知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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幻想の危機、さくらの選択

 

 

なのはちゃんが、弾幕ごっこと言う名前の勝負を終えて帰ってきた後、

私達と紫さん達の自己紹介が一通り終わると、

紫さんは私達を呼んだ理由を語り始めました。

 

 

「現在、幻想郷はかつてないほどの危機にさらされているの、

 それも……存亡の危機と言ってもいいレベルの……ね。」

 

 

これまでは、どこか飄々としてつかみ処がない感じでしたのに、

この話を始めた紫さんは、これまでとは打って変わって、

極めて真剣な表情で、重々しくそう言ったのです。

 

 

「存亡の危機……ですか?」

 

 

「ええ、幻想郷では過去に、スペルカードルール制定のきっかけとなった、

 幻想郷始まって以来の大事件があったのだけれど……

 あの時でさえ、存亡の危機というほどのレベルではなかったわ。」

 

 

「……まぁ、あれはあれで、いいきっかけではあったけれどね」

 

 

幽々子さんは、紫さんの言葉に合わせるようにそう言うと

口元をセンスで押さえ、なにか思い出し笑いをしている風に見えました。

 

 

一方、紫さんは不機嫌そうな顔になっていましたが……

 

 

そこまで聞くと、私の頭の中でちょっとした疑問が浮かんできました。

 

 

「先ほどの話ですと、幻想郷では

 異変はよくある事の様におっしゃってましたけれど

 今回の事件は、それとは違うのでしょうか?」

 

 

通常の異変というものが、どういうものかは分かりませんが、

異変が日常的に起こっている世界であれば、

形がどうであれ、それを解決する力は持っているはず。

 

そう思って尋ねると、紫さんはゆっくりと頷いてから答えてくれました。

 

 

「……今回の異変と、通常の異変の大きな違いは、

 先ほども言った通り、異変の原因が幻想郷の中にない事なの。

 だから、幻想郷の中では、解決する術がない……」

 

 

「と、いう事はまさか……」

 

 

今起こっている幻想郷の異変の原因は、幻想郷の外……

流れからすれば、恐らく私達の世界にあるという事なのでしょう。

 

 

「……本来、外の世界と幻想郷との接点は数える程度の数しかないわ。

 

 忘れられる事で、存在が稀少となったり、

 外の世界と縁を切るなどして自らが幻想になる幻想入りと呼ばれる方法。

 

 その他に、まれにある結界のほころびから入る、私が案内する

 まぁ、どちらもめったにない事なんだけれど……」

 

 

「そういうわけで、幻想郷の主な住人は気軽に外に出ることはできない…… 

 ……つまり、外界に原因がある異変に対しては、

 直接的に手出しすることはできないのよねぇ……」

 

 

紫さんの話に続いて、幽々子さんが

幻想郷の方々が、今回の異変を解決できない理由を教えてくれました。

 

 

そういえば、紫さんは幻想郷の事を、

外の世界で忘れられたものが流れ着く世界とおっしゃってましたっけ……

 

 

ケロちゃんがいつも言っている魔法の使い方と同じように、

その辺りには、私の分からない決まりごとがあるのでしょう。

 

……でも、そうなると一つおかしなことがあります。

 

 

「……紫さん、私達が入ってきたあのほころびもそうですが、

 何故、東京タワーはこちら側にあるのでしょうか?

 スカイツリーのせいで、確かに多少目立たなくなってはいますが、

 未だに根強い人気のあるスポットですのに……」

 

少なくとも、人々から忘れられた存在……

先ほど紫さんがおっしゃった、幻想入りする代物ではないはずです。

 

 

「うん、大きな塔だからどこからでも見えるし、

 こんな大きなもの、簡単に忘れられないはずだよね。」

 

「テレビの電波は終わっちゃったみたいだけど、

 ラジオの電波とかは、今も発信しているはずですよ。」

 

 

「僕達が展望台に座った時も

 まぶしいくらいにライトアップされてたし……

 取り壊さでもしない限りは……」

 

 

