「ん!」
最初に動いたのは、持っている大きな魔導書を開いたれーちゃんだった。普段俺が使わない様な基礎ステ以外のバフを、いとも簡単にギルドの全員に付与した。ヴォルケインヘッド越しに見える横顔が、どこか自慢気なのは気のせいじゃないだろう。
同じ補助特化としては張り合いたいところだが、今はそれに処理能力を割けるほどの余裕がないので断念する。ザイルさんに射撃支援のお願いをしつつ、マントにしがみ付きながら全開で頭を回転させる。
「行くよ藜ちゃん。一気に削る!」
「勿論、です!」
なにせ、俺たちなんかを遥かに上回る速度で突撃した2人の攻撃の補助をしなければいけない。多分あの障壁を妨害出来るのって、手前味噌だが俺しかいないだろうし。
「普段サブマスの仕事を任せっきりな分、ここで私もしっかり働かないと!」
『俺も、れーやつららに負けていられないしな!』
つららさんが手数が多く範囲の広い吹雪の様な魔法でシャークトゥルフを攻撃し、ランさんは三連装のガトリングライフルから弾を吐き出し始めた。その全てがシャークトゥルフの紋章に防がれる中、先行したセナと藜さんがシャークトゥルフの足を登りつつ攻撃を開始した。
「七ツ身分身!!」
セナと藜さんが左右別々の脚を登る中、セナが7人に分身した。そしてそれぞれ光の灯った双銃剣を構え、攻撃が予測される点に障壁が発生──
「《障壁》」
させない。1人あたり10枚の計70枚展開されかけた障壁を、同様に障壁を発生させて暴発させる。これくらいなら問題ないのだが、天井がつけられてこれ以上上がらない認識能力にもどかしさを感じる。なんというか、あと少しで限界を突破出来るような気がするんだけど……
「舞姫!!」
そんな俺の思考とは関係なく、防御を剥かれた脚にセナの全力攻撃が炸裂した。光を纏った銃弾群と、7人のセナによる多重斬撃。普通のプレイヤーなら見切れず、縦しんば見えたとして対処しきれず倒されるであろう攻撃を受け、しかしシャークトゥルフのHPに大きな変動はなかった。
やはり、最低でも万単位の攻撃でないと通らないのだろう。まあ、見えない程度には変動があるのだろうが。
「シッ!」
セナの攻撃から遅れること数瞬、短い気合の声と共に藜さんが槍を高速で突き出した。当然シャークトゥルフ側の障壁を暴発させた時、限界ギリギリの集中の中凄い光景を見ることができた。
藜さんの放った攻撃は普段よく見る3連突きと全く同一の動きだが、その実全く別物の威力を秘めていた。普段なら3度聞こえるヒット音が何故か6つ鳴り、その後シャークトゥルフの足が6度の爆発を引き起こした。
ドット単位だが、僅かにシャークトゥルフのHPが削れた。やはり槍の方が銃より火力が出るらしい。まあ、銃って攻撃力が足りてない人が使って強い武器だから仕方ないといえばそうだろう。
「さて、お次はっ──ランさん、緊急回避左!」
2人が去り際に放っていった銃弾も丹念にシャークトゥルフに届かせていると、足の向こうに黄金の光が見えた。酷く見覚えのあるそれを前にして焦った俺の声に、ランさんが全力で左に跳んだ。
そして、シャークトゥルフに対し逆風に黄金光が振り抜かれた。
望遠の倍率を上げて見れば、爆光の先にある二重の障壁の向こうでアキさんがザイルさんに支えられて立っていた。未だアキさんには黒い何か……呪いとしておこう、それがほぼ全身に纏わり付いていた。無事なのは左目とその近辺の金髪、そして左腕だけだ。それでもこの状態のシャークトゥルフに一撃を入れ、剰え残りHPの1割を削るとかやはり頭のおかしい火力をしている。
これで恐らく、このハイパーモードシャークトゥルフの生存時間は5分……いや4分半くらい。
「まだだ!」
アキの裂帛の気合いと共に振り下ろされる黄金光。それがさらにシャークトゥルフのHPを削り飛ばし、残り生存時間を大きく削り取った。殆ど0に近いHPから予想するに、生存時間はのこり90秒ほど!
「あと少し!」
ここで状況に気がついたらしい他のプレイヤーが攻撃を仕掛けるが、圧倒的な攻撃力も俺のような中和方法もない以上一切のダメージが通っていない。これなら、ギルドの誰かがラスアタを取ることも出来るかもしれない。それでボーナスがあれば万々歳だ。
そのことにほくそ笑み、脳が焼き切れんばかりに障壁を中和しギルドのみんなの攻撃を通していく。それでもまだ、届かない。あと少しなのに、手が届かない。
「きゃっ」
『ぬぉう!?』
そして、極振りを守っていた結界が破られた。突き込まれた拳と爪にセンタさんが声を上げる間も無く消滅し、にゃしいさんも同様貫かれて砕け散った。翡翠さんは瀕死の状態で大きく吹き飛ばされ、爪を大盾で受け止めたデュアルさんは衝撃で甲冑が内側からバラバラに弾け飛んだ。
「よくやった、デュアル。この戦い、俺たちの勝利だ」
「ええ、そうですねアキ」
そして聞こえて来たのは、全く聞き覚えのない男性の声だった。それもそうだ、何せ砕けた鎧甲冑の中から出てきたのは予想外も甚だしい姿の人物だったのだから。流れるサラサラとした金の長髪、閉じられて細い線のようになっている眼と黒い眼鏡。その長身に、黒い男の物のカソックは異様にマッチしている。
俺は、その人物を知っている。無論声は違うし、現実での知り合いでもない。けれどその姿は、つい最近まで俺がやっていたゲームの──
「親愛なる白鳥YO☆」
朗々と、聞き覚えのありすぎる詠唱が始まった。どうして鎧甲冑の中身があのキャラのRPなのかは知らないが、このままじゃボスのラスアタを取られるというのだけは分かる。
「ふぅ……」
集中のため深呼吸をした後、俺の周りから僅かに音が遠くなった。集中がかなりしやすく、これなら多少の無茶だっていける!
