艦隊これくしょん―コンコルディアの落日―   作:GF-FleGirAnS

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ネプトゥーヌスの修羅

《緊急事態発生!基地全体に戦闘配置!》

 

 その警告音ともに、アラート待機をしていた吉井中尉を機長とする、海軍航空隊佐世保鎮守府分遣隊所属 メルクリウス1。機長以外の搭乗員は立ち上がり、すぐ様指示を聞くために彼の元へと集まる。当の吉井は至極冷静に司令部へと繋がる通信機の受話器を取る。

 

「佐世保鎮守府分遣隊司令部。ヘリ格納庫待機室。何があった状況を説明してくれ。深海の奴らか?」

 

 その声音も落ち着き、しっかりと響く男性の声で問う。それに応じたオペレーターの声は逆に緊張に満ち焦っていた女声であった。

 

《詳細は不明! 襲撃者も人か深海棲艦かも未詳! 現場は混乱しています》

 

 まるで、切羽詰まったようにオペレーターは甲高い声で答える。どうやら司令部もかなり喧騒に包まれているらしく、電話機越しにそれが伺えた。

 

「それで、メルクリウスへの指示は?」

 

 そんな中で吉井はオペレーターにも落ち着いてもらうために冷静な声で問う。すると、その応じていたオペレーターの甲高い声から普段通りの高さに戻る。

 

《現状維持……いえ、司令部(HQ)より緊急入電あり! 基地内に侵入した武装勢力を偵察せよとのこと。メルクリウスは直ちに発進せよ!》

「了解、メルクリウスは直ちに発進する!」

 

 その声とともに搭乗員と整備員が脊髄反射のレベルで駆け出し、滑走路上に鎮座した彼ら(メルクリウス1)のヘリへと駆け出す。ヘリに乗り込んだ吉井は立てかけていたヘッドセットをすぐに嵌めて、通信を呼び出す。

 

「詳細な情報はまだか?」

《確実な情報はありません。目的地は佐世保鎮守府庁舎前》

 

 乗り込んだら直ぐに整備員、搭乗員共に機器をいじり始める。

 

「機器チェック! 航法装置」

「問題なし」

 

 手早く各自で機器のチェックを行う。これを怠れば大事故につながりかねない。ざっと10分で準備を終わらせた吉井は後ろを振り返り問いかける。

 

「全機器以上なし。センサーマン、救護員報告」

「オールグリーン」

「異常なし」

 

 それぞれちゃんと応答を帰って来るの確かめ、整備員も全員退避したかどうか確認し、吉井は操縦桿に手を掛け宣言する。

 

「エンジン出力上昇」

 

 徐々に高まるエンジン音と風切り音を聴きながら、管制塔にコンタクトする。

 

「Sasebo Tower.Mercurius1 at helipad.Ready for Takeoff.」

 

 吉井が英語で離陸許可を求めれば、直ぐ管制塔からも応答する。

 

《Mercurius1,Sasebo Tower.Cleared for Takeoff.Wind 60 at 3》

 

 それを聞いた吉井は最大出力を命じ、ヘリは重力の縛りから抜け出し空へと舞い上がろうとしていた。

 

「Mercurius1 Take off!」

 

 甲高いエンジン音と共に高度を上げ、件の地点へと機首を向けた。

 

《Good luck Mercurius1.》

「Thank Sasebo control tower.」

 

 と言っても、格納庫からその地点までの距離はヘリにとってはあって無いようなものである。メルクリウス1が上がり直ぐに司令部から通信が入る。

 

《メルクリウス1、佐世保分遣隊司令部。緊急時につきに日本語での通信とする。我彼不明部隊が佐世保鎮守府内で活動中。現在、憲兵隊が応戦。メルクリウスは偵察に当たってください》

 

 任務(しょうかい)の時と同じような声調子でオペレーターは任務を通達する。

 

「メルクリウス1、佐世保分遣隊司令部。敵は外患なのか? 装備は?」

 

 吉井は機首を佐世保本陣に向けて爆進しつつ問う。

 

《詳細は不明、情報が錯綜しています。さらに一部でシステムダウン及び通信途絶が報告されています》

「……可笑しな状況だな。メルクリウス1、了解。偵察任務を行う」

 

