艦隊これくしょん―コンコルディアの落日―   作:GF-FleGirAnS

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ディアーナの守護(中篇)

 巡行姿勢(ぜんけいしせい)から水平姿勢に機体を起こし上げる吉井。それは一度敵艦を攪乱し安全に降下するために対艦攻撃を行うためであった。

 

「しゃぁ! 敵艦隊ロックオン! 対艦ミサイル(ヘルファイア)……」

「水上レーダーコンタクト! 新手です!」

 

 その報告に吉井は慌てず確認する。

 

「どこからだ? まさか故障か?」

「いえ、レーダーは正常です。救援対象(オブジェクト)から出てきました」

 

 その報告にはさすがに動揺する。副機長も動揺の色が取れた。

 

「機長まさか……」

敵味方識別装置(IFF)確認! ゆ、友軍です!」

「なんだと?! レーダー照射止め!」

 

 吉井はその咄嗟の報告を受け指示を出す。丁度深海棲艦と件の友軍がヘルファイアの攻撃範囲に入ってしまっていた。これでは手出しができない。

 

「それにしてもなぜだ? 友軍はこの付近にはまだ……」

 

 彼等が戸惑って間に水上レーダーでは次々と敵がロストしていく。謎の友軍艦が葬ったのであろう。3隻ほどすぐに消えていき、すぐ様残った艦隊は撤退していく。

 

「脅威の排除を確認。暗号化された通信を友軍艦から確認……吉井中尉」

 

 流石に機動部隊の随伴駆逐艦程度なら、拍子抜けするほどアッサリと終わってしまったと言ったところだろうか。いやまだやるべき事は残ってはいるが。

 

「あれは後回しだ。降下を先に……直ぐに敵の本隊が来る、警戒を怠るなよ。まったく一体ナニを積んでるんだかなぁ」

 

 吉井は小声でぼやきつつ。素早く暗算を始める。輸送船までの距離を考えるとここで艦娘を降ろすのは得策ではない、がこのままでは敵艦載機に食いつかれかねない。

 

「センサー、敵は?」

敵影ナシ(No joy)

「何事もなく終了したとして、敵の艦載機を振り切れるかどうか微妙だ」

「なら、なんとか支援艦隊の所まで急ぐしかないな。お嬢ちゃん達へ少し荒くなるがご勘弁を!」

 

 既に吉井は操縦桿を倒し一気に加速する。その破天荒な操縦に、搭乗する艦娘たちも艤装を抱えながらも踏ん張る。

 

「ちょっ、吉井中尉!? 昨晩の酒残ったまま執ってねぇだろうなぁ!?」

「大丈夫だ、心配するな隼鷹! アル中でぶっ倒れるまで呑んでないからなぁ?!」

「あれで呑みすぎじゃないと言い張る機長の方が可笑しいぞ」

 

 杯を酌み交わしていたこともある隼鷹の指摘が飛ぶが、説得力のない回答をする吉井。そんな惨状を見て、センサー手がすかさず反論する。それに集り他の乗員も口々に罵る。しかし突如の警告音でその喧騒は断ち切られる。

 

「2時の方向! 敵航空隊最接近! 加速したのか? 早いぞ、猫型の新鋭機か?」

 

 その報告に吉井も多機能ディスプレイ(M F D)で確認する。これまでの戦闘データから割り出される交戦距離に差し迫っていた。丁度未来位置を吉井が予測すると深海棲艦の艦載機とメルクリウス1が浅い角度で交差している。もちろん吉井たちを堕としに来たのだろう。

 

「……副機長。緊急打電及び記録。我が機敵航空隊と接触。投下目標地点へ到達後離脱する」

「了解しました」

「降下管制員、嬢ちゃんたちを頼む」

「わかっています、機長」

 

 吉井は指示を出している間も加速を続ける。

 

「15秒後反転。ミサイル(ヘルファイア)機銃(ドアガン)その他諸々で威圧。そのまま降下予定のポイントαまで振り切る! いいなぁ?!」

「了解」

「ラジャー」

「はい!」

 

