艦隊これくしょん―コンコルディアの落日―   作:GF-FleGirAnS

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ディアーナの守護(後篇)

「えーっと、Верныйとか言ったな? 旗艦の摩耶だ。協力サンキューな……そして最善は尽くすぜ。皆で帰ってやるよ」

 

 隼鷹はその言葉に嬉しそうに笑う。

 

(Да)……指示を頼むよ」

「で、どうすんだ、摩耶?」

「積極的に攻勢に出る。撤退戦だが防戦一方じゃ勝てるもんも勝てねぇからよ。隼鷹は輸送船に追従、制空権と敵主力艦の威圧頼んだ。深雪とВерныйは妨害と敵水雷戦隊の迎撃。あたしは中衛で防空と攻撃支援」

 

 摩耶はテキパキと指示を出し、しっかりと水平線を見つめた。深雪と隼鷹はそれに安心し、互いに微笑む。

 

「さぁーて、摩耶様の力思い知れ!」

「うっし! 深雪様、1番乗りぃ! 最初の敵はどいつだぁ?」

「いいねぇ……隼鷹()行っくぜー!」

「……君達はいつもこんな感じなのかい? 名乗りを上げて突撃なんて、大和魂が燻った時代錯誤な気もするけどね。Верный出撃する」

 

 その掛け声とともに輸送船と同航だった深雪とВерныйが陣形を崩し、大きく外回りの弧を描き、敵艦隊に対峙する。

 

「一度雷撃したら、転進しろいいな!」

「了解っ!」

「わかった」

 

 摩耶は打電をしつつ、体を180度回転。進行方向はそのままで速度を落とす。隼鷹は輸送船に追従したまま艦載機を展開させる。

 

「距離……よしっ、これならイケる! 深雪! Верный! 気を引いとくからよ、臆するなよ!」

 

 摩耶がそう叫んだ瞬間に摩耶の主砲が火を噴き、敵水雷戦隊へと吸い込まれていく。防空巡洋艦と言えども重巡洋艦。火力は十分である。

 

「弾着、今ッ!」

「えーっと、弾着遠近近、至近弾。いい感じのカーテンになってるぜぇ?」

 

 彩雲からの報告を読み上げつつも隼鷹は発艦を続ける。摩耶は少し主砲の俯角を変え第二射の用意をする。

 

「てぇっ!」

 

 その声と共にまた摩耶の主砲が瞬き、砲弾が飛んで行く。

 

「命中、近近々! ナイスゥ」

 

 弾着後、報告を聞いた隼鷹は嬉しそうに口笛をヒュウと吹く。派手に水柱が立ち、敵の視界をシャットアウトした。その瞬間付近で伏せていた特型2人組が一気に飛び出し進行方向へ満遍なく魚雷を散布する。

 

「順調順調」

 

 一部の艦はそのまま被雷し轟沈若しくは大破。碌な艦隊運動も戦闘も難しいだろう。残った艦艇は回避行動と隼鷹の零戦が威圧したせいで明後日の方向へ向かってしまったため目論見道理といえるだろう。

 

「大破確認! 摩耶様がけりをつけるぜ!」

 

 18.52km/h(10ノット)も出てるか怪しい敵軽巡洋艦に主砲弾を直撃させ、その体を海の中へと叩き込む。彩雲から報告を聞いた摩耶は次の敵を捕らえる。つまりは空母機動部隊だ。すでに隼鷹は第一次攻撃隊を向かわせていた。

 

「接敵まで5分といったところかねぇ」

「了解、んじゃ深雪とВерный。自由戦闘だ巡洋艦以下の誘引任せるぜ。行けるか?」

「うーん、やるしかないんでしょ? だったら全力を尽くすだけだぜ!」

「Хорошо……面白いね。乗ろうか」

 

 二人の艦娘は嬉々として応じる。すぐに二人は敵艦隊へと駆け出す。

 

「敵の分断できるよな?」

 

 摩耶は意地悪そうに笑う。それを見て隼鷹は肩を竦める。

 

「なんだい! あたしだけ結論ありきかい? まぁ、いいわ! パーッといってやるよ。パーっとなぁ!」

 

 そういいながらにひひと笑い、一瞬眼光が鋭くなる。

 

――――勅令

 

 一気に編隊解除(ブレイク)し、航空戦の幕が上がる。

 

「いっけぇー!」

 

