知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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闇夜に輝く電波塔

 

 

東京タワーの上でさくらさんが見つけた、何もない空間にぽっかりと空いていた不思議な穴

 

 

 

その穴を抜けた先にあったのは、特に何も変わった所が無い

穴の位置から先に1、2歩進んだ東京タワー展望台の上でしたが……

 

どこかおかしい……そう思って振り返った瞬間、

穴の先にあった光景に対する違和感の理由がはっきりとわかりました。

 

 

抜けてきた穴の内側からは、私の後ろにいたみんなの姿と、

暗くなってきたため、光を放ち始めた夜景が見えましたが

 

 

こちらから見た穴の外側では、みんなの姿も夜景も見えず、

周囲には、不思議な光景が広がっていました。

 

 

私の後に続いてきたみんなも、この光景に驚いており……

 

 

「……どこ? ここ?」

 

ケロちゃんが私達の心の中を代弁するようにそうポツリと言葉を漏らしました。

 

穴を抜けた先の周辺に見えた景色……

 

それは、古風な民家が集まる集落、小さな一軒家がまばらに見える森、

洋風の大きな館が中央の島に建てられている湖、大きな山……

 

 

どれも都心はおろか、とても現代のものとは思えない、

よく言えば古風、悪く言えば田舎な風景でした。

 

 

「この光景、東京でないことだけは確かですわね……

 23区外ならば、意外と田舎な雰囲気の場所がありますけれど、

 周辺には電車どころか、車に電灯、電信柱すら見えませんわ。」

 

 

言われてみれば、東京どころか、

日本であればどこに居ても目にするそれらのものが全然見当たりません。

 

 

……だけど、各所に見える建築物は、一部を除いて

和風建築と思えるものが多くて、他の外国や、ファンタジーな異世界とはどうも思えない感じです。

 

 

……異世界と言えば、ちょっと思い当たる節はあるけれど。

 

 

「ユーノ君、まさかとは思うけど、ここって……」

 

 

「ううん、この世界は僕の知っているどの世界とも違うよ。

 もしかしたら、こんな雰囲気の世界を探せばあるかもしれないけど、

 ……少なくとも、僕は今まで見たり聞いたりしたことは無いから」

 

 

もしかして……と思ったけれど、やっぱりこの光景は、

ユーノ君の元居た世界では無いようです。

 

……まぁ、そうだよね、ユーノ君のイメージとは、あんまり合わない気がする光景ばっかりだし

明らかに、日本風な建物の方が多いし……

 

 

でも、今どきの日本にこんな所があるのかな?

 

 

「……ほえ? あっちでなんか光ってる?」

 

 

「え? ……あ、ホントだ、何か光ってますね」

 

 

さくらさんが、なにかを見つけた方向を確認してみると

その先の空中では、突然現れた空を覆わんばかりの様々な色の光が、

何かの形を造り出すように、幻想的な風景を造り出しています。

 

 

なんだろう、あの光……?

 

 

「花火大会……では無さそうですね、

 何かが動きながら、光の弾を放っているように見えますわ。」

 

言われてみれば、知世さんの指摘通り、

光の弾の生まれる位置は、そこに誰かがいるように移動していて……

 

 

更に、あの光の弾からは少し変わった力の気配を感じました。

ただの火花では無いようです。

 

 

 

「……アレは魔力の類で作られた小さな固まりみたいやな、

 1個1個に大した威力はないけど、あんだけの数や……

 放っとるヤツは、よほどの力の持ち主やで。」

 

 

遠い空を埋め尽くさんばかりの、色取り取りの光の弾……

 

 

時には、光の帯のようなものが絶え間なく流れ続けており、

その光が、一点に集中したと思うと、すぐさま先ほどとは違うパターンの

大量の光の玉が展開され始めました。

 

 

「あんなに大量の魔力弾、一体誰がばらまいているんだろう?」

 

 

「何かの儀式を行っているのかな……?」

 

 

だけど、あれが何なのかはわからなかったので、みんなでその正体を推測していると……

 

 

「―――いいえ、アレは女の子の遊びですわ」

 

突然、背後から女の人の声が聞こえました。

 

声の主は、私達と同じように、あの穴を抜けて来たのか、

それとも、こちら側のどこかに潜んでいたのか……

 

私を含めたみんなは、その声に驚き、

声とは逆方向に飛びのくと、声の主の正体を確かめるために振り向きました。

 

「あら、驚かせてしまったかしら?」

 

……そこに居たのは、赤い紐の飾りがついたドアノブカバーのようなモブキャップをかぶり

日傘をさし、紫色のドレスを着た、どこか浮世離れしている様な奇妙な格好……

 

 

背を含めた見た目は、私より少し年上に見える程度だったけど、

異様な雰囲気のせいだからか、さくらさんよりも年上に見える気がしました。

 

 

「……ようこそ、可愛らしいお客様達」

 

 

 

彼女はそう言って微笑んだ後、私達の方に近づき、

そのまま観察するような眼で、私達を見つめ……

 

 

「ほえっ!?」

 

「ふん……ふん……」

 

 

その行為に驚いたさくらさんの態度を気にせず

上下に東京タワーを見回してから、再び私たちに顔を向けると……

 

 

「この電波塔をこちら側に呼び寄せたのは貴方達?」

 

 

「こちら側……?」

 

 

なんとも意図の掴みにくい奇妙な質問をしてきました。

こちら側って言うのは、いったい……?

