剣と魔法のゆるーい学園生活・・・に、なるといいなぁ・・・   作:rikka

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27.『繋がり』

 様子の妙なノアと別れた後、ラヴィとエリーが一人の女性を連れて宿へと戻って来た。

 

「では、貴女が治安維持連隊の?」

 

 ゲイリーがそう問いかけると、そのスーツを着込んだ、だが不健康そうな美人は薄らと頬笑み、

 

「王立治安維持特別連隊、第12分隊所属、二級騎士のリスベットだ。リズと呼んでくれ」

 

 そしてクラン代表のゲイリーに手を差し伸べる。騎士――つまりは貴族出身の軍人だけあって、それだけの僅かな動作にも、育ちの良さがにじみ出ている。

 

「今回、依頼を受けたゲイリー・クラン代表のゲイリーです。感謝祭までの数日、どうかよろしくお願い致します」

 

 差し出された手を、ゲイリーは普通に握り、同じように微笑んで見せる。

 基本的に眠そうな顔か、ダルそうな顔の二つしか見せないゲイリーのその顔を、胡散臭そうな目で見る新入生コンビ。

 ゲイリー、後で二人とのミーティングを行う事を決意する。

 

「しかし……失礼ですがお一人ですか? 私はてっきり、治安維持連隊の方か、陸軍兵士の方達が、後一人か二人来ていると思ったのですが……」

「あぁ。本来、これだけの規模の村なら二、三人体制でやるのが普通なのだが……」

 

 女性騎士――リズは苦笑して、

 

「まぁ、こちらも色々あってね。残念ながら、フォーゲルを担当する騎士は私だけになってしまったのだよ。そこで、グレイ・マターから人員を借りて対応する事になってね」

 

 肩をすくめてそう言うリズに、ゲイリーは少し考え込む仕草を見せる。そして、もう一度真っ直ぐリズの顔を見て、

 

「なるほど……。では、私達は、このフォーゲルの自警団と貴女の間の調整が主な仕事になるのでしょうか?」

「それと、現場を直接見て、必要ならば手を出してほしい。この辺りは、君たちグレイ・マターの人間の方が詳しいだろう?」

「自警団側とも、かなり細部詰める必要がありますが……了解しました」

「理解が早くて助かる。それにしても――」

 

 どこか不健康な雰囲気な顔のままで、綺麗な笑みを作るリズは、本当に感心した様子を見せながら、ゲイリーの顔を覗き込む。

 

「ゲイリー君、だったね? 君、私とどこかで会った事ないかい?」

「……? さぁ? 気のせいだと思いますけど」

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「まいったな。騎士が多けりゃ仕事のほとんどは任せて俺たちは適当な仕事だけでいいと思ってたんだが……」

「団長、そんな事考えていたんですか?」

「そりゃあお前、楽できるに越したことはないだろう?」

「それはそうですけど……」

 

 本格的な仕事は明日から。その前に村の中を少しでも把握しておこうという事になり、ゲイリーはパルフェと、ラヴィはエリーと共に村を好き勝手にまわっている。

 

「それに、正直俺としては、仕事をしに来たんじゃなくて、仕事のついでに祭りを楽しみに来たんだ」

「レティさんが聞いたら書類束で頭をフルスイングをされそうな言葉ですね」

「…………誰だっけ。図書館の司書さん……いや、確かあの人は『カ』か『ケ』から始まる名前だったし……」

「受付さんですよ! アドミニの!!」

 

 パルフェが叫んでようやく思い当ったのか、ゲイリーは手をパンッと叩き合わせてしきりに頷き、

 

「なんだ受付嬢か。それならそうと言ってくれ」

「言ってますよね!? これ以上ないほどに分かりやすい伝え方のハズですよね名前って!!?」

 

 最近ではエリーという友人も一緒というのが手伝ったのかしっかりとクランに馴染んだパルフェ。

 今ではすっかり、ゲイリーに対しての遠慮も消えて、こういうやり取りが日常になっている。

 

「もう! ちゃんと覚えて上げないと、そのうちレティさん本気で愛想尽かされちゃいますよ?」

「むしろ、それくらいでちょうどいいと思うんだけどなぁ、あの受付嬢」

 

