今日もまた、少年は憂鬱な一日を過ごす。
彼からすればそれはすでに慣れしたんでしまっているけれど、それはどこか虚しいものがある。
今日の空は晴天、雲一つ見当たらない透き通った青は彼を飽きさせなかった。
その青は自分が嫌うあの色、真紅とは真逆のような色だから彼は好んでいた。赤に反発するようにきれいな色、あの色に反抗しているような色だからだろうか。
大体のゲームでは水と火は水のほうが強く火が水に弱い。それをいろであらわすと青と赤だ、ほら、青のほうが勝っている。
だからこそ、あの赤を相殺するように存在する青色を、彼はたまらなく好むのだろう。
そんなことを空を見ながら考えている周りからすれば上の空な快に、教師はいつも以上に怒りを覚えていた。
呼びかけても全然反応しない彼に、とうとうしびれを切らしいつもとはレベルの上がったチョーク投擲を披露する。
やっと敵意以上殺気以下のそれに気づいた彼は高速接近するチョークを目視する。
いつも通りよけようか、と一瞬考えたが後ろの生徒にも悪いと感じた快はそれを指でとらえた。すれば、それは指の中に回転を緩めていく。
「回転掛けた……?」
なんて無駄な技術を身につけてるんだ? しかも自分がよけて後ろの生徒に当たったらどうする気だったんだ? 内心でそう思う快に舌打ちを打ちながら教師は再び黒板に振り替える。
その光景を見ていた生徒タチハ授業中にも関わらず笑いはじめ、教室にはにぎやかな光景が見え始めた。
「はあ」
その中で、彼はため息をつく。当然それに気づくものは今はいない。
ペンを握るも、快はノートに何も写さない。なぜなら後々破られるのは目に見えているからだ。
そうなった場合は達也に見せてもらっているから特に問題ないが、それでもショックはあったりする。
「よく耐えれてるなあ」
自分で言って笑う。
五年もの間ずっとこれのようなことを受けてきているのに耐えれてるなんて、まるで精神だけ人間を超えてしまったみたいだ。
『お前はーー悪魔だ』
まただ、やめろ、俺の中を支配するな。
快の中に響く声に反発するが、声は止まらない
『お前はーー悪魔だ』
止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ。
これ以上、俺の中に来るな! 快の叫びも意味がなく、ただひたすらに心中でささやかれる言葉に。
「止まれええええええええええええええ!!!」
大声で叫ぶ。
先ほどの笑いはどこに行ったのか一斉に笑いを止め生徒は快に振り向いた。
そこに映るのは床に倒れこんで頭を抱え体を震わす快の姿。当然教師の怒りの罵声も響くが快には届かない。
止まれ、快の言葉に答えない悪魔はずっと呟きかける。
それを最後、快の意識は暗い底にーー
『お前はーー悪魔だ!』
「やめろおおおおおおおおお!!!」
今度はしっかりと発言される言葉に彼は叫びとともに勢いよく上半身を起こした。
彼の目に映ったのは純白のカーテン、そして今いるのがベットの上、であればここは保健室かと、案外早く、しかも冷静に彼は答えを導き出していた。
しかしなぜ自分は保健室なんかにいるのだろうか? その疑問はすぐに解消された。
「ぼーくだよ♪」
快の心の中を丁寧に読み取って答えを出した声を快は知っている。
すぐに振り向こうにも、まるで機械のように首は少しづつしか動かずに振り向けないでいた。
「こっちを向くんならちゃんと向くんだよ!」
快の頬に手を添えて思いっきりぐいっと動かされた。少しの痛みを感じるものの、快は先ほどから聞こえる声の持ち主を目でとらえることに成功した。
長く頃委髪をツインテールに、そして行内ではものすごく目立つゴスロリ着こんだ人形のような少女は快をニコニコと見つめていた。
彼女の名は佐藤美紅。何を隠そうこの学校の校長、最高責任者だ。
「ホントびっくりしたよ。校長室まで聞こえたんだぜ? 君の声」
「それは申し訳ないことをしました」
「大丈夫さ! なんせ君と僕の仲だろ♪」
「完治がされるような発言は控えてください」
「ちぇっ、君はつれないなあ」
どこからどう見てもただの小学生にしか見えない少女だが、その正体はこの国が保持する『十帝』の一人だ。
十帝とは様々な文化で輝く栄光を手にした人類の頂点をさす。
彼女の場合『半永久的なエネルギーの確保』がそれにあたる。
太陽の膨大な熱、光、そのほかもすべて研究しそれをエネルギーに変える技術、太陽光を電気に変える太陽光発電も、さらには一時期は圧倒的に上だった原子力発電なんて生ぬるいまさに世紀の発明を成し遂げたのだ。
今や日本どころか地球に存在する様々な国の電力は彼女の研究成果によってもたらされているといっても過言ではない。
そういえば、と快は思う。
なんで校長がこんなところにいるのだろうか? その疑問は校長によって瞬時に解消された。
「次の依頼、話は聞いてるね?」
「まあ、確か女生徒の救出、でしたよね?」
「そう、僕はそれを断念してほしいんだ」
「はあ……は? なんでですか!?」
「いちいち反応がいいのが困り者だよね快君は」
快は耳を疑った。
毎回達也経由で送られてくる以来のすべては紛れもなくこの小さな少女から送られているものだ。
それは俺のようになるなという生徒たちへの警告だったはずなのに、なぜ今回は断念した? こんな事例はこの学校に来てからただの一度も快の記憶にはない。
「君は勘違いしているかもしれないが、僕は君のことは嫌いじゃない。むしろ好きだ、Likeだよ」
「な、なにを言って」
「そもそも君に依頼していたのは確かに君が考える理由もあるがそんなもの二の次どころか三の次だよ。実際にはほかにもあるし、
「そんなの、分かるわけが! そのほかっていうのは一体何なんですか!?」
「心のどこかではわかっているのにそれを気づかないフリをするのは何とも悲しいものだね。気づいていないならこちらからしゃべれることはないよ、これは十帝の決まりでもあるんだ。全員分かっているって思っているけどね」
十帝が、この件に関わってる。それだけでも大ごとだ。
一国の総理ですら届かない領域、その上に君臨する十帝が関わっているとなれば……。
「ああ、なんなんだよ全く!」
じゃあなんだ? これまで快がやってきたことはほかに意味があるものだったと? 自分はそれを灌漑してずっと命令を受けていたと?