 搭乗員がそれぞれ答えた後、吉井は一度後ろを振り向く。

 

「嬢ちゃんたち! しっかりつかまっとけよ?」

「えっ?」

「はっ?! さっきのよりなのか?」

メルクリウス1、交戦(Mercurius1Engage)

 

 答えることなく戦闘開始を宣言する吉井。深雪と摩耶はこれから起こる事が全く理解出来ず頭に疑問符を浮かべる。とりあえず戦闘が始まるしか、今の彼女達は理解していなかった。そんな中一人隼鷹だけが中途半端に笑いながら肩を竦める。彼女の表情は諦観のそれだ。

 

「3……2……1……今!」

「オラッ!」

 

 副機長のカウントに合わせ吉井が操縦桿を一気に横へ倒し込み急制動急回転。振り向きざまに相対距離が数キロと成っていた敵航空隊の鼻っぱし目掛け対艦ミサイル(ヘルファイア)をぶっ放す。同時にドアガンナーが敵が密集している範囲に弾薬をばら撒く。ミサイル誘導が完了した瞬間に吉井は高度を下げて半回転。全速力で振り切りを狙う。

 

「報告! 数機ロスト!」

「駄目だ、まだ足りない!」

 

 対空レーダーに少し機影が少なくなった程度で、爆風の中を突っ切って来た航空機が吉井達のヘリを狙う。

 

「敵機直上! 急降下!」

 

 異形の飛行物体が高さの利を生かし急降下しながら機銃を撃つ。すぐ様吉井が操縦桿を引き急制動、上昇しながら後進、すぐ横を戦闘機が掠める、副機長は目敏くフレア噴射し航空機を飛行不能にする。

 

「まだ後ろだ!」

 

 相手も学んだのか散開してヘリへと迫る。ヘルファイアは対艦、対空両用に使えるが、この量では密集してないと効果は得られない。

 

「ドアガンで対処!」

 

 また一気に前進させ、高度を取り降下予定地点へ目指す。右から突っ込んできた機にはドアガンの弾幕で攻撃させない。

 

 では左は? 回転してそのまま右のドアガンを使えばいい。

 

 端から見ればクルクル回りながら弾幕を張りつつ前進する。まるで独楽のように回り続ける回転翼機は滑稽でもあっただろうが、当人達は必死である。一度でも密集したらミサイル(ヘルファイア)をそこへぶち込む。見事な飛行テクニックによって躱し横を通過する敵にはチャフとフレアを。これで姿勢を維持し続けるのだから、彼らの戦いを玄人のそれと呼ばずしてなんというだろう。

 

 しかし、技量は青天井でも弾薬までそうとはいかない。

 

ミサイル(ヘルファイア)後1発か」

 

 今回、このヘリに搭載されているミサイルは2発、1発は今しがた使ってしまったため、残り1発。吉井は小さくつぶやく。まだ悪いことは続いた。

 

「こちらドアガンナー。残り弾薬あとわずか!」

「フレア切れました」

 

 ドアガンナーと副機長がそれぞれ報告を上げる。その報告に機体後部に居る艦娘達は騒めく。

 

「え? なに? 普通にピンチ?!」

「いや、まだだ。とっておきがあるから心配すんなよ」

 

 めちゃくちゃな機動で少しグロッキーに成っていた深雪は更に青くなる。しかし、吉井は全く諦めてはいない顔であった。何か小声でマイクに吹き込むと声を張り上げ確認する。

 

「スモークまだあるだろ?  これにかける。ドアガン、自衛に留めろ。エンジンにはもう少し無理してもらうか……スモーク噴射!」

 

 機首を上げ、スモークを噴射しながら更に上昇、それに敵機も追いすがる。

 

「5、6機はついて来たか……全員掴まれっ!」

 

 吉井は出力を絞る。警告が出るが無視。すぐに奇妙な飛行音が聞こえたと思った瞬間、ドップラー効果で音が変わる。敵機は吉井達のヘリ(メルクリウス)を追い抜いた。

 

