知世の野望 ~The Magic of Happiness~ 作:(略して)将軍
新たなる事件の始まり
「さくらぁ~、まだ着かへんのか?」
狭くて、暗くて、いい加減うんざりするような環境で、ワイは外にいるさくらに不満の声を上げた。
結構な時間経ったはずやけど、まだ目的地に着かへんのかいな?
まったく、ワイだけやったらこんな苦労せんでも済むのになぁ……
「ケロちゃん! 声出しちゃだめだってば!!
他の人に聞かれたらどうするの?」
すると、すぐさまさくらが慌てた声でワイの事を諫めてきた。
確かに、この状況で他人に聞かれたら騒ぎになるやろうけど……
「だってワイ、家を出てからずーっと閉じ込められっぱなしなんやで……
いい加減、息がつまってまうわ。
それに、今近くには誰もおらんのやろ。」
ちょっと気配を探ってみたけど、近くに人間がいる様子は無い。
今なら、ワイが顔だしても別に問題はないはずや。
「もー……ちょっとだけだよ。」
ぶすぶす文句言いながら、さくらはバッグのチャックを開けてくれた。
すかさず、ワイはカバンから顔を出して大きく深呼吸……
……ふぅ、やっと一息つけたわ。
ワイの名前はケルベロス。
ずっと昔、クロウ=リードっちゅう魔術師が魔術を使って造った封印の獣や。
今でこそ、バッグの中に収まる子猫くらいの大きさの姿をしとるけど、本当の姿は翼の生えた守護獣っちゅう感じのめっちゃカッコええ姿なんやで。
ま、この姿もなかなかかっこええけどな。
「気をつけてよ……
こんなところ見られたら、ご近所じゃなくたって大変な事になっちゃうんだから。」
……んで、このむくれとるのが、ワイの今の主の木之本桜。
強い力を持っとったワイの前のご主人、クロウ=リードから魔法のカードを受け継いだ魔法使いで、ついこないだ小学6年生になったばかりや。
まだ幼いし、見た目にすごみっぽいものは全然見えへんけど、長年色々なやつを見て来たワイでも、今のさくら以上の魔力の持ち主は見た事があらへん。
そう、かつての主人だったクロウ=リードよりも上……
おっちょこちょいでネボスケやけど、間違いなく当世最強の魔術師や。
でも、やっぱ見た目は普通の女の子なんやけどな。
「しっかし、さくらと一緒に海鳴に来るのは久しぶりやなぁ。」
前に来たんは、まだ小僧やエリオル達が日本に居った頃やったからなぁ。
「私だって来れるんだったら来たいけど、ケロちゃんと違ってそんなちょくちょく会いに来れないんだもの。」
まぁ、さくらにもいろいろ予定があるさかい。
友枝町からも結構近いとは言っても、そこそこ距離があるからそう気安く来れるわけもないわな。
「……ところでケロちゃん、一人で遊びに行った時に迷惑かけたりしてないよね?」
そんな事を考えとると、さくらが不意に失敬な質問をしてきよった。
「いきなり何言うとんねん、言われなくてもそんな事せぇへんがな。
そんなんしたら、ワイ完全にワルもんや。」
ワイはすぐさま、眉間にしわを寄せてさくらに抗議した。
全く、ワイの事をなんやと思っとんねん……。
……ちなみに、ワイらがさくらの住む友枝町から少し離れた海鳴市まで来たんは、こっちに住んでいる友達に会うためや。
2年くらい前、些細な理由でさくらと喧嘩した事があったんやけど、そん時に腹いせにテーブルの上に置いてあったチョコレートを食べたら、なんやえろう気持ちよくなってしもうて……。
……そっからの記憶がおぼろげなんやけど、気が付いたときにはどういう訳か、この海鳴に住んどるある女の子に子猫と間違えて拾われて、しばらくの間世話になったんや。
その後、色々あってワイはさくらと仲直りしたんやけど、そん時に知り合った女の子がワイらの事を知ってしもうてな……
元々、色々放っておけん身の上なもんで、ワイはちょくちょく会いに行くようになったし、さくらも時間が取れればこうして海鳴に会いにきとるんや。
「知世ちゃんも一緒に来れたらよかったんだけどね。」
「まぁ、家の都合やさかいしゃーないわ。
……ところでさくら、人の家を訪ねるのに、手ぶらちゅうんはちょっと礼儀にかけるんとちゃうか?」
ワイは結構訪ねとるけど、さくらは久しぶりなんやし……
久しぶりの再会、ここはビシッと決めんとあかん。
「ほえ……そうかな?
