知世の野望 ~The Magic of Happiness~   作:(略して)将軍

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抱えているもの、見えてないもの

 

 

友枝町全体が、不思議な気配に包まれた次の瞬間、

あちこちで上がった女の子の悲鳴が聞こえた方向へ駆け付けると……

 

 

そこでは、友枝小学校の女子生徒達が、

緑色でコーディネートされた、ガラの悪い子達に追われている所でした。

 

 

走って逃げる子達に対して、彼らは地面をすべるように移動しており、

その腕には、どこかなのはちゃんのレイジングハートを彷彿とさせる

銃や大砲、手甲など、様々な形をした機械を持っていて……

 

 

「まさか……あれはデバイス!?」

 

 

それを見たユーノ君の驚きようから、彼らが手に持っているのは、

レイジングハートと同じ、魔法を使う為の道具だという事が予想できました。

 

 

……なぜ、あれだけの人数がそんなものを持っているのかは分かりませんが、

ガラの悪い子達は私達に気づくと、こちらにも向かってきたので……

 

 

ある子は、ユーノ君の拘束魔法で足を掬われ……

また、ある子はなのはちゃんの砲撃魔法で気絶し……

さらに、ある子達は、さくらちゃんの『眠』のカードでまとめて眠らされ……

 

 

そして、そうならなかった他の子は私の方に向かってきた所を、

真の姿に戻ったケロちゃんに、前足で押さえつけられ……

 

そのままケロちゃんにすごまれると、手にしていた道具を放り出し

ひどくおびえた様子で、涙を流しながら謝り続けていました。

 

 

「まったく、なにもんやこいつら……?

 今時、魔力を持った人間が徒党を組んで襲って来るやなんて……

 ……知世、すまんけどそこにあるその杖、拾ったってくれんか?」

 

 

「わかりましたわ」

 

 

ケロちゃんにお願いされて、私は彼らが放り出した

魔法の杖らしき代物を回収し、幻想鏡の中へとしまいました。

 

 

この鏡には、中にものをしまえる機能もありまして……

これで、急な荷物や撮影のためのバッテリーを運ぶのに

今後、苦労する必要がなくなりました。

 

 

ただ、襲ってきた子達を倒しても、また次から次へと新たな子達が襲ってきたので、

皆でまた同じように、彼らをこらしめたりしていたのですが……

 

 

何度かそんな事を繰り返したところ、少し先の曲がり角から、

またも誰かが追いかけられてくるような足音が聞こえてきました。

 

 

どうやら、今度は誰かが追われている様子です。

 

 

みんなで、そちらに向かって駆け出し、一番近い所に居たユーノ君が

真っ先に曲がり角の先へと早くたどり着いたのですが……

 

 

「あ……!」

 

 

その直後、ユーノ君は驚愕の表情で、その場に立ち止まってしまいました。

なにか驚くようなものを見たのでしょうか……?

 

 

「ユーノ君! どうしたの!?」

 

 

続いて、なのはちゃんがユーノ君を心配して駆け寄るり、曲がり角の先を見ると

今度はなのはちゃんまで、ユーノ君と同じ表情をしてしまいました。

 

 

不思議に思いつつ、私達も駆けつけて、その先に何があるのかを

確認できる位置まで行くと、そこで目に入ったのは……

 

 

「え……なのは!? それに、ユーノ……?」

 

 

居心地悪そうな顔をしているユーノ君と、何故と言う顔をしているなのはちゃん

 

 

そして、それを見てもっと驚いた顔をしている金髪の女の子……

 

 

 

「あ……アリサちゃん!?」

 

 

「なのは……なによその恰好!? コスプレ!?

