知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

16 / 49
幻想を観るモノ

 

 

ある日、突如として

店の前に、この塔が現れてから一月が経った。

 

 

見立てると、全長千尺を超えるであろう馬鹿馬鹿しいほどに高いこの塔は、

何の嫌がらせか、寄りにもよって僕の店の上に現れ、

昼間は影を作って周囲を日陰にしてしまい……

 

 

そのくせ、夜は無駄に様々な色に光って、まぶしい事この上ない厄介なヤツだ。

 

 

更に厄介な事には、塔の物珍しさに寄ってきた妖精や妖怪達が、

これを自分のものにしようと、毎日の様に弾幕ごっこで縄張り争いをするので、

その流れ弾がこっちの方に飛んでくるので、たまったものではない。

 

 

全く、本当に困ったものだ

 

 

……一度、この塔を調べに八雲紫がやって来て、

曰く、これは外界の中心ともいうべき場所にある

東京タワーと言う名の電波塔だという事を教えてくれた。

 

 

電波塔は、以前にもこちら側に来たものがあったから知っているが、

それでもせいぜい、森の木より少しばかり背が高い程度だったので、

この東京タワーとは、比較にもならないシロモノだ。

 

 

なんでも外界では、最近更に大きな電波塔が出来たことにより、

少しばかり目立たなくなってしまったそうだが、

まだ幻想入りするには早すぎるとも言っていた。

 

 

これより大きいとは、外は一体どうなっているのだろうか……?

 

 

そんな事を考えていると、八雲紫が彼女にしては珍しく深刻な顔をしていた。

 

なにかを考えていたようだが、話しかけても反応が無かったので放っておいたら、

気が付いた時にはいつの間にか姿を消していた……

 

 

その翌日、再び店に現れた彼女は、

僕にも滅多にお目にかかる事のない材料を持ってきて、

早急にこういうものを造ってくれと早口で注文すると、

僕が返事をする前に、またどこかへと消えてしまったのだ。

 

 

滅多なことで動じないあの大妖怪が、深刻な顔をしていた上、

普段なら絶対にしないであろう注文を出してきた事から……

 

 

恐らくこの異変は、現在起こっている博麗の巫女では手出しができず

放っておけば幻想郷の存在を危うくしてしまうモノであることは、

なんとなく予想が出来た。

 

 

そうなってしまえば、僕にとっても他人事ではない。

だから精魂込めて三日三晩かけ、彼女の注文した道具を作り上げた。

 

 

特に以来の期日は決めていなかったので、どうやって渡すか少し悩んだけれど、

……とりあえず、置いておけば彼女が勝手に持っていくだろう。

そう思って、その道具を置いてひと眠りしたのだが……

 

 

その後、眠りから覚めても件の道具は棚の上に置きっぱなしで、

更に1週間経っても、再び彼女が現れる気配は微塵もなかった。

 

 

……もしや、注文を忘れているのか?

 

 

一昨日、野暮用でやってきた魔理沙に目をつけられてしまい、

どこか気に入った様子を見せ、危うく持っていかれそうになったが、

八雲紫の注文だと言ったら、ひとまず引き下がっていってくれた。

 

 

ただ、魔理沙の性格上、放って置きっぱなしの状態が続けば、

いつまでもこれが無事である保証はない。

 

 

そうなれば、僕か魔理沙のどちらかに彼女の怒りが向けられることだろう。

 

……全く、世の中は理不尽だ。

 

 

「……このまま放っておいたら、本当に持っていかれしまいそうだよ。

 本当に忘れているんじゃないだろうな……」

 

 

誰もいない店の内、心の中で彼女に悪態をつきながら、

ぼんやりとそんな独り言を言っていると……

 

 

「失礼、なかなか適任者が見つからなかったので、

 受け取りに来ることが出来なかったのよ。」

 

突然、入り口の方から声が聞こえてきた。

 

振り向くと、そこには件の注文主が笑顔で佇んでおり、

さらに、彼女が最も信頼する側近と、

これまでに、見かけた事の無い少年少女達が居た。

 

 

「……全く、貴方はいつもそうだ、

 来るかと思えば来ず、来ないと思ったらいきなり現れる。

 その気まぐれに付き合わされる身にもなって欲しいものだ。」

 

 

「あら、今回は不可抗力よ、

 適役がなかなか見つからなかったんだもの。」

 

 

そう言って、彼女は子供たちの方を向いた。

 

 

この子達の着ている物は、明らかに幻想郷の住人の衣装と違う。

……まさか、外界の人間なのか?