お父さんからお土産にって、手作りのクッキー貰ったんだけど……。」
クッキー……それも悪くないなぁ、さくらのお父はん料理うまいし……
せやけどさくら、見舞いにはもっとええもんがあるんやで。
「例えば……そうやな、この海鳴には翠屋ちゅう有名な喫茶店があるのは知っとるか?」
ちなみに、翠屋ちゅうんはこの海鳴でもダントツの人気の喫茶店で、そこのケーキはえらい絶品、雑誌でもよく紹介されておる有名な店なんや。
「翠屋……
どこかで聞いた事あるような?」
なんやさくら、その曖昧な返事……?
まぁええ、肝心なのは土産のケーキや。
「知っとるんやったら話が早い、あそこで出しとるケーキは絶品でなぁ……
見舞いに行く時のお土産には、最高やと思うんやけど……。」
「え? ケロちゃん、そのケーキ食べた事あるの?」
「ああ、こないだ初めてご馳走になったんやけど、あれはもう実に絶品で……
はっ!?」
アカン、余計なことまで喋ってもうた……
……コラ、さくら、そんな視線で睨むんやない。
その目つき、まるで機嫌の悪い時の小僧みたいや。
「ケロちゃん! さてはこの前遊びに行った時にケーキごちそうになったんでしょう!
ダメじゃない! ちゃんと言わなきゃ!!」
「あっはっは……
スマンスマン、ケーキの味に夢中になってつい忘れてしもた。」
「もう……。」
笑ってごまかそうとするワイに、さくらは仕方がなさそうな視線を向けてきたけど……
……ワイは悪うない、悪いんは全てを忘れさすような味の絶品ケーキや。
「……まぁ、そういうわけやからここはひとつ、ケーキを買いに行こう、な?
ワイも一度、その翠屋にも行ってみたかったところやし……ん?」
そうして、いつもの感じでさくらと話をしとると、いきなり首の後ろあたりがざわつく感じがワイを襲いよった……!
「この気配は……まさか!」
この感覚、ワイの知っているのと比べるとちょっと風変わりな感じもするけど……。
「ケロちゃん、これって……!」
同時に、さくらも同じ気配を感じたようやった。
間違い無い様やな、この感覚はワイとさくらがよう知っとる……。
「強い魔の気配……なにかの魔法が、近くで発動したんや。
しっかし、なんやこの気配……?
なんか喜んどるというか、はしゃいどる様な感じやで?」
割と強い魔力にも拘らず、魔力その者からは邪悪な気配はこれっぽっちも感じられんかった。
なんでこないな所で、こんな気配がするんかわからんけど、邪悪な気配がない分これはかえって心配や。
こんなお気楽気分で強い魔力を使っとるんやったら、後でとんでもないしっぺ返しが来かねん……
危険な力の使い方や!
……しかも、すぐ近くに魔力の気配が2つも増えよった上、その周囲には一帯を包み込む魔力が展開されてしもうとる。
これは……結界?
これまた少し変わった感じやけど、こんな所に結界を使える術者なんておるんか?
こりゃ、いったいどういう事なんや……!?
「……ケロちゃん、これってこのまま、放って置くわけにはいかないよね?」
「ああ、誰が使うとるんか判らんけど、こないな強い魔の気配を放って置く訳には行かん!
行くでさくら! 久しぶりのカードキャプター出動や!!」
「うん!」
さくらはそう言うと、周囲に人の姿が無いのを確認してから、胸にかけたペンダントを手に取り呪文を唱えはじめた。
「星の力を秘めし鍵よ! 真の姿を我が前に示せ!!
契約の下、さくらが命じる……
そうすると、さくらの持つペンダントが杖へと変わっていき、本来の姿を取り戻していく。
これぞ、さくらの魔力が形になった魔法の杖『星の鍵』や。
さくらは、その杖を改めて手に取ると、更にカードを一枚取り出し、カードの名前を唱えて魔法を発動させた。
使うたんは、ここからいっちゃん早く気配の元へとたどり着ける魔法……。
「
カードの魔法を発動させると、さくらの背に魔法の翼が現れた。
よし、これで準備完了!
文字通りすぐさま飛んで行くで!!
こうしてワイらは友枝町から少しだけ離れた海鳴市で、突如感じた魔の気配を調べに行ったわけやけど……
これがまた、とんでもないでかい事件の始まりやったんや。
クロウカードの時といい、香港の時といい、さくらはほんま巻き込まれ体質やなぁ。