剣と魔法のゆるーい学園生活・・・に、なるといいなぁ・・・ 作:rikka
りそうのまちをつくろう。
そうきめたおとこのこは、まずはちいさなことからはじめました。
いっしょにまちをつくるためには、ひと、おかね、そしてばしょがひつようです。
まずは、なかまをつくろう。
おとこのこは、まちやむらにかおをだし、へいみんとなかよくなっていきます。
おとこのこのぶかでもある、きしのひとたちもきょうりょくしてくれます。
おとこのこはたいへんよろこんで、つぎつぎになかよしをつくっていきます
でも、おとうさんやきょうだいは、それをばかなことだとかんがえています。
おとこのこに、そんなことはやめさせたい。『まっとうなきぞく』になってほしい。
そこでおとうさんは、じぶんのぶかにめいれいします。
余計な事を吹き込む奴らの首をさらせ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
深夜のクラン・ベース。同居人や先輩達が寝ている中、エリーはこっそり外に出て、裏に回って装備を整える。
闇夜に紛れやすい色の軽装に、肌を隠すロングソックスにアームガード。この街にきて真っ先に手に入れたナイフに、先日買い足した
それに加えて、同居人にも内緒で購入、あるいは自作した武器の数々――隠し弓、投げナイフ、針、つま先から刃が飛び出るように改造したブーツに、かかと部分に仕込む馬蹄型ナイフ……
(結局、もうアタシは武器がないと安心して寝られないようになっちゃってるんだよね……)
枕の下にナイフを隠すのが癖になっている事を思い出し、エリーは静かにため息をつく。
(こうした武器を知られるのが嫌だって思うのも、危ない人に見られたくないどうこうじゃなくて、生存率を高めたいってのが本音だし……)
人には知られたくない。どういう武器を持っているかを知られると言う事は、対策される可能性がその分高くなると言う事だ。それが、親しい人間でも。『いつか殺すかもしれない相手』がそれを知る可能性は、少なければ少ない程いい。
(もっとも、ゲイリー先輩はアタシの格好見ただけで全部察しそうだけど……)
なぜそう思うのか、エリー自身良く分かっていない。
ラヴィニアからは、いい人だという感じがした。それはゲイリーを一目見た時も同じだ。だが、同時に奇妙な……シンパシーとでもいう物を感じた。
(なーんでかなぁ……)
エリーから見た皆はこうだ。パルフェは好きな友達だし、ラヴィニアは非常に尊敬できる、好感の持てる先輩。
そして、ゲイリー。そう、ゲイリーこそ問題だ。怠け癖が酷くて子供の如く駄々をこねる事も多々あるが、ラヴィニアという優秀な剣士が一目置く男子学生。あのエマという貴族もだ。
自分達と同じか、低い所にいるようでその実高い位置にいる――ような気がしなくもない団長。
いや、それはどうでもいい。エリーにとって大事なのは――
(……あの時、後ろを取られた時、まったく先輩の気配を感じなかった)
闇夜に紛れて人を襲う訓練を受けているエリーは、当然人の気配を察する事にも長けている。それでも、ゲイリーの気配は全く感じなかった。
あの気配の消し方、ナイフを振りおろそうとした自分の腕を無理なく受け止める力の入れ方。全部全部、覚えがある。あれは、自分と同じ――
「聞きたいけど、さすがのアタシも聞けないなぁ……」
好奇心旺盛で、基本的に疑問に思った事は口にするようにしているエリーでも、これを口にする事には二の足を踏む。つまり――
―― 普通の人を、殺した事があるの?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
明朝。それは、外へのクエストに向かう学生たちならば出発に最適な時間帯である。
街道の少々危険なエリアに到達する頃には日が高くなっていて魔物がいる可能性は少ないし、通常の馬車の速度ならばちょうどいいタイミングで宿も取れる。ようはいいこと尽くめなのだ。
「だからあれだよ。エリー、パルフェ、お前ら二人とも馬術の授業追加で取ろうぜ。そしたら御者任せて俺荷台で寝るからさ」
「団長がぐーたらしたいだけじゃないですか!」
朝起きるのが不得意な人間は除いて、だが。
「というか、また結構いい馬車借りたね先輩。これ結構高かったんじゃ?」
割と作りのしっかりした
