剣と魔法のゆるーい学園生活・・・に、なるといいなぁ・・・   作:rikka

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22.人脈とは、諸刃の刃の様な物である

 この街の学生は、最低でも一つ、武器に関する授業を受ける必要がある。

 これは生産系学科専攻だろうと魔術系学科専攻だろうと同じである。

 

「エリーちゃんはどうする?」

「アタシはまだ決めてないなー。そういうパルフェは?」

 

 つまり、この二人も武装に関して学ばなければならないのだ。

 

「私、武器とかよくわかんなくて……」

 

 当たり前の話である。普通の農村で育った、自警団でもない少女が武器を知るはずがない。

 

(……どうしたものかな)

 

 それに対して、エリーは武器を良く知っている。

 暗闇に紛れて行商を――正確には、その護衛を、襲撃を悟られる前に殺す。気付かれた時には、撤退に邪魔な相手の牽制。それがエリーの仕事だった。

 

 当然、武器の特性は知る限り把握してなければならなかったし、ある程度の物ならば扱う事も出来る。

 状況によっては、手ぶらで商隊に忍び込んで、中から崩す事もあったからだ。

 

「後衛なら、力がないと弓はつらいから……クロスボウは? ちょっと高いけど、機構式の……ほら、クランクがついてて、それを回して弦を引っ張る奴。それなら――あぁ、でもそれだと武器自体がそもそも重くなっちゃうか」

 

 エリー自身は、特に武器に拘りはない。それこそ、素手での殺し方だって心得ている。

 

「んーーー。とりあえず長物は?」

「ナガモノ?」

 

 イメージ出来なかったのか、聞き返してきたパルフェにエリーは、何かを両手で握りしめて振り下ろすジェスチャーをする。

 

「言葉通り、長い奴だよ。槍とかを思い浮かべればいいかな?」

 

 長すぎると扱いづらいが、適度な長さがあれば中々に強い武器。

 初めて武器を扱うような人でも、振り回されるだけで脅威になるものだ。

 

「メイスみたいな殴る系の武器なら、特に先端が重いから振りまわすだけでかなり戦えると思うけど……どうかな?」

「うーん……」

 

 それでもしっくり来ないのか、パルフェは口元を手で覆ったまま、

 

「やっぱり、私が武器を振りまわしている姿っていうのが思い浮かばなくて……」

「ま、そりゃそうだよねぇ」

「うん……」

 

 実の所エリーは、全ての生徒に武器の扱いを教えるのはどうかと思っていた。

 実際に武器を扱っていたから分かる。

 人は、一度武器を使って自分ではない誰か――あるいは何かを傷つける事を覚えると、いざという時の選択肢に入ってしまう。誰かを、害することを。

 それ自体が悪い事だとは言わない。だが、最悪の時に最悪の選択をする可能性が生まれてしまうのも事実だ。

 

(生産とか、あたしみたいに商学とかを専攻している学生なら武器とかいらないと思うけど……)

 

 エリーは、正直この武装学科が必須履修に入っているのが不思議でならない。

 

「――なにか、理由があるのかな?」

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 この街はエリアで区分けされているが、そのどのエリアにも必ずある特区がある。

 工房特区と商業特区。名前の通り、工房が置いてある区画と、内外問わず様々な商人や学生が店を開く区画である。

 基本的に、生産関連の学校が多い所は工房特区が広く、商学科や調合学科が多いエリアは商業特区が広く取られているのだ。

 

「で、ウチのエリアはどちらも普通。まぁ、特徴がないのが特徴だからしょうがないんだがな」

 

 その商業特区を、合流したゲイリー達4人は歩いている。

 武器はともかく、クエスト用の装備や旅装くらいは用意しておかないとこれから困るので、それらを揃えに来たのだ。

 

「まぁ、要するに身体にきつ過ぎず、そして丈夫な衣類を選べばいい。パルフェ、予算は大丈夫だな?」

「はい、ラヴィさんから聞いた相場を元に十分以上確保しています。えぇと……領収書をもらっておけば、アドミニから一部返金があるんですよね?」

「肯定。ただし、審査はあるから、商品の明細も一緒にもらうのを忘れない様に」

 

 後々パルフェには、こういった装備やアイテムの補充やアドミニとのやり取りを任せるつもりである。

 その実習として、今回の買い物はちょうど良かったと言える。

 

「エリーも一応覚えておいてくれ。補佐がいると何かと助かるだろ。それに、お前としてもアドミニと繋がりを持っておくのは悪くないだろ」

 

 店を持つようになると、どのような店にせよ口コミという力は馬鹿に出来ない。そういう時に、多くの学生と顔を合わせるアドミニ職員の力は馬鹿に出来ない。なにより、仲の良い職員がいれば、開店、運営時にも力になってくれるものだ。

 

「そうだねー。レティさん以外にも職員さんとは知り合っておきたいし……でも、信頼できる人っているの?」

「そういう質問が出て来た辺り、お前さん着実にこの街に染まりつつあるな」

 

 それが良い事なのか悪い事なのか。少し悩みながら、ゲイリーはため息を吐く。

 

