ああ、神様なんて嫌いだ。 作:マレウス
千葉県立総武高校。
そこが現在、俺の通っている高校だ。
偏差値は県内でもトップクラスで、学科は普通科と少し偏差値の高くなる国際教養科の二種類で、言うまでもなく入学の門は狭い、筈だ。
中学三年の時に必死に勉強したのを思い出す。
校門を抜け、自転車を置き、昇降口へ向かう。
やはり生徒はまだそこまで多くない。
いや、よく聞けばグラウンドの方から声が聞こえる。
朝練をしている生徒だろう。
「......ご苦労さん」
部活動に所属していない俺からすれば朝練をしているだけで、もう尊敬ものだ。
少なくとも、真っ当に青春しているというか、学生しているというか、そんな感じがする。
「......あら、比企谷君じゃない。おはよう」
昇降口の下駄箱。
極々当たり前日常的な場所。
そんな普通な空間であるからこそ、際立つものがある。
背中まで伸ばしたストレートの黒髪。
名前を体現した雪のような冷たい雰囲気を醸し出す美少女。
彼女の名前は雪ノ下雪乃。
俺のクラスメイトであり、この学校一の有名人でもある。
理由は簡単だ。
一つは美少女と形容した程の容姿端麗さ。
全国模試でもトップクラスの成績優秀さ。
そこらの運動部よりも高い運動神経。
家はかなり大きな規模の建設業を営んでおり、父親は県議会議員をしているイコールとても裕福。
つまりは、超のつく完璧超人。
漫画の世界から飛び出して来たような、そんな彼女。
She is Perfect Womanというわけだ。
「......おはようさん。雪ノ下」
「ふふっ。どうしたの? そんな顔をして。鳩が豆鉄砲を喰らったかのようよ」
いきなりの遭遇に少し驚いた俺の様子を見て、その表情がおかしいのか微笑む雪ノ下。
ああ、何か知らんけど恥ずいわ。
マジで。
「......少なくとも、鳩に似ているなんて生まれてこのかた言われたことないな。てか、お前って鳩のそんな様子見たことあんの?」
「......そうね。鳩が豆鉄砲を喰らったところなんて私も見たことないわね」
日本語の妙だ。
実際にそんな光景見たことないのに、例えでその言葉を口にしてしまう。
それとマジで鳩に豆鉄砲を喰らわせてみろ。
動物愛護団体が飛んでくるし、あと警察も飛んでくるから。
「今日も早いのね。日直でもないでしょうに。意外にも健康思考なのかしら?」
「それを言うなら、お前も同じだろうが。あと、別に十代半ばでそんな思考に至ってない。ジャンクなフードは大好きだ」
寧ろ朝は苦手である。
この雪ノ下であるが、最近よくこの時間帯に出会すことが多い。
というより毎日と言った方が正しいか。
こんな朝早い時間に毎日起きてくるなんて流石は優等生だと思った。
俺に関しては小町を起こし、朝食を作り、ついでに洗濯も済まさなければならないので、そんな理由でもなければ毎日早起きはキツい。
「......私はこの時間帯が好きなのよ。ほら、朝って生徒が少ないじゃない。すこしの時間ではあるけれど、勉強や読書もしやすいの」 そう言う雪ノ下は、俺から視線を少し反らしていた。
いつもきちんと相手の目を見て話す彼女にしてはとても珍しいことだ。
まあ、特に気にする必要もないことだろう。
「......あー、そういえばそうだな。そう考えると俺もこの時間帯は嫌いじゃないわ」
「貴方、騒がしいの苦手だものね。......私もあまり得意ではないわ」
「ああ、見るからに細いからな、お前。人混みとかも人に当てられて貧血でも起こしそうだし」
パッと見、線の細い雪ノ下はそういうものに関して高い耐性を持っているとは思えない。
勝手なイメージではあるが。
「......セクハラよ。通報するわ」
「おい、雪ノ下。止めろ。今すぐそのスマホを仕舞いなさい」
危ない危ない。
危なく警察のご用になるところだった。
鳩に豆鉄砲を撃つまでもなくだ。
というか、雪ノ下なら本気でやりかねないし。
嬉々として通報しそうだ。
寧ろ、それが目当てでやってるまである。
いや、どこのうさみちゃんだよ。
「......つうか、ほら。こんなところで話してないでさっさと行くぞ」
「......ええ、そうね。行きましょうか。この件に関しては後でじっくり追い詰めるわ」
そう言うと、はにかむように笑う雪ノ下。
いや、怖いよ雪ノ下さん。
問い詰めるじゃないの? 追い詰めるって何?
