って、男女逆になると犯罪臭が漂い始めるのは何故なのだろうか。
2回目のクエストも、相打ちで終わった。
3回目、4回目も同様で、5回目に引き分けた時にセナ達も負けて戻ってきたようだった。それにて今日の攻略は一旦休みとなったらしい。
セナは防具の破損と弾切れ。
藜さんは槍の耐久度が壊れる寸前。
ランさんは弾切れとヴォルケインの破損。
つららさんは長杖をロスト。
れーちゃんは焦げたり凍りついたり、ボロボロ。
全員、自分のNPCと戦って負けてしまったんだとか。最も、そのことに関しては相打ちの俺も何も言えたもんじゃないが。
「よし、これで耐久値は全回復っと」
「ありがとう、です」
そして各自がそれぞれ不足の補填に動いた為、今ギルドに残っているのは俺、藜さん、れーちゃんの3人だけだった。更にれーちゃんはみんなの装備の修繕をしているため、実質俺と藜さんの2人きりだった。
それでもって、俺だって一応耐久値を回復させることは出来る。なのでれーちゃんの負担軽減も考え、自室で藜さんの槍を整備していた。丁度今それは終わったが。
「不具合とか大丈夫ですか?」
「はい。特にない、です」
手渡した槍をくるくると動かし、藜さんは問題ないと言ってくれた。嘘はついてないようだし、俺の65%しかないスキルでもちゃんと直ってくれたらしい。
満足したように藜さんが槍を仕舞い、ポスンとベッドに座った。俺が机の椅子に座ってるから仕方ないが、自分が使っている寝具に座られるのは微妙に恥ずかしい。セナがリアルで布団に潜り込んでくるのは慣れてるが、それとはまた別だ。因みに断じて手は出してない。
「そういえば、ユキさんは、ボス戦どう、でした?」
「5回やって5回引き分けですね。ほんと楽しいです」
「えぇ……?」
藜さんが非常に怪訝な目を向けてくるが、戦っていて本当に楽しいのだ。行動を邪魔し邪魔され相殺して、そんな相手といつでも戦えると思うと心が躍る。
「まあ、俺の同類の人たちはほぼ全員クリアしちゃったみたいですけど」
「やっぱり、あの人たち、おかしい、です」
話を聞いた限り、忙しくてクエスト自体を受けてないザイルさん、鎧修復中のデュアルさん以外は全員、極振りの人たちはクリアしたらしい。早すぎる。
ああ、言い忘れていた。俺たちが全員負けて帰還した時に、クエストの情報は掲示板に投稿してある。負けたという情報付きで。爆弾も処理したことだし、きっと今頃あの場所には結構な人数のプレイヤーが押しかけていることだろう。
「藜はボス戦どうでした?」
「惨敗、です。槍の狙いが正確で、スキルも早くて、ビットの操作も、負けてました。うぅ」
しょぼんとした藜さんの頭を撫でようと動き出した右手を、自前の障壁で妨害してやめさせた。セナなら気にしないしれーちゃんなら仕方ないが、他の場合は失礼だとちぃ覚えた。
微妙に葛藤が起きる中、藜さんが顔を上げて聞いてきた。
「ビットの操作、どうやったら、上手くなります、か?」
「四六時中【空間認識能力】使うとかですかね? でも、俺もボスにビット操作負けてますからね……果たしてどこまで通じるのやら」
魔導書をぶつけ合ったりもしたが、結局相殺されるだけだった。
「ユキさんでも、です、か?」
「相打ちにしかなりませんでしたね」
「それでも、十分おかしい、です」
「そうでもないですよ」
幾ら凄かろうと、勝てないなら結局それまでだ。楽しいけど教えられるようなことはないし、ダメダメである。
まあ、それはそれとしてだ。
「アレ相手に、どうすれば勝てると思います?」
「アレって、ボスの、ことです?」
「ええ」
まだ誰も戻ってこないようだし、今のうちから話し合っておくのに損はないと思う。一応勝てるかもしれない方法はあるけども……
「ユキさんは、何か意見、あります、か?」
「藜たちはパーティ組んでるから、自分が勝てそうな相手と相対すれば行けると思うんですけどね……」
「厳しいと、思います」
「ですよね……」
定石通り相性の良い相手と戦えばどうにかなる。そう思ったのだが、そう上手くいくものでもない。