 畑へと繋がる広い道、その両脇に着々と建てられつつある屋台を眺めながら、二人は適当にブラついていた。

 

「そんな事言ってるとバチ当たりますよ? 大切にしてくれる人は大切にするべきですよ」

「まぁ、確かにお前の言うとおりなんだがなぁ……」

 

 ゲイリーは、受付嬢ことレティの顔を思い出しているのか、少し眉間に皺を寄せ、

 

「……そういや、お前は受付嬢と結構仲良かったな」

「え? あ、はい。割とよく、寮まで送ってもらったり、ベースに顔を出す前に、エリーちゃんも誘って商業区のカフェに寄ったりとか……」

「あぁ、前にエリーの奴そんな事話してたな」

 

 ゲイリーは、数日前――ラヴィが食材と格闘した末に出た試作品の山をつまみに、エリーとベースで飲んでいた時にそんな話が出た事を思い出し、その事を呟く。

 すると、隣を歩いているパルフェは怪訝そうな――あるいは少し不機嫌そうな顔で、

 

「なんだか、私よりもエリーちゃんと仲良いですよね、団長」

「ん?」

 

 ピタリと足を止めるゲイリーに一歩遅れ、パルフェも立ち止まる。そして振り返り、ゲイリーと向き合うように、

 

「同じ女の子で、年も同じで、同じ場所に住んでて接点は私が一番多いのに、団長の方がエリーちゃんの事を分かっている気がするんですよ」

「そうか?」

「そうですよ」

 

 全身から『私、納得いきません!』という雰囲気を出すパルフェ。

 それに対していつも通り気だるそうなゲイリーは、少しだけ言葉を探すように、間を置いてから口を開く。

 

「まぁ、アイツは色々と物を頼みやすいからな。それに、アイツ自身会話を楽しむタイプだから情報収集を頼む事もあるしな」

「……どうせ私は人見知りの役立たずですよ」

「あ、いや、そうじゃなくてだな」

 

 が、選択に失敗。

 そもそもこの男も、コミュニケーションが得意ではないという事を忘れてはいけない。

 ジトっとしたパルフェの視線を気まずく感じ、ゲイリーは咳払いで誤魔化す。

 

「んんっ! ま、まぁアレだ、商人志望という事でアイツには経験をもっとだな」

「そうですね。やりたい事が特に決まってない私とは違いますね」

「……。や、アイツの場合はそれが必須技能と言うか、個性というかだな」

「無個性ですからね。私」

「……い、いや、お前だって気になった事はとことん追求する所とかすっごい個性的だし魅力的だなーって俺は思うぞ? うん――」

「あ、すみません。よくしつこい女だって言われるんです」

「――お前はなんて言ってほしいんだくらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!???」

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「……なんか、先輩の声がしたような」

「大丈夫、いつもの事」

「いや、いつもの事ってそれなんかホラーですよ」

 

 ラヴィとエリーは、せっかくなので広場に来ていた。

 フォーゲルのようにある程度大きい村は、行商人や交易商が簡単な露店を開ける広場を大体用意してある。

 それでも普段は一つか二つ露店が開いていればいい方だが、今は春の感謝祭が近い。村自体に用事がなくとも、目的の道中の村で少しでも稼ぐ――あるいは掘り出し物を求めて露店を開く商人は多い。

 祭りの前後と言うのは、村人にとっても売買のチャンスなのだ。

 

「先輩は、前にここに来た事あるんですか?」

「肯定。最初のクエストが、この村周辺での警備手伝いだった」

「警備?」

「魔物が出て、防護柵が壊されたから、それを強化修繕するまでの間。結局私とゲー君で狩ったけど」

「あれ? ゲイリー先輩も来てたんですか?」

 

 エリーは、クランを組むまでゲイリーもラヴィも基本的に一匹狼だと思っていた。

 本人達がそう言っていたし、ラヴィはともかくゲイリーが誰かと仕事をしている姿を想像しづらい。

 というか、働いている姿を思いつけなかった。精々、ラヴィやレティに引きづられて嫌々仕事をする姿くらいか。

 

「ん、来たばかりの時。右も左も分からなかった時にゲー君が一緒に受けてくれた」

「………………変な所で面倒見がいいですね、あの先輩」

「肯定。昔からそう」

 