 

 

「あの、私達はあの穴を通ってきたら、ここにたどり着いたんですけど……」

 

 

さくらさんがそう答えると、この人は表情を変えずに再び私達に顔を向けてきて……

 

 

「ええ、そのようね……

 大した力を持っているようだけど、どうやらこの異変は貴方達の起こしたものじゃなさそうだし

 単に、巻き込まれた外来人なのね」

 

 

「外来人……ですか?」

 

 

今度は、聞いた事のない単語を口にしました。

……私達、やっぱり別の世界とかにきちゃったのかな?

 

 

「あの……ここは、いったいどこなんですか?

 それに、あなたは……」

 

 

知世さんが女の人に質問すると、女の人はにっこりと笑い……

 

 

「ここは幻想となった存在の流れつく世界……【幻想郷】

 品物・妖怪から古い神など、外の世界で忘れられ【幻想】となったものが流れ着く世界」

 

 

「ゲンソウキョウ……?」

 

すぐさま、私達の質問に答えてくれました。

 

 

……本質を理解するのには、時間がかかりそうな答えでしたけど。

 

 

「私の名前は八雲紫、幻想郷の管理者の一人、

 妖怪の賢者とも呼ぶ者もいるわ」

 

続けて、彼女は自己紹介をしてくれましたが、

その自己紹介もまた、常識とは思えないもので……

 

 

「よ、妖怪……ですか? 紫さんが……?」

 

 

そうって、さくらさんが一歩後ろに下がってしまいました。

心なしか、顔が少し青ざめているような……

 

 

「……けど、失礼ながらあんまり妖怪って感じには見えませんわね、

 私達より、少し年上のお姉さんに見えますわ」

 

 

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」

 

知世さんの感想に機嫌をよくしたのか、紫さんは上機嫌そうな表情になっていました。

 

大人びてる知世さんならではの、感想かもしれませんけども……

 

 

「……でも私、こう見えて貴方達よりも年上よ

 そう、そこの大きな獣よりもずーっと……ね」

 

 

紫さんはそう言うと、ケロちゃんの方に視線を向けました。

……ケロちゃんは、見た目と違ってずっと長生きだって言ってたけど、

そのケロちゃんよりもずっと年上って事は……

 

 

いや、考えるのはやめておこう。

女性に関して、その手の質問は失礼すぎるし、

 

……ウチも、あまり人の事は言えない気がするし

 

 

「前々から、妖怪と友達になってみたいなぁ~とは思っとたけど、

 まさか、こんなタイミングで出くわすとは思っとらんかったわ。

 ……ところで、ネーちゃんはなんの妖怪なんや?」

 

ケロちゃんは、のんきそうな声でそんな事を言っていた……

 

でも正直、紫さんが妖怪だって言われても、見た目だけじゃ全くそう見えない。

少し風変わりだけど、こんな感じの人も、探せば見つかるんじゃないかなって思えるくらい

見た目は人間そのものだし……

 

 

「生憎と、妖怪としての種族名は無いわ、

 幻想郷にも、そして外にも、私と同じ種類の妖怪は居ないもの。

 ……それっぽいあだ名はあるけどね」

 

 

「なんや、結構えらそうな妖怪やから、

 てっきり、ぬらりひょんの女版かと思ったわ」

 

 

……ケロちゃん、流石にその表現はどうかと思うの。

 

 

「ケロちゃん! ……すいません、紫さん」

 

 

ケロちゃんの発言に対して、さくらさんは申し訳なさそうに頭を下げたけど、

紫さんは、気分を損ねた様子もなく話を続けました。

 

 

「いいのよ、自分でもそこそこ似てるって自覚はあるし、

 ……ちなみに、外でも知られてる妖怪がいいって言うなら、

 そっちに居るそれなんかどうかしら?」

 

 

「そっちって……後ろ?」

 

 

そう紫さんに言われて、私達が振り向くと……

 

 

「ばぁ~」

 

 

そこいたのは、大きな一つ目と舌を出した巨大なナス……じゃない

大きな目と口の描かれた和風の傘の……からかさおばけ?

 

 

確かに、割とテレビとかで目にする妖怪ではあるけれど……

正直言って、あんまり怖いとは思わない。

 

 

今時、これじゃあ幼稚園の子供だって怖がらない……

 

 

「ほえええぇぇぇぇぇっ!? おばけーーーーーーーっ!?」

 

 

そんな事を思っていたら、突然悲鳴を上げたさくらさんに抱きつかれてしまった。

 

 

ちょ……ちょっとさくらさん!? どうしたんですか!?

