あんなふうに描写できるのは、心底うまくないからだ。
だから、くちゃくちゃと描写したくない。
ただ、食べ物について思った事を思ったように書いてみたら、こうなったという話である。
食べ物について、思い付くままに書き記す。
食べ物を記すから、食記。
少し前に久しぶりに大阪に来て、懐かしくなったので、大阪について書く事にする。
まず、大阪に着いたら、どこよりも先に足が向かうのは、阪神梅田駅東口にある梅田ミックスジュース。
まずここで、(スペシャル)ミックスジュースをぐぐっぐいっと飲み干さなければ、なにも始まらぬ。
駅の改札手前にある小さなジューススタンドだが、他の喫茶店で飲むミックスジュースより、ミックスジュース150円、スペシャルミックスジュース210円とはるかに安くてうまい。
それを知っているからか、老若男女を問わず誰もが、この店のミックスジュースを飲んでいる、時には行列までしながら。
ふと見てみると、ミックスジュースのセットが4つも並んでいた。
なるほど、それだけたくさんの量が売れていくのだ。
そんな訳だから、私は大阪に来て、他の店や自販機などで、ミックスジュースを飲もうとは思わないのである。
だから、私は大阪に着き次第、梅田ミックスジュースへ向かい、スペシャルを飲む。
その時、私は大阪に来たなぁという気持ちになる。
ただ、問題は阪神梅田駅東口は微妙に行きぬくい事だ。
JR大阪及び梅田駅は広く迷いやすいので、毎回迷う。
困ったものである。
どこか、旅に出る時は、どこで朝飯が喰えるか調べてからにしている。
何も考えずに飛び出して行ってみても、ちゃんとしたうまいものを食べさせてくれる店が営業しているとは限らぬ。
探し回ったあげくに、見つからず、コンビニでパンを買ったり。
結局、食べないまま、街を見て回って、早めの昼飯と同じになったりする。
そんなのは、せっかく旅に出たのだから御遠慮こうむりたい。
だから、旅に出る前にしっかり調べておく。
だが、もう何度も同じ街に行くようになると、いきつけとは言わぬまでも、お気に入りの店ができるようになる。
私にとって、大阪で朝飯を食べるなら、千日前にある丸福珈琲本店に行く。
今や、丸福は大阪以外にも店舗を構えるようになったようであるが、私にとって丸福とは、京都のイノダコーヒ同様に、大阪の朝を感じさせるもので、朝、起きたら、まず丸福へ向かう。
いまや、喜ばしい事に全面禁煙になってしまったようだが、私が通っていた当時は全面喫煙可であり、どこの席に座っても灰皿が置いてあり、煙草をふかしていたものだ。
喫煙者は良いが、吸わぬ私にはたまらなかったが、まぁ、だいたい、出入口あたりに座っていたから、さほど紫煙には悩まされずにすんだ。
今度からは気にせずにコーヒーを楽しめるのだから、ありがたい事である。
さて、丸福は昭和9年に新世界で営業を開始し、戦後に千日前へ移転し、今の建物は平成2年に自社ビルとして建て替えられたとある。
だが、その趣ある建物はそんな近年になって建て替えられた物とは思えぬほどで、外からの景観も、店内の内装も、どちらも昭和を思わせる懐かしい佇まいである。
無論のこと、大倉陶園製のカップにいれられたコーヒーはうまい。
だが、私を魅了してならぬのは、銅板で焼くというホットケーキである。
今どき流行りのクリームたっぷりのパンケーキとは違い、厚めのホットケーキが2枚に、バターを塗り、蜂蜜・メープルシロップ(のどちらか)をかけて食べるという昔ながらのホットケーキである。
初めて丸福へ来た時、メニューを眺めていると、ホットケーキとチーズトーストが名物とあった。
今度、いつまたここにこれるかわからないから、両方頼んでみたら、滅法量か多く、閉口した。
どちらもとてもうまかっただけに口惜しかった。
それ以降、私はホットケーキだけを頼むようにしている。
チーズトーストもうまいし、食べたくなるけれど、ホットケーキなのである。
丸福のホットケーキは不思議である。
私は幼少の頃にホットケーキを食べさせてもらった記憶が無い。
だから、まったくホットケーキには思いいれが無いのだ。
しかし、不思議な事に、初めて食べた時、何故かとても懐かしい気がした。
初めて食べるのに、それまでホットケーキなど全くと言っていいほどに食べていないのに。
何故か懐かしい味がするのである。
とても不思議な事ではあるまいか?
そんな体験をした事はそれまで無かったし、それ以降も無い。
あのホットケーキの名店と言われる万惣でだって体験してはいない。
だから、私は丸福ではホットケーキを食べる。
来た事も無い懐かしい昭和の大阪に迷い込んだ気持ちになりながら。
不思議といえば、丸福は新国劇の辰巳柳太郎が愛した店だという。
新国劇の辰巳柳太郎と言っても、いまや知らぬ人の方が多いかもしれぬ。
事実、私も見た事は無い。
だが、私が心の師と仰ぐ池波正太郎先生のエッセイを読むと、親友というか、戦友というか、そのような間柄であったのであろうと推測される。
その辰巳柳太郎が愛し、弟子の緒形拳も通ったという、この丸福には、池波先生が来た事は無いらしいのである。
丸福に来て、辰巳柳太郎が愛した店と知って、店内の古株らしき店員に聞いてみたが、池波先生が来たという記憶は無いなぁと答えた。
さて、不思議な事だ。
池波先生のエッセイでは、辰巳柳太郎といつも行くかやくめしの店へ食べに行ったりしているし、万惣のホットケーキをあれほど愛した池波先生が、同じように銅板で焼くホットケーキを名物にしている丸福に足を運ば無かったというのは不思議でならない。
だが、辰巳柳太郎も池波正太郎先生も、すでに彼岸の方になってしまっている以上、真実は昭和の彼方である。
今となっては、もはや失われてしまった万惣のホットケーキと異なり、今でも味わえる懐かしい味わいのする丸福の昔ながらのホットケーキを私は愛してやまないのである。
次は
大阪を旅する、2
を書くとしたら、たこ梅と重亭になると思うけれど、きままに書くつもりなので、大阪じゃないかもしれない。
予定は未定。