乙女のロラン 作:咲いてよ
「……ローラン?」
屍がこれでもかと積み上げられたロンスヴァルの谷に辿り着いたシャルルマーニュ一行は、死体の中に見覚えのある者を見つけた。
ローラン。
シャルルマーニュに〝欲〟を与えた大罪人であり、人々を救った英雄である。
「ローランッ!」
「あぁ……叔父上、か」
聖剣を身に抱きしめ、途絶え途絶えにローランは話し始めた。
「申し訳、ない。叔父上。先に旅立つ不幸を……許し……」
「喋るで無い!待っていろ、直ぐに聖槍の力で……!」
「いえ、もう良いのです……これは、神が私に与えた、運命。避けることは、出来ませんでした。心残りがあるとすれば、それは、貴方を悲しませてしまった事でしょうか」
そう言って微笑み––––––ローランは生き絶えた。
「……ローランよ、余は其方を祝福する。其方の全生涯を、過去の全てを、其方のした事の全てを、そして其方を生んだ父を祝福する。そしてそなたにこの様な最期を遂げさせたガヌロンを信用したことを、どうか許してほしい」
「…………」
許す、許さない以前に、これは自分が招いた結果なのだと、もしこの場でまだ意識を保っていればローランはそう説明したかったが、生憎もう身体から魂が離れてしまっていた。
「奴らには相応の報いを与える。おおローラン、愛する者よ!余の心は死んでしまったようだ!」
ロンスヴァルの地は、なんとも言いようがない程に凄まじかった。
確かにサラセン人は負けて逃げ去ったが、シャルルマーニュの誇る十二勇将は三人を残してその全てが死んだ。
ローラン。
オリヴィエ。
アストルフォ。
サンソネット。
ワルター。
ベルリンゲリ。
オットーネ。
ブジャフォルテ。
ボルドウィン。
皆、名だたる騎士であった。
しかし死んだのだ。
そして戦場となった谷は、全体が死屍累々として血と泥で地面が埋め尽くされており、十二勇将達が使用したと思われる宝具の真名解放によって、熱気で湯立っていた。
シャルルマーニュはこの後、ガヌロンとマルシリウスを縛り首にし、街を引き摺り回し、その遺体を八つ裂きにしたと言う。
◆
ローランは元々、日本という国に住む一般的な市民であった。
何を言っているか分からない、と思われるだろうが、これは紛れも無い事実であり、ローランを悩ませた事でもあった。
転生、あるいは憑依。
性別によるギャップや、国が違うことによる言語の壁等には何故か苦しまなかったが、それでも一変した環境は容赦なく彼……いや彼女を苛んだ。
最初は彼も、まさか自分がシャルルマーニュ伝説や狂えるオルランドゥ、ロランの歌で名高いローラン本人に転生していたとは夢にも思ってもいなかった。
なにしろ、TSしているのだ。
〝いや、自分の国ではゲーム内でアーサー王がTSしてたりしたから普通か〟と思い直したのは、彼女が自身の叔父であると言う皇帝、シャルルマーニュに出会ってからだった。
面と向かって「其方は余の姪だ」と言われれば、嫌でも悟るだろう。
……さて、ではそれまで彼女は何をしていたのか、彼女にとっての黒歴史を語るとしよう。
◆
オッスおら転生?者。
名前はローランと言う。
自分の今の状況を整理するために、少し考え事をしてみようと思う。
まず、この世界はどうやら中世くらいのフランスらしく、俺の家は超絶貧乏だ。
どれくらい貧乏かと言うと、女子である筈の俺が年がら年中上半身裸でないといけないくらいだ。
いや、まぁまだそんなに胸とか目立ってないし、精神は男だから恥ずかしく無いんだけどね。
冬とかでも、何故かこの体は寒いとか感じなかった。
あと動いたりするのもめちゃくちゃ速かったし、筋力は大の大人に勝てる自信が十二分にある程度にチートボディだった。
あと、今世での俺は非常に整った容姿だった。
やったぜ。とも思ったが、同時に奴隷などの危険なルートも開かれたのでは、と一晩悩んだ事もあった。
んで、まぁ俺の家は母子家庭だった。
母親はどうやらやんごとなき身分の方らしく、近所の百姓の方から食べ物を貰って俺たちはなんとか食いつないでいる様だ。
これはいけないと俺も思ったが、子供にできることなんてたかが知れてるので、百姓の子供達と遊んでやる事にした。
これは、ちょっとでも百姓さん達の心象を良くするためにと言う打算も含まれているが、俺自身が暇だからという事でもあった。
未来の遊び知識を駆使すれば、俺がちびっ子達の中心に立つのはとても簡単な事だった。
そして、テンプレが発生した。
この町の町長の息子である、所謂ボンボンであるガキンチョが俺に喧嘩を売って来たのだ。
見すぼらしい俺がちびっ子達の中心にいるのが気に食わなかったとか、そんな理由だろう。
最初はかわいいイタズラだと思って我慢していたのだが、そいつは俺の母親を侮辱した。
流石にそれを見過ごすのは、何か違うと思った。
のでフルボッコにしたらなんか懐かれた。
なんでだ。
あと、そのガキンチョの名前はオリヴィエと言うらしい。
聖王?いやんなわけねーな。こいつ男だし。イケメンだし……ペッ!
それから暫くして、そろそろ胸が目立つようになってきた(どうやら俺の肉体は早熟だったらしい)ので、ちびっ子の親御さんたちから服を着るように言われ、服をもらった。
ありがてぇ……。
そして更に暫くして、恐れていた事態が発生した。
食い物が、尽きた。
俺は死のうが構わない訳では無いが、ここまで面倒を見てくれた母には向いねばならない。
例え、悪に手を染めようとも……。
なんてかっこいい事言ってるけど、俺がやったのは開かれた会食に忍び込み、食料を大量に奪取しただけだ。
いやまぁ、今のご時世食料は貴重品なんだから罪は重いけど。
しかし、そう上手くはいかないのが世の常。
寝床である洞穴に追っ手の騎士達が三人やって来た。
くそ、戦うしか無いかと、こんぼうを手にした俺を、なんと母が驚くべき方法で止めさせた。
俺の母親は今のフランスの皇帝、シャルルマーニュの妹だそうだ。
……ん?シャルルマーニュ?ローラン?あっ、オリヴィエ?
あれ俺ってもしかしてと思った次の日、なんと迎えがやって来た。
……どうやら俺はシャルルマーニュ伝説に登場するローラン?(女)に憑依してしまったらしい。
ローランの容姿はシャドウバースのローランをイメージしてます
かわいい