下した。その爆弾は投下された時点から一部が展開されたプロペラの様になり、ホバリングを開始する。そしてホバリングする本体を中心に、大きな円形のマーカーが展開された。そうして始まったのは、絨毯爆撃だった。

 

 マーカー内に、小さな炎の塊が出現しては雨霰と落ちていく。爆撃の火力は低いようだが、確実にそのHPを削っていき──振るわれた尾によって、効果終了前に撃墜された。残りHPはほぼ変わらず1割と半分程、壁は厚く高かった。

 

「◼️██◼️◾︎◾︎◾︎◾︎◼️!!」

 

 爆弾と灰色の残滓を鬱陶しがったのか、シャークトゥルフがその背の翼を大きく羽ばたかせた。翼膜代わりの魔法陣がしっかりと風を掴み、湖全域に恐ろしいまでの暴風が吹き荒れる。また身体が砕けて再構成された。

 その直後俺が目にしたのは、水の壁だった。シャークトゥルフを爆心地として、10mを超える水の壁がプレイヤーを悉く呑み込んでいく。

 

「せい!」

 

 バイクも戦車も何もかもを巻き込むそれを前に、俺は舌を思いっきり噛んでHPを0にした。そこから蘇生されるまでの僅かな無敵時間で波を通り抜け、波立って立つことすらままならない水面の代わりに障壁を足場に膝をついて耐える。

 

 そんな暴風と水飛沫が舞う中、ゴギ、ベギ、グチャ、などと普段耳にすることのない異音が耳に届いた。骨が砕けるような、肉が潰れるような、皮が裂けるような、浮囊が破れるような、只々不快な音が連続する。同時に漂ってくるのは、堪え難い悪臭。腐った水のような、鼻を突き刺す毒のような、腐敗した生き物のような、集積されたゴミの中のような、吐き気を呼び起こす臭いが炸裂した。

 

 それを気合いで堪えて目を開けば、陥ち窪んだ爆心地に、更に姿を変えたシャークトゥルフが存在していた。

 

 獣の様だった両腕は姿を変え人かそれに類するものへと変貌し、脚には触手が巻きつき肥大化。その巨体を支えられるであろう重厚感を漂わせている。胴体は非常に前傾であるが確実に鮫の頭を支えており、破れた翼は巨大化してシャークトゥルフを浮遊させていた。爆弾を撃墜しやがった尾は健在で、縒り合わされた触手が蠢き鳴動している。

 

 いつの間にか紫色に染まった月が妖しく発光し、人型となったシャークトゥルフが、山のような巨体を捩らせ、行動を開始した。

 




シャークトゥルフ「やっとこさ行動出来た」



 特殊天候【終末】について
 風化(極大)
 HPスリップダメージ(その時点での3%/2s)
 MPスリップダメージ(その時点での3%/2s)
 属性効果低下(全)
 道具耐久値損耗(100/2s)
 2秒ごとランダムに空間に状態異常を付与
 天候制圧
 汚染残留

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