 ラヴィは、腰に差している剣の柄をポンポンッと軽く撫でる。

 

「装備を揃える時に、信頼できるお店を教えてもらったり、少し値切ってもらったり……うん、お世話になってる」

「……普段からそういう所見せれば、もっと人気が出ると思うんですけど、あの人」

「そしたら大勢と関わる事になるから嫌だってゲー君が……」

「ああ、もう言ってたんですね。トライしてたんですね」

 

 本気で働きたくない時には、それこそ定位置のソファにかじりついて駄々をこねる団長の顔を思い浮かべて、エリーは苦笑を浮かべる。

 このフォーゲルの依頼が受けるまで、クエスト関連ではラヴィやパルフェと揉めていたのを思い出していた。

 

「二人が来てくれて良かった。クエストの内容で渋る事はあるけど、キチンと仕事をするようになった」

「あ、あはは……」

 

 まるでダメな息子の将来を憂う母親みたいな事を言いだすラヴィに、どう返すべきか悩んだエリーは、とりあえず笑って誤魔化すという無難な選択をした。

 

「エーちゃんは、本当によく来てくれたと思う」

「? そうですか?」

「ゲー君と話の合う人は大事。ゲー君、あんまり人に関わろうとしないから」

「へー……。あの先輩が……」

 

 どちらかと言うと、なんだかんだで世話焼きの先輩というイメージを持っていたエリーにとって、ラヴィの言葉は少々意外だった。

 

「それに、私もエーちゃんのクラン加入は嬉しい。誘ってよかったと思ってる」

「あはは……このクランで皆がしたい事って――いや、そうじゃなくてもお金って絶対にいる物ですからね。あの街だと特に」

 

 必要とされている理由を、商人志望――つまりは金策要員である事とエリーは考えた。

 

「否定。……うん、それもあるけど……もっと単純な事」

「? なんですか?」

「エーちゃん、私よりも強い」

 

 だが、ラヴィはあっさりと、エリーの予想から外れた言葉を口にする。

 

「――そんな事ないです! アタシ、先輩みたいに魔物と戦えませんもん!」

 

 僅か、ほんの僅かに言葉に詰まるエリーだが、すぐにラヴィの言葉を明るく発した否定の言葉でうやむやにしようとする。

 が、ラヴィは首を横に振る事で更に否定した。

 

「最初に声をかけられた時から、強いと思ってた。魔物相手なら私の方が戦える。けど――」

 

 ラヴィは静かに目線を移動させる。エリーの素肌を隠すアームガード。

 ――正確には、そこに隠されているいくつかの武器に、

 

「人相手なら、エーちゃんの方が強い」

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 明るい昼間だと言うのに、分厚いカーテンで日の光をお断りしているその部屋で、スーツ姿の不健康そうな女騎士は、この村に来る前に用意していた書類に目を通している。仕事に必要な物――ではない。

 

「なるほど……。なるほど、なるほど、なるほど……」

 

 発光の魔道具(ランプ)の灯りに照らされた文字と写真に目を通しながら、騎士――リスベットは何度も楽しそうに頷いている。

 

「やはりそうだ……どこかで見たような気がしたと思っていたが……」

 

 書類用の木製紙にクリップで留められた写真を手に取り、灯りへと更に近づける。その写真に写された顔を見るために。

 写されているのは、子供――そう、幼い男の子の写真だ。

 

「いい、実にいい。面倒かつ退屈な仕事になると思っていたが――」

 

 写真が外れた書類には、その男の子の名前が書かれている。

 

―― ゲイリー=マニュ=クラーゼ=フォン=エリックス

 

 貴族である事を示す姓、そしてその貴族の男の子が何をしたのか。

 書類には詳細がびっしりとまとめられている。

 

「ゲイリー君」

 

 その姓名の上から、文字印が押さえている。

 朱肉の赤いインクによって綴られている文字。

 簡素な、たった一言。だからこそ、非常に分かりやすい言葉だ。

 

―― 『処刑済』

 

 その紅い一文だけが、男の子の姓名を隠すように押されていた。

 

 

「実に……興味深い」

 

 

 

 

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