「撃てっ!」

 

 6機の航空機が直ぐに火に包まれる。しかし、追っ手はまだ止まない。

 

「一気に降下だ!」

 

 出力をまた上げて追っ手を振り切る。

 

「機長、スモーク残量が」

「覚悟の上だ、行け!」

 

 最早、ほぼ丸腰である。吉井の額から汗が流れ落ちる。彼の白い手袋は既に濡れ雑巾のようにびしょびしょだ。それに構わずヘリはひたすら旋回、蛇行、上昇下降。回避行動を繰り返す。ヘリの本領とはきめ細やかなホバリング飛行にあって、敵の裏をかくための一時的な高機動ならともかくそれを逃げるために多用するのには向いていない。

 

「完全に後ろにつかれたぞ!」

 

 飛行音が近づき、搭乗員の悲鳴が上がる。

 それこそ回転翼(ブレード)がいつすっ飛んでいってもおかしくないような激しい機動を続けているのだが、やはりというべきか振り切れない。当然だ、なんせ最高速度で負けているのだから。

 

「ココだ!」

 

 吉井はその場で急回転させ右腹を航空機に見せる。

 

 撃たれる。そう思った瞬間には空が瞬き、一面に火の花が咲き、追ってきていた敵機は炎に包まれた。この特徴的な兵器は三式通常弾。大日本帝国海軍の兵器の一つだが、現代でそれを使えるのはただ一つのしか存在しない。そう、艦娘だ。

 

「ハッチ開けたままの錐揉み飛行は勘弁してくれよ? 吉井中尉」

 

 口角を上げた摩耶が、扉から覗く僅かな隙間を使い砲撃を始める。食いかかる戦闘機を大体落としたところで摩耶が操縦席に怒鳴る。

 

「ここで降ろしてくれ、吉井中尉!」

「うっしゃ! 任せとけ!」

 

 すぐに水面から1~2m程度の高度まで降下しホバリングさせ、機長の吉井がGOサインを降下管制員に出す。降下管制員は最終チェックへと取り掛かった。途中で無茶苦茶な機動をした所為で、再びの確認が必要であったのだ。

 

「サンキューな。しっかし、ヘリでこんなになるとは思わなかったぜ。それに哨戒ヘリにも関わらず運んでくれるなんてなぁ」

「いや、こんなのは慣れているから気にすんな」

 

 摩耶の隣にいた隼鷹が軽く笑いをかみ殺す。そんなやり取りの内に降下管制員がGOサインを出した。それと同時に副機長が声を上げる。

 

「機長! 第二波接近!」

「あいよ。さて……俺達(メルクリウス)は始めと終わりに位置する。そして旅人を導く。良い()を!」

「防空巡洋艦摩耶、出撃する!」

 

 旗艦がよろしく宙に身を躍らし、隼鷹と深雪も続いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 通信機の向こう側、大宙哲也中佐の言葉に摩耶が隠すことなく悪態をつく。いざという時に敵艦隊の発見ができないのになんのための哨戒隊だろうか。

 

《気持ちはわかる。だが今は哨戒隊を責める前にやるべきことがあるだろ?》

「わあってるよ! 防空戦闘、よーい!」

 

 摩耶が号令を出すと艤装に搭載された機銃や高角砲が一斉に天を睨む。そのまま待つこと暫し、それらは姿を現した。

 

 接近するそれらの、黒ぐろとした雷雲のような深海棲艦の艦載機を見て摩耶は絶句した。いくら何でも数が多すぎる。

 

「これを全て落とせって言うつもりか?」

《摩耶、全滅できないことは俺にもわかってる。だからできる限り漸減させてくれ。通信終わり》

 

 その言葉を最後に大宙の通信が切れた。どうやら無線封鎖(タイムアップ)だ。

 

「了解!」

 

 もう大宙に聞こえないとわかっていながら捨て鉢に摩耶が言い捨てる。激しい戦いになりそうだ。正直に言うと、ひとりでやるのはかなり厳しい。だが言ったところで何も始まらないし、事態は好転しないだろう。

