人殺し少年と口数少ない少女   作:美宇宙

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少年は慣れている

突然だが『人殺し』とはどういう意味だろうか?

それを町中の人に聞けばきっとこう答えるだろう。『人を殺した人』 『殺人鬼』 『狂人』など、音は違ってもそれらの意味は同じである。

これは人を殺すという行為を行った存在に与えられる一つの勲章である。

けれどこの勲章は他とは違うものが存在し、これに関しては人殺しにしかないものがある。

それは何か? いたって簡単な話だ。これは正真正銘の犠牲の上に立つ勲章であるという点である。

それだけ言われればほかの勲章も犠牲を払われて得られるものしかないように見える。いや実際犠牲なくして得られるものは何一つとしてない。世間一般でいうならばそれは等価交換という言葉が一番しっくりくるだろう。

ならばこの勲章を得るために払った代償は何か? となれば当然それは『人を殺す』ことにある。

つまりは、この勲章を得たければ犠牲ではなく犠牲者を出さなければいけない。

 

つまりは、この勲章は人の血を浴びた人間が人間に与える罪にして罰なのである。

 

人間は幾多にも及ぶ地球上に存在する生物を絶滅させ、殺し、食し、そして弄ぶのに『人殺し』というこの一点だけには重みを感じるのだ。

何故か? それは至極単純、分かりきっていることである。

 

同じ人間だからだ。

 

多くの生物を殺し絶滅させてもそこから得るのは一時期の罪悪感だけである。

だがそれはとても効果が薄く、少し時間がたてば座悪間なんてものはなくなりそれは結果として残るだけである。

けれど人となるとまた話が変わってくる。なぜならば同じ種族である存在が死んだとなれば、連鎖的に本当に恐怖を覚えてしまうからだ。

次は私かも、などと考えてしまう。人間の思い込みの力は他の存在を凌駕する。

 

昔、特に戦国時代では戦争が勃発しそれが当たり前の出来事であったはずなのに、今の世代ではそれはもはや罪以外の何物でもない。

どんな理由があれど人を殺した存在は周りから蔑まれ恐怖される存在になってしまう。

 

まさに罰、人間が人間に与える最高に不名誉な罪。

 

 

桜が舞い散る季節。窓際に配置された机に頬杖をついて外を舞う桜を眺める少年が一人。

織村快、十六という年にして人殺しの称号を得た存在はどこかあきらめているかのような表情を浮かべていた。

彼はまさしくこの学校の生徒からすれば敵対者でしかないといえば彼の扱われ方がいかに残酷か理解できよう。

常に数人を除く全生徒と教師からは敵意の視線を向けられ悪意ある行動なんて日常茶飯事、さらには何か問題があるたびに彼が首謀者なのではと最初に挙げられる。

挙句全校集会では「あのもののようにならないように!」なんていわれるのにももはや彼は慣れてしまっていた。

 

今も彼が頬杖をしているだけで教師は彼にチョークを投擲する。

敵意に敏感なかれはすぐに首を傾けて回避、彼の後ろの席の生徒の額に直撃したことすら彼のせいにされてしまう。

 

教師の理不尽な怒りに適当に相槌をうって再び頬杖をついて外を眺める。

どこまでも青く続く空のように人間の心はきれいではないと再確認した彼はため息を誰にもばれないように吐く。

何があっても人間が黒から白になる日なんてないだろうと、彼は思う。そもそも変わる、なんて概念が存在しない。

もしあるのなら今頃人殺しなんて事件は勃発しないし、そのほかの事件も起きはしない。他国に敵意を向けたり、孤立したり、それはきっと人間の本能からなるもので人間は所詮人間なのだということだ。

本能的に相手を敵か味方かを決めてしまう、それは人間の悪くもいい癖と言っていいものだろう。だからきっと上記のようなことが起きるし、戦争なんて大それたものが起きてしまう。

 