 白色の猫型艦載機と深緑色の零戦、烈風が入り組み正面での戦闘(ヘッドオン)そしてドックファイトを始める。最初のヘッドオンで烈風隊が5機撃墜し幸先良い開戦となる。撤退戦ということもあり基本的に攻撃機への攻撃中心とし、戦闘機の数に於いて劣勢を補う。が、穴は空くものである。

 

「悪い、摩耶!」

「わかってる、任せろ!」

 

 すぐに隼鷹から逃れた攻撃機を対空射撃で叩き落とす。最初の何分間は良いものの、段々と消耗戦へと突入する。

 

「かーっ! 埒が明かないねぇ。一気に決めたいねぇ。摩耶少し支えてくんね?」

「あ? しゃねえか、やってやるよ!」

「いいねぇ! じゃっ頼むよぅ」

 

 零戦が急に軌道を変え、敵陣へ電撃的に突っ込み道を作る。

 

「ひゃっはー! 者共かかれー!」

 

 そこに無理矢理、流星を滑り込ませ航空戦の外へ出る。多少の損害は出るがその分だけの利益はある。その目の前は敵艦隊だ。

 

「いっけー!」

 

 何機か対空砲火に食われるが果敢に飛び込み、隼鷹の声と共に魚雷を投下する。それと同時に残った零戦をまた急展開し、戦線へ引っ張り戻す。

 

「摩耶悪ぃ!」

 

 摩耶に対し完全にマウントを取っていた敵艦爆を隼鷹は撃墜し、再び全艦戦隊を防空任務につかせ戦線を押し戻す。その間に敵艦隊で大きな水柱が立ち雷撃が成功したこと知らせる。

 

「空母被雷、炎上中! 今だ!」

「おうよ! これでも食らいやがれ!」

 

 すこし楽になった摩耶が主砲を三式弾のままぶっ放す。爆発せずに敵艦隊上空まで行ったかと思うと炸裂。大量の焼夷弾子が敵艦に降り注ぐ。至る所が炎上し一瞬だが統制が乱れる。続いて第二射。今度は徹甲弾で戦艦を捉える。

 

「どーだ!」

 

 戦艦の防御力では大ダメージとはいかないものの、完全に戦艦の注意が摩耶に向く。無線封鎖してる手前、確認はできないが、駆逐艦二人が弾幕を張ったりするなりして、護衛艦艇にたいして大立ち回りを演じているだろう。空母は完全に自身のダメコンに意識が向いている所為か、航空隊の挙動がおぼつかなくなっている。摩耶は砲撃と弾幕を張りながら行けると確信できた。

 

「航跡確認! 摩耶、6時の方向!」

 

 隼鷹が咄嗟に叫ぶ。これは落とし損ねた雷撃機か潜水艦、もしくは駆逐艦か。どれから放たれたかはわからないが2本の魚雷が白波を立てて迫っていた。摩耶は艦種の関係から、水中探信儀(ソナー)は付けていない。そのため、発見にもワンテンポの遅れてしまった。

 

「この野郎ッ! やらせるかよ!」

 

 装備バランスからして過度の重心移動は危険ではある。しかし、それを無視して体全体で摩耶は面舵を切り、雷撃に相対する形で魚雷と魚雷の間へとつっこむ。

 

「よしっ!」

 

 魚雷の間をすり抜け舵を戻す、が不幸は続くものだとよく言われる。

 

「摩耶ッ! 回避!」

「なっ?!」

 

 隼鷹が叫ぶも、時既に遅し。顔を上げ飛んできた砲弾を捉えたその瞬間、摩耶が居た場所に水柱が炸裂した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「まったく、熱くなり過ぎだ。周りだけじゃなく、敵すら見落とすなんてね」

 

 被弾して後退中の摩耶を庇うように、援護する隼鷹と深雪。その様子を蔑むような眼光で睨むВерный。他人の心配をする余裕があったら、一機でも落とせば良いのに。それだけで体勢を立て直す摩耶へのメリットだと言わんばかりに、単騎で舵を切り返す。

 

 戦艦の火砲が自艦隊を捉えたの数分前だ。その間に敵を漸減し、回避に備えられなかったのは努力不足である。だからこそ被弾は当然とも言える。次発に対処するにはどうすれば良いか。もちろん殺られる前に殺れ(・・・・・・・・)だ、とВерныйは一人ごちる。

 

 いつもと同じで良い。自分を守れば、他人を守れる。

 

