アナグラの襲撃から数日。
「君の神機、直ったよ。」
「そうか。ありがとう。」
リッカに呼び出されたライは自身の神機が直ったことを告げられた。
「これでまた戦える。ありがとう。」
「うん。頑張ったよ。徹夜もしたし。」
「大丈夫か?」
「少し無理しすぎたからこれから休むつもり。君があんな無茶しなかったらゆっくり直そうと思ったんだけどね。」
「ゴメン。」
「いいよ。謝らなくて。でも約束は守ってね。」
「わかった。というよりも僕もあの痛みは勘弁だから二度としない…と思う。」
「……なんで絶対にやらないと言い切れないの?君らしいけど。」
ライ自身はもうやらないと思っていてもまた同じ状況に陥ったら“ゴットイーター”として神機を振るうことを厭わないだろう。
……その神機が他人の物だとしても。
「はぁ…ゴットイーターに“侵食”されてるね。」
「否定できない。」
「極東支部に新たに新人を迎い入れることになった。待望の新型神機使いだ。」
ツバキに呼び出されたライ。目の前にはツバキと金髪の少女と黒髪の少年がいた。
「本日付で極東支部第二部隊配属となりましたアネット・ケーニッヒです。よろしくおねがいします。」
「同じく第三部隊配属となりましたフェデリコ・カルーゾです。」
「極東支部第一部隊隊長、皇ライです。こちらこそよろしく。」
「存じております!!極東支部初の新型神機使いで、凄く強いゴットイーターなんですよね?」
目を輝かせながらそう言うのはアネットだった。
「ちょっと待ってくれ。なんでそこまで過大評価してるの?」
「ヨハネス前支部長から話を聞いたんです。貴方が凄いゴットイーターだって。」
そう答えるのはフェデリコだった。
「私も本部に行ったがお前の噂が流れてたぞ。前支部長が散々吹聴したらしいぞ。まぁあながち間違ってはいないしな。」
「ともあれ新型の戦術はお前やアリサの方が詳しいだろう。時間があるときでいいから2人に教えてやれ。」
そう答えるのはツバキだった。そしてライを有名にしたのはヨハネスのようだ。
「わかりました。教えられることは教えますよ。」
「「よろしくお願いします」」
元気よくそう言う2人にツバキは次の指示を出す。だがそこでライは気づいた。
2人より先に来たとはいえ同じ“新人”のはずのレンがいないことに。
新人と顔合わせをした後、ライはその場にいなかったレンを探した。
「あ、お疲れ様です。」
「ここにいたのか。」
レンは神機保管庫にいた。そして彼の前にあるのは“リンドウ”の神機だった。
「新人の紹介に君がいなかったから探したよ。」
「あ、今日だったんですね。すみません。すっかり忘れてました。」
「医療班所属とはいえ新型神機使いなんだから顔合わせはしといた方がいいよ。」
「……そうですね。気をつけます。」
「小言はここまでにしてようこそ極東支部へ。」
そう言って飲み物をレンに差し出すライ。
「ありがとうございます。あ、これ『初恋ジュース』ですね。」
初恋ジュースとはサカキが構想した甘いような酸っぱいような苦いようなわけのわからない味のする清涼飲料水だ。飲んだ者は何とも言えない味に地に突っ伏したとか。因みにソーマはすでに被害者である。
「美味しいですね!!」
「声高にそう言えるのは君だけだろうね。」
「それでリンドウさんの神機の前で何をしていたんだ?」
「いえ、特には何も。リンドウさんとは前にお世話になったことがありまして。少しの間ですが一緒に戦ったことがあるんです。」
「久しぶりに会えると思ったのですが行方不明になっていたとは…」
「リンドウさんも酷いですね。皆を置いてどこか行っちゃうなんて…」
「皆心配してるのに…」
「そう言うけど笑ってるぞ。」
「え?」
心配するような怒ってるような呆れるような声を上げるレンに対しライは真実を伝える。
レンは言葉ではリンドウを責めてはいるがその表情は呆れるように笑っていた。
「リンドウさんの性格を理解してるから笑ってるんだろ?」
「それにリンドウさんらしいだろ。フラフラしてるのは。」
「……そうですね。」
苦笑しながらそう答えるレン。そして再びリンドウの神機を見上げる。
ふとレンの腕が動いた。
手はリンドウの神機に向かっている。
「……レン!!」
ライはその伸びた手を掴んだ。
……その瞬間、“感応現象”が発生した。
その記憶は何故か“リンドウ”が出てきた。
あの日、リンドウと第1部隊が隔離したあの時…
プリティヴィ・マータを倒して一服していたがその後アリサの両親の仇であるディアウス・ピターが割れたステンドグラスの窓から侵入。第2ラウンドの開始。
その際に腕輪が壊れ神機を食われた。
絶体絶命の状況。だがそこに“救世主”が現れる。
“特異点“という救世主が…
救世主によりディアウス・ピターは撤退。リンドウは気を失った。
映像はかわり次に映ったのは雪と木造の廃屋だった。
そこの一室でリンドウは救世主に看病されていた。
目を覚ますリンドウに驚いた救世主は離れたがリンドウは救世主に”言葉“を教えた。
”お腹空いた“と言う言葉を…
同時に再びリンドウは気を失った。
「どうしました?」
レンの声が聞こえた。どうやら現実に戻ったらしい。
「ゴメン。なんでもない。」
「用事を思い出した。行くね。」
「はい。お気をつけて。」
レンに一言言うとライは一目散に走り出した。
「……あれが感応現象か…凄いな。」
ライの足音が聞こえなくなるとレンは静かに呟く。
そして初恋ジュースを飲み干しまた呟いた。
”人間の舌は肥えてるな“…と…
神機保管庫を出たライは支部長室にきた。
「サカキ博士。至急話したいことが…」
「君か。いいよ入ってきて。」
サカキから許可を得て支部長室に入るライ。支部長室にはサカキの他にツバキもいた。
「君が慌てているのは珍しいね。どうしたんだい?」
「えっと…」
「私がいたら話しづらいことか?なら席を外すが?」
「いえ、大丈夫です。」
部屋を出ようとするツバキを抑え、ライは2人に報告した。
「リンドウさんが生きている可能性があります。」