先ず、回避盾風のビルドをしているセナが7人に分身するせいで超ウザいらしい。続けて藜さんの単体火力が非常に高く、ランさんのヴォルケインでも数発受けるので限界。そんな中にれーちゃんのバフデバフがかかり、足を止めたらつららさんの範囲魔法で凍らされる。しかも俺と違って、味方と敵を見分ける必要まで出てくる。
回復役と防御役が不足しているのに、非常に厄介そうに思える。そう考えると、1人の方が楽かもしれない。
「ユキさんの方は、NPCの、意表をつくしか、ないんじゃ、ないです、かね?」
「ですよね」
そう、俺が1対1で俺を破るのにはそれしかない。そして実は、俺を破る秘策は既にザイルさんに製作を依頼してある。それでも最後は運次第となるが、まあそこは極振りした幸運を信じよう。
そう思っていると、メッセージを受信した音が聞こえた。開いてみれば運良くザイルさんからのメッセージで、内容は『ザイードを使いに出した。すぐに届けるから代金はちゃんと払えよ』とのこと。
「何か、あったん、ですか?」
「ええ。ちょっと秘策として注文していたアイテムが完成したらしくて」
因みに注文していたのは、例のシャークトゥルフとオクトシャークのレアドロだ。どっちも数は余っているのだし、1つずつなら《新月》の強化に回しても良いかと思った末の判断だ。
軽くそう振り返っていると、突然窓から差し込む光が遮られるのを感じた。遅れてスキルがプレイヤーの存在を探知し、最後に視界に見慣れた仮面と黒衣の姿を確認する。
「おや、邪魔でしたかな?」
「いえ、別に。代金は?」
「150万ですな。しかし、浮気は刺されますぞユキ殿」
今朝のセナの姿が頭をよぎった。いや、うん、大丈夫。リアルじゃない。そもそもまだ付き合ってもない。そう思いながら、代金をポンと支払い《新月》とレア泥を加工したマガジンを受け取った。
「では」
「よろしくお伝えください」
「御意」
たった数秒の取引が終わり、ザイードさんは霞の如く消え去った。また、見えなかった。最近、最高速のセナも見えなくなってきたし【空間認識能力】の再鍛錬が必要かもしれない。
「ユキさんって、どれだけ資金、あるんです?」
帰ってきたアイテムが自分の物だと確認していると、ふと藜さんがそんなことを聞いてきた。その声音は、どちらかといえば呆れているような感じがする。
あっ、そういえば150万Dって大金だった。ローン組むわけでもなく、大金を一括でポンはおかしいのか。それに、無駄に増えるお金はギルドに寄付もしてるし。
「最近無駄にボス狩りしてたから、2500万くらいですかね? そのせいで未だにカジノから出禁食らってます」
ついでに最近、遂にビル爆破が限界に達して第3の街で指名手配されたことも追加しておく。お陰でステルスなしじゃ第3の街で行動出来なくなってしまった。爆破にスニーキングミッションが追加されただけなので、デイリービル爆破をやめるつもりはないが。
「ばかじゃないんですか?」
「褒め言葉ですね」
極振りは馬鹿じゃないとやってられないって、それ1番言われてるから。次点で正気じゃやってられない。基本的に頭のネジが外れて……俺含め外れてるのしかいないからね、極振りって。
「さてっと」
呆れてしまった藜さんが放つ空気を切り替えるように、パンと手を叩いて立ち上がった。
「それじゃあ俺は、もう一回ボス戦行ってきますね」
準備は整った。デスペナ期間中ではあるが、まあそんなの何時ものことなので気にしない。
「勝てるんです、か?」
「ええ、運次第ですけど」
そう言って俺は、たった今帰ってきたばかりの《新月》を肩に担いで見せる。
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【二式銃杖《新月》】
Str +50 Dex +25
Min +15
属性 : 混沌
口径 : 20mm(ダメージボーナス200)
命中率強化(大)
フルオート射撃
ダブルマガジン
装備制限 : レベル50・狙撃スキル所持
耐久値 400/400
《クトゥルフマガジン》
装弾数 : 50発
ダメージボーナス100
付与 : 正気減少・属性ダメージ(風・水)・防御貫通50%・弾速上昇(大)・命中率強化
《ヌークリアマガジン》
装弾数 : 50発
ダメージボーナス200
付与 : 極大爆発・環境汚染・環境制圧・汚染残留・防御貫通30%・弾速上昇(大)・命中率強化