 既に目標地点は目の前へと迫っており、機首を上げ、一旦ホバリング状態にする。

 

《復唱に間違いなし。発砲は自衛及び救助の為だけに認めます。行動開始、貴機の幸運を祈ります》

 

 吉井は操縦桿を握り直してから倒す。

 

「メルクリウス、()()()()に突入する。各員、対地警戒を怠るな」

 

 そう言いつつ内心苦笑する。

 

――自分の基地が作戦空域ねぇ……

 

 海上から陸上へ。警邏隊が所在する鎮守府、南東部から侵入し、庁舎前に向かって北上を試みる。もし仮に敵が対空火器を所持しているならば……いきなり飛び込むのは得策ではないと、吉井は判断し比較的安全と思われる区域から当たったのである。

 陸地にはいって数分後。レーダーを担当している搭乗員が息を飲む。

 

「対水上レーダーコンタクトっ! 11時の方向!」

 

 そう言われた瞬間高度を下げ、若干体を乗り出し見てみるが機長席からは見えず、直ぐに体勢を元に戻す。

 

「副機長、確認してくれ」

「……ネガティヴ。遮蔽物(じゅもく)ありです」

「了解。進路変更、み……」

 

 そう吉井が言いかけた瞬間、耳に突き刺さす様なアラートがコクピットいっぱいに鳴り響く。

 

 ロックオンアラートだ。

 

 吉井は瞬間的に無理矢理水上レーダーに感があった方向……ロックオンされたと思われる逆方向に機首を向けつつ、高度を下げ右方向に機体をスライドさせる。急激なGに体を押しつぶされる。

 

「対空レーダーに微弱反応! 何か飛んでくるぞ!」

 

 その言葉と共にほんの少しまでメルクリウスがいた所に砲弾が空を切っていた。

 

「なぁ?! 敵さんは対空砲もあるのか?!」

 

 そう怒鳴り、レーダー照射が切れたのを見計らって吉井は体勢を立て直すと、通信を呼び出す。

 

「佐世保分遣隊司令部! メルクリウス1。敵は対空砲を持っている! 偵察任務遂行困難っ!」

《佐世保分遣隊司令部、了解しました。敵と断定、交戦を許可します》

 

 吉井はまた疑問を感じた。

 

――交戦許可だと……?

 

 普段ならば、そうそう出ることがない命令に不信感を覚えつつ復唱する。

 

「メルクリウス1、了解。攻撃者を敵と断定、交戦する。機関銃での射撃を試みる」

 

 吉井は機上救護員に指示し、78式機関銃(ドアガン)を握らせる。姿勢を安定させ、そのまま一気に遮蔽物から飛び出す。吉井は飛び出す寸前、思考を巡らす。

 

 レーダー射撃……正確な射撃……対空砲? 高度なFCS(火器管制装置)を持つ対空携行兵器? そんなものが? もし反乱として地対空砲が? いや馬鹿な。

 

 彼がほんの数秒の内に巡らせた思考の答えはすぐそこに広がっていた。

 

「おい……あれは……秋月型の艤装じゃないか?! 艦娘の反乱かっ?!」

 

 また、すぐにコックピットに五月蝿い警報が鳴り響き、吉井は慌てて高度を取り回避行動を取る。

 

「くそっ、携行SAMでなかったと喜ぶべきかよ? 副機長、地上の観測を。センサー手は地上の無線拾ってくれるか?」

「駄目です。混線してます」

 

 そう言われ、吉井は試しに開いてみるかひどい混線状態であり到底使えるものではなかった。

 

「分遣隊司令部へ打電、交戦勢力は秋月型自律駆動型艤装」

「機長!」

 

 吉井が打電内容を読み上げていると、副機長が彼を呼ぶ。

 

「自律駆動型艤装と交戦しているのは憲兵隊だけじゃありません。自律艤装と艦娘も交戦しています。」

 

 そう言われ、吉井も乗り出して見てみれば、多数のオートマトン相手に憲兵と艦娘が共同戦線を張り、抵抗していた。

 

「続けて打電だ。現在艦娘も自律駆動型艤装と交戦中。反乱の可能性……いや、俺の判断することではないな。以上だ」

 