 

「やってやるよ、クソが!」

 

 吐き捨てて大きく前へ。対空電探のデータを元に、機銃がとめどなく鉛弾を撃ち出して、虫のように集る艦載機群へと襲いかかる。だが向こうもやられっぱなしという訳ではなく、摩耶に向かって爆弾や魚雷を使った容赦ない攻撃を浴びせかけた。必死に回頭して回避運動をするが、いつもと同じ動きができない。

 

「いつもの装備より重いっ……」

 

 試験装備のままで出撃したために、慣れない重量感に振り回される。事前に渡されていた大宙の予測によりある程度は何とかなっているが、すぐに限界を迎えることは嫌でもわかっていた。

 

「クソがぁ!」

 

 諦めてたまるか。そんな意地だけでただひたすらに砲撃を続ける。

 額に汗がたれる。何度も背筋に寒気が走った。頭の中ではアラートが鳴りっぱなしだ。

 だからといって何もかも放り出して逃げ出すなんてごめんだ。そんなことはこの高雄型重巡洋艦摩耶の名において許さない。許してたまるものか。

 

「うっ……がああああああああああ!」

 

 飛来した爆弾が摩耶の張った弾幕にぶつかり、空中で爆ぜる。かなり近距離だったせいでもろに爆風を受けた。破片が摩耶の肉体を蹂躙し、爆発のインパクトで身体が海面を鞠のように弾む。

 

「まだいけるっ!」

 

 虚空に向かって怒鳴り返しながら両手を海面に突っ張り、勢いを殺して立ち上がる。切り裂かれた皮膚から血が流れ、左腕が持ち上がらない。足ががくがくと震える。もう既に限界を迎えてるはずだが、ここで自分が下がれば下がるだけ被害は増えてしまう。

 

「でやあああああああ!」

 

 高らかに吼えて砲を構えなおす。撃ち出された無数の弾が天を穿った。鮮血を海に撒き散らしながら、なおも砲撃の手は緩めない。Bofors 40mm四連装機関砲がひたすらに回り続ける。高角砲が砲身を焼きつかせそうになりながら、異形の艦載機を撃ち落とす。

 

「っ! しまっーーーー」

 

 摩耶の直上に爆撃型の艦載機が近づく。同時に摩耶の思考の回転速度が一気に上昇。

 

 回避は? もう間に合わない。急に反転しようとすれば、バランスを失って転覆する。

 迎撃するか? だめだ。砲身が直上を向いているものが少ない。撃ってもやつらには避けられる。

 

 なら選択肢は一つ。摩耶は痛みで持ち上がらない左腕を無理やり上げると右腕とクロスして防御の姿勢をとった。そして後ろへと飛び退ることで衝撃を少しでも緩和させようと試みる。

 

「ぐっ……がはっ」

 

 摩耶の口から血が溢れる。手袋に包まれた右の拳でぐい、と拭いながら痛みで震える身体を叱咤した。

 

 まだ。まだだ。こんなところで倒れてなるものか。

 いくら防空巡洋艦とはいえ、摩耶だけで落とせる艦載機の数などたかが知れている。これほどの数をすべてたった一人で撃墜することなどハナから無理だ。

 

「へっ、まだまだぁ!!」

 

 すべてを落とすことができなくたって、減らすことはできる。だから摩耶はこの場で粘り続ける。

 動きを止めるな、思考を止めるな。両者を並行して処理しろ。反射と思考を融合させるんだ。

 

「直撃コース。避けてみせるっ!!」

 

 雷撃。目で見て瞬時にコースを判断。

 旋回。判断する前に回避行動を。

 深海棲艦の動きを読め。撃たれる前に砲撃ポイントを予測しろ。

 

 摩耶が起動に制動をかける。ぐぐ、と慣性力が体にかかり、折れた骨が軋んで悲鳴を上げる。構うことなく横に大きく飛びあがる。直後にさっきまで摩耶のいた場所に雷撃と爆撃が集中した。

 