噛んだんだよね?
高嶺の花と称され、氷の女王とも言われている彼女の表情はとても柔らかい、が同時に冷たい。
まあ、見た感じ楽しそうであるから別に良いんだけどさ。
そして、俺と雪ノ下は並んで国際教養科の教室、二年J組まで歩き出した。
時間帯はお昼。
つまりは昼食の時間である。
午前中のつまらない授業を乗り越え、味わうこの時間はとても甘美なものと言えるだろう。
言えない?
俺だけ?
「ほら、比企谷君。行くわよ」
教科書を片し、鞄へと突っ込んでいると、隣からそう声をかけられた。
「ちょい待ち。今教科書を片付けている最中でしょうが」
教科書と交換するように弁当を取り出すと、声のした方を見る。
「全く比企谷君は。行動は常にスピーディーにを心掛けなくては取り残されるわよ。......社会に」
「弁当取り出すだけでそこまで言わんでよくない? ......まあ、そうだな。社会は目まぐるしいよな。早すぎて着いていくのでやっとだわ」
「あら、貴方のことを心配してあげてるのよ?」
小首を傾げ、きょとんとした表情を浮かべる雪ノ下。
その動作を見る限り、本当に言葉通り心配してくれているのだろう。
え、そこまでですかね。
「はいはい、そりゃどうも。雪ノ下。どこで食うの? あの部屋か? 屋上か? それともMy Best Placeか?」
「どうして、そこまで発音が良いのか分からないのだけれど......そうね、今日は部室にしましょう」
雪ノ下はそう言って、踵を返すとすぐに歩き始めた。
だから、お前は何でもなんでも行動が早いっての。
俺はそんな雪ノ下を追いかけ、横に並んだ。
「......ん? 何か嬉しそうだな。何かいいことでもあったのかい?」
「別に、何でもないわ。ただ、貴方が今日も私のお弁当に敗北する姿を想像しただけよ」
「......なあ、それもう良くないか。料理の腕に関してはもうお前の勝ちでいいからさ」
前に弁当を一緒に食べた際に何の気なしにしたおかず交換。
確か、唐揚げだったな。
たまたまどちらの弁当にも唐揚げが入っており、交換したのだ。
そうしたら雪ノ下の作る唐揚げが美味いのなんの。
でも、何故か雪ノ下がその後、勝負だとか言い出して毎回おかず交換をしているのだ。
ぶっちゃけ超めんどくさいのではあるが、こいつは絶対に自分が納得するまでこの勝負を続けるのだろう。
「駄目よ。私が納得するまで、この勝負は
案の定、駄目というお言葉。
今度は永遠と来たか。
長期戦にも程があるというかありすぎるわ。
「......へいへい、分かりましたよ」
_______お姫様いや、女王様か?
しかし、雪ノ下はどちらでも全く違和感がないのでそう呼称しても問題ないだろう。
「そう。分かればいいのよ、分かれば」
うん、やっぱりどこか楽しそうですね、雪ノ下さん。
「......雪ノ下さん。また、比企谷君とご飯一緒に食べてるんだ」
「......あの二人付き合ってるのかな?」
「......そうなんじゃない。まあ、実際お似合いだし」
「......
そんな二年J組の喧騒。