「馬車に金かけねーのは素人だよ。場合によってはそのままキャンプになるし、防壁として使う事もあるんだから」
「肯定。今回はちょっと遠くまで行くから、念のために」
こういう所にキチンと金を使えるようになったのも、パルフェに金を預けて無駄遣いを減らしたからだ。
ゲイリーとラヴィだけなら、間違いなく先日の稼ぎの8割は食糧と本に消えている。
クエストの準備金もギリギリだっただろう。
つまりなにが言いたいかというと――この二人、ある意味で素人以下である。
「まぁ、でも、アタシは馬術取るつもりだよ。……てゆうか、本当は馬乗れるけど、この街じゃあキチンとした免許が必要なんでしょ?」
「免許ってか単位だな。馬だけなら基礎馬術、移動のための馬車なら中級、商売なんかのために馬車使うなら、それに加えて積み荷管理者免許に初級交易学の単位が必要」
「……商業用になった途端にえらく面倒そうだね」
「そりゃ、グレイマターと外を行き来するようになるんだ。それなりに求められる物は増えるさ」
御者台から眠そうな声で答えるゲイリー。ちなみに、ゲイリーがこうして御者台にいる時点でその単位は取っていると言う事である。
「そういえば、先輩はどうして馬車扱えるようになったの? わざわざその馬術の授業を取ったって事だよね?」
「ん? あぁ……」
エリーの疑問に、ゲイリーは、
「ここに来たばかりの時に、商売を考えていたんだ」
「商売? 乗合馬車の御者?」
「ん、まぁ、そんな所だ。ここの学生向けにな」
「聞いてもいい?」
エリーがそっとゲイリーに近づく。
ラヴィと二人で、ゲイリーを挟みこむような位置に座る。パルフェも興味をもったのか、ゲイリーの後ろに。一体なんの包囲網なのだろう。
「お前ら、暑い。……まぁ、いい。要するに、この街に来て初めてクエスト受ける奴ら向けの送迎だ。あの時は、新入生がバッタバタ死んでいってたからな」
「死……っ!?」
絶句するパルフェだが、エリーは納得したように頷いている。
「あー、やっぱそんな時期があったんだ。うん、噂で滅茶苦茶物騒な街って聞いてたから……パルフェも、色々聞いてたんじゃない?」
実際、パルフェはここに来る前まで、「子供に危険な事ばかりをさせる街」とか「貴族が遊びで作った街」とか様々な話は聞かされていた。
「う、うん。酷いのだと、子供たちを魔物の餌にする街とか……これはさすがに嘘だと思ってたし、実際嘘だったけど」
「……残念、だけど肯定。当時としては、間違っていない。経験のない学生同士でのパーティーやクランで討伐戦に参加して、そのまま帰ってこない事が多々あった」
「他にも、不十分なサバイバルスキルで森に採取に出てそのまま遭難とかな。今ではクエスト受注の制度や、アドミニと教師側の連携が成長したからもう少ない。なにより……」
ゲイリーは、少しだけ口を閉じて、後を続ける。
「エマがいたからな。アイツが、そういう新入生への補助を始めたおかげで、死傷者は大幅に減ったのさ。どこにでも派遣できる医療隊編成、アドミニとの連携による熟練した学生の同行システム、出発から一定期間を過ぎて連絡のない生徒の捜索隊の編成と運用と……まぁ、色々だな」
それにエリーは「へぇ」と少し関心したため息を漏らし、パルフェは、「やっぱり凄い人だったんですね!」と目を輝かせている。
どうやら、パルフェは先日からエマにも懐いているようだ。正確には憧れだろうか。弱者に手を貸す、それも力のある美しい女の貴族ということで、彼女の目にはヒーロー、いやヒロインのように見えているのだろう。
「ねね、先輩」
エリーは、ゲイリーとの距離を詰め、少し声を押さえて彼に話しかける。
「結局、エマさんがそういう事を始めたから、先輩はその商売を止めたんだよね?」
「ん? まぁな」
「……先にそういう事を始めようとしてたのは先輩の方?」
「どうだろうな。ほぼ同時だったんじゃないか?」
ゲイリーの答えに、エリーはピンと来るものがあった。ただの勘。だけど、この奇妙な先輩なら、と。
「ねぇ、先輩」
「なんだ?」
「新入生への補助を始めたのはエマさんなんだよね?」
「あぁ」
エリーは、更に距離を詰めて、ゲイリーの耳元で囁く。
「じゃあ、それを考えたのは誰?」
「…………」
一瞬、ゲイリーが答えに詰まる。
「さぁ、エマか、アイツの周りにいるメイドか執事じゃねーのか?」