「まさしく最高の悪、この世に君臨した失敗作、か」

 

それが、われら人間である。

 

 

「今日の授業はここまで、皆さん気を付けて帰ってください⋯⋯織村君は後で生徒会室まで行くように」

 

あからさまに嫌そうに軽蔑した目で彼を見る教師に快は「はい」とだけ答えて帰る準備は始めた。

机の中から教科書とノートを出そうと手を突っ込むと何やら変な感触がするので確認しようとそれらを引き抜くとそれらの大半は破かれていた。

だが彼は何も反応しない、もう慣れっこだからだ。地味につらいな程度に思うぐらいで彼の心はピクリとも動かない。

敗れたそれらを鞄にしまい込みそれを片手に教室から出ていく。

彼が出る間際、教室にいた生徒が「つまんねえの」などと言っているが彼の知ったことではない。

 

教室を出て深呼吸を一つ、終えて彼は歩き始める。

まだ授業が終わったばっかりということもあり廊下には帰る準備を済ませ帰ろうとする生徒やべらべらと放課後の時間を仲間とともに満喫する生徒が目に入ってくるのだが全員が彼を避け、まるで怪物を見るかのような目を向ける。

これも彼からすれば既に五年はこの目で見られてしまったせいで慣れっこなことである。

 

ほどなくして上と下につながる階段に到着し、生徒会室のある下の会談に進もうとしたとき、後方から敵意を感じた。

 

『誰かからの攻撃、場面的に見て階段から落として大けがさせる、そんなとこか』

 

こんな場面でも冷静な彼の行動は素早かった。

体はそれを回避する。快が回避したことによって勢い余って落ちそうになった男子生徒を彼は片腕を使って受け止めた。

 

「危ないからやめてくれ」

 

瞬間、男子生徒は悲鳴を上げながら廊下を走り去ってしまう。

そこにいた数人は笑いどころをつぶされたといわんばかりに快を睨むがそこにあったのは彼らを無視して階段を下がっていく彼の後ろ姿だけだ。

一回に到着し、そこを右折してそのまま直進する。

少し長い道のりを経てついたのはこの学校の中でも広くかつ設備有能で有名な生徒会室と書かれた部屋の前に立っていた。

彼はただノックだけして入室。だだっ広い空間に数個置かれた長机の手前に置かれた椅子に座ってこちらを見てほほ笑む少年は彼を目視して口を開いた。

 

「やあ快。今日もひどい荒れっぷりだね」

 

「いつも通りで変わらないところとかいいんじゃない?」

 

「全然だ、どこにもいい要素がないよ。慣れすぎっていうのも一種の罪だね。これは」

 

「人間の慣れはすごいから。人間偉大だ」

 

「思ってもみないことを口にするのはよくないと思うんだけどね」

 

「まさか」

 

快の前に座るのはここ、榎原学園の生徒会長こと野倉達也、彼の事情を知る数少ない人間である。

文武両道、学校の人気者と持っていないものなんてないんじゃないかと快が思うほど完璧な彼はただの一度の会話で興味をもって、彼のことを調べ上げ、何もかもを共感した存在。

最初は快は何を言っているのか把握できなかったほどである。曰く、同類だかららしい。

孤独に生きる存在として君ほどの存在はいない、そう断言できるくらいに達也は彼に信頼を寄せているらしい。

 

「さて、君を呼んだのはほかでもなく⋯⋯あるわけがなく」

 

「また、か。今回は何?」

 

先ほどとは打って変わり、達也の顔は悲しげな表情だ。

なぜ快が生徒会室に呼ばれたか。それは()()()()()()()()()()()では絶対に成し遂げることのできないことを頼まれるからである。

それは正義ではなく学校の悪と名高い快にしかできないことだ。

 

「本当に、すまない⋯⋯っ!」

 

