知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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サイキョー妖精と弾幕ごっこ

 

 

不思議な世界、幻想郷で出会った八雲紫さんに勧められるまま、

ケロちゃんが炎を吐こうとしたところ

次の瞬間、ケロちゃんの口からは、昔のアニメにある石鹸を食べた動物のように

色取り取りの光の弾が飛び出してきました……。

 

 

……ケロちゃん炎なんて吐けたんだ。

 

この結果はケロちゃん自身も想定外だったようで、

口から弾幕を吐き出しながら慌てていましたが、

そんなケロちゃんを余所に、紫さんが語った話によれば……

 

 

「幻想郷で、戦う為に発現する力は、

 あらゆる種類の力が、弾幕になりやすい性質を持っているの

 ……そう、あなた達の持つ力でも例外ではない」

 

 

「あらゆる種類の力?」

 

 

紫さんの話を要約すると、世の中には魔力の他にも、

霊力、妖力などといった性質の違う超常の力が存在しているのだとか。

 

 

……どれもゲームとかでよく聞く単語ではあるけれど

そんないろんな力が魔法以外にも存在しているなんて驚きなの。

 

 

「まぁ、幻想郷ほどごちゃごちゃしてる所は他にないだろうけど、

 超常の力という点では共通しているし、魔力だけでも使い手で性質は違うし、

 人間にとって区別する意味はほとんどないでしょうね。」

 

 

「わかるような、わからないような……

 ……でも、幻想郷ではそれらの力は本来持つ性質に関わらず

 さっきケルベロスが吐いた弾幕になりやすいと?」

 

 

紫さんの話は、私達の知る一般常識と違うので、

ユーノ君も、結局どうしてそうなるのかはわからなかったみたい。

 

でも、弾幕に関しての考察はいい所をついてたらしく、

ユーノ君の質問に対しての返答には、おおむね同意してくれました。

 

 

「無論、きちんと集中すれば本来の力は使えるわ。

 

 ……逆に言えば、力ある者が幻想郷に来れば、

 誰でも、弾幕を使う事が出来るのよ。

 試して御覧なさい、こう軽く手をかざして……」

 

 

ざっくりとした説明をしてもらい

私達も教わった通りに手をかざして、力を集中してみると、

その瞬間、頭の中に光の玉が集まるイメージが浮かび、

手の中に魔法を使うのと、微妙違う力が集まってきたのを感じ

 

そして……

 

「……えいっ!」

 

イメージと共に、掌に集まったそれを解き放つと、

そこから、イメージ通りの光の弾の集まりが飛び出しました

 

「できた……!」

 

 

紫さんの説明があっさりしすぎてて、なぜこうなるのかはわからなかったけれど、

弾幕がどういうものなのかは、不思議と心の奥で理解できた気はしました。

 

 

レイジングハートなしで、こんな事ができるのはちょっと新鮮かも……

 

 

「射撃系魔法が、こんなにはっきりと……」

 

 

私の隣では、ユーノ君も弾幕を放っています。

その形は、どことなく鎖のようにつながっているように見えて、

相手の動くを拘束するバインドを彷彿とさせる見た目だったけど……

ユーノ君は、私がこれまで多用してきた砲撃魔法の系統は、

どういう訳か使えなかったそうなので、すごく驚いた顔をしてました。

 

 

「ほえっ!? なにこれ!?」

 

 

その時、突然さくらさんの悲鳴が聞こえて来たので、私たちはそちらに向くと……

目に映った光景に私達は、思わず言葉を失ってしまいました……

 

 

「え……なんですか、それ!?」

 

 

「これも……弾……幕……弾幕?」

 

 

そこにあったのは、さくらさんの手にくっついている、

直径がさくらさんの身長より大きい巨大な大きい光の玉……

これはひょっとして、さくらさんの弾幕……?