そして一拍置いてから、ゲイリーが答えるが、エリーの方を見ようとはしない。
エリーは、そのままジーッとゲイリーの横顔をニヤニヤしながら見つめ続けていると、ゲイリーは小さく舌打ちをする。
「お前は……本当にやっかいな後輩だな」
その一言で、エリーは理解した。そして、その真実に満足したのか、エリーは更ににっこりと笑みを深め、手綱を握るゲイリーに笑いかけるのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「フォーゲルの村でクエスト?」
「えぇ。僕の部下が情報を掴んでいます。どうやら、治安維持連隊からの依頼らしいです」
「……広告役というわけね」
「でしょうね」
エマが所有する、とある工房の隠し部屋。何かあった時の密談のために作られた部屋で、エマとエーベルハルトは話し合っていた。
「まぁ、正直な話、悪くないと思いますよ? 彼と王室に連なる組織の間にパイプが出来れば、旨みを狙う人間も動きを顰めるでしょう」
「でも、ますます注目される事になるわ」
「それは仕方ないでしょう。彼がクランを持った時点で、いつかはそうなると思っていました」
隠し部屋にしては豪華なソファに堂々と腰をかけたエーベルハルトは、持参してきた酒をグラスに注ぎながら、
「やる気を出せば優秀ですから。貴女もご存じでしょう?」
彼は、どこか誇らしげにそう言う。それに対してエマは、眉をひそめ、
「気に食わないわね。まるで自分の物を褒めるようなその態度」
「僕も貴女が気に食わないから、お互いでしょう?」
エマが、グイッと酒を煽るエーベルハイトを睨みつけるが、当の本人は全く気にせず彼女に向けてグラスを振って見せている。
「……まったく、勢力としては頼りになるけど個人ではやっかいな存在ね。話に聞いていた通りだわ」
「誰から聞いていたんです?」
「ゲイリーよ」
今度は、エマが僅かに勝ち誇るように言い、そしてエーベルハイトが僅かに眉をひそめる。
だが、エーベルハイトはすぐにまた笑顔になると、
「それはそれは。つまり、彼にとって、僕は非常に印象深い存在の様ですね。顔を合わせた事は一回――先日で二回目でしかないというのに。嬉しいじゃないですか」
「……この野郎」
エマの拳が握りしめられる。顎に一撃入れるつもりか、あるいは頭に落とすつもりか。
だがしかし、結局その拳が振りあげられる前に彼女の自制心がかろうじて機能する。
「んんっ! それにしても、フォーゲル村ね」
「昔は王領区の候補になる程サトウダイコンの栽培――東部ではテンサイと呼ぶそうですが……まぁ、それで稼いでいたそうですが……今では栽培は広く普及したおかげで少し裕福な村程度止まり……大陸戦争時には少し儲けたそうですが……まぁ、我々にとって旨みがある村ではないですね」
「商人にとってはね。でも、クエストを受ける学生にとっては、外との玄関口の一つ。拠点になることだってある村よ?」
「えぇ、……あまりお金を持ってない学生ばかりが使うから、落とすお金も旨みのあるクエストもさぞかし少ないでしょうね」
「……貴方ら商人がテコ入れすれば、変化が起きるのではなくて?」
エーベルハイトばかりが酒を楽しむのは不公平だとばかりに、エマも
そして煙管に口づけ、吸い、ゆっくりと煙を吐きだす。
その一連の動作を待って、エーベルハイトは口を開く。
「テコ入れにもお金がかかるんですよ。見込みのある村に手を出して利権を確保するのは、確かに我々商人の得意分野ですが、どこでもそうなるわけじゃあないんですよ」
男にも女にも見える、どこか妙な色気を感じさせる顔に笑顔の仮面を張りつけた『商人』は、書類を取り出し、机の上に広げる。ゲイリー達が受けたクエストの詳細と、そのクエストがどのような経緯でこの街が引き受けたかの書類だ。
「ま、それはさておき……少なくとも怪しい面はほとんどありませんでした。強いて言うなら、なぜ我が友のクランが選ばれたかですが」
「それはこっちで調べた――というより、本人が私に報告してくれたわ。レティ=ハーシェルがゴリ押したのよ」
「あぁ……ゲイリーと妙に絡む事の多いあの牝牛ですか」
「……なんでちょっと棘があるのよ」
笑顔のまま毒を吐くエーベルハイトに、エマが呆れた口調でそう言う。
一方のエーベルハイトは、笑顔の仮面を固く被ったまま、