机の上で手を組んでそれを額に当てる。

それによって表情が見えにくくなるが会はその奥に隠れた表情を知っている。否、見すぎてしまった。

歯を食いしばって悲しみと怒りの混ざり合った表情は彼が親友と呼ぶ快をどれほど思うかがうかがえる。

 

こればかりはしょうがないと快は知っている。

彼みたいな存在がやれば確実に終わりをさすことだろう。だからこそもう落ちることのない彼はやるのである。

 

「君が悔やむことじゃないでしょ? 俺ができることなら何でもするって言っちゃったし」

 

彼の前に置かれた紙を勝手にとって内容を確認すれば書かれている内容は女生徒一人の救出だった。

ここまで聞けば特に何もないように見えるがそうもいかない。簡単に言えばどんな手を使ってもそれをやり通す必要がある。そしてそのあとに快に関する悪い流れが学校中に広がればそれ任務終了だ。

そうすることであれのようにはなるまいと生徒たちにはさらに軽蔑され、彼とは対極の存在になろうと努力を惜しまないわけだ。

流石にここまでこれば快にも否定する余地がある、そう、()()()()

これを仕向けているのは、何を隠そうここの学園長なのだ。

ここの校長は生徒たちを最善の道に導くことをモットーにしている。そのために俺のような存在を犠牲にすることをためらわない。

 

「僕に、僕にもっと力があれば!!!」

机を強くたたき、悔しそうに叫ぶ達也をうしろに快はドアを開き、顔だけを彼に向ける。

 

「大丈夫、どうにかなる」

 

快の表情は最後まで歪んでいなかった。

 

 

「ただいま」

 

自らの家のドアを抜けてリビングに入る。

彼の声で帰ったことを知ったかソファから起き上がった女性は彼に言葉を返した。

 

「お帰り、今日は大丈夫だった?」

 

「教科書とノート破かれたくらい。いつもよりはましじゃない?」

 

「最近だと靴が川に捨てられてたことがあったかしら。それに比べればましね。待ってなさい。ご飯作ってあげるから」

 

と言ってるものの冷蔵庫から適当な冷凍食品を出してレンジに突っ込んでいる自分の母親にくすくすと笑いながら部屋にはいって部屋着に着替えリビングに戻る。そのころにはすでにお箸とご飯の入った器に味噌汁と水が置かれ、最後にさっきの冷凍食品ことから上げが載せられた皿が机に置かれた。

 

「いただきます」

 

ご飯を食べ終えて、時刻はすでに十時を過ぎていったころ。

部屋の明かりはつけず、部屋を照らすのは窓から入る月光だけの中、快は鞄から今日もらった資料を取り出して目を通していた。

 

「起こるのが三日後の放課後、およそ十六時半か。なら可能性としては誘拐って考えるのが妥当か。なら肝心は⋯⋯」

 

なぜ誘拐されるか、だ。

校長を脅迫、この線は考えにくい。なにせ校長は生徒に手を出されることをとことん嫌う。まじでそんなことをすれば存在を消されるのなんて目に見えている。

なら単に女生徒をただの下心で誘拐してそのまま襲う、とありきたりな理由が一番しっくり来た。

 

だが、仮にもだ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

ふと、ある記憶が彼の頭をよぎる。目の前には血塗れの男、自分の胸に刺さったナイフと握ったナイフはどちらも血を浴びている。

後ろにいる少女は悲鳴を上げる中、俺と男は地面に倒れこむ。

 

その時、男は彼の脳内に焼き付けるかのように耳元で悪魔の言葉を吹き込んだ。

 

『お前はーー悪魔だ』

 

「あぁぁぁぁああ!?」

 

頭を抱えてそこで倒れこんだ。

体の中が恐怖で占領され、体が震えて動けない。

止まることのない絶望への言葉。まるで再確認させるように何度も、何度でも放たれる最悪の言葉に、彼は。

 

「やめて⋯⋯くれ。もう俺を」

 

堕とさないでくれ。

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