幼馴染がガチ勢だったので全力でネタに走ります   作:銀鈴

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第77話 ペット

 第5の街【シェパード】には、山向こうと違いなんのトラブルもなく到着することができた。何もなさすぎて、逆に心配になったくらいに何事もなかった。

 そうして街に入って愛車を仕舞い、マップを見ながら歩くこと数分。どれも一律の色形大きさのゲルの様な建物群で、FFのチョコボの様な看板がかけられたところに到着した。看板に書かれている店名と思しき文字は【eciov tahw ride on】……どうしよう、ride onしか意味がわからない。

 

「とりあえず、入店すれば分かるか」

 

 そうして入った建物の中は、外見上となんら変わりない大きさの空間だった。入り口の脇を含め、四方に天井まで分厚い本棚が覆っているのにだ。

 その光景にある種の恐ろしさを感じ……はしないな。シャークトゥルフで慣れた。特に何も思うことなく、建物の中心で胡座をかく伝統衣装感あふれる服装の老人に話しかける。

 

「ここはペットを売ってる店であってますか?」

『如何にも、異邦よりの来訪者よ』

 

 頭に響くような不思議な声に、視界の端のSAN値が1減少した。あと1週間は回復しないのに、夢の20台が見えてきてしまっている。0になったら宇宙が見えそうだ。

 そのことにちょっと嫌な感じを覚えていると、老人の手元に現れた卵ほどの大きさの透明な塊が、1人でに動きだしフワフワと浮かび俺に向かって移動してきた。そして、目の前で静止した。

 

「これは?」

「異邦よりの来訪者にのみ与えられる、種子のようなものだ。それは1度砕かれることにより、共に歩む仲間を産む。如何なる手段でも壊れるが故、壊した手段と来訪者の行いにより産むものを変える。それが、汝の始まりとなる」

 

 要するに、どんな手段でもいいからこれを壊せばペットが生まれるってことだろう。それで生まれるペットは、破壊した方法とプレイヤーの行い?を考慮したものとなる。

 

 事前の情報を考えれば、つまりはピックアップガチャということか。いいね、中々ワクワクする。

 

「そして、ここで壊せば儂が判定を請け負おう」

「えっと……ここで何やっても大丈夫ですか?」

「無論だ」

 

 何やっても大丈夫なのか。であれば、俺がやることは1つしかない。

 

 Q.どうやって壊すの?

 A.爆破ですよぉ

 

 ということで、宙に浮かぶ透明卵の下に適当に台座として障壁を張る。そして卵を囲むように障壁の限界までフィリピン爆竹を設置し、空いた卵の上下スペースには【無尽火薬(アタ・アンダイン)】産の高性能火薬を詰め込んでいく。序でに爆破の影響が広がらないように、囲い込むように障壁も設置して……指パッチンと共に《エンチャント・ファイア》の暴走で着火、爆破する。

 

 轟音

 閃光

 そして衝撃 

 

 障壁で囲んでいた為爆炎が広がることはなかったが、建物の中をそれらが駆け巡った。余裕の音だ……馬力が違う。まあ、ここが圏内じゃなければ余裕で俺も死んでいるのだが。

 

「生まれたようだな」

 

 それに全く動じずに、NPCの老人が言った。

 やっぱり、30点相当の爆破じゃNPCの心は動かせないようだ。せめて75〜90点台のビル爆破か、120点満点のルリエー爆破相当の点が必要らしい。

 

 そう唸っている間に、目の前に光が集まり形を成した。

 

 それは、掌サイズの黒い蜂だった。

 それは、一対の複眼だけが深紅に光っていた。

 ただそれだけの虫だった。

 

「【爆薬蜂】、見事に汝の本質が現れたようだな」

「ですね……」

 

 俺の本質は、やはり爆破だったらしい。ステータスは関係ないのなら幸運はあり得ず、紋章か爆破なら後者の方が印象強いようだ。さもありなん。

 

 それはそれで満足なので良いとして、初のペットたる【爆薬蜂】は黒いビー玉となった。確認すれば、どうやら【ジュエル : 爆薬蜂】というアイテムらしかった。多分召喚用アイテムといったところだろう。 

 

「汝の【爆薬蜂】は、最上位からは2段は格が下のようだ。だが上手く育てれば、必ずや汝の力となろう。決して、止まるでないぞ」

 

 そう最後に呟き、NPCの老人は目を瞑り沈黙してしまった。えっ、これだけ? という疑問を抱えつつ、何をしても起きそうな気配がないので仕方なく店から退出した。すると、そのタイミングで運営からのメールを受信した。

 

「なるほど?」

 

 近くの切り株に座って、その内容をじっくりと読み込む。

 そこにはアップデートの時に公開されていた情報を含め、ペットシステムについての諸々が細かく記されていた。それを簡単に言い直すと、こんな感じとなる。

 

 ・PT枠を消費せずに連れ歩ける

 ・あまりにも大きな奴は、戦闘時以外はデフォルトでサイズを縮小できる

 ・プレイヤーのレベル/10 匹所持できる

 ・ペット用装備がある

 ・ペット専用スキルがある

 ・条件を満たせば進化する

 ・スキルは進化しても継承する

 ・死亡したらゲーム内で24時間再召喚不可

 ・経験値はプレイヤーと共通

 ・経験値は召喚時のみ獲得できる

 ・レベルがあって成長する

 ・成長の方向性は、ある程度定められる

 ・成長には個性がある

 

 とまあ、盛りだくさんだ。色々ありすぎて逆に困る。なんでこんなにも自由度が高いのか。そう悲嘆するより、確認した方が早いだろうと【爆薬蜂】のステータスを開いてみた。

 

