「エストー?エストー?」
「あ、アベル、どうしたの?」
「どうしたの?じゃないよ……君を探すのに苦労したんだ」
「それはごめんなさい……」
「それよりエスト、どうして急にアリティアを出たのか、そろそろ教えて欲しい。もうあれから五ヶ月も経ったんだ、そろそろいいだろう?」
エストの表情が一転して曇った。
「……それは言えない。例えアベルでも……それだけは言えない」
「どうしてだい?マルス様にも言わず、突然だったじゃないか」
「………アベルだって、今じゃアリティアでは消息不明になってるじゃない」
「それはそうだけど……」
「アベルこそ、どうしてアリティアに戻らないの?私は置いていけばいいじゃない」
「そういう訳にも行かないよ……」
「……とにかく、私はアリティアには戻らない。アリティアを出た理由も言わない。だって……」
「だって……?」
最後は聞こえないように言ったつもりだったが、アベルには聞こえていたらしい。
「何でもない!!」
勢いよく扉を開け、部屋から飛び出た。
アベルは唖然としていたが、とにかく、言えるはずが無かった。
「お姉様………」
ぼんやりと空を眺め、あの日を思い出していた。
「ハァ……」
もう一度空を見上げると、空から何かが落ちてくるのが見えた。
思わず立ち上がって、ヒラヒラと落ちてくる、それを掴んだ。
「手紙……?」
宛先のようなものは書いてなかったが、とりあえず封を開け、中身を見てみると、そこには一枚の紙が入っていた。
『アベル、エスト様へ
この度あなた方を<楽園>へと御招待致します。
もちろん、お金の方は頂きません。
これはあなた方を祝福し、また、願うもの。
決して怪しい誘いではございません。
もし気になるようでしたら、
カダインにお越しになってください。
あなた方に、永遠の祝福を。
賢者、ヴァンレより』
と、書かれていた。
だが、どう考えても怪しい。
まず、ヴァンレという賢者を知らない。
<楽園>というのもなんだか曖昧で怪しい感じがする。
「……アベルに相談してみようかな」
しかし、怪しいが気になるのも人の性。<楽園>というのも、妙に気になる。
一人じゃ心細いが、アベルと一緒なら……。
何より、このヴァンレという人物は『二人』を誘っているのだ。
「アベルーー!!」
手紙を握りしめ、若干の気まずさを覚えながらも、部屋に戻って行った。
✻ ✻ ✻
「──────帰った!?」
「そうですよ!一体どこで何をしてたんですか!?」
「ご、ごめんシーダ……」
「結局、『またいらっしゃる時に』って言って帰っていきました。それと、手紙を置いていかれましたから、後で読んでくださいね?」
「あ、ああ……」
「それでー……マルス様?」
「ど、どうしたのシーダ?そんなに…怖い顔して」
「ドコニイッテタンデスカ?」
「し、シーダ……せ、せめて文字を変換してくれ……」
「まさか……」
シーダは顔を寄せ、物凄い剣幕で詰め寄ってきた。
「……こっそりと女性に会ってたんですか?」
「ど、どうしてそうなるんだい…?」
「……怪しいですね」
ここまで迫られては、隠すのも無理だろう。
会っていたのも、カタリナだ。何もやましいことは無い。
「あ、会ったよ会った。で、でも、会った人はカタリナだ。カタリナが僕を探しに来たんだよ……」
「………。」
「し、シーダ……?」
シーダはずっと凝視するばかりで、何も喋らない。
それが怖い。
どうしようかと考えているところに、シーダの後ろで人が見えた。
「────なんだか騒がしいですが……どうかしましたか?」
どうやら僕達の声がかなり響いていたらしい。
騒ぎを聞きつけて、カタリナが降りてきたのだ。
「カタリナ!?丁度いいところに!!」
────結局、カタリナが確かに会ってたことをシーダに伝え、なんとかシーダは落ち着いた。
「ふう……助かったよ……」
「いえ」
カタリナは微笑んだ。
「────あ、マルスのお兄ちゃんーー!!!」
今度は突然、どこからかひょこっと遊びに来ていたチキが現れた。
手に何かを握って嬉しそうに駆け寄ってくる。
「チキ?どうしたの?」
「うん、お姉ちゃんがね、マルスのお兄ちゃんにお手紙だって!!」
「お姉ちゃん?誰のことだい?」
「マルスのお兄ちゃんに会いに来た人ー」
おそらく自分に会いに来ていた『例の女性』のことだろう。
「ありがとう、チキ」
「うん!!」
チキはまたひょこひょこと帰っていった。
早速手紙を開けてみた。
シーダもカタリナも、横から手紙を覗き込んでいる。
『マルス様、シーダ様へ
この度あなた方を<楽園>へと御招待致します。
もちろん、お金の方は頂きません。
これはあなた方を祝福し、また、願うもの。
決して怪しい誘いではございません。
もし気になるようでしたら、
カダインにお越しになってください。
あなた方に、永遠の祝福を。
賢者、ヴァンレより』
「賢者ヴァンレ……一体誰だろう?」
来客の名前はヴァンレと言うのだろうか。
「私も聞いたことないですね……でも気になりませんか?ヴァンレって女性というより男性の名前のようですけど」
「確かにね。でも、このヴァンレという人物から、僕に渡すよう頼まれただけかもしれない」
「マルス様…どうするんですか?こうありますけど」
「そうだね……カダインにはマリクもいるし、行ってみるのもいいかもね」
ふとシーダを見ると、嬉しそうに首を縦に振っていた。
✻ ✻ ✻
「─────古の英雄王マルス……ですか……どうしてあなたは……」
夜の風もまた心地よい。
感じたことのない空気、それが全身を癒していく。
「……大事にしてください、そのファルシオンを……失う前に」
第2話:完