 今、俺が考えるべきことは生き残り、情報を伝えることだけだ。

 

「ドアガンを用意しろ、威力偵察を開始する」

 

 極めて冷静な声で言う。

 

 確か、あの自律艤装は脅威レベルを自動的に識別、迎撃する。正にイージスシステム。俺たちが低空に侵入したときのみ撃って来た。つまり俺たちは高い脅威レベルでない……しかし、ここで撃てば高度を上げても脅威と認定され撃たれるな。

 

 ふと、体の()のような物が冷え、頭がすっきりした様な感覚に吉井は襲われる。一度、軽く深呼吸し、操縦桿を握り直す。

 

「メルクリウス、エンゲージ!」

 

 機体の高度をやや下げ、ドアガンの有効射程に詰める。

 

「奴らのリンクが何処までしているかわからん上に、俺達が攻撃すれば脅威目標として認識される。初動が大切だ。蜂の巣になる前に任務を遂行するぞ、始めろ」

「了解……ドアガン、射撃開始!」

 

 側面に設置された機関銃がその声と共に火を噴き、一つの自律駆動型艤装(もくひょう)に火力を集中する。しかし。

 

「目標に効果なし!」

「7.62mmじゃキツイな」

 

 そんな愚痴を吉井は零すと、副機長が声を上げる。

 

「警告!警告!」

「くそっ!」

 

 何度目かの警告音を聞きながら、吉井は悪態を吐きながら、高度を取る。

 

ENEMY(てき)の位置は把握している、躱せる」

「敵、一斉射撃来ます!」

「……全基リンクしてんのか? 捕まれ!」

 

 すぐに彼らのすぐ右を、下を、左を弾が駆け抜ける。それに応じて、吉井も右、左、上、下とヘリの利点を最大限生かして回避行動を取り続ける。

 

 アレにヘリ対策が無くて幸か……だが、リンクしている以上ジリ貧だな。

 

 現に、吉井の読み通り段々と精密度が上がり、より近くを砲弾が尾を引いて飛んでいく。吉井はその弾幕の中を積んできた飛行テクニックと()()でなんとか回避していた。しかし、既にそれも限界に近い。吉井はほんの数十秒の間に汗が伝う程に操縦に集中していた。

 

「……ヘルファイアだ。ヘルファイア攻撃用意!」

「ッ……了解」

 

 Gに身体を振り回らせてながら用意させる。その間に吉井は通信を取る。

 

「佐世保分遣隊司令部、メルクリウス。自己防衛の為に空対艦ミサイルを使用する!」

《メルクリウス、佐世保分遣隊司令部。それは……》

 

 咎める様な口調でオペレーターが答えるが、吉井はそれを遮り言う。

 

「靖国に名前を刻むにはまだ早い! 以上、通信終わり!」

 

 吉井は無理矢理通信を終え、そのまま吉井は手前のディスプレイ(MFD)や装置を弄り始める。

 

「セミアクティブスタンバイ……副機長、準備できたか?」

「はい、勿論」

 

 しかし、そう報告した瞬間機体が大きく揺れ、機体を何かが打つ音が彼等の耳に届く。吉井は慌てて機体を右へ左へと尾を振り、そこから抜ける。

 

「くそっ! 被弾……エンジン、異常なし。出力問題なし。他及び搭乗員に怪我ねぇか?」

「機長、他の装置も全てオンラインです」

「我々も大丈夫です」

「不幸中の幸いか……彼奴らの射程はどこまでなんだよ? レーザー照射!」

 

 すかさず、手短な敵に標準を合わせる。自律駆動型艤装にはレーザー照射感知や妨害装置の類は勿論、運用上必要ないものとして組み込まれていないのがここでは吉井達に幸いする。

 

「ヘルファイア発射!」

 

 その声と共に吉井はスイッチを押し、少しの衝撃と共に一筋の白煙が真っ直ぐ飛んで行く。

 

「セミ・アクティブ・レーザー照射中。機長お願いします」

「あぁ、わかっている」

 