 

 

「紫さん、この人は……?」

 

 

「この古道具屋の店主よ。

 あまりに商売っ気が無いものだから、

 品物は棚の飾り物か、勝手に持っていかれる方が多い、

 商売人としてどうかと思うタイプなのだれど……」

 

 

その説明はどうかと思うのだけどな……

まるで盗みを働かれても動かないダメ店主じゃないか。

 

 

「放って置いてくれ、どうせ趣味でやってるような店だ。

 ……それに、勝手に持って帰られてる訳じゃない、

 生きている間は借りておくだけだそうだ。」

 

 

そう言うと、紫も藍も呆れたような顔をしてしまった。

 

……自分で言っておいてなんだが、あまりに苦しい言い訳だったか。

 

 

だが、気を取り直して、僕は初対面の小さなお客の方に向き、

まず自己紹介をすることにした。

 

 

「……僕の森近霖之助、この道具屋・香霖堂の店主だ。

 ようこそ、外からのお客様。」

 

 

「はじめまして、木之本桜です。」

 

 

彼女に続いて、八雲紫が連れてきた子供達は、次々と自己紹介をすると、

一通り終わった後、店内を物珍しそうに見回し始めていた。

 

 

人里の子供は、こういったものに興味を抱くものは少ないが、

外の世界の子とはそうでもないのだろうか……?

 

 

「こちらの棚に並んでいる物は……

 写真やテレビで見た事がありますわ。

 実物を見るのは、私も初めてですが……」

 

 

「そこの棚は、外の世界から流れてきた品を並べてあるんだ。

 君達くらいの年齢では、幻想入りする前の実物は、

 見た事が無いかもしれないね。」

 

 

見たところ、全員10前後の年齢と言った所……

幻想入りしたもので、本物を見た事があるものはいないだろう。

 

 

「……? 霖之助さん、この棚に並んでいる物はなんですか?

 そっちの棚と比べて、使われている技術が大きく違うようですけど……」

 

 

「そちらの棚は、主に買い取った品物を並べておく棚だよ。

 妖怪、魔法道具、その他君たちの知らない世界から、

 流れて来たものを並べてあるんだ。」

 

 

金髪の少年・ユーノは、興味津々な様子で棚の品物を眺めていた。

棚に置いてあるものは、大したものではないが、

この品物自体の異質さに気付くとは……将来有望な子かもしれない。

 

 

「そちらに並んでいるのは、衣服の生地でしょうか?

 なんだか、ずいぶんと変わった感じのものですけど……」

 

 

「それは、弾幕ごっこでボロボロになった衣服の修理などを請け負う事もあるから、

 それなりに備えは用意してるんだ。

 こちら側の品物だから、外では見かけないだろうね。」

 

 

知世は、今度は衣装に使う反物に目を付けたようだ。

心なしか、生地を見た彼女の目が居ように輝いている気がするが……

服作りに、興味があるのだろうか……?

