「あ、リンドウさん。お疲れ様です。」
「おう。お疲れ。」
アナグラのエントランスに任務を終えたリンドウが姿を現す。それに気づいたフェンリル極東支部でオペレーターを務める赤い髪を結んだ少女、竹田ヒバリが声を掛けた。
「サクヤ達はまだ戻って来てないのか?」
「はい。サクヤさんは防衛班の方々とコンゴウ討伐に出ていますね。ソーマさんも単独でオウガテイル討伐に出てます。」
「そうか。まぁ大丈夫か。」
「あ、そういえば3日前にリンドウさんが保護した避難民の方がようやく目を覚ましたそうですよ。」
「そうか。それは良かった。」
「いやそれが…そうでもないらしいです。」
「ん?その避難民に何か悪いことでもあったのか?」
自身が助けた避難民が目を覚ましたことに安堵の表情を浮かべるリンドウだが、ヒバリの歯切れの悪い言い方に疑問を覚える。
「それが…目を覚ましたのは良かったんですが記憶を失ったみたいで…」
「記憶喪失ということか。」
「はい。でも医療班の方によると名前以外思い出せないのに本人は焦る様子も不安になる様子ももないみたいなんです。良くいえば落ち着いて悪くいえば自分の記憶に興味がないみたいで…」
「検査とかはやったのか?」
「はい。その結果、東洋人と西洋人のハーフということがわかったみたいです。DNA鑑定も行なったのですがサンプルに該当するものがなかったとか。」
「となると、彼奴は外から来たことになるな。」
極東支部の近くには外部居住区というスラム街があり、そこにはフェンリルに所属する神機使いの血縁者が住んでいる。しかしいつオラクル細胞に適合する神機が見つかるか分からないため居住区に住む人々から血液や細胞といったサンプルを取っている。
「それで?そいつは今、どこにいる?」
「はい。彼は今支部長室にいます。」
「支部長室?なんでまた…」
「それがこれも検査でわかったことなのですが…」
「どうやら彼は新型神機の適合候補者みたいなんです。」
支部長室内ではライとヨハネスが対峙していた。
「率直に言おう。君の身体は人為的に手を加えられている。」
「………」
「君が眠っている時に軽く検査をしてね。それでわかったことなんだ。しかもそれは脳まで至っている。恐らく君の記憶喪失の原因は度重なる人体実験による脳への過負荷もしくは防衛本能による欠落と私は考える。」
「はぁ…」
「いきなりこんなこと言われて混乱するのも分かるが今は受け入れて欲しい。」
ライの反応の薄さに混乱してると思ったのかヨハネスは悟すようにそう言う。
「いえ、大丈夫です。混乱したわけではないですから。寧ろ納得というか得心を得たというか…」
「どういう意味かね?」
「人体改造については記憶を失っているだけで"知ってる"んです。脳の記憶が失われても身体の記憶が覚えているというか…」
自身でもうまく説明できないのか困惑しながら言葉を選ぶライ。対しヨハネスも考えるような仕草をする。
「なるほど。毎日何度も同じ動きをすれば自然と頭より身体が反応する。君はそう言いたいんだろう。」
「はぁ…」
「とりあえず記憶喪失以外では君の身体に異常は見られなかった。そこでだが君はこれからどうする?」
「どうするとは…」
「実は先の検査で君に適合する偏食因子が見つかった。我々フェンリル極東支部は君をゴッドイーターとして迎え入れる準備はできている。まぁ適合試験はまだ受けていないからゴッドイーターになれるとは確定してないがね。」
『………」
遠回しの脅迫。ライはそう思った。
フェンリルやアラガミ、ゴッドイーターの説明は支部長室に入っての冒頭に説明を受けた。
アラガミという化け物と戦うには人をやめて化け物となる必要がある。
ゴッドイーターとはある意味では人の皮を被った人外とも言える。
しかしライには人を辞める…化け物を倒す為に化け物になることにさほど抵抗はなかった。
寧ろそれが当たり前で既に受け入れているような感覚もあった。
それはまるで自分が人の常識…"理"から外れた存在だと知っているかのごとく…
記憶が無くとも自身がどんな存在なのか、ライはそれを理解しているかの如く…
「分かりました。その試験を受けさせてもらいます。もともと保護されて貰えなければ今頃アラガミに食べられてたかもしれませんしね。その恩は返さないと。」
「ありがとう。まだはやいが君なら先に言っても大丈夫だろう。ようこそフェンリル極東支部へ。我々は君を歓迎しよう。」
「こちらこそまだ早いですがよろしくお願いします。」
共に握手をするライとヨハネス。
しかしこの2人が…
世界の命運を賭けて…
戦うことになる。