 ヘルファイア。正式名称AGM-114M ヘルファイアII。対小型艇から戦車、地上目標まで使える主にヘリコプターから発射されるミサイルであり、誘導方式はセミ・アクティブ・レーザー・シーカー。平たく言えば弾着まで誰かしらがレーザーを当て続けなければ命中しないミサイルなのである。つまり、吉井達は濃密な弾幕の中一定方向を向き続けなければいけないのである。

 

「なぁ、アレのロックオンはレーザーと光学認識だったけか? 赤外線か? まあ良いか。チャフ&フレア発射!」

 

 ヘリから(フレア)金紙(チャフ)を放出し、目眩しをする。その間も回避行動を忘れない。

 

「インターセプト3秒前! 2……1……マークインターセプト!」

 

 副機長が言い終わらないうちに、ヘリ前方に大きな火球が出現し、消える。

 

「効果観測後、全力で撤退だ! 観測まだか?!」

「待ってください……記録確認……煙が……目標半壊! 周囲の目標も戦闘能力欠如! 攻撃効果ありです」

 

 副機長はそう言いつつ、司令部に映像を送信する。それを聞いた吉井は機首を振り向け高度と速度を取る。撃破した分だけ、弾幕は薄くなった。しかし、一撃離脱した機体を狙ってか、嫌な衝撃に彼等は揺さぶられる。吉井は反射的にMFDを確認し、叫ぶ。

 

「被弾っ! 尾翼がもってかれた!」

「エンジン出力低下、このままでは墜落します!」

「洋上に進路をとる! 陸に落ちるより遥かにマシだ!」

 

 前面のMFDは各所がエラーで埋まり、警告音が鳴り止まず姿勢がふらつく。

 

「副機長、メイデイ宣言するぞ! 救難信号用意! 着水する!」

 

 みるみる内に高度は下がりエンジン出力もゼロへと近づき、副機長は全チャンネルでメイデイ宣言をする。吉井は、沿岸に機首を振り向けつつ水面着陸を試みる。

 

「総員……対ショック体勢! もう、持たんっ!」

 

 吉井の言葉が言い終わらない内にヘリは急激に揚力を失い、佐世保の内海に大きな水柱を立たせた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 地響きに近い音が響く。どこかの倉庫に火が回った。爆薬や発射薬のような火薬類、軽油に重油を中心とする燃料類。可燃物の集積地たる軍事基地に一度火災が発生すれば、その規模と被害は計り知れないものとなる。

 

 

「っ……!」

 

 

 轟音。深雪にとっては半ば聞きなれた音ではあるが、今回は質が違う。

 

 

「なんで……っ! なんで連装砲ちゃんが……!」

 

 

 そう嘆いたところで攻撃は止まらない。深雪が伏せているコンクリートの壁……すでに壁『だったもの』と言うべき状況だが……にも砲弾が突き刺さる。

 顔をそろりと出した瞬間、発砲炎が見えた。咄嗟に顔を隠す。衝撃波で耳が痛い。完全に位置がバレている。

 

 

「……なんでこんなことになるかなぁ」

 

 

 現実逃避的に声を出したところで答えが返ってきてくれるわけではない。それでも嘆かずにはいられない。連装砲ちゃん……正確には秋月型が装備する長10センチ連装砲装備型自律駆動式砲台なのだが……が勝手に起動して暴走して基地をどんどん破壊していますなんて何の冗談だ。誰か「映画の撮影中です」みたいなフリップボードを持ってきてくれないかと思ったが。上から落ちてくるコンクリートの粉に思考を中断。この建物のもう少しで潰される。艦娘の死因で「建物の倒壊に巻き込まれて圧死」と言うのはあまりに恰好が付かない。

 

 

「とりあえず……艤装がないとどうにもならないっ」

 

 

 後ろをちらりと見て、目指す出口を確認。目算で大体15メートル程先、ドアが開いているからあそこに飛び込めば建物の裏に出られる。建物を出て二つ隣は特型艤装が仕舞ってある艦娘艤装格納庫。格納庫の中で暴走中の自律駆動式砲台が待ち伏せ(スタンバイ)していないか心配だが、それは祈るしかない。

 

 

 柱がミシミシ言い始めた。正直に言ってかなりヤバいと思われる。

 

 