「15エリアのいい所は、真っ当な人間が多い所だ。正直、お前達は引っ張ってきて良かったと思うよ」

「肯定。変な人は多いけど、悪い人は少ない」

「「…………あーーーーーーー」」

 

 

「……おい待てお前ら。揃ってなぜ俺を見る。――ラヴィも」

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 古今東西、暗黙のルールと言う物がある。

 例えば、お偉いさんには逆らうな。物乞いに金を渡すな。笑顔で美味い話を持ってくる奴は疑え。友達である事を強調して金を借りようとする奴にはドロップキックを噛ませ等々。

 そう言った中でも、恐らくはほとんどの人間――正確には、男性陣が賛同してくれるであろうルールが一つある。

 

 つまり――女性の買い物は長くなるが、邪魔してはならない。というルールだ。

 

(まぁ、買い物が長いって事は商品を良く見るってことだから、一概に悪い事ばかりじゃねーけどな)

 

 それに、全ての女性が当てはまる訳でもない。例えばエマ。あの女はそもそも私物を買うと言う事が少ない。買う時には具体的に何を買うか、常に決めているタイプだ。時間をかけて選ぶ物があるとすれば、酒と煙草くらいだろう。

 

(とはいえ、今日の放課後はこれで確実に潰れるな)

 

 商業特区、その商店街に一定間隔で設置されているベンチに腰をかけて、ゲイリーは少し背を伸ばす。

 ラヴィ達三人は、今頃旅装束の専門店で物色中だろう。先ほど、長旅用のマントを選んでいる姿がチラッと見えた。

 

「……ラヴィもやっぱり女の子、か」

 

 いつもは料理――というか美味しい食事関係の事以外には興味を見せない少女だが、たまにお洒落に気を使う時もある。

 ゲイリーの感覚では、パルフェ達と会ってからそういった傾向が強くなっている気がする。

 

(あれか。他の人間とも関わるようになって、少し意識に変化が出たのか)

 

 それならそれで、悪くはない。パルフェも、エリーも人格面で今の所文句はない。

 エリーはまだ色々と隠しているようだが、例の事件以降、自意識過剰でなければ懐かれているという自信はあった。一定の信頼関係は構築できている――はずだ。

 

 なんとなく彼女達が入っていった店に目を向けるゲイリー。奥の方に、今度は普通に旅向けの衣類を選んでいる三人が見えた。エリーが、ショートパンツをいくつか触って生地を確かめているようだ。

 

「へぇ、なるほど。彼女達が、君が作ったというクランの仲間なのかい?」

「…………?」

 

 気が付いたら、ゲイリーの隣に誰かが腰をかけていた。金髪の優男だ。

 

「――おい」

「久しぶりだね、ゲイリー。33エリアは遠いからあまり顔を合わす事がないのは仕方ないけど、たまには手紙の一つでも寄越してほしいね。……あぁ、僕から書いた方がいいかい?」

「うるせぇよ、毒好き」

「君も好きじゃないか、毒」

「人に使うのは嫌いだよ。お前と違ってな」

 

 不機嫌そうなゲイリーの言葉に、優男は張りつけたような笑顔を更に深くする。

 

「というか、なんでお前がここにいるんだよ。この間、商売の関係で王都に行ったって話だろうが」

「その話を終えて、もう帰って来たのさ。部下からの手紙で、君がクランを作ったのを知ってね」

 

 本当に嬉しそうに、機嫌良くそう言う優男に対して、ゲイリーはますます不機嫌そうになっていく。

 

 

「まさか、君がそんな事をするとは思っていなかったよ。もう、居ても経ってもいられなくてね。それで、面倒な貴族共を適当にあしらって帰って来たのさ」

 

 普通の平民ならば驚くような発言をする優男。

 一方ゲイリーは、『コイツ貴族に暗殺されればよかったのに』と8割本気で物騒な事を考えている。

 

「……余計な事はするなよ。お前とはもうやり合いたくない」

「僕もだよ。むしろ、君とは手を取り合いと、前々から思っていた」

 

 優男はにっこりと笑う。

 

「君の事だ。可能な限り、自身が働かないですむように状況を作りたいんだろう? そのためには実績が必要だ。君自身が動かなくても、パルフェ君達を守れるように」

 

 教えていない名前を知っている。要するに、『とっくに情報は掴んでいるんだよ』というわけだ。

 

「それには後ろ盾が必要だ、そうだろう? だから、頼ってくれよゲイリー。わが友よ」

 

 俯いて視線を合わせようとしないゲイリーの視界に少しでも入ろうと、優男も少し身体を低くする。

 

「このエーベルハルトが。『グレイ・マター1の学生商人』が力を貸そうじゃないか」

 

 ゲイリーが、深いため息を吐く。

 そして、口元をもごもごと少し動かす。声には出さず、だが口にして考え込んでいるのだ。

 それから、数をゆっくり5つ数えるくらいの間を開けてから、今度はゲイリーがニッコリ笑って優男――エーベルハルトを真っ直ぐ見る。

 

 

「おととおいきやがれ♪ クソ野郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

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