「確かにてめえらはウザイ。数も多いし、動きも早い。個々の攻撃力だってバカになんねえ。はっきり言って脅威だ。でもよ……」

 

 摩耶の両隣の海面が盛り上がる。駆逐ハ級と呼ばれる個体が2体、摩耶を挟み込むようにして飛び上がり、その凶悪な顎門(あぎと)を開いて摩耶に噛み付こうとする。

 

「思考がねえ。ただ動物みたいに本能で暴れてるだけだ。せっかくの能力に追いついてねえんだよ」

 

 ハ級が飛びかかった時にはすでに摩耶はもういなかった。摩耶の主砲が火を噴き、2体のハ級を爆砕する。

 

「だから動きも読まれるんだよ!」

 

 深海棲艦の航空機によってズタボロにされたおかげか頭に上っていた血が少し抜けて脳味噌が冴えてきた。視界が広い。

 

「落ちろよ!」

 

 一斉射。針のように突き出した砲口から吐き出された砲弾が接近し始めた艦載機群を襲った。摩耶の意地はまだまだこれからだった。

 

 だが摩耶はひとりではない。奥歯を食いしばって戦い続ける摩耶から少し離れたところでは深雪が額から汗を流して降り注ぐ爆撃の雨をギリギリのラインで避け続けていた。

 

 そしてもう1人、摩耶と深雪からまた更に離れた場所で隼鷹が巻物を戒めていた紐を解いてふわりと広げた。揃えた人差し指と中指にマゼンダカラーの焔を宿して着々と艦載機を飛ばしていく。

 

「さぁてと。摩耶もみゆきんも頑張ってるからねー。そろそろ後輩(あたし)も行かせてもらいますよっと」

 

———勅令。

 

 展開し終わり直上で円を描いてた艦載機が途端に一直線に飛んでいく。

 

「エアカバーは任せなっ! 者共かかれー!」

 

 その言葉と共に編隊を崩し(ブレイク)、艦上戦闘機烈風、零式艦上戦闘機52型そして艦上攻撃機流星がそれぞれ獲物に喰いかかる。艦上偵察機彩雲は既に接敵済みで常に情報を提供してくれていた。

 

「隼鷹ッ!」

「ヒーローは遅れて登場ってね」

 

 摩耶や深雪に群がっていた雷爆撃機を烈風や零戦の20mm機銃ではたき落す。流星は件の船へと直行し、接近しつつあった敵先遣水雷戦隊を巧みな雷撃で撃退した。

 

「第一次攻撃隊収容させるぜ。摩耶、次はどうするんだい? つうか、ダメージ大丈夫かよ」

 

 飛行甲板の代わりとなる、巻物を広げつつ二人の元へ隼鷹は合流する。先程おもいっきり被弾したのを見かねた隼鷹は声をかけた。まだ吐血した跡と傷が生々しい。ちらっと深雪の方も伺ってみるが軽いかすり傷程度で済んでいるようであった。

 

「これくらい大したこと……小破にもなんねぇよ」

「そうかぁ? まぁいいっか無理するもんじゃないぜぇ。で、指示は?」

 

 摩耶は血を拭いつつ、戦場を見渡す。依然として航行を続ける輸送船を捉える。

 

「輸送船に被害はねぇな?」

「彩雲の報告では大きな損害はないぜ」

 

 青をぶちまけた様な雲一つない空を見上げれば隼鷹所属機以外には機影はなく、吉井機(メルクリウス)のヘリは視界外へと離脱していた。摩耶は一度逡巡する。

 

「輸送船と合流する、予定よりずれちまったしな」

「りょーかい」

「はーい」

 

 号令と共に深雪が先行し、摩耶がそれをカバーする形で無線で呼びかけながら接近する。隼鷹は直掩機を展開させつつ後方に布陣する。

 

「あー、あー。聞こえるか?」

 

 未だ敵空母は健在であるため、正確に補足されないよう摩耶が短距離通信で呼びかける。すぐに返事があった。

 

《感度良好》

 