みんなも、その事については同意見のようで、

各々、自分の意見を口にしていました。

 

 

「そう、この電波塔は幻想入りするには、まだ早すぎる。

 ……にも関わらず、こうして幻想郷に半分入り込んでしまった。

 つまり、なにかの原因で、幻想と現実の境目があやふやになり、

 幻想への流れが、異常なまでに加速しているの。」

 

 

「幻想の加速……? そんな事、ありうるのですか?」

 

 

詳しい事は分かりませんが、どういう事なのかは、

今起こっているこの現象をみれば、おのずと察しがつきます。

 

 

「……もし、このまま加速が進んでまえば、

 幻想郷と、ワイらの世界の境目がなくなってしまうっちゅうわけやな。」

 

 

「ええ、そうなれば結界は意味をなさなくなり、

 幻想郷も、存在意義を無くしてしまう……

 その結果がどうなるか……」

 

 

「外の連中が流れ込んでくるか、こちら側のザコ妖怪が外で暴れまわるか。

 いずれにせよ、ろくでもない事になる事だけは確かです。」

 

 

紫さんの問いに対して、側についている藍さんが返してきた答え……

それが現実のものになってしまえば、

どちらの世界でも、大きな被害が出てしまう事でしょう。

 

 

「今のところ、他の建物が幻想入りしようとしている形跡はないわ。

 小物とかは、少しずつ増え始めているけれど……

 今のところ、これが一番の大物ね。

 

 ……でも、そのせいか電波塔の場所に、大きな結界のほころびが出始めているから、

 幻想入りを食い止める為に、つっかえ棒をしておいたんだけど、

 貴方たちと戦ってた、金髪の子に持ってかれちゃったし……」

 

 

「え……!?」 

 

「もしかして、そのつっかえ棒って、

 あそこにあったジュエルシードの事ですか!?」

 

 

そのつっかえ棒の争奪戦を、先ほどまでしていたなのはちゃんとユーノ君は、

それを聞いて、二人とも驚いた顔をしました。

 

 

宝石の種(ジュエルシード)、あなたはそう呼んでるのね。

 この間、外で強い力を放っていたのを見つけたから、

 何かに使えると思って、持ち帰ったのだけれど……」

 

 

「ジュエルシードは、元々は僕が他の世界で発掘したものです。

 それが、事故でこの世界にばらまかれてしまって……

 ……あの、もしかして幻想の加速の原因は……」

 

この異変の原因は自分のせいなのだろうかと思ったのか、

身体をすくめて、しゅんとしてしまったユーノ君

 

 

けど、紫さんは彼を責めませんでした。

 

 

「心配する必要はないわ、これとそれとは別問題よ、

 今回の事件は、あくまで異変……首謀者は、存在するはずなの。

 

 ……そこで、これからがあなた達に頼みたい本題。

 あなた達には、この事件を起こしている黒幕を見つけ出して欲しいの。」

 

 

「ほえっ!?」

 

 

「あらあら、いきなりストレートに言うわねぇ。」

 

突然出された、紫さんからの依頼。

 

 

まぁ、途中からそんな感じになる流れは感じていました。

……確かに、紫さん達が外に出られないのであれば、

事態を理解できる、外側の人に頼むしかないのでしょうけれど……

 

 

「別に、黒幕を倒せとは言わないわ、

 あくまで見つけ出して欲しいだけよ。

 そうすれば後は、私が何とかするから……」

 

 

「……紫さん、その黒幕というのは、

 あの子とも、関係あるんでしょうか……?」

 

 

なのはちゃんは心配そうに、

そして真剣な表情で紫さんに問うと……

 

 

「あの宝石を持って行った子ね。

 ……タイミングを考えれば、無関係とは思えないわ。

 あの様子から見て、誰かの命令で動いてるみたいだし……」

 

 

「その誰かが……黒幕……?」

 

 

そう言うと、なのはちゃんの表情は、

更にこわばってしまったように見えました。

 

 