 それに、そこに居るのは……知世さん!?」

 

 

「こんにちは、アリサちゃん。

 お久しぶりですわ。」

 

 

……2人の前に居たのは、パーティで何度か顔を合わせた事のある、

世界でも有名な実業家の娘さん、アリサ=バニングスちゃんでした。

 

 

「ほえ? 知世ちゃん知ってるの?」

 

 

「ええ、家の用事でこれまでに何度かお会いしたことがありますので、

 ……もしかして、なのはちゃんがおっしゃってた、

 最近雰囲気が悪くなったっておっしゃってたご友人と言うのは……」

 

 

そう言えば、アリサちゃんもなのはちゃんと同じ学校でしたわね。

 

 

以前、アリサちゃんからパーティで友人の話になったときに、

一緒に居たすずかちゃんともう一人、普通の家庭の友人がいると聞いたことがありましたが……

 

 

「……意外と、世間って狭いものですわね」

 

 

「この子が、なのはちゃんの友達……?」

 

 

「こ、コスプレがもう一人……」

 

 

アリサちゃん、いきなり色んな事が押し寄せてきたので、

頭の中が混乱していらっしゃるようですわね。

 

 

「……みんな、のんびり話ししとる場合や無さそうやで。

 あの連中、またごっそりと来て居るわ。」

 

 

アリサちゃんが落ち着く間もなく、

すぐさま追いかけてきた子達が迫ってきたのを見て

ケロちゃんは、そう警告してくださいましたが……

 

アリサちゃんは、声の主を見て固まってました。

 

 

……まぁ、しゃべる事を抜きにしても、

こんな大きな翼の生えたライオンを見たら普通は驚くでしょうね……

 

 

でも、とりあえずこの場を何とかしなければ……

 

 

「みんなすいません、私達は他の子達と一緒に

 月峰神社まで、いったん非難することにしますので、

 後の事、お任せしても大丈夫でしょうか?」

 

 

追われている子達を放っておくことはできませんし、

このままでは、みんなが気兼ねして戦えなさそうですので、

私は、皆を安全なところに避難させために、別行動をとる事にしました。

 

 

さくらちゃん達の撮影できないのは残念けれど……

流石に、今はそれどころではありませんわ

 

 

「う……うん、わかったよ知世ちゃん。

 ケロちゃん、知世ちゃんたちと一緒にいてあげて。」

 

 

「……わかった、さくら達も気ぃつけや。」

 

 

さくらちゃんは、今ひとつ状況が呑み込めてない様子でしたが、

私の意図を察してくれたのか、すんなりと私の提案を受け入れてくれ、

ケロちゃんをボディガード役につけてくださいました。

 

 

なのはちゃんとアリサちゃんは、

ぎこちなく相手をチラ見している状態でしたが……

 

 

「アリサちゃん、とにかく今はこちらへ、

 私達は、足手まといになるだけですわ。」

 

 

私が、そう言って諭す形でアリサちゃんに手を差し出すと……

 

 

「……なのは、後でちゃんと説明しなさいよ」

 

 

その目は、なのはちゃんを睨んだままで……

顔も納得いかないといった表情のままでしたが、

このままではどうにもならないと思ったのか、

彼女も、私の申し出を受けて、手を握り返してくれました。

 

 

「……なのはちゃん、ここまでの事は私の方から説明しておきますわ。

 よろしいですね?」

 

 

「……わかりました」

 

 

なのはちゃんが、ここまで親友のアリサちゃんにも隠し続けてきた秘密。

 

それを私の口から語るのは、少し申し訳なく感じるところもありますが……

 

この雰囲気では、なのはちゃんが直に説明するよりも、私が説明した方がよいでしょう。

 

 

私達が立ち去る際、なのはちゃんは、少し元気のない感じをしていましたが……

さくらちゃんとユーノ君が一緒にいてくれるので、とりあえずは大丈夫のはずです。

 

 

 

今は、私のやるべきことをしなくては……!

 

 

 

 

 

---

 

 

 

 

あのガラの悪い連中から逃げてきた他の子達と一緒に、

知世さんと、羽の生えたライオン……みたいなケモノに案内され

近くにあった神社に避難した私は、そこで知世さんにこれまでの事を大まかに説明してもらった。

 

 

なのはの事、ユーノが男の子だったって事、

すずかの家であの時事件が起こっていた事、そこでなのはが出会ったさくらさんの事……

 

ちょくちょく魔法という非現実的な話が絡んでいたので、すぐには信じられなかったが、

知世さんは嘘をつく人じゃないし、真剣な表情をしていたので、

それが真実だという事は十分に伝わってきた。

 

 

……ただ、私の心はまだもやもやしたものが残っていたが

 

 

「……アリサちゃん、怒ってらっしゃいます?」

 