 息を整えて、態勢を整える。覚悟を決める……決めたことにする。決めたのだからやるしかない。

 

 

「さん……、にぃ……、いち……!」

 

 

 ゼロカウントはしない。その余裕があったら速度を上げて走るべきだ。そう思い走り出した背後で発砲音。心臓が止まりそうになる。息はもう止めて走っているが、心臓まで止まったら走れない。

 

 ズガン、と表現するべきか、ドカン、と表現するべきか。とにかく轟音が巻き起こった。爆風が背中を押した。バランスを崩しそうになる。それでも、走る、走る、走る。

 

 

 建物が崩れる音、天井が落ちてきているらしいが、深雪に見る余裕はない。

 

 

「うわわわわわわわわわわわわわっ!」

 

 

 裏口に飛び込むか飛び込まないかのタイミング、爆風でいよいよ足が浮いた。そのまま建物から弾き出される。とりあえず頭を両手で庇い、身体を丸くする。軍事訓練の賜物と言うべきかどうかはわからないが、考えるより早く体が動いたのは助かった。

 

 

「――――――っ!」

 

 

 助かったのだが、死にかけたと言えば死にかけた。崩れる建物の土埃やコンクリートの欠片と一緒に跳ね飛ばされる。潰れる空間が(ふいご)の役割を果たしたためだ。車用の通路と延焼防止のために広く取られた空間を転がる。アスファルトが熱いし痛い。口の中も砂利っぽいザラザラ感と血の味が酷いが、それでもなんとか生きていて、気絶もしなかったらしい。

 

 

「痛っつつつ……名誉の負傷とは言えないかな……これじゃ」

 

 

 なんとか体を起こして周囲を確認。とりあえず自律駆動式兵装は見えない。とりあえず見つかる前に走り出す。膝から血が出ているがとりあえずは無視。これぐらいなら舐めれば治る。ダメだったら天羽の所にでも行って治してもらおう。

 

 

「……天羽先生たちじゃ、勝ち目ないもんね、これ」

 

 

 基地にいるのは戦闘員だけではない。後方支援担当の人員も数多く配置されているのだ。どこか野暮ったいデザインの眼鏡をかけた冴えない医官を思い出して、深雪は少し笑う。

この基地を守るための剣は、数が少ない。

 

 だがそれでも、深雪にはそれを扱う資格があった。

 

 

「だから、あたしが何とかしないと!」

 

 

 艤装格納庫の入り口に取り付く。まだここは電源が生きていた。ドアの横のリーダーにIDカードをかざす。すぐにパスワードを求められる。入力、解除。ドアが横にスライドした。深雪は中に飛び込んで扉の閉鎖ボタンを叩き込む。開いた時と同じように滑らかのドアが閉鎖される。暗闇に包まれたが、すぐにキセノンの灯が燈る。

 

 

 溜息と深呼吸の中間のような息をつき、格納庫の中を走る。巨大な艤装保持器(キャニスター)の影にあるモニターを叩くと明るい緑に輝いた。

 

 

「動いてよー頼むよーお願いだから」

 

 

 そういう間にもシステムの起動画面が現れては消える。海軍のロゴマークが回り、すぐ後に艤装の開発元である特種兵装開発実験団のロゴが現れ、消える。その間すらもどかしい。SET ID-CARDの指示が出るが早いかIDカードを乱雑に置く。現れた手形のマークに合わせて両手を置くと、機械が勝手にその手をスキャン。IDと照合、画面には自分の顔写真と経歴が表示された。艤装の呼び出し請求。コンピュータが『艤装の使用目的が不明』などというエラーを吐き出す。

 

 

「目的なんて、相手を撃つために決まってるじゃん!」

 

 

 エラー画面に文字を打ち込めるらしいスペースとキーボードが表示されるがまさかのオールイングリッシュ。PURPOSEやらINPUTやらが表示されているから多分「目的を入力せよ」と言ったところだろうか。

 

 

「ああもう、急いでるのにっ!」

 

 

 焦ってミスタイプを繰り返すが何とか「ふぉあ・いんたーせぷと(FOA INTA-SEPUTO)」と打つ。迎撃なら嘘はついていないし緊急性が高い。とりあえず艤装が取り出せれば何とかなる。

