剣と魔法のゆるーい学園生活・・・に、なるといいなぁ・・・   作:rikka

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17.過去

 むかし、あるまちに、きぞくのおとこのこがいました。

 おとこのこは、きぞくのちちおやや、そのゆうじんたちからは、とてもかわったこだといわれながらそだちます。

 おとうさんのように、へいみんをいじめたりしません。

 おにいちゃんやおとうとのように、まちのひとをなぐったり、おどしたりしません。

 

 おとこのは、いつもおもいます。

 どうしてみんな、じぶんたちをこわいめでみるんだろう。

 どうしてみんな、なかよくできないんだろう。

 

 おとこのこは、かんがえて、かんがえて、そしておもいつきました。

 おとうさんが、まちのひとたちをいじめないように、

 まちのひとが、じぶんたち『きぞく』をこわがらないように、

 

 

 

 

 

 ――じぶんで、みんながなかよくできる『りそうのまち』をつくろう。と、

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「あん……っのクソガキ共め! 何がついて来いだ! 戦闘の真っただ中に連れてきやがって!」

 

 夜の森を、まだ日が明るいせいかいくらか余裕を持って商人たちは歩いている。すでに街の中の高い塔は目に入るから迷うことはない。

 

「おい、急かすな! こっちは足やられてんだぞ!」

「うるせぇ! いいから急げ! 早く依頼主に会わねぇと……」

 

 さすがに街が近いせいか、地面の傾斜はほとんどなく、緩やかだ。おかげで足を怪我した者もテーピングでどうにか歩けている。

 

「あのガキ共……積み荷、見たかな」

「どちらにせよ、急げ。先に依頼人に会って、回収してもらわにゃ……」

 

 商人達は、早歩きくらいの速度でどんどん進んでいく。

 もちろんだが、商人は戦闘の経験などない。

 だから気付かない。

 

 そっと、背後を辿ってくる気配に。

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「はい、これでクエスト完了手続きは終了です。お疲れ様でした。……初回から、とんだ大冒険になってしまいましたね」

 

 ゲイリー達が大量のストリクスの遺体は処理している間、パルフェは一足先に様子を見に来たアドミニ職員と共にエリア15へ帰還。レティから事務手続きについて教えてもらっていた。

 エリーは、どうやらゲイリーが頼みごとをしていたらしく、後で作業手順を教える事になっている。

 

「いえ、私は何もしてませんし……ゲイリー団長とラヴィさんの二人が全部片付けてくれて……」

 

 実質、馬に乗って後を付いて回っただけだったと、パルフェは思っている。

 そのぼやきに、レティは苦笑し、

 

「それは仕方ありません。まだ武器講習も受けていない学生が戦闘なんて無理です。今回も、あくまで捜索任務と言う事で……正直、ゲイリーさんとラヴィさんがいなければ、万が一を考えて受けさせるつもりはありませんでした」

 

 パルフェは、その言葉に改めて驚いた。危ない仕事を受けさせられた――という事にではない。

 このレティ=ハーシェルという女性の、ゲイリーとラヴィに対する信頼の厚さにだ。

 

「あの……団長ってどういう人なんですか? 一緒にいればいるほど、あの人が分からなくなって……」

 

 パルフェの質問に、レティは『あぁ、やっぱり……』という顔で、

 

「あの人の事は、私も詳しくは……ゲイリーさんはご自身の事をあまり喋りませんし」

「そう、ですか」

「ひょっとしたら、エマさんなら何か知っているかもしれません。ラヴィさんと同じかそれ以上にゲイリーさんに近い人ですし」

 

 パルフェは、あの戦闘の中で槍を構えて、多くの学生を率いて戦い続けていた女性の姿を思い出す。

 今まで見た事はなかったが、『良い貴族』というのはこういう存在なんだと、なんとなくそう思った女性。

 

「ただ、エマさんもゲイリーさんと同じで余り自分の事を離さない人ですから、聞き出すのは難しいでしょうが」

 