 

 

……いや、どう見ても弾幕じゃないよね、コレ。

例えるならば、大玉ころがしの玉が光っているような感じ……。

 

 

「どうしよう、全然離れない……」

 

 

おまけにこの大玉、さくらさんの手のひらからは飛び出ず、

手を振って振り払おうとしても、手にくっ付いたまま離れない。

 

 

「全く、何やっとんねん」

 

 

ケロちゃんは呆れた顔でそう言うと、さくらさんの反対側から大玉を口でくわえて、

そのまま後ろに引っ張っていくと、大玉はようやく離れ、

その後は、それでもその場に留まったまま光を放ち続けていました。

 

 

「……初めて見たわ、ここまで不器用な弾幕。

 

 いや、弾幕というより、大玉だけど、

 どこをどうすれば、あんなのが出てくるのかしら……?」

 

 

紫さんは半分不思議そうに、半分呆れた顔でそんな感想を漏らしてました。

 

 

「はぅ……」

 

 

それを聞いて、申し訳なさそうな顔をするさくらさん。

別に、悪いことしたわけじゃないから、そんな顔しなくてもいいと思うんですけど……

 

 

……そんなわけで、さくらさんは弾幕をうまく使えず

ユーノ君は男の子だからという理由で、ずっと上空で待ちぼうけをしていた妖精との

弾幕ごっこは、私が相手をする事になりました。

 

私が相手をすることに、ユーノ君は心配をしてくれたけれど、

女の子の遊びに、男の子が出て来たんじゃまずいだろうしね……

 

それにしても、人の事を言える義理じゃない気もするけど、

女の子の遊びにしては、ずいぶんと物騒な気がする……。

 

 

「なのは、気を付けて」

 

「無理しないでね、なのはちゃん」

 

少し不安に思いながらも、二人にそう言われて見送られながら、

私は魔法を使って空を飛び、空中に待ち受ける妖精の子との弾幕ごっこに挑むことになりました

 

 

「やっときたな、お前があたいの相手か?

 なんだかちょっと頼りない感じ

 ……あたいの名前はチルノ、あんたの名前は?」

 

「え……高町なのは」

 

妖精の子は、はっきりと物事を言う性格らしく、ちょっと失礼な事を言われた気がするけれど……。

 

反論するタイミングを逃してしまい、そのまま私も名前を名乗ってしまいました

 

 

彼女の性格は、氷の妖精という感じではなく、

むしろ、氷というイメージからは想像つかない、

よくいえば熱血漢、悪くいえば直情型という感じでした。

 

 

「よし!なのは、あたいと勝負だ!

 スペルカードはお互い3枚!

 あたいが勝ったら、あの塔はあたいのものだからな!」

 

 

……いや、東京タワーはそもそも私のものじゃないから。

 

 

強引な物言いに呆気にとられたけれど、

言い返す前に、弾幕ごっこの勝負は始まってしまい、

すぐさま、こっちに向かって、あの子の放った弾幕が迫って来ていて……

 

 

彼女は、いつもの魔導師の子とは違うタイプの……強敵でした。

 

 

最初にはなってきた攻撃は、散弾銃の如く広範囲に広がるものと、

円状に広がった後に一斉にこちらに向かって来る氷の弾幕。

 

 

どちらも弾速はそれほどでもないし、隙間が大きいので普通に動けば回避しきれるけれど、

これを呼吸するように連発されると、さすがにその物量に圧倒されてしまう。

 

弾速はそこまで早くないので、回避できない事は無いけれど、

この圧倒的な弾の量にはすごく驚かされました。

 

 

そうして、そこら中に展開された、弾幕を避けながら、彼女に何度か攻撃を仕掛けると

チルノちゃんは、愉快そうに口角を上げてニヤリと笑って、

今度はカードらしきものを高く掲げました

 

おそらく、あれが紫さんの言っていたスペルカード。

つまり、これからが弾幕ごっこの本番なのでしょう……

 

 

「アイシクル・フォール!!」

 

 