ランさんの放つガトリングガンの着弾先に発生した障壁を中和する。つららさんの魔法に対して発動する障壁を中和する。れーちゃんが気を使ってかMPを分けてくれた、本当にありがたい。こちらの負担が分かったのか、同じ脚を狙い始めたセナと藜の周りの障壁を50枚割り当てて中和し続ける。
「足りない」
HPにぱっと見の変化はなく、詠唱をBGMに障壁を中和し続ける。けれど足りない。圧倒的に中和の数と火力が足りていない。手を広げすぎたせいか、各部で1、2枚ほど取りこぼしが出来てしまっている。それではマズイ、99%の攻撃が入っても1%分で負けたとか、極振りの名折れだ。
「だから、もっと!」
ピロンというメッセージの着信音が届いた。
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条件を満たしました
【空間認識能力】が進化可能です
・空間認識能力(改)
・空間認識能力(深)
・招き猫の幸運
・龍倖蛇僥
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直感に従って【龍倖蛇僥】のスキルを選択する。流し読みした効果は空間認識能力と幸運上昇20%、そして半透明の小さな鱗型防壁の展開だった。掌程の大きさだが、これならいける!
「追加!」
上限が結構上昇した空間認識能力のリソースを全て使い、新たに50枚分スキルの防壁を追加する。自分にMPポーションをブチまけながら相殺を続け、少なくともギルドのみんなの攻撃は全て通る様になった。先程までと違って無理もなく、逆に今まで放置していたシャークトゥルフ側からの反撃も防ぐことが出来ている。
「最強の筋力で、最硬の弾丸たるお前を撃ち出す。行くぞ」
けれど、
「Briah─」
あと少しだったのだが、
「
間に合わなかった。
軍服の短金髪がカソックの長金髪を撃ち出すという、非常に不思議な光景が展開された。さながら黄金の槍の様に発射されたデュアルさんは、展開された障壁をティッシュかなにかの用に引き裂き突き進んでいく。
「くたばりなさい、化け物」
そして、デュアルさんが両手を組んでハンマーの様に撃ち下ろした。それは鮫の鼻っ柱を打ち据え、残り僅かとなっていたシャークトゥルフのHPを0へと叩き落とした。
「あっ……」
誰かのそんな呟きと共に、シャークトゥルフの名前表示とHPバーが消え去った。そして、ゆっくりとした動きでシャークトゥルフが水面に崩れ落ちた。
振動と爆風、水飛沫が襲ってきたのを障壁で防ぎ、ヴォルケインに掴まって耐える。それが収まった時、倒れ伏したシャークトゥルフの上にデュアルさん(本体)が着地した。
「聖餐杯は壊れない、ですよ」
髪の毛を掻き上げて言うその台詞は、悔しいがとても似合っている。というかこれ、ラストアタック取られたよね……ちくせう。そういえば、スレッドでのデュアルさんの名前『気持ち的にナイト』だったっけ。元ネタを考えれば、ある意味面目躍如か……
ヴォルケインから落ちかけながら唸っていると、生き残っているプレイヤー全員の前に1枚のウィンドウが展開された。
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【鎮魂の儀 Ⅴ】推奨レベル 50
RAID BOSS
【Sharcthulhu】撃破
ラストアタック : デュアル
【Charitas OktoShark】撃破
ラストアタック : ハーシル
【Shoggoth】封印
以上の戦績を以って、第4の街ボス戦を終了と致します。
現在死亡しているプレイヤーは、各々のリスポーンポイントに送還。同時に蘇生魔法のスキルを回収致しますことご了承下さい。生存しているプレイヤーは、これから1時間後の封鎖解除までの間、討伐したボスからアイテムを5回まで採取可能です。
また、レイドボス討伐の経験値は、各自の貢献度を基礎値に加味しクエスト参加者全員に後日改めて配布致します。貢献度については、決してボスに与えたダメージで判断するものではないのでご安心下さい。
また、本日0時から明日0時までの24時間、大規模メンテナンス及びアップデートを行います。当該時間中は本ゲームをプレイ出来ないことをご了承下さい。時間が延長される場合、公式HPにて連絡します。
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メッセージが届いた数秒後、大きな歓声が轟いた。天上を覆っていた夜空も消え去り、差し込んで来た斜陽の光がプレイヤーを照らしたのだった。当初参戦していたメンバーの4割程が蘇生不可だったようだが、チャットに流れる惨憺たる報告を見る限りかなり生き残った様だ。
というか、他のところのボスってそんな名前だったんだ。
デュアルの名前の通り二重RPでした
-追記-
(改・深)→そのまま正当進化
招き猫の幸運→1番高いステータスの影響
龍倖蛇僥→馬鹿みたいに高いステータスの影響
主人公が運任せに選んだスキルは完璧な造語です
龍は幸運とかも司る生き物
蛇も幸運を司る生き物
あと状況的に僥倖……(カイジ並感)な感じを全部入れたかったので、ひっくり返して分割して入れました。