ライにとって単独での任務は然程珍しいことではない。
そして今回も単独で“大物”を狩る為にエイジスに赴いたライ。
しかしエイジスにはアラガミどころかライ以外誰もいなかった。
「リンドウさんの神機…忘れてきたな…」
静寂が包む中、そんなことを呟くライだが当然ながら誰からの返事も返って来ない。
ライ以外誰もいないエイジスに立ち尽くすまま刻々と時が進む。
しかし長らく続いた静寂の刻は小さな音により終わりを告げた。
「……来たか。」
小さな音は地鳴りのようにまるでこちらに近づいているように地鳴りの音が徐々に徐々に大きくなっていく。
この地鳴りの正体を知っているのかライは自然と神機を握る力が強くなる。
そして…地鳴りの正体が姿を現す。
黒い皮膚の
また片腕には籠手のようなものを身に付けている。その籠手には女神のようなものが彫られている。
「必ず来ると思っていた。ここが“貴方”が目指していた場所で終着点だったから。」
ライは現れた漆黒の怪物に語りかける。返事が返ってくるはずがない。
それでもライは言葉を続ける。
「今の貴方に“意識”があるかは知らない。でも
淡々と静かに語るライ。神機をいつでも振るえるように構えた。
そして次の一言が1人と1匹による大戦争の開戦の幕開けとなった。
「……今、楽にさせます。
この言葉を皮切りに
「見つかった?」
「いえ、部屋にもいませんでした。」
場所はかわってアナグラ。エントランスでアリサとコウタは何やら話し込んでいた。
「お前ら、どうした。」
「あ、ソーマ。リーダー知らない?」
「一緒に朝食を取ろうと思ったのですが部屋に居なくて…」
「アイツが?見てないな。」
「そうですか。こんな朝早くにどこに行ったのでしょう?」
「おはよう。こんなところに集まってどうしたの?」
「サクヤさん…リーダーを見かけませんでしたか?」
「リーダー?見てないけど。どうかしたの?」
ソーマとサクヤも合流してライ以外の第1部隊が集結した。
「朝早くからいないんだと。」
「居住区も一通り探したけどいなかったよ。というかリーダーは髪を見たらすぐ分かるだろうし。」
「そう…昨日はいたからいなくなったのは今日なのよね。私も昨日は話したし。」
「アイツだってガキじゃねーんだ。放っといても勝手に戻ってくるだろ。」
「確かに…そうですけど…」
「あの…」
各々話し込んでいる中、その第1部隊に話しかける声があった。
「アネット?それにフェデリコ。」
「どうしたの?」
「あ、実は先輩から皆さんに伝言を預かってまして…」
「伝言?」
「リーダーに会ったんですか?」
「いえ、私たちのターミナルに先輩からメールが届いてまして。内容が皆さんに対しての伝言でして…」
「その伝言というのは…」
「はい。私の方は一言だけでしたけど“来るな”って…」
「俺の方は”大丈夫だから“でした。」
「来るな?大丈夫だから?」
アネットたちから聞いたライからの伝言に首を傾げる第1部隊。
意味としては自分は大丈夫だから増援には来るなということだろう。
「伝言は伝えましたから俺たちは行きますね。」
「ええ。ありがとう。」
「来るな?大丈夫だから?どういう意味だ?」
「言葉通りの意味ならアイツは俺たちに来て欲しくないということだろ。」
「そうね。でもわざわざ伝言を残すなんて…今までこんなことは一度もなかったのに…」
「とりあえずヒバリさんのところに行きましょう。オペレーターならリーダーの居場所が分かるはずです。」
「あ、皆さん。」
「ヒバリさん。リーダーがどこにいるか知らない?」
「ライさんですか?任務の受付はされてませんが少しお待ち下さい。」
ライの腕輪の位置情報を調べ始めるヒバリだがライの居場所よりも別の情報を伝える。
「エイジスに新種のアラガミの反応があります。恐らく例の黒いハンニバルかと。」
「そう。リーダーを見つけたら至急向かうわ。」
「え…ちょっと待って…これって…」
「どうかした?」
ヒバリの反応がコウタが問うとヒバリは唖然としながらも言った。
「えっと…例のハンニバルと第1部隊隊長…つまりライさんが単独で交戦中です。」
「え…!?」
「リーダーが…1人で…?」
「……あの大馬鹿野郎…!!」
騒然とするコウタとアリサ、怒気を込めるソーマ。
「行くぞ!!」
「待て!!まだ動くな。」
ソーマの一言で第1部隊の面々が動こうとするもそれを制止する声が上がる。
「ツバキ教官!!」
「何故ですか!?こうしているうちにもリーダーが…!!」
「分かっている。だがそれでもだ。まだ動くな。」
「だったら早くしろ。話があるんだろ。」
「ああ。とはいえ私は“奴”に利用されたのだがな。」
「利用?」
「例の黒いハンニバルは恐らくアラガミ化したリンドウだ。それにいち早く気づいたからこそ奴は1人で向かった。」
「そんな…」
「どうして…」
「サクヤ!!お前はリンドウを撃てるか?」
「それは…」
「お前達もだ。お前達はリンドウと戦う覚悟はあるのか?」
ツバキの問いに誰も答えられなかった。
リンドウの腕輪が壊れて日数が経っている。アラガミ化してる可能性も捜索が再開された時にはその可能性もあった。
しかしアナグラのゴットイーター達はライを除いて誰もリンドウがアラガミ化してないと信じていた。もしくは分かっていながら目を背けた。
「私は奴からお前達の足止めを頼まれた。だがそれでも行くなら止めはしない。但し今ここで覚悟を決めろ。リンドウと戦う覚悟をな。」
「俺たちの仕事は1人で抱え込みがちなアホなリーダーを支えることだ。これまでもこれからも。」
「ほう。お前がそんなことを言うとはな。」
最初に覚悟を決めたのはソーマだった。次に口を開いたのはコウタだった。
「うん。俺も覚悟できました。まだ頭の中で整理できてないけど…リーダー1人に辛い思いはさせられないから。」
「私…楽観的かもしれないけどなんとかなると思っています。リーダーが何も考えもなしにこんなことするとは思えません。」
「そうか。」
「私は…」
「サクヤ、お前は残れ。これは命令だ。……2度も苦しい思いをする必要はない。」
「いえ、私も行きます。見届ける為に…」
「そうか。なら、エイジスで取っ組みあってる馬鹿達に伝言を頼む。」
「2人とも無事に帰還した場合のみこの件は不問とする。以上だ。」
「あの…止めなくてよかったんですか?」
「頼まれたとはいえ奴もアイツらを止められるとは思ってない。あくまで時間稼ぎがなればよかったんだよ。」
エイジスへと向かった第1部隊の面々を見送ると近くで聞いていたヒバリがツバキに問うがツバキはそう返す。
「まったく迷惑をかけるのは前隊長も現隊長も同じか…第1部隊隊長の悪しき伝統だな。」
呆れた口ぶりでそう言うツバキだがその口許は僅かながら笑みを浮かべていた。