 

「そりゃまぁ……なのはに、こんな大変な事を黙ってられた訳ですから……

 ……別に、仲間外れにされたことを怒ってる訳じゃないです。

 それより、私達に一言も相談しなかった事の方が……」

 

 

まさか、最近なのはの様子がおかしかった理由が、魔法少女やってたからだなんて……

 

 

斜め上すぎる答えで、頭の中はもうめちゃくちゃ……

次になのはに逢った時に、なんて言ったらいいのか、言葉も浮かんでこない。

 

 

「まぁ、周囲に正体を隠し続けるのが、魔法少女のお約束ですから……

 

 それにアリサちゃん、なのはちゃんが正直に理由を言ってくれたとして……

 すぐに納得、出来ました?」

 

 

「そ、それは……」

 

 

いや、馬鹿正直にそんなこと告白されようもんなら、

きっと全力で怒り出してただろうなぁ、私……

『なによそれ! 馬鹿にしてんの!?』とか言って……

 

 

それでも、もう少し言いようくらいはあったと思うんだけど……

説明する前に、魔法の方をを先に見せるとか……いや、トリックって思いこむかな?

 

 

「きっと、アリサちゃん達を巻き込みたくなかったのでしょうね。

 ジュエルシードの一件だけでもだいぶ危険なのに、

 なのはちゃんのライバル魔法少女……

 

 それに、今回の件のような事まで、起こってしまってるのですから。」

 

 

「……こんな大変なことに巻き込まれて、

 自分はどうなってもいいとか思ってるのかしら、あのバカなのは」

 

 

昔っからいっつもそう……

つらい事とかあっても、そんな雰囲気ちっとみ見せないで、

我慢してばっかりで……

 

 

アンタが辛い顔してんのに、私達が平気でいられると思ってんの!?

 

 

「気づいてないわけではないでしょうけれど、

 ……見えなくなっているのかもしれませんね」

 

 

「見えなくなってる……?」

 

 

知世さんはそう言うと、そのまま先を続けました

 

 

「なのはちゃん、しっかりしている子ですけど、

 責任感が強いというより、過度に強すぎるように感じます。

 あの年齢で、不自然すぎる位に……」

 

 

確かに、なのはと初めて会った頃も、ケンカのきっかけになったあの言葉……

悪いのは、私だってわかりきってるけど、

今思い出しても、小学校に入る前の子供とは思えない感じだった……

 

 

普段は、自分に自信を持てない普通の子だけど、

何かきっかけがあると、いつも自分を責めるように……

 

 

「過ぎたるは及ばざるがごとし……

 どんな感情でも、過度に抱え込むのはいけませんわ。

 

 本人に自覚があるかはわかりませんが、

 身の丈を超えて何かを背負えば、必ずどこかに脆さが生じます。

 ふとしたきっかけで、その脆さで大きな傷を負うことだって……」

 

 

「え……!?」

 

 

真剣に語るその表情からは、そのあってはならない不安が起こりうるかもとすら思えてしまった。

知世さんの言う脆さが、本当になのはにあるのかは疑わしかったけど、

それが現実になってしまったら……

 

凍りつくかのような感覚が、一瞬私の背中を襲う、

 

そんな事になったら、私……

 

 

「……でも、きっと大丈夫ですわ。

 今のなのはちゃんにはさくらちゃんがついるのですから。」

 

 

だけど次の瞬間、知世さんのこれまでの真剣な表情が嘘のような、

明るさ全開の笑顔をこちらに向けられ、私は思わずポカンとした顔になってしまった。

 

 

さくらって言うのは、なのはと一緒にいた、

もう一人の魔法少女の事……

 

前のパーティで、知世さんの一番の友達と言う人の事は聞いた事があったけど

知世さんの態度から察すると、恐らくあの人がそうなのだろう。

 

 

だけど……

 

 

「あの人、そんなにすごい人なんですか?