 レティはそう言うが、そもそもパルフェに彼女と――貴族と接触する勇気はない。

 

「……団長は、色んな意味で謎ですよね」

「何らかの形でゲイリーさんと一緒にお仕事をされた方は大抵、そうおっしゃりますね」

 

 でも、頼りにはなるでしょう? とほほ笑むレティに、パルフェは頷く。

 正直、ぐーたらと紹介されていたゲイリーはもちろん、ラヴィも彼女の想像をはるかに超えて強かった。

 

「まぁ、ゲイリーさんの活躍を見た人が勧誘に行って、大抵諦めるんですけどね」

「諦める?」

「少し前に、ゲイリーさんをクランに勧誘しようとした人達が言うには、部屋のベッドにしがみついて『誰が好き好んで忙しい現場に乗り込むか! 俺は限界まで働かん!!』ってジタバタもがいていたらしくて――」

「…………」

「その話を聞いたノア教師が引きずり出すために寮に乗り込んで乱闘騒ぎになったとか」

 

 ノアという教師をパルフェは知らない。だが、滅茶苦茶苦労したんだろうなぁという事だけはなんとなく理解できた。

 

「……団長、『しばらくは断固として働かない』って何度も繰り返しているんですけど……」

「ぶん殴ってここに引っ張ってきてください。今度こそ、私が直々にお説教してあげます」

「は、はぁ……」

 

 満面の笑顔のまま断言するレティ。

 引き攣った笑顔で硬直するパルフェ。

 

「多分、ゲイリーさんを知る教師や警備員なら皆同じ事言うと思いますよ?」

「……ますますあの人の事が分かりません」

「理解しようとするのが間違いですよ、あの人に関しては」

 

 その言葉になんとなく納得しながら、パルフェはもう一つの用事を思い出した。

 

「あ、そうだ。アドミニで色々教わるついでに、手紙を団長から預かっているんですけど」

「……手紙? あの面倒くさがりのゲイリーさんが?」

 

 本当に信頼しているのか疑いたくなる台詞を吐きながら、レティは首を傾げる。

 

「えぇ、こちらです。くれぐれもよろしくお願いしますという事だったんですが……」

 

 パルフェは鞄から、ご丁寧に蝋封までされた封筒を手渡す。

 表には、『15エリアアドミニ職員、シェリダン様へ』と書かれており、レティは舌打ちして「あの野郎……」と呟く。

 そのせいか少々乱暴に、胸ポケットから取り出したペーパーナイフで開封し、中身を取り出し目を通す。

 

「…………あの人は本当に…………」

 

 そして、目を通し終わってから、突然深いため息を吐くレティ。

 その後、額を鷲掴みにするように、中指と親指でこめかみをマッサージしながら呟く。

 

「普段からこれくらい真面目だったら、今頃一大派閥の長にくらいなってたでしょうに……」

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 本来、例えそれがこの街の住人や学生であっても、外から中に入ろうとする者は、門外広場から――正確にはゲート前でチェックを受けてからでないと入れない。

 だが、三人の商人達はノーチェックだった。なにせ、ゲートを通っていないのだから。

 

 

―― 御苦労だった。

 

 

 一人の……少なくとも学生ではない、大人が手引きし、商人たちは、本来ならばチェックの済んだ荷物の搬入ロから街の中へと入っていた。

 

 

―― いえ、それよりも荷物の方ですが……

 

―― あぁ、幸い学生たちは君たちの救出を優先したようだ。中見は見ていない。

 

―― そいつは……珍しい学生ですね。入ったばかりの子ですか?

 

 

 リーダー格である腕を怪我していた商人は、直接手当てをしてくれた藍色の髪の女と、赤みがかった髪を束ねていた女を思い出した。

 特に藍色の髪……パルフェと呼ばれていた少女は、あまり、人の悪意に慣れていない様子だった。

 

 落ちついた今にして思うと、あの場にいた三人の女は全員顔は良かった。

 一人は恐ろしく無愛想だったが、残る二人は商人の好みだ。藍色の方は少し貧相だったが、赤毛の女は特に。

 痛む腕を押さえながら、商人は脳裏をよぎる下卑た妄想は振り払う。

 

 

―― あぁ、まぁな。……念のために口封じしておくか?