 かつて指揮を執っていた上官の言葉を思い出す。敵艦で埋め尽くされた海域を引き裂く流れ星の様に。早く、速く、疾く、迅く。斬り結んだ戦場の華は、星屑(ダスト)のように喰い散らかせ。この禍々しく蒼い海面を、緋色(ほのお)で夜空の様に彩るのは、他でもない自分自身への存在価値の証明だと思っている。

 

 脚部艤装は、Верныйに合わせてチューニングされ続けてきた特注品。少数精鋭の防衛戦を数多く経験し得た答えは、誰よりも先陣を切り持ち場を整えること。

 

 負傷で落伍した艦娘の穴埋めなど、日常茶飯事であったВерныйにとってはこの程度の物量差ならば嗤い飛ばせる。

 

「でも司令官のバックアップがつかないのは、やっぱり使い勝手が悪いね」

 そう呟いた彼女は、艤装の爪先で海面を器用に叩く。まるで陸上選手がスターティングに備えるかのように。

 機動装置点火(イグニッション)。一言発した直後に急加速、そして旋回。深海棲艦にとっては白い外套に身を包んだ少女の体が、掻き消えるかのように姿を見失っただろう。波飛沫は箒星の様に尾を描き、置き去りにする。

 荒波に紛れるかのように水面を掻き分け、敵艦に肉薄したかと思うとキックバック。大きく迂回をしながらも、虚を突かれた敵艦のどてっ腹に砲弾を撃ち込む。

 深海棲艦の体が衝撃で揺らいだのを見届ける事なく、再び海を蹴るВерный。

 

 文字通りに次の獲物へと飛びかかり、次の相手の空中(うえ)をとる。防弾版など持たない敵の頭部に発砲。振り向く前には魚雷を手榴弾よろしく残し、炸裂前に撃ち抜き爆砕する。

 まるで遠雷のような速度に、敵艦隊の足並みは乱れた。先程まではたかだか一隻と驕っていた駆逐艦だ。それがなぜか理性を捨てたかのような行動に出たことに、理解が追い付かない。

 

 己の身すら守るべきものなど、ないかのように攻勢一辺倒。増援の到着によって、士気が上がったのかは深海棲艦の知る由もないことだ。だが、狂っているとだけは本能が囁く。奴は危険だと。

 

 まるで次元が違うかのように、触れられない。そして攻撃は当たらない。全てを置き去りにするような速度。まるで彗星の如く飛来する白い悪魔が、残骸すら消し去るように喰い散らかした。

 

 背に腹は代えられないと、同士討ちを覚悟で乱戦模様の中に敵艦載機が攻撃に出る。機銃の即射性を活かした立ち回りで、白光を纏う艦娘を銃弾の檻に閉じ込める。

 

 頬を掠る。帽子を吹き飛ばす。あるいは、腕に装備された砲塔に直撃する。甲高い音が砲塔から鳴り響いた時点で、Верныйは連装砲を強制排除(パージ)する。一拍置いての爆発音。

 

 得物を失った事に舌打ちをするが早いか、弾幕を縫って深海棲艦達の前に躍り出る。残った片方の連装砲をリロード。攻撃を絶やさぬよう、武装管制に次の命令を下す。

 

 腰部アタッチメントに懸吊された警棒――――もはや、その攻撃的な外見から棍棒(メイス)に近い鈍器を振りかざす。

 

 犠牲になった一隻を踏みつけ、止めを刺す隙を狙って別の艦が飛び込む。しかしその砲火を遮るかのように、Верныйの背部から防弾版が()()()

 

「さすがは、陽炎型の艤装をベースに組んであるね。よく動く」

 

 特Ⅲ型と侮るなかれ。人類側の開発した兵器を他の艦娘()が使って何が悪い。かつて響であった時のように装備された防弾版は、彼女自身の意志によって自在に動く。

 

 一隻の相手には、盾を投げつけ行動を阻害する。戦艦の砲弾よりも質量のある金属の塊が直撃した相手は、昏倒しないものの体勢を崩す。踏み留まった一瞬には、既に投下された魚雷が飛沫を上げて迫っていた。

 

 爆炎が踊るが早いか、その煙を裂き空中で一回転。低空攻撃に固執した艦載機を叩き割り(・・・・)、着水と同時に機銃が火を噴く。

 

 数刹那に鉄の華が散り、陽が黄金に照らし始めた洋上に緋色を描く。仇と言わんばかりに突出した相手には、伸びた背部の腕がその臓物を抉る。

 

「あぁ、紅い。やっぱり紅いね」

 

 深海棲艦の艤装のオイルか、はたまたその肉塊の血飛沫か。深紅に染まった己を見て、Верныйは自嘲する。

 