彼女がスペルカードの名前らしい言葉を宣言すると、

今度はすぐさま、先ほどとは比較にならない大量の……

 

でも、無造作ではなく、よく見れば何らかの規則に沿った、

どことなく美しい形をした氷の刃を左右から放って来ました。

 

「ッ! これがスペルカード……!」

 

 

左右の視界ギリギリのところから襲ってくる大量の氷の刃は、

その数で瞬時の判断能力を低下させ、結構な数がすぐ近くをかすめていき

バリアジャケットのかすめた箇所を確認すると、そこには白い氷の跡がありました。

 

 

こんなのが直撃したら、冷たいとか寒いとかじゃ済まないの。

 

 

彼女の正面には氷の弾幕は襲ってこなかったけれど、

流石にそれは向こうも理解しているようで、

別の弾幕を使って、その死角を埋めています……

 

 

「よけきれない……ここで1回!!」

 

 

この時は、スペルカードとして登録していたディバインバスターを

1枚使って、なんとか切り抜けることができたけれど……

 

 

「パーフェクト・フリーズ!!」

 

 

そう言って、新しいスペルカードを宣言したチルノちゃんは、

あちらこちらに色とりどりの弾幕を放ち始めました

 

さっきの弾幕とは軌道や速度が違うけど、

適度な距離を取って入れば、十分に避けられる。

そう考え、回避しながら攻撃を続けていると……

 

 

「止まれぇッ!!」

 

 

チルノちゃんの掛け声とともに、突然全ての弾幕が停止し、

あやうく、それにぶつかりそうになってしまいました

 

 

「!?」

 

 

ギリギリのところで、何とか踏みとどまれたけれど、

まさか、弾幕を途中で止める事が出来るなんて……

 

 

さらに、その状態で放ってきた別の弾幕を静止した弾幕の隙間を縫う形で避けると……

 

 

「動けぇッ!」

 

チルノちゃんが先ほどと違う掛け声をあげた瞬間、

止まっていた弾幕が、徐々に氷が解けていったかのように

徐々にスピードを取り戻しながら動き始めていきました。

 

 

驚異的とまでいうほど強い技ではなかったけれど、色々と興味が惹かれる技でした。

あれだけの弾幕が一斉に停止すると、スピードが完全に殺されて、意味をなさなくなる。

 

 

これは……もしかしたら使えるかもしれない。

 

 

あれほどの弾幕を放つのは大変そうだから、

私に、似たようなことをできるかはわからないけれど色々と参考になる攻撃です。

 

 

……ともあれ、このスペルカードも無事に切り抜けることができたので、

いよいよ、チルノちゃんは3枚目のカードを手に取り、

先ほどと同じように、カードの名前を宣言しました。

 

 

「ダイヤモンド・ブリザード!!」

 

 

すると今度は、チルノちゃんの周囲に氷の塊が現れ、

それらが次々とはじけ、弾幕となって周囲を埋め尽くしていきます。

 

全方位にこれまでの弾幕とは比較にならない大量の弾幕が放たれる、

正直パワーだけならば、私とじゃ比較にならないかもしれない、膨大な弾幕……

 

 

だけどよく見れば攻略できない弾幕じゃない。

 

 

これまでのスペルカードで弾幕に慣れたので、

出来るだけ彼女を射線上にとらえるように位置を取り、

残った2枚のスペルカードを使いながら、ギリギリの回避をしつつ攻撃を打ち込んで……

 

……そして、ついに

 

「うああああっ!?」

 

チルノちゃんの悲鳴と共に、展開されていた弾幕はただの光の粒子とな変わり

なんとか、最初の宣言通り、3枚目のスペルカードを攻略する事が出来ました。

 

 

これで、私の勝ちのはずなんだけど……

なんだか、チルノちゃんが両手で頭を押さえたまま動きません。

 

 

「あの、大丈夫……? どこか痛かったりする?」

 

 

 

ひょっとして痛いところに当てちゃったんだろうか?