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重めの装備制限を科すことにより、本体性能は拳銃以下なのに吐き出す弾は極振りに相応しいキチ具合の銃となった仕込み杖。これがあれば、運が良ければ勝つことができる。
鈍い鉄の光沢を放つ仕込み銃に差し込まれた『緑がかった黒色に金色や玉虫色の斑点と縞模様の入ったマガジン』と『鮫のような黒にライムグリーンの電光が走るマガジン』が、その意思に呼応して脈打ったように感じた。あっ、SAN値1減った。
「それじゃあ、いってらっしゃい、です」
「行ってきます」
そう軽く手を振って、俺は部屋を出発した。
◇
『また性懲りもなく来たのか?』
「お前も俺なら、俺が死に覚えすることくらいは知ってるだろ?」
そう言い合う俺たちの肩には、それぞれ骸ノ鴉が留まっている。お互いに【ドリームキャッチャー】でLukを強化し終えた証だ。
『それもそうだ』
くっくっくと互いに笑って、お互い担いでいた《新月》を相手に構える。因みに、今回は朧はお留守番だ。巣の中でユックリと休んでもらっている。今朝からずっと頑張ってもらってたからね。
そして、ここからが勝負。相手が想定もしない行動をすれば、紙耐久の俺は砕け散る。さあ、開戦だ。
『加速レーン設置!』
「《減退》!」
敵の俺が銃弾を加速させる為の紋章レーンを設置したのに対して、俺は鴉に支えさせた《新月》を片手で持ち真上に掲げ反動を殺す減退の紋章を展開する。
『なっ!?』
その行動に敵の俺が面食らってるあいだにレーンからずれ、引き金を引き絞った。
『はっ、馬鹿が! そんなもの当たる訳がない!』
「そうだな。まあ、運が悪ければの話だけどな!」
幾らスキルの補助があるとは言え、当然のように俺が撃った銃弾は空中で軌道を歪曲させる。ダメージがあるほどの反動は殺してるとはいえ、フルオートで射撃しているのだから尚更だ。だから、それを利用する。
「
ブレにブレた銃から乱雑に吐き出され続ける銃弾が、
『ちっ、《障壁》!』
「残念、《障壁》」
敵の俺が張ろうとした障壁を【空間認識能力】と【鑑定】【看破】のスキルを併用して、1つ残らず相殺する。そしてこの戦い、後手に回った方が負けとなる。
「やれ鴉」
『鴉!』
先行させていた鴉が、持たせていた【収束爆弾】を敵の俺に投下した。相手側の骸ノ鴉がそれを迎撃するが、間に合う訳がない。
『ちぃっ!』
その拡散した爆弾に相手の《障壁》のリソースが割かれ、こっちの障壁に50ほど空きが出来た。そのリソースで敵の俺がステップで刻もうとした儀式を障壁で妨害し、同時に切り替わった魔導書ビットの動きも障壁で妨害する。
「《カース》」
そして、それでもまだ20ほど空きがある。それを全て、必中の暴走紋章へと変換した。同時に空になったマガジンを入れ替えて射撃を継続する。腕がしっちゃかめっちゃかに暴れてるけど、知らないことにして引き金を引き絞り続ける。
「ははは! テメェは老いぼれだぁ!」
『ふざけやがってぇぇ!!』
いい感じに名言会話が成立したが、筋肉が足りないから敵の俺に逆転は出来ない。
そうして互いが障壁を張り、MPポーションを踏み潰し、空爆し、俺が一方的に射撃すること数分。遂に凶弾が敵の俺を貫いた。
「それじゃあ、今度は勝ち負け気にせずに来るから」
『2度と来んな』
「嫌だね」
『知ってた』
こうして、ギルドのメンバーより一足先にクエストをクリアしたのだった。極振り内じゃビリから3番目だけど、まあ俺は戦闘力最下位に近いしそれを考えれば及第点だろう。
先手で自分を殺し得る攻撃をすれば勝ちでした。
新しいマガジンの大きさは元の対戦車銃のマガジンと同じサイズ。
Luk50,000の主人公じゃないとジャムるし当たりません。
-追記-
二式が弐式じゃないのはワザとです
おまけ
【ユキへの好感度 : 各街のNPC】
最低0 最高100
第1の街 : 50(平均 : 特に何もない)
第2の街 : 90(高 : お店やってるいい人)
第3の街 : 0(指名手配犯)
第4の街 : 0(指名手配犯)
第5の街 : 45(平均より下 : ヤベー奴)