 

 

 教師とはとても思えない言葉を、なんという事もないと軽く口にする教師に商人達は笑う。

 

 

―― いえ、迂闊に不審な事をすると目を付ける者も出てくるでしょう。

 

 

―― そうか……まぁ、出来たばかりのクランだという話も聞いている。問題はないか……。

 

 

 教師は搬入口から、倉庫へと続く扉を開ける。そこには、簡単な休憩所と、離れた所には外の喫煙所に通じる扉がある。

 様々な品を保管しておくこの倉庫には、臭いや香りに弱い物もあるため、基本的に禁煙である。

 扉を開けて、休憩室に入るように教師は促す

 

 

―― 少し休んでおけ。口の堅いヒーラーを連れてくる。

 

 

 そう言って、その教師は立ち去って行った。

 商人たちは、ようやく一息つけると、足を怪我した者は椅子に、もう一人は床に座り込む。

 残る一人――身体を強く打った男は、懐から刻み煙草の袋を取り出し、薄い紙の上に二つまみほど乗せて、巻きながら喫煙室へと向かっていく。

 

 

―― しかし……男の方と赤毛の女、どこかで見た覚えがあるんだが……

 

 

 痛む腕と逆の腕で煙草を巻きながら、喫煙室へと男は行く。

 安心したら、無性に一服吸いたくなったのだ。

 

 

―― ちくしょう、ここまで来ているんだが……。特に女の方は――

 

 

 中途半端に思いだせない事にイラつきながら、男はやや乱暴に扉を開ける。

 

 

―― !? なっ!!?

 

 

 次の瞬間、開いた扉の隙間から凄まじい勢いで腕が伸びてきて、商人の腕を掴み、向こう側へと引き摺りこむ。

 商人は、他の仲間に異常を知らせようとするが、その前に口を手で塞がれてしまう。

 

 引き摺りこまれ、地面に背中を押し付けられた商人の目にまず入ったのは、細い腕。本当にこんな力が出るのかという細い腕で、口ごと自分の体が押さえつけられている。

 そして、もう片方の手には、光る刃。まるで買ったばかりのようなナイフ。

 それを握りしめているのが、自分たちを探しに来た学生達の一人、赤毛の女だと――そして、この少女が何者だったのか。それに気付いたのは……

 

 赤毛の少女が、森の中で見せた陽気な笑顔からは想像の出来ない、表情の消えた瞳のまま、ナイフを振りおろす瞬間だった。

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 卑怯者の村。

 少女は、自身が生まれ育った街をそう感じていた。

 

 元々は、干ばつが起こりやすい貧しい村だった。

 

 それが、いつの間にか少しは豊かな村へと変貌した。多くの行商人が、この村を通るようになってからだ。

 これまで全く通らなかった行商人や旅人が、この街でちょっとした食糧や、作った小道具を相場より高く買っていってくれる。

 なぜ、突然?

 簡単な事である。

 

 他の、往来に便利な村を通った行商が、なぜか(・・・)盗賊に襲われ、死んだり行方知れずになっていくからだ。

 

 襲ったのは、その村の人間。

 元々は、干ばつで村人のほとんどが飢え死にしそうになった時に、行商人を襲ったのが始まり。

 自分達の仕業だとバレないように、体力の残った者で離れた場所で襲った。

 商隊の人間を殺し、食べ物や家畜を奪い、持ちかえる。当面は過ごせるし、その間に頑張って村を再建する。

 だから、一度だけのハズだった。だが、結局その一度で我慢出来なかった。

 

 蓄えがない事を理由に、言い訳に、もう一度、もう一度だけと襲撃を繰り返した。バレないように、遠くの村を襲い、商隊の馬車の痕跡を見つければ後を追って……。

 