「いえ、ああいう自分の顔と身体の評価を知った上で武器にしている女を見ると、爪の間に一本一本針を撃ち込んでやりたくなるんですよ」
「商人らしくない発言どうこうの前に、貴方ちょっと過激過ぎない?」
割と真面目な話で集まった二人だが、こうもちょくちょく脱線するのはどうしてなのか。
今度はエーベルハイトが咳払いをしてお茶を濁す。
「まぁ、ともかく。彼女は自身で動いたみたいよ。ゲイリーの周辺が慌ただしいから、牽制する目的でね」
「……色々と気に入りませんが、それならばゲイリー達の方は今回は大丈夫そうですね」
「えぇ、だから私達は目の前の相手に対処出来る」
一応こちらの書類には目を通しておいてください。と、エーベルハイトが持ってきた紙の束を、エマは軽く机の上で整えながら、ようやく本題に入る。
「ノア=フィメルゲイル」
エマの呟きに、エーベルハイトは頷く。
「僕も調べてきました。フォメルゲイル家……元は東部の下級貴族ですね。それなりに力のある上級貴族から、荘園の管理を任せられていた家でしたが……その領地で疫病が流行、多くの領民という貴族の私財を失ってしまったという責任を理不尽に取らされ家は断絶」
下級貴族ならば、よくある話だ。
大陸戦争では多くの下級貴族が、現場指揮官として投入されて死んでいったが、その前から下級貴族は切り捨てられるトカゲの尻尾だった。
「本人は家の再興のために大陸戦争にも参戦したそうですが詳細は不明。その後、完成したばかりのこの街に、教師として入って来たとなっています」
「……教師としての評判は悪くないと思うし、私もそう思っていたのだけど、そっちは?」
「えぇ、この15エリアどころか、グレイ・マター全体で見ても良い教師だと思いますよ?」
「その良い教師が、どうしてゲイリーに妙なクエストを……」
エマは、エーベルハイトが持ってきた資料を一枚一枚読みこむ。
「昨日までの善人が、夜が明けた途端に裏切ることがあるのがこの街でしょう。上になればなるほど、人と関われば関わるほど」
エーベルハイトの何をいまさら、という口調にエマは少し眉を吊り上げるが、正直その通りだと内心納得していた。ここは、いや、ここじゃなくてもそうかもしれない。
「人と頼るから裏切られる。あるいは、裏切らせてしまう。人に頼られるから裏切る。裏切ってしまう」
「……でも、ノア=フィメルゲイルはそういう枠の中にゲイリーを置こうとした」
「ふむ……」
エーベルハイトは、お気に入りなのかいつも付けている首のチョーカーをいじりながら、少し考え込む。
「ノアっていう教師が聞いた通りなら、かなり生徒想いの先生のハズだ。となると、彼の行動もひょっとしたらそこにヒントがあるかもしれない」
「――つまり?」
「うーん……」
エマとエーベルハイトは、互いに少し悩む。
「そもそも、ゲイリーとそのノアって先生はどういう関係なんだい? ただの教師とその生徒?」
エーベルハイトの質問に、エマは難しい顔で答える。
「さぁ……正直、よくは分からないわ。ただ、妙にノアはゲイリーに絡んでいたわ」
「どんな風に?」
「他の教師や私とある意味変わらないけど――働けって」
「それは……本当に変わらないね」
「でしょう?」
「うん、ただ――」
エーベルハイトは、少し頭に引っかかるものがあった。
「他に教師は、大体すぐに注意を止めるよね。以前、聞いたことがある」
「えぇ、だって、一応最低限の義務は果たしているのだもの。彼」
「でも、ノア教師は言い続けた。ある意味で、ゲイリーは特別だったわけだ」
二杯目の酒を注ぎながら、エーベルハイトは自分の考えを、自身で整理するようにゆっくりと口にしていく。
「ひょっとしたら、ノアという教師には理由があったのかもしれない。ゲイリーに関わり続ける理由が」
「そこにヒントが?」
「どうだか……でも――手探りで適当に探すよりは、効率的じゃないかな? ナッキネーヴ嬢」
二杯目の酒、おそらくラヴィくらいしか知らないだろうが、ゲイリーが特に好みとする酒を、自分と同じく彼に固執している女の目の前で味わう。
趣味が悪いのはエーベルハイト自身自覚しているが、だが同時に何とも言えない優越感をその身に感じながら、『商人』はにっこりと『貴族』に向けて笑いかける。
「……よく分からないけど、その顔を止めなさい。ボコボコにへこましたくなるわ」