 追いすがる敵機には、飛び込む前に投錨した鎖を腕力任せで無理矢理引き上げる。度外視した速度で巻き取られた錨は、撓った鞭として宙を打つ。空間を薙ぎ払いながら、まるで靭尾のように武器と化した。

 

 小柄な体からは、まるで災厄のような暴力が振りまかれる。しかし一隻、また一隻と敵を屠る度にその兵装は消耗していく。己が一兵士であることに自覚はあるВерныйは、あと何分継戦可能かを脳内の算盤で弾く。

 

 艦隊を率いていた摩耶は被弾のため戦力外。隼鷹の艦載機は、下手をすれば彼女の艦載機ごと巻き込むだろう。とてもではないが、背中を預けられる練度ではない。自己評価した自身のスペックを鑑みて、敵の殲滅が可能なのは2分。囮として浮き続けるなら10分。

 

 残された一基の連装砲のトリガーを引くが、駆動音だけで反応を返さなくなる。弾詰まりの銃など、只の鉄の塊だ。エラーを吐いた火器管理装置を、強制的に解除する。その状態で発砲。膅発上等で近場の相手に放り投げると、直後に炸裂する。破片で自身も切り傷を作りながらも、別の敵へ跳躍。柄頭からへし折れた警棒を、尖槍として突き立てる。

 

「お下がりください!」

 

 無線ではない、肉声だ。見ればゴムボートに毛が生えたような定員三名の機動艇。もちろん乗組みは陸軍の兵士たちだ。深海棲艦相手にはお世辞にも機動性の良いとは言えない(ふね)にВерныйは身を近づける。

 

「足を止めたら危ないよ。それ外して……武器だけ借りる」

「同行します! 貴方に何かあったら、こちらは大目玉です!」

「大丈夫さ。得物をくれるだけでも、十二分なくらいだ」

 

 そう返しつつ懸架されている小型迫撃砲を伸ばしたサブアームで無理矢理引っ手繰ると、振り向きざまに掃射。すれ違う瞬間に、隊員のタクティカル・バックパックが機動艇から放り投げられた。

 

「……全く、今の司令官(たいちょう)は過保護にも程がある」

 

 器用に空中でキャッチするとそこには見慣れたモノが引っかけられている。先ほど落としてしまった制帽だ。海水で湿ってはいるが、そこには確かに輝く赤い星。

 

「落とし物です!」

感謝するよ(Спасибо)、同志軍曹。もう輸送船に戻って大丈夫だよ」

 

 流石に被り直す余裕はない。バックパックごと不恰好に腰のカラビナに括りつけ、手持ち斧(サンダーモール)刺突器具(ハリガンツール)を諸手で構える。敵艦隊へと吶喊し過ぎ去り際に殴打。

 

 対人用兵器でない工具(・・)を、艦娘としての馬鹿力で無理矢理振り下ろす。さすがは工具、深海棲艦(そざい)への食いつきがいい。そのまま食い込むところまで食い込ませる。抜けるかどうかは知らない。うまくいけば深海棲艦は開きになるし、いかなくても腹に工具をぶら下げて動くのは相当無理が出るはずだ。

 

А служба службою везде(りくでも うみでも): И на земле, и на воде(いくさはつづく)

 

 脳裏に浮かんだメロディが口から流れ出る。Верныйはくるりとその場で体を回す。手斧は抜けなかった。相手の中で引っかかったらしい。

 

И друга верного(つらくとも) рука с тобой в любой беде,(となりに)А если очень повезёт(ともが)

《――――だーれが軍用回線(ラジオ)で赤色軍歌を流してるんだか、艦隊への路(Дорога на флот)が流れてくるとか予想外なんだけど》

 

 無線に菊澤(たいちょう)の声が乗る。片手が空いたВерныйは腰に下がった帽子をかぶり直す。手首を捻って位置を微調整。

 

「計画経済でも想定外はつきものだろう?」

《確かにね、でもまぁタイミングがいい。同志(とも)ではないが友軍(どうるい)は来たようだ。特Ⅰ型三番艦、パーソナルネーム、深雪。方位1-5-6、距離4,500、12秒後、一直線に来る(ヘッドオン)

 

 Верныйがちらりと後ろを見る。確かに菊澤の声の通りに航跡が伸びている。

 

「加勢に来ました……って、うえっ!?」

 

 何に驚いたのか黒い髪を跳ねさせる少女が驚いたように目を見開く。

 