 なんというか、見た目そういうふうには見えなかったんですけど……」

 

天然と言うか、ほんわかと言うか……

正直、これっぽっちも強そうには見えない。

 

 

おまけに、友達として付き合う分には優しくて楽しそうだけど、

不思議なことに、なのはの方から近づくイメージが全然見えないのだ。

 

 

……改めて考えてみると不思議よね。

なのはに、私達以外の友達が出来なかったの……

 

 

あの人の場合、魔法少女の先輩だから、ちょっと特別なのかもしれないけど……

 

 

「魔法の事もそうですが……

 さくらちゃんの素敵な所は、そこではありませんわ。」

 とにかく、さくらちゃんとユーノ君が居れば、

 なのはちゃんが危ない目に逢う事はありませんから。」

 

 

「ユーノ……アイツ、信用できるんですか?」

 

 

少し前になのはが見つけた、森で倒れていたフェレット。

 

いつの間にか、なのはに飼われていたわけだけど、

まさか、別世界から来た男の子だったなんて……

 

 

正直、アイツがなのはを巻き込んだわけだから、

そこの所を考えると、今ひとついい印象が持てない。

 

 

「色々とおっしゃいたい事はあると思いますけど、

 少なくとも、自分の責任を果たそうと頑張ってますし、

 これまでも、なのはちゃんが危なくない様に行動してますから、

 私は信用できると思っていますわ。

 そういった所、ケロちゃんとはとてもよく似ていますし。」

 

 

そう言って、知世さんが目を向けた先を私も追うと……

 

 

そこでは、ケロちゃんことケルベロス……さきほどの翼の生えたライオンが、

さっきの場所から連れてきた、ガラの悪い奴に凄んでいた。

 

 

「お前ら、ワイを怒らせたらどうなるか知りたいんか……?

 ええから、とっとと知っとる事全部吐き出さんかい!!」

 

 

声のすごみと関西弁が相まって、まるで裏社会の住人の様な脅し文句だ。

 

あのケルベロスは、さくらさんのお供だって話だけど、

いくら強がっても、あんなのに凄まれたら怖いわよねぇ……

 

すでに半泣き状態なので、間もなく洗いざらい白状するだろう。

 

 

あれを見てる限り、どう考えても

ケロちゃんってかわいらしい相性は似合ってないように感じるけど……

 

 

それにしても……なんというか……

フェレットと比べると……迫力が違いすぎるというか……

 

 

かたやライオン、かたやフェレット兼同い年くらいの男の子……

お供の迫力だけなら、なのは完全に負けてるわ……

 

 

他の実力もアレくらいの差なのだろうかと考えていると、

突然、周囲の雰囲気が変わった。

 

 

不自然な静寂が途切れ、あちこちから色んな音が聞こえてきたのだ。

 

 

「お……結界が無くなったで、

 どうやら、さくら達がやってくれたみたいやな。」

 

 

ケルベロスは、空を見上げながらそんな事を言ってた。

どうやら、なのは達があいつらを追っ払ってくれたようだ。

 

 

帰ってきたら、色々と問い詰めてやらなきゃ……

魔法少女の事、私達に黙っていた事、言いたいことはめいっぱいある。

 

 

でも、その前にすずかも探しに行かなきゃ……

逃げる途中ではぐれちゃったから、どっかで泣いてなきゃいいんだけど……

 

 

そう思いつつ、なのはに言ってやりたいことを考えていると、

それから間もなく、なのは達が空の方からやって来た。

 

 

「なのは! 全部聞かせてもらったわよ!!

 さぁ、弁解を聞かせてもら……?」

 

 

地面におりてきたのと同時に、なのはを問い詰めようとしたのだけれど、

どうにも帰ってきたなのは達の表情がおかしい……。

 

 

ユーノ共々、浮かない顔をしているけど、何かあったのだろうか?

それに、すずかもまだ帰って来てないし……

 

 

なにかあったのかと、なのはに尋ねようとしたところ、

それよりも先にさくらさんが、知世さんの方に駆け寄り……

 

慌てた口調でこう言ったのだった……

 

 

「知世ちゃん! 大変!

 奈緒子ちゃんが……さっきの子達に連れていかれちゃったって!!」

 

 

それを聞くと、知世さんは驚いた表情を見せたが、

それでも悲鳴を上げまいとして、自分の口を両手で押さえたのだった……

 

 

 

 




テンションがようやくそれなりに戻ってきたかなぁ
戦闘場面書きにくいので、こういった場面だらけになりそうですが

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