 食糧、苗、物資、家畜、金。それらを手に入れ、取り戻した余力で今度こそ畑を耕し始める――ハズだった。

 

 だが、この頃には、他の道が危険だと感じた行商人達がここを通過するようになっていた。村で作った靴や鞄、袋などが想像以上のお金になった村人は、耕作から手芸に移行し――そしてほどなく、廃れ始めた。

 

 当然だ、変わり映えのしない物が、長く売れ続けるなんてめったにない。

 徐々に金は減る。

 

 そんな時、村の人間は耳にする。

 近くの村には、行商人が通りかかるおかげで潤っていると。

 無論、村の人間が頑張って作った物を、キチンとした取引をしているだけの話だ。

 

 だが、妬みの感情はすぐに燃え広がる。

 

 

―― うちに来ていた連中なのに。

 

 

―― どうして向こうに……。

 

 

―― あの村がなければ……。

 

 

 そして、その村は『選択』した。

 努力の方向を、誤った向きに。

 

 綿密に計画した商隊への襲撃、邪魔な村への襲撃・放火・噂の流布、疑われないようにたまに起こす、自分達の村への自作自演の襲撃。

 徐々に行商人は、『比較的』安全なその村へと足を戻していく。

 だが、このままでは、いずれまだ廃れる。村人は経験で知っていた。

 

 金を使って好きな物を買って生活する贅沢に慣れきった村人は、それを失う事を最も恐れた。

 

 

―― なにか、良い方法はないか? 作物はリスクが高すぎる。

 

 

―― 簡単に育って、労力に見合う物って何がある? 普通の作物じゃあこの土地は……

 

 

―― …………あのさ、前に商人から耳にしたんだけど、近くの森にちょくちょく生えてる雑草。……これこれ、

 

 

 

 

 

 

 

―― この植物、育てて乾燥させたら、少ない量で高く売れるって……

 

 

 

 

 

 

 

 それから数年、村は大変豊かになりました。

 適度に周辺の村や行商人をこっそり襲わせるために、子供達にはこっそりと襲うための方法は教えていきました。

 ここを訪れる行商人も増え、その中には、ここでした手に入らない『高いお薬』を目当てに来る商隊も来るようになりました。

 子供たちは、笑顔で殺し方を覚え、育ち、そして『村』や『行商』をたまに襲いながら、大切な『畑』を守りながら、その村で一生を終えるのです。

 

 それが、少女の育った村。

 少女が嫌悪し、逃げ出した村なのです。

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 エリーは、迷わずナイフを振り下ろす。

 三人の商人達が何者か、よく知っていた。自分が知る時よりも老けていたが、自分の村に『仕入れ』に来ていた連中だったから。

 

 こういう『商人もどき』共の性根は良く知っている。ここで絶たなければ、ジワジワと自分達の領域に浸食し、腐らせていくのだ。

 殺す。そう決めたら迷ってはいけない。

 昔からそう教わって来た。忌々しい父から、憎い母から、兄から姉からお隣からお向かいから親戚からからからから!

 

 どこに刃を突き立てれば、声を出さずに殺せるかは良く知っている。

 エリーはそこ目掛けて刃を突き立て――

 

「そこまでにしとけ」

 

 その手を掴まれた。

 

「!!?」

 

 エリーは驚愕した。気配なんて一切感じなかったのに、気が付けば自分の後ろに誰か立っていたから。

 そして、この声は――

 

「感謝しろよこの野郎、パルフェには適当に誤魔化してきたから……あぁ、畜生。今日はもう普段の一月分は働いてんだぞ? あぁ畜生、もう畜生、ミス……名前なんだっけ? まぁ、受付嬢かエマに酒でも奢ってもらわんと割に合わねぇ」

 

「……せん……ぱい……」

 

 

 ゲイリーが、普段と全く変わらない様子で、そこに立っていた。

 

 

 

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