 

 

 入力画面が消えた。エラー。

 

 

「だーもう! 何を打ち込めばいいんだよ!」

 

 

 なんとかスペルを覚えていたエマージェンシー(EMERGENCY)を打ち込んでもエラー。出撃(SALLY GO)と打ち込んだところでやはりエラー。

 

 

「あぁもうどうにでもなれっ!」

 

 

 めちゃくちゃにキーを叩いてエンターを入れる。入力画面が消える。直後に現れたのは深雪の所属する佐世保鎮守府第304水雷戦隊のロゴ。

 

 

「嘘っ! 入れたっ! さすが深雪様! こういう運だけは持ってるっ!」

 

 

 そして直後に現れる入力画面。

 

 

「えっと……ふぃるいん・ゆあ・こまんだーず・ぱすこーど……って持ってる訳ないじゃん!」

 

 

 貴戦隊司令の暗証文を入力せよ(FILL-IN YOUR COMMANDER‘S PASSCODE)と言われてもそんなものほんとに司令しか知らない。

 

 

「でも……っ!」

 

 

 いまここに司令を呼んでくるのは危険すぎる。外にはあの自律駆動式砲台がゴロゴロしているのだ。

 

 

「でも、なんとかしな――――――」

 

 

 言葉が途切れた。ドアが破られる轟音がする。外の光が飛び込んでくる。

 

 

「うそ……でしょ……っ!」

 

 

 まだ艤装は取りだせすらしていない。丸腰だ。それで見えるだけ5基の連装砲を相手に大立ち回りは無理だ。そのまま海に出られるように半水没式のドックから海に出ることもできなくはないが、艤装が無くては浮けない艦娘は艤装無しでは普通の人間同様泳がねばならない。その間にも自力で浮力を有する自律駆動式砲台はすいすいと海上を渡ってくるだろう。追いつかれるのがオチだ。

 

 

 逃げ道はない。それでも一歩でも距離を取りたいところだがそんな余裕はない。今まで操作していた制御盤に背中を打ち付ける。

 

「……っ!」

 

 

 間違いなく捕捉された。こちらに砲がいくつも向く。

 

 

「失敗しちゃった……かな……」

 

 

 少しでも何かをしてないと壊れてしまいそうだ。それでも向けられた砲門は動きを許してくれない。だから口を動かす。

 

 

「ここで逝くのは、嫌だな……嫌だ」

 

 

 ザリザリと足を引きずるように歩く自律駆動式砲台。その音が嫌に耳に障る。

 

 

「死にたくないっ!」

 

 

 その願いを受けて立ち上がるべきは深雪自身であらねばならないはずだった。それでも、手元に武器が無ければ戦えるものも戦えない。それでも、こんなところで死にたくはない。だから叫ぶ。

 

「助けてよっ! 誰か!」

「いいわよ。――――――撃て(Огонь)

了解(да)

 

 

 誰にも聞かれていないと思った叫びに答えが返ってくる、直後に大きく火花が散った。火花の出どころとなったのは――――自律駆動式砲台の砲塔部。外からの大きな圧力で砲塔が大きくゆがみ、その衝撃に煽られるように砲台がすっ転ぶ。

 

 

「へっ!?」

 

 

 深雪が慌てて屋根の方を見上げると、そこから熱せられた薬莢が落ちてくる。慌てて避ける。その間にも赤い火花が頭上を過ぎていく。二階のキャットウォークから発砲炎。だれかがそこから撃っている。フルオートでの掃射しているらしく、断続的に響く轟音が格納庫の中で乱反射する。

 

 

 横凪にするように放たれた銃撃が次々砲台を沈黙させていく。さすがに穴あきチーズのようにはできないようだが、それでも十分効果があった。銃撃が止むころには、五つのスクラップの出来上がりだ。

 

 

「やっほー。みゆきん災難だったね?」

「……憲兵の」

「そろそろ菊澤って名前覚えてほしいんだけどな……っと」

 

 

 そう言いながらキャットウォークの手すりを飛び越えた菊澤は深雪の横にストンと飛び降りる。左手に持っているのは大きなブリキの箱。深雪はそれが機関銃用の弾帯を収納する弾薬箱らしいとあたりを付けた。映画でこういう箱を見たことがある。