「……あいにく断言できるほどの情報は持ってないわ。

 ただ、あんな小さな子を、一人で矢面に立たせるからには、

 ろくでもないヤツなのは、間違いないはず。

 ……下手をすれば、いずれは使いつぶされるのが関の山よ。」

 

 

「!?」

 

そして、紫さんが予想した彼女の行く末を聞くと

なのはちゃんの顔に、驚愕の色が浮かんでしまいました……

おぼろげながら、そのイメージが見えてしまったのでしょう。

 

 

「……紫さん、

 もしこの話を断った場合はどうなりますか?」

 

 

「……警戒しなくても、このまま外界に帰ってもらうだけよ・

 ただ、異変の内容次第では、あなた達にとって、

 その結果起こりうる事が、他人事でなくなることだけは確かね。」

 

 

……なのはちゃん達と出会ってからはや数日。

 

今回の事件を除けば、これまで起こった事件は、

すべてジュエルシードが関係する事件でした。

 

 

でももし、それとは別に事件が起こっているのならば……

その被害が、私達の知る誰かに降りかからないとも限りません。

 

 

「……でも、その黒幕相手に僕達だけで大丈夫なんでしょうか?」

 

 

「無論、この話を受けてもらえば、直接的でないにせよ、

 私達からも、最大限の支援を用意するわ。」

 

 

そう言った紫さんの表情は、これまでにない真剣なものでした。

 

「あなた達の運命と、幻想郷は一蓮托生。

 決して、支援の手は抜かないし、

 異変解決の暁には、私達にできる事ならば、

 どんな願いでも、かなえる事を約束するわ。」

 

 

紫さん達の真剣な様子から察するに、

……おそらく、私達に頼る以外、

異変を解決する術はないのでしょう。

 

 

「……なのは、どうしようか。

 僕は、散々なのはに迷惑をかけてきたから、

 なのはの決定に従うよ。」

 

 

「迷惑だなんて、そんな……

 でも、私達の世界にも影響が出るんだったら何とかしたいと思うよ。

 ……あの、さくらさんと知世さんは……?」

 

 

ユーノ君に相談されたなのはちゃんは、私達の方に話題を振ってきましたが……

 

 

無論、私はさくらちゃんについていくつもりです。

そして、さくらちゃんは真剣に悩んだ顔をした後……

 

 

「……ケロちゃん、もしこの異変を放っておいたら

 大変なことになるんだよね?」

 

 

「ああ、世界の境界の歪みは、ワイも前に見た事がある。

 もし、そんなんを完全に起こしてしもうたら大変なことになるやろ……

 今度は下手せんでも、地球がどっかーん! ちゅうことだってありうるわ。」

 

 

ケロちゃんの真剣な表情をした発言に、さくらちゃんは一瞬恐れの表情を見せましたが、

すぐに、何か決意をした表情で、なのはちゃんとユーノ君の方を向き頷くと、

2人とも、強い意志を秘めた表情で同時に頷き返してくれました。

 

 

そして、次に私の方へ顔を向けて来てくださったので

私も、さくらちゃんに従う意思を見せ、無言のまま頷き返します。

 

さくらちゃんは最後に、紫さん達の方へ向くと……

 

 

「わかりました、紫さん。

 どこまで出来るか分かりませんけど……

 私達で、出来る限りやってみます。

 絶対、大丈夫だよ……!」

 

 

何時も、さくらちゃんが言っている無敵の魔法の言葉を言ったのです。

 

 

この言葉に、幽々子さんはにっこりと笑ってくれ、

藍さんと妖夢さんは、一瞬驚いた表情を見せて……

 

そして、紫さんは、安堵するような微笑みで

 

 

「……ありがとう」

 

 

静かに、そして優しい口調でお礼を言ってくださいました。

 

 

 

 




展開と文章が、ちと駆け足になってしまったかなぁ……
幻想郷勢力は、うかつに表に出せんからこういう形になってしまった

とは言え、ちゃんと後々の章でもちゃんとした出番を出す予定です
外で活躍させるための条件が、ちょっとばっかし捻ってありますが

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