そんな思いっきり抱きしめられたら苦しいです……さくらさん!?

 

 

「なのは!? さくらさん!?」

 

パニックを起こしたさくらさんと、抱きつかれて身動き取れなくなった私達を心配してくれたのか

ユーノ君が大きな声を上げてくれたけれど……

 

 

「ほー、カラカサお化けなんておるんかぁ

 ……しかしさくら、こんなんでもお化けはダメなんか?」

 

 

ケロちゃんは、心配する様子もなく呆れ顔でさくらさんにそう言って

その隣では、知世さんが嬉々としながら、

慌てるさくらさんを撮影しているのが見えました……

 

 

「いやいやいや! オバケはいやーっ!!」

 

 

さくらさん、本気で泣いてる……

あれだけすごい魔法が使えるのに、こんなオバケがダメなんだ……

 

 

「……珍しいわね。今どきこんなの、こっちの子供でも怖がらないのに」

 

 

「さくら、あからさまなお化けはダメダメやさかいなぁ」

 

 

「臨海学校の時の肝試しで、お化け役の先生から、

 脅かしがいがあると言われるくらいですから。」

 

 

ユーノ君以外の皆は、慌てているさくらさんをよそに、

そんなのんきなことを言っている……

 

 

ちょっと知世さん、そんなに目を輝かせてビデオを回して……

なんだか、この状況を楽しんでません!?

 

 

―――バタッ

 

 

さくらさんに抱き疲れたまま、そんな事を考えていると

背中側から、何かが倒れるような音がしました。

 

なんとか、腕の隙間から顔を出して、音がした方を見てみると……

 

 

さっきの唐傘お化けがばったりと倒れてしまっていて

どうしたのかと、よく観察見てみるとその中に……

 

「もう食べられましぇーん……ぐえっぷ」

 

 

そう言って目を回している、オッドアイの女の子が見えました。

どうやら、あの唐傘お化けの正体はこの子だったみたい……

 

 

苦しそうだけど、どこか満足げな表情に見えるような……

 

 

「さくらさん、もう大丈夫ですから……

 ほら、あのオバケも中身は女の子ですし……」

 

 

「ううー……」

 

 

そう言うと、さくらさんはようやく落ち着いてくれ、抱きついた腕を放してくれました。

 

まだちょっと涙目だったけど……

 

 

「もしかして、この子が妖怪の正体?」

 

 

「一応、それは外も中身も含めての妖怪よ。

 この子は、驚きの感情を糧にする妖怪だから、

 あれだけ驚かれて、満腹になっちゃったのね」

 

 

驚かせるのが、この子のご飯になるんだ。

 

それで、驚いたさくらさんをしつこく驚かして……

 

 

「……そら、さくらほど驚いてくれる相手そうは居らんわなぁ……満腹でぶっ倒れる訳や

 ……ほれ、しっかりせぇ」

 

 

紫さんの説明を聞いて納得したそぶりを見せたケロちゃんは、

そう言うと唐傘お化けの女の子に近づいて行き、肩のあたりを前足で軽く揺さぶり始めました。

 

 

「……ひょっとして、本当に友達になる気なのかな?」

 

 

ふと、そんな考えが浮かんだのでそれを口にしたら、

さくらさんは目が再び潤ませてから、必死で首を横に振り始めてました。

 

 

……傘が普通だったら、どうみても普通の女の子なのに、ちょっと怖がり方が異常じゃないかなぁ

 

 

……まぁ、苦手なものは誰にでもあるよね

そう結論付けようとしたその時

 

 

「……お前達! こんな処でなにしてる!?」

 

 

不意に、辺りに大きな声が響き渡りました。

上の方から聞こえてきた声のした方向に、みんなで目を向けると……

 

 

そこに居たのは、青いワンピースに身を包み、

背中にガラス細工の様な羽を背負った小さな女の子。

 

なにか気に入らないことがあったのか、不機嫌そうな顔をしているけれど……

 

なんで、私達の事をにらんでるんだろう?

 

 

「あらまぁ、まさかこんな処にあなたが現れるなんて、

 関門超えてきた様には見えないけれど……

 他の連中と同じように、光に寄ってきたのかしら?」

 

 

紫さんは、彼女を知っている素振りでそう言うと、

少し面倒そうな顔でその子の事を見つめてから、軽くため息をつきました

 

 

「知り合い……なんですか?」

 

 

「まぁ、広いような狭いようなこの幻想郷でそれなりに有名だから……

 良くも悪くも……ね」

 

そう言うと、今度は私達の方を向いて、

なにかを言いたげな笑顔を浮かべました。

 

良くも悪くも……一体、どんな子なんだろう、あの子……

 

 

 

「この赤い塔は、あたい達の秘密基地にするんだから、横取りなんてさせないわよ!!」

 

 

……とりあえず、なにか盛大な勘違いをしているのだけは間違いなさそうでした。

 

 

 

 

 


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