「どうしたんだい?」

「だ、大丈夫響ちゃん!?」

「Верныйだよ。今は」

 

 そんな驚くだろうかと思うが、確かに妹分が真っ赤に染まって釘抜き(ハリガン)片手に海にたってたら驚きもするだろう。Верныйだってたぶん驚く。

 

「大丈夫だし、驚いている余裕はないよ。ほら、お出迎えだ」

 

 Верныйの言葉の通り、深海棲艦が突っ込んでくる。それを紙一重で避けると一度後退。弾薬を潤沢に持っている増援に期待する。

 

「ちょっまっ!」

 

 慌てて発砲した深雪、狙いは当てずっぽうだが食われそうなほどに近ければいやでも当たる。目の前に突っ込んでくる撃破した駆逐ハ級を馬跳びの要領で飛び越え、深雪が叫ぶ。

 

「あっぶなぁ! 響ちゃん手伝ってよ!」

「なら武器おくれよ」

 

 つれない返事に一瞬イラッときたらしい深雪だが、正論は向こうだ。黙る。その間にもまだまだ飛び込んでくる敵の群れに深雪は砲を取り直した。

 

「応援は一隻だけかい?」

「隼鷹さんの艦載機も来るはずっ!」

「誤爆はごめんだね。さっきだって、私の動きに置いてかれたくらいだ」

「隼鷹さんはそんなへたっぴじゃなないやい! 響の急制動が可笑しいだけじゃんっ!」

 

 その声にゆるりと嗤い、Верныйは飛びかかってきた駆逐ロ級に釘抜きをたたき込む。そのまま振り回して引き抜けば、今度は抜けた。撃沈させることはできなかったが貴重な武器を失わなかっただけよしとしよう。

 

「うわ、ちょ、うえっ!」

 

 その間にもなぜか深雪に集中攻撃が来ているらしい。直撃はしてないし、うまいこと避けているが、顔色を伺う限り、芳しくはなさそうだ。

 

「全く」

 

 Верныйはあきれたようにそういうが、顔に落胆は見られない。どこか愉しそうではある。

 

「うわ、ちょちょちょっちょっ!」

 

 深雪を喰わんと駆逐ハ級が跳ねた。大口を開けて主砲が顔を出す。避けるのには遅すぎた。至近距離過ぎる。深雪の前に影が落ちる。

 

「――――――!?」

「甘いね、本当に」

 

 凜と澄んだ声。ハ級が動きを止める。ハ級の()()()釘抜きがめり込んでいた。深雪の前に滑り込んだВерныйが無理矢理敵の主砲の砲門に工具をたたき込んだのだ。彼女はそのまま工具を蹴り込む。 

 

Тебя дорога приведёт(きみはうんがいい)

 

 上機嫌に歌うВерныйを深雪はなにか恐ろしいものを見たかのような表情で眺める。

 

「運は良いが……」

 

 そのВерныйが左足を振り上げた。

 

邪魔(・・)

「へっ?」

 

 その左足が深雪の肩にめり込む。そのまま吹っ飛ばされる深雪。

 

「――――На Тихоокеанский флот(さぁ ひがしへいこう)

《だーれが味方をホールインワンしていいって言った? それに飛ばしたのは南だ》

「言葉の綾というやつさ」

 

 深雪が3秒前までいた位置に降ってくる弾丸。深雪が空中に(おと)していった連装砲を空中でキャッチし掌の中で回す。セーフティ解除。互換性のある艤装をドロップしてくれた僚艦(とも)と整備兵に感謝。引き金に指をかける。動作は良好。見事に砲撃してきたやつを海に還した。

 

「うん、いいね。工具より使いやすい」

《そりゃそうだろうけどさ》

「あと数隻、倒しきって良いよね」

《構わないが、後で詫びの文言考えときなさいよ》

「どこ宛てだい?」

《自分の胸に手を当てて考えなさいな》

「戦闘中は無理だね。そして張る程の胸部装甲は、持ち合わせない主義なんだ」

《ごりっぱで》

 

 Верныйはそう言って引き金を引く、残りは()()4隻。5分はかからないだろうと踏む。

 

 そしてその考え通り、4分と12秒後には海面には赤黒い液体しか残っていなかった。

 

 残骸しか残らない海面を眺め、敵勢力の完全排除と判断する。脚部海域掌握用戦略システム(StArDUSt)を停止。被害モニタリング実施。バイタルパートへのダメージは皆無、状況終了。さてこれから面倒な戦闘詳報だと肩を落とすВерныйに、前線から下がったはずの本隊から無線が届く。