 

 

「はぁ~……なんか知り合いの店を思い出すなぁ、

 あそこも、ぎょーさん不思議な力を持った道具が置いてあったし……」

 

 

「ほえ? 知り合いのお店って、ケロちゃんの知り合いの?」

 

 

「もう、とっくに亡くなっとるけどな……

 クロウ以上に、性格ひん曲がったヤツやったで……」

 

 

黄色い小動物の様な妖獣は、この店を見て何かを思い出していたようで、

その口調からは、懐かしい様な、また面倒の様な、

複雑な感情が見え隠れしていたのがわかった。

 

外の世界にも、こんな雰囲気の店があったのか。

もう存在していないようだが……

今もあったなら、自分も見て見たかったな。

 

 

「……さて、頼まれていたものはとっくに出来てるよ、

 こんなモノを作らせるとは、あなたらしくないな。」

 

 

そう言って、棚の奥にある箱を取り出し台の上に置いた。

とりあえず、渡してさえしまえばもうこちらに責任はないはずだ。

 

 

「それだけ、事態は切羽詰まっているという事よ

 事はもう、幻想郷だけで済む問題ではなくなっているわ」

 

そう言って、箱を手にした彼女は箱を開いて中身を確認した。

 

表情こそ普段通りだったが、どこか彼女らしくない焦りを感じる、

やはり、状況はかなりまずいようだな……

 

彼女はそう言って、箱の中から注文品を取り出すと、

子供達の前に差し出し、渡した品についての説明を始めた。

 

 

「……さて、あなた達には先ほども言った通り、

 現在起こっている異変の黒幕を突き止めて貰いたいのだけれど、

 もしもの時の為に、あなた達の助けとしてこれを渡しておくわ。」

 

 

「これは……懐中時計ですか?

 ふたが、レンズみたいになっているようですが……」

 

 

彼女が作らせたあの懐中時計は、八雲紫の持つ能力の一部を、

他者が使えるようになるというシロモノで、

特定の条件を満たしたうえで、これの力を使えば、

遠く離れた場所を繋ぐスキマを産み出す事が出来るのだ。

 

 

強固な結界が張ってある場所では、簡単に使う事は出来ないが

……今の状態ならば、幻想郷との繋がりを作ることもできる……

 

普段の彼女なら、絶対に作らせるはずのない、

外と幻想郷の境界を、あやふやにしかねないモノだ。

 

 

「敵は、かなり狡猾で強かな相手よ、

 単なる力だけでは、窮地に陥る事もあるかもしれない。

 ……そんな時、これを使えばごくわずかな時間だけ、

 幻想郷の住人の力を、借りる事が出来るの。」

 

 

「幻想郷の住人って言うと、

 チルノちゃんみたいな子達ですか……?」

 

 

「ええ、幻想郷の中ではそこそこの力量だけど、

 それなりにてこずったでしょ?」

 

 

確かに、知世ちゃんを除く3人と1匹は、かなり強い力を持っているようだが、

幻想郷を揺るがすような異変を起こす様な相手では、

何が起こるかはわからないし、外の子供に任せるだけでは、

妖怪の沽券と言うものも立たなくなる。

 

 

ならば、彼女たちに力を貸したうえで、

異変を解決したことにすれば、それなりにメンツは立つ……が……

 

 

「……ただ、注意してほしい点がひとつあるわ。

 呼び出す為には、呼び出す対象と約定を結んだうえで、

 なんらかの対価を支払う事。」

 

 

「対価……ですか?」

 

 

そう、幻想の力を借りるという事は決して軽くはないのだ。

 

 

「等価交換……ちゅう訳か。

 魔術を使う上やと、ただで力を貸してもらうんは色々問題になるさかいな」

 

 

「ええ、難しい所ではあるのだけれどね。

 約定に関しては、それなりの手助けはするけれど、

 対価となる物に関しては、あなた達でなんとかして頂戴。

 

 そして、基本的に強い力の持ち主ほど、対価は重いと思っておいて。」

 

 

大義がどうであろうと、ただで力を貸せと言うのは、

妖怪の存在意義に関わる問題だ。

故に、対価を求めるのはそうそう不自然な事ではない。

 

 

だが、普通の妖精ならともかく、

その他の者達がどれだけの要求をしてくる事か……

 

 

「……紫さん、その対価って、あんまり危ない事は無いんですよね?」

 

 