「こっちもよく聞こえるぜ……こちら佐世保所属臨時編成艦隊、第301戦隊所属。艦隊旗艦の摩耶だ。無事でよかった」

 

《救援感謝する。私は陸軍西部軍区の菊澤中佐だ》

 

 それを聞いた摩耶と隼鷹は即座に怪しむ。何故()()が佐世保向けの輸送船に乗っている? では、先の友軍艦は? 疑問は尽きないが、とりあえず今は合流だ。

 

「……現在の状況はどうなってんだ??」

《見ての通り襲撃に遭ってる最中です。()()にも付近にいた艦娘に要請して戦ってもらっているところです。申し訳ないが、このまま向こうの方でも支援を続けて頂くことは出来ないでしょうか?》

「艦娘の足じゃ過度の連戦も長距離航海も無理だ。貴官も知っているだろうに。まぁ交戦中なら仕方ないか」

《申し訳ない。感謝する》

 

 その瞬間、摩耶の対空電探は何かを捉える。

 

「対空戦闘用意!」

 

 反射的に摩耶は叫ぶ。それと同時に隼鷹も航空隊を展開させる。胡散臭い輸送船であっても、守るのが任務だ。

 

「菊澤とか言ったよな? 最大船速と対空警戒を取らせるよう指示してくれ!」

《ノイズが入っているということは……第二次攻撃か?》

「どうやらそうらしいな!」 

 

 摩耶はそれだけ通信を出すと深雪とともに侵入ルートから飛び出し輸送船を中核とした輪形陣を取る。

 

「さらに嫌ぁな知らせだぜ、摩耶。彩雲が敵本隊の侵攻を観測。航空隊と同方角だ!」

 

 摩耶は唇を噛む。敵本隊の侵攻、支援艦隊の遅れ。第二次攻撃。そして極めつけは大きな戦力差。最悪の防戦になることは必須であった。

 

「全機、艦戦だったら支えれたかもしれないけどよーちょっちあたしでもきついぜ」

「……あたしが単体で突っ込んで落とす」

 

 摩耶はぼそりと呟く。それを聞いた隼鷹と深雪はもちろん反対する。

 

「何考えてんだよ?!」

「そんなのだめだ!」

「けどよ、深雪。昼戦で戦艦クラス倒せんのか? 隼鷹だって一個中隊で倒すのは難しいだろ?」

「だからってなぁ! 特攻していい理由にはならねぇぜ()()()よぉ? 生き残ってなんぼって思わないのかい? 内地で待ってるよな、仲間が」

 

 隼鷹は普段の様子とは違う、トゲトゲした雰囲気で摩耶を睨みつける。

 

「……」

「生き残って守れ……残された方も考えてみろって……」

 

 摩耶は唇を噛み締め、俯く。それだけ言った隼鷹はあえて明るい声で深雪に問う。

 

「さぁて、撤退戦だがどうしたもんだか。みゆきんはよぉ、どう考えるかい? 無駄死にはあたしは御免さ」

「あたし……も生き残りたい。だからさ、深雪様は旗艦の指示に従うぜ。特攻命令以外はな!」

 

 深雪は軽く口角を上げて答える。隼鷹は嬉しそうにうなづき、再びに摩耶に向き直る。

 

「時間はねぇぜ。摩耶。あたしだってここで轟沈するつもりはないねぇ」

《わたしも同意見かな》

「……?」

 

 

 突然無線から流れてきた少女の声は、どうやら先程から戦闘中の艦娘かららしい。

 

《実験艦隊隷下 駆逐艦Верныйだ。緊急時につき、貴艦隊の指揮下に入るべきだと判断した》

「えっ?! ……響か?」

 

 隼鷹は細目でその艦娘を捉える。白髪のようにも見える銀髪の少女が海上を滑り、砲撃を始めた。ザザ、と一瞬だけ通信にノイズか混ざる。

 

《古い名前だね……今の私はВерныйだ》

「味方、と判断するよ」

《構わないさ》

 

 さも興味なさそうにヴェールヌイは呟いた。

 

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