 ====================

 Name : 爆薬蜂

 Lv 1/25

 HP : 80/80

 MP : 100/100

 

 Str : 5 Dex : 10

 Vit : 5 Agl : 20

 Int : 1 Luk : 10

 Min : 5

 

《ペットスキル》

【状態異常攻撃 : 毒】【自爆】

《スキル》

【】【】

【】【】

【】【】

 ====================

 

 すでに俺、装備込みでVit・Aglで負けててDexが同じ値なんですけど。レベル1のペットにすら負ける主人のステータスって……泣けてくる。Lukだけ500倍くらいあるけど。

 それはそれとして、昆虫型だからなのかペット用装備というものは装備できないらしい。代わりにスキルが4つではなく6つセット出来るようだが。

 

「どう成長させるか……ねぇ」

 

 成長傾向設定なる項目はあるのだが、1度設定すると進化しても変更できないらしい。200ポイント分振り分けることができ、1つのステータスには100まで振り分けられる。10ポイントにつき1ステータスが成長しやすくなるとか。

 となると、まだ何も知らない状態で設定するのは下策も良いところだろう。出来れば、1回進化まで持っていってどんな感じのステータスなのか見てからやってみたい。

 

 スキルについても同様だ。wikiで軽く情報を漁ってみた限り、取り直しは無理でコストを払って上書きすることになるから、最初に面白そうなのを1つくらいとって様子見が良いらしい。

 

 そう思ってスキル選択画面を開いてみると、懐かしい膨大な量のスキルが表示された。【牙術】【虫術】などプレイヤーには見られないスキルが多々あるもの、気になるスキルは特に見当たらなかった。【○○強化】系列のスキルはプレイヤーと違い存在しないみたいだし。

 

「これなら、こっちも後回しかな?」

 

 そう思ってソートをかけてみるが、【状態異常攻撃 : ○○】と【爆薬生産】くらいしかない。と、思ったが《ペットスキル》にある【自爆】の文字を見て1つだけ良いと思うものがあった。

 

 そのスキルの名前は【影分身】

 自分のMPを1割消費して、自身のステータスの半分(HPMP含む)の実体を持った分身を2体、戦闘終了まで作り出すという効果だった。クールタイムは15秒、結構簡単に使えるようだ。

 自爆は固定ダメージ(自分のHP値)なので、きっといい感じに効果を発揮してくれるだろう。

 

 

「ふぅ」

 

 というわけで、第3の街のボス【機天・アスト】を軽く両断してみた。反動で死んだけど、《殉教》の効果で防御バフを無視できる以上ワンパンである。【抜刀術】の威力は体感で10分の1になっていたが、それでも3000万はあるし。

 

 ====================

 Name : 爆薬蜂

 Lv 25/25(進化可能 ▽)

 HP : 200/200

 MP : 340/340

 

 Str : 53 Dex : 34

 Vit : 30 Agl : 90

 Int : 13 Luk : 50

 Min : 30

 

《ペットスキル》

【状態異常攻撃 : 毒】【自爆】

《スキル》

【影分身】【】

【】【】

【】【】

 ====================

 

 そして、レベル1だった爆薬蜂はレベルがカンストしてこのようになっていた。ステータスは……多分、Intが低くAglに尖ってるんだと思う。そして、ペットにも《爆破卿》の効果が及んでいることも確認できた。ほかの称号の効果は及んでないが、流石ユニーク称号である。

 

 それで、育成方針が決まった。これからキミはファンネルミサイルだ。序でに状態異常も与えられればなお良し。

 

「で、あれば」

 

 成長傾向設定はAglとHPに限界まで割り振る。

 そうしたことで選択できる進化先にも変化していた。恐らく単純強化のボムホーネット、影分身が原因と思われるシャドウワスプに加えて、Aglが原因と思われるライトニングホーネット、HPが原因と思われるファットビーが追加された。

 

「戦いは数だよ兄貴! なんちゃって」

 

 残念ながら俺は一人っ子だが。まあそういうわけで、シャドウワスプに進化させる。しかし胸部がふわっとした以外、進化による見た目の変化は殆ど無いようだ。

 

 ステータスは据え置きでレベルが1に、レベル上限が30まで上がっており【分身】と【状態異常攻撃 : 移動速度低下】というペットスキルが増えていた。効果としては後者は文字通りで、前者は『自身の最大MPを半分にして発動。自身のステータスの半分(HPMPは含まない)の実体を持った分身を作り出す』というものだった。効果も分身が消えるまで再発動不可らしいが、逆にそれまではずっと展開できる。中々良さげじゃん。

 

 目論見通りの成長をしてくれて嬉しいのだが、掲示板とかを見ている内に気がついた気になることがあった。

 

「喋らないのかな?」

 

 無駄に静かな音でホバリングするペットを突っついてみるが、首を傾げられるだけで喋ることはなかった。ネットで確認した限りでは、虫型のペットでも何らかの方法で喋るとあったんだけど……

 

「まあ、今はいっか」

 

 よく見れば、“動き”は結構可愛い感じがしないでもないし。それに関しての情報も特にないし。

 

 そうして昼飯を作る時間まで、延々と【機天・アスト】の5分周回を続けたのだった。そのお陰でペットは2段階進化したが、俺のレベルは1上がっただけだった。

 

 そして、俺のIntとLuk以外のステータスは、ペットに完全敗北したのだった。

 




ユキ「せめて痛みを知らず安らかに眠るがよい」(テ-レッテ-)

次回そこには、分裂して数を増やし、高速で突撃して、状態異常をばら撒き、最後には自爆する害悪ペットの姿が──!!

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