ばかばかしい、結局快は十帝の手のひらで踊っていたということになる。
カーテンを乱暴に開き、ベッドから立ち上がって保健室を出ようとする、が快は一瞬止まる。
「俺は、十帝の人形じゃない」
それだけいって、快は保健室を出た。
既に放課後、廊下でたむろする人間も、部活に精を出す人間も、授業を受けている時よりも明るい顔をする生徒たちの間を歩きながら快は考えていた。
『なんだ? 俺が校長の依頼を受けていた真の理由は。そもそもなんで俺だった? 五年前から面識はあるけれどそれは関係ないはずだ。なのになんで』
そんな気持ちで歩いていたからだろうか、快は誰かとぶつかった。
「あ」
ごめん、そう言おうとしたとき快は固まった。
ぶつかった相手がこの学校のマドンナと呼ばれる女生徒であったあらというのもあるだろうし、何よりも知り合いであったこともある。
彼女の名前は楠楓。茶色い紙は腰あたりまで伸びていて頭の横には青いリボンが結ばれている。この年にしては明らかにおかしいスタイルの持ち主でそのきれいさは同姓であっても惹かれるものがあるそうだ。
彼女は最初、快を見て驚いたように、でもうれしそうな顔をした。なんでかは知らないがそんな表情をされるので快は困ったように頬を掻く。別に敵意を向けられているわけでもないのに痛い気がしたのだ。
「久しぶり」
静かに、彼女は声を出した。だが快はそれをそっけなく返す。
快と一緒にいると彼女に迷惑がかかることを速球に退避するべきだと、彼の判断である。
「俺これから用があるから、じゃ」
実際は嘘、だがいまはそんなことはどうでもいい。快は楓をおいて再び歩を進めようとするがそれはかなわなかった。
彼女が、快の袖を握っていたから。
いつもの会ならそれを振りほどくぐらいはしただろう、だがなぜかその時は、快はしなかった。
「何?」
「君と久しぶりに、話がしたくて」
無表情で答える彼女に快は本日二回目のため息を吐く。
快が楓と出会ったのは五年前、つまり快の心の中に染み付いたあの声の事件は彼女を中心として行われた事件だ。
彼女が誘拐され、それを偶然見かけた快が助け出した。が、結果快は重症を負った。
約六か月にも及ぶ昏睡状態、彼女は俺が目を覚ますまでずっと来ていたらしいが、それっきりだ。
この学校に来たのも偶然だったしこれまでただの一度も接触したことがなかったはずなのに、なぜ?
「そうか。ならもう十分でしょ? 俺は行く」
快は少し強引にその手をほどいて彼女からを背けた。
だがその時、快は目の端であるものをとらえてしまった。片手間に手榴弾のようなものを投げている少年の姿を。
いや、本物か!?
なんでそんなものを持っている!? いやそれ以前になんでそんなにも殺気立っているんだ!?
「伏せろ!」
快は反射的に叫んで、楓を守るように手榴弾が飛んでくる方向に身を出した。
彼女を抱きしめ、自らを盾に。
ほどなく、それは爆発する。
「ははは、ざまあねえな化け物」
それを投げた少年は少し引き気味に言った。
楓の記憶の中に、その男は存在する。しかも比較的新しい記憶。内容は彼女に告白してきたものだ。
まさか自分のせいで? これではまるであの時と変わらない。
楓を守った快は目を固く閉じて意識を失っている。
「快……?」
返事がないそれに何故か体が、冷めていってるような……。
「お、おい。死んでなよな? な? 返事しろよ。なあ、返事してくれよ!」
まるで何かにおびえるように男は快に問う。
だがいつまでたっても来ない返事に男は恐怖した。
自分も人殺しになってしまう、その恐怖心が男を縛り上げた。
「いったい何が……快!?」
遅くも現れた征世会長はみると同時に快を見つける。
背中はすごいやけどを目のあたりにして、彼の怒りは最高潮に達するのにもはや数秒もない。
「誰だ、快にこんなことをしたやつは」
その明らかな怒りに、ことの八端は「ひっ」と声を上げた。
それを見逃さなかった達也は男を睨む。まるで蛇がカエルを捉えたときのそれだ。
「お前か、お前がやったのか!」
「ち、違う! 悪いのは何も悪くない! わるいのはそのばけものなんだ!」
必死な言い訳はなお一層達也を怒らせた。
だれにも止められないほどに、その顔は怒りで満ちて、手を強く握りしめる。
「それに、それにだ! そいつが死んだらみんな喜ぶだろ!? 生徒会長だって本当はうれしいんだろ!?」
楓までもが、怒りを覚えてしまいそうだった。
胸の奥から湧き出る煮えたぎるようなそれを必死に抑え込む楓とは別に達也は容赦しなかった。
自らの拳で相手を殴り飛ばして倒れる前に胸ぐらをつかんで再び拳を叩き込む。
そのあとも、ずっと友に涙を流す生徒会長の攻撃は続いた。