 

 

「とりあえず傷だらけだけど五体満足なようで何より。ヴェルも降りておいでー」

 

 

 菊澤の声に反応するようにして飛び降りてきたのはВерный。その手には2メートルはあろうかというサイズの大きな機関銃があった。それを両手で抱えたまま膝のクッションを利用してストンと降りてきた彼女は深雪を見て僅かに頸を傾げた。

 

 

「Пулемёт Ковровские Оружейники Дегтярёвцы……Мисс, это так здорово, не так ли?」

「いや、日本語で話してよ」

「このカッコいいKORD重機関銃に救われたね、お嬢さん」

 

 

 そう言うВерныйは横に銃を置いて腰を上げる。

 

 

「私も艤装を取りに来たんだけど、先客がいるなら譲るべきかな」

 

 

 Верныйが向かう先は深雪が艤装を取り出そうと悪戦苦闘した操作パネル。すでに菊澤が操作している横に並び、Верныйがタッチパネルに手をピタリとくっつける。すぐに足元で駆動音。それを聞きながら菊澤は僅かに笑みを浮かべた。

 

 

「深雪ちゃん、君は改二改装とかは受けてたっけ?」

「な、なんだよ……こんな時にも煽りか?」

「いや? でもその反応で受けてないのはわかった。好都合だ。特Ⅰ型と特Ⅲ型は別の艤装だが互換性が高い。君にも使えるはずだ」

 

 

 そう言ったころには呼び出された艤装が収納用のキャニスターごとせりあがってくる。キャニスターを手動で開けたВерныйが主砲をマウントから取り外すと手持ちで使うためのグリップを引き出した。

 

 

「君の艤装は司令からの許可が出ないと使えないらしいからね。その間の応急処置だ。ヴェルはどうせ重機関銃(それ)があれば戦えるでしょ?」

「どうせとは失礼な」

「でも赤いもの大好きなんでしょ? 日ノ本製は今回ばかりは譲ってあげなさいな」

「……仕方ないか」

 

 

 Верныйが12.7センチ連装砲を差し出してくる。

 

 

「壊したら怒るよ」

 

 

 深雪は渋々ながらもそれを受けとる。

 

 

「保証はできないかも」

「ま、壊した時は伏宮少佐に何とかしてもらいましょ。……基地の指揮権が正常に回復するまで暫定的に深雪は私の指揮下に。海軍の指揮官と連絡がつき次第権限を委譲するからそのつもりで」

「了解」

「おや、憲兵だからって毛嫌いしてたのが嘘みたいだね。我が主の良さに気が付いたかな」

「真面目なシーンぐらい少し黙ろうな、ヴェル」

 

 

 重機関銃に新たな弾帯を差し込みながらВерныйが肩を竦めた。菊澤はわずかに溜息。それでもその瞳は好戦的な色を帯びていた。

 

 

「それじゃあ、反撃開始といこうか」

 




 こんにちは、プレリュードです! 知っている方はどうも毎度ありがどうございます。知らない方は初めまして。なかなかあとがき担当の番が来ないなーと思っていたらとうとうやってきました!
 コンコルディアの落日、ついに大詰めといったところですがいかがでしたか? これが読者の皆様方にとって有意義な暇つぶしになることを参加者の一人として祈るのみです。

 それにしても、この合作に呼ばれた時は最初、なにか夢かなにかと思いました。「は?」って素で変な声が出てしまいましたよ。ベットローリングしてフローリングに落ちたのもいい思い出です。会議のたびに互いのやりたい展開をかけた議論は物書きとしてよい経験値を積ませていただく、とても貴重で愉快な場でした。

 ところでそろそろ読者の皆さんは、どの参加者が誰を書いているのか大まかな目星をつけ始めた頃ですかね? 自分の書いているパートはすごくわかりやすいと思うのですでに気づかれている方もいるのではないかと思います。まあ、メシテロの帝王らしく各所にメシテロを埋め込ませていただきましたとも。

 コンコルディアの落日、最後までお楽しみいただければと思います。これだけのメンバーが揃うことなんてそうありませんよ?
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