「正直、要求される内容と相手次第ね。

 無論、あまりに危ないものは私の方で突っぱねるし、

 約定を結んだうえで、それを破るバカはまずいないと思っていいわ。」

 

 

人間相手に約束を破るなど、いかなる妖怪にとっても屈辱でしかない。

だが、足元を見てくる者は居ないとも限らないが……

 

 

「分かりましたわ、紫さん。

 対価に関しては、私の方で考えておくので、交渉の仲介はお願いいたしますわ。」

 

 

知世ちゃんは、対価に臆した様子もなく

八雲紫も、満足する表情を見せ、了承するようにうなづいた。

 

あの動じなさは、中々に見習うべきものかもしれない。

 

 

「ところで、この懐中時計なのですけれど、

 なんだか、どこかで見た事ある様な感じなのですが……」

 

 

「ああ、ワイも同じ事思っておった

 これ、あれをパクっとるんとちゃうんか?

 本家と元祖があったり、寿司と天ぷらがあったりする妖怪ウォッ……むぐっ!?」

 

知世ちゃんは、品物について何か思い当たる事があったようで、

そこに同意した妖獣が、その思い当たった何かの名前を言おうとしたところ……

 

すかさず、八雲紫が人差し指を突き出して妖獣の口をふさぎ、

続きを言えなくしてしまう……。

 

「さぁ……何の事かしら?

 その幻想鏡(ゲンソウキョウ)は、あくまでオリジナル製品ですわ。」

 

 

よほど、言わんとする言葉が不都合だったのか……。

彼女は人差し指で口をふさぎ続け、知らぬとばかりに、

視線を横に逸らして恍ける気満々の態度をとりはじめた。

 

 

……ちなみに、このデザインは彼女の指定だ。

 

 

「紫様、その態度はいかがなものかと思います、

 ……変な形で張り合わないでください。」

 

 

そんな主の態度を、藍がすかさずいさめるが……

 

 

そう言えば、最近南の方から現れた、今まで見た事もない妖怪に対し、

なにかと張り合っていると、妖怪の間で噂になっていた気がするが……?

 

 

まぁ、それとこれとは関係なさそうなので、

とりあえず放っておいてもいいだろう。

 

 

……そうして、子供達は彼女から幻想鏡を受け取ると、

すぐさまその力を使って、各々の自宅へと帰っていったのだった。

 

 

悪用されると、とんでもない事になる代物だけれど、

彼女達ならば、正しく使いこなしてくれるだろう。

 

 

僕は、ようやく手元を離れていった品の事を考えながら、

この日は、すぐさま身を休める事にしたのだが……

 

 

……その翌日、早速知世ちゃんだけが店へとやってきたのだ。

 

 

まさか、昨日の話の通りに、

僕の力を借りるつもりなのかと思っていたのだが……

 

「すいません、こちらの生地をいくらか分けていただけないでしょうか?」

 

 

彼女の目的は、店にあった生地の取引だった。

 

取引自体は、八雲紫も了承しているので、

彼女が持ち込んできた外の世界の品物と交換する形になり、

それを想定していた彼女から、いくらかの面白い品物を受け取ると

その対価として十分な生地を彼女に渡したのだ。

 

すると、生地を受け取った瞬間、

彼女はこれまでに見せた事のない輝かんばかりの表情を見せると

僕に礼を言って、再び外の世界へと帰っていったのだが……

 

 

この後、彼女が持って帰った生地は、

後に僕も八雲紫も想像だにしなかった、

幻想郷に対しての、新しい風をもたらす事になるのだが……

 

 

 

この時点で、幻想郷でそれを想定していたものは誰も居なかった……と思う。

 

 

 




さて、これにて2章終了になります
3章からは、フェイトサイドが大幅に強化されていく予定

今回の話、大幅強化前にさくらのバトルコスチューム強化などをするのが目的だったりします
作中操られた小狼の斬撃でしか傷つきませんでしたが
それ以外は、割とフツーのコスプレ衣装ですし……

……つまり、ユエ戦での頑丈さは彼女の素の状態での防御力?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。