 

《こちら隼鷹。深雪、Верный両名報告》

 

 飛んできた無線の主はなぜか隼鷹であった。深雪はВерныйから頂いた()()()()()を撫でつつ報告する。

 

「深雪、ちょっとヘマしたけど小破で住んでるぜ」

「こちらВерный。敵勢力排除完了。損傷なし、借り物以外の武装は全部パーさ」

《把握した》

 

 やけにテンションが落ち着いた声音で隼鷹は応じる。深雪は何か引っかかりを覚える。ここは旗艦たる摩耶が音頭をとるべきである。しかしさっきから一度も出てこない。

 

《無線封鎖解除。佐世保臨時編成艦隊()()()()、302航空戦隊所属隼鷹。関係各所へ。海幕指定海域カテゴリー1、ナンバー2内の敵勢力を撃滅。残党は東へ敗走中》

 

 安全が確認されたため隼鷹は長距離通信で各方面へ報告を終わらせる。それが終わるを見計らって深雪は問う。

 

「ねぇ、摩耶さんは? 隼鷹さんが旗艦代理? 旗艦が指揮能力を欠如した場合の臨時措置なんだよな……?」

《すまねぇ、もう少し待ってくれ。救援艦隊へ、こちら臨時編成艦隊。護衛任務を引き渡す》

 

 少しだけいつもの隼鷹が顔を出したと思えば、すぐに硬い口調で各所と連絡を取る。

 

《とりあえずみゆきん、こっちに戻ってきてくれ。摩耶の治療もしなきゃならねぇから、救援艦隊に合流するぞ》

「隼鷹さん。何があったの?」

《……結局、摩耶が大破判定。戦艦の主砲弾が直撃したんだ。それでこっちは介抱中。》

「うへぇ、無事なら良いんだけど……」

 

 まったく、艦隊行動とは難儀な物だ。上長が動けなくなれば、部下がその心配をせねばならない。好き勝手やらして貰っていた司令官には、頭が下がるばかりだ。当時を思い返せば、よく僚艦達は従ってくれたものだが……いや、スタンドプレーの集合体によるチームの戦果とでも言おうか。

 

 自覚はあるが、狂獣を野には放つ覚悟がなければ摩耶達との艦隊行動など夢物語。そう自嘲するВерный。性格上で相容れない友軍にむけて、別れの言葉を切り出す。

 

「こちらВерный。事態は収束しただろう? 離脱するよ」

《了解した。貴艦の協力に感謝する》

「礼には及ばないさ」

 

 

 身を翻して、進路を輸送船へと向ける。あそこにいるのが、今の私の同士だ。表向きの上下関係とあるのは、実際には互いが互いを護衛し合うと言う奇妙な共闘関係。だが、今回の戦闘程度では……。

 

「私一人でも十分だったかな」

 

 外見だけならクール・アズ・キュークにも見えたと人は言うだろう。しかし白色と言うのが、純真だか無垢だとかのイメージは一方的なものに過ぎない。そして返り血でその身を汚した少女は、その紅に恥じない滾りを感じていた。

 

 また足りなかった。練度を見れば九十九(つくも)をゆうに超えたВерныйにとっては所詮あの程度(・・・・・・)だ。必死に抗っても、黒雲の様に空を覆った艦載機。雷雨よりも身を裂く砲弾。仲間の名を叫ぶ余裕すらない圧倒的な武力を目にした事のある少女にとっては、先の戦闘は御飯事(あそび)にしか感じないのは事実であった。

 

「あぁ、分かってる。足手まといはもう御免だね」

 

 かつての僚艦に対する懺悔だろうか。少女の呟きは、潮風に乗って消えていった。

 




 どうも読者の方々はじめまして。日本の艦艇大好きマンで護衛艦を艦娘化させたものばかり書いている山南修と申します。葛藤とロマンを書きたい(書けるとは言ってない。この企画には帝都造営氏、オーバードライブ氏、エーデリカ氏の誘いを受けて参加しました。小生、OD氏の鏑矢に憧れて始めたものであり、氏の影響をかなり受けました。おかげで青葉は情報キャラに。


さて今作「艦隊これくしょん―コンコルディアの落日―」はまだまだ続きます。ディアーナの加護は序章の一つに過ぎません。我々が思い描いたシリアス溢れる作品をとくとお楽しみください。


P.S.提督の方々は春イベ頑張ってください。
よろしくお願いします。
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