心配になったので、近づいて声をかけたところ……

 

 

「……あっはっは!! やるなお前! なのはだったっけ?

 サイキョーのあたいに勝つなんて、大したもんだ! 気に入ったぞ」

 

 

さっぱりとした笑顔と、そして豪快な笑い声が帰ってきました。

……気にしてないのかな、今の勝負の事……。

 

 

「あ、ありがとう……」

 

 

「あーあ、これであの赤い塔はお前のものか

 暗いところでピカピカ光ったりして、面白かったんだけどなぁ」

 

 

チルノちゃんはそう言って、残念そうに東京タワーの事を見つめたけれど、

この間違いは解いて置かないと、後々面倒な事になりそうなので……

 

 

「いや、別にあのタワーは私のものってわけじゃなくて……」

 

「お? だったら、やっぱりあたいが貰っちゃってもいいのか?」

 

誤解を解こうとしたら、すぐさまそれを曲解されてしまいました。

 

……なんというか、チルノちゃんのこの性格はちょっと扱いに困る感じだ。

あの子のように、感情の起伏が薄いのもちょっと困るけど、

こうも直情的すぎるのも、長く続けると正直疲れます……

 

 

なんだろう? アリサちゃんが短絡的になったらこんな感じなんじゃないだろうか?

本人に聞かれたら、ほっぺ引っ張られるだけじゃ済まないだろうなぁ……

 

 

そんな、当人に聞かれたくない事を考えていると……。

 

 

『おつかれさま、無事に勝利できたみたいね』

 

「紫さん? 一体どこから……」

 

突然、紫さんの声がどこからともなく聞こえてきました。

 

周囲を見回してみたけれど、辺りに姿が見ええず、

先ほどまでいた展望台の上を見てみると、

紫さんはおろか、他の皆も誰も居なくなっていて……

 

 

「紫さん、いったいどこから……えっ?」

 

 

「うわっ!?」

 

 

他の皆や、声の出所を探ろうとした瞬間、

突然、足を引っ張られるような感覚がしたうえに

目の前に、暗闇の中に赤い目が浮かぶ不気味な光景が写りました……

 

 

その不気味な光景に思わず背筋が寒くなり、

思わず目を瞑ってしまいましたが、そのままなにも起こらなかったので

再度目を開くと……

 

私は、どこかの建物の中に立っていました。

 

 

「ん? どこだここ……あたい達、さっきまで外にいたはずなのに?」

 

 

どうやら、チルノちゃんも同じ状態に陥っていたようです。

 

 

この場所がどこだか気になったので、すぐ隣にあったガラス張りの窓を見てみると、

外には先ほど展望台で確認した、幻想郷の風景が映っていました。

 

 

「もしかしてここ、タワーの中?」

 

 

「タワーって、あの赤い塔?

 へぇ、中はこんな風になってたんだ」

 

チルノちゃんは、なぜここにいるかを気にせず、

周囲に興味津々の様子で、そこら辺をキョロキョロと見まわしていましたが……

 

 

「へぇ……それは興味深いわね……」

 

 

「ええ、よろしければ今度……」

 

 

「と、知世ちゃん……」

 

 

通路の奥側から、誰かが話している声が聞こえてきました。

声の中には、ユーノ君、さくらさん、知世さん、ケロちゃん、紫さん……

みんなの声が聞こえてきましたが、その中には知らない誰かの声も混じっていました。

 

 

不思議に思いつつも、声のする方に歩いていくと、そこで目にしたのは……

 

 

「ええっ!?」

 

 

そこは、東京タワーの展望台カフェエリア

 

その中心には、何故か先ほどさくらさんが出した大玉に、

チルノちゃんが出した氷の弾が、アイスのトッピングの様に突き刺さって……

 

その周囲には、ユーノ君、さくらさん、知世さん。

そして紫さんの他に見た事のない奇妙な格好をした人が、大玉をちぎり取っては口に運んでいる。

